「地獄極楽変相図」制作
Hell and the Buddhist paradise


大下図

2019年9月5日

今年の夏は、ほぼ引き込もってこちらの新作の構想を練ってました。

地獄極楽変相図 大下図

古典作品に自分なりの解釈を加えアレンジし、見切り発車で大下図を描き始めたところです。
僕にとって初めての題材ですので、まだまだ修正を繰り返しながら、行きつ戻りつのノロノロ制作になりそうです。

普段は写生を元に描いてきてましたので、想像しながらの制作がこんなに難しいとは分かってませんでした。
想像物を制作してる他のアーティストの方々をあらためて尊敬致しております。

まだお恥ずかしくて公開出来る段階では無いのですが、ご依頼主の許可も得られましたので、仕事の進展具合を世間に曝す事で、サボり防止のプレッシャーを自身に掛ける目的で公開に踏み切りました。

基本的にはご依頼主以外からのご意見には耳を貸すつもりはございません(笑)が、本当に僕にとって有難いアドバイスがある方がいらっしゃいましたら、コメント欄ではなく、メッセンジャーにてこっそりご助言して下されば有り難く拝聴させて頂きます。
m(__)m


2019年9月17日

地獄極楽変相図 大下図

画面上中央付近の男女2つの首は「檀荼幢」と言います。
男の大山府君は亡者の生前の悪行を見抜き、
女の黒闇天女は亡者の生前の善行を見抜きます。

右下のエロい姉さんの場面はまだ途中なので、制作と解説は明日以降のお楽しみ(笑)。

地獄極楽変相図 大下図

罪人同士が鉄の爪で、お互いに骨になるまで肉を削り合う場面。
参考にした「六道絵 等活地獄幅」では、二組とも男同士でしたが、僕は男女平等(笑)に女同士のキャットファイトも描こうと思います。

地獄極楽変相図 大下図

「屎糞所」
参考にした「本地獄草紙」に、糞尿をする獄卒達を描き加え、一目でどんな池に落とされてるか解る様にしました。
悪臭と屈辱感だけでなく「針口(しんく)」という鉄虫に喰われるそうです。


2019年9月18日

地獄極楽変相図 大下図

「刀葉林」の場面。
今日は他に用事があったので、制作はこの場面だけ。

樹上に美女がいて、男が登っていくと、木の葉が刀の刃の様になり、男の肉を裂く。
やっとの思いで樹上まで上ると、そこに美女の姿は無く、下で男を招いている。
男は再び刃の葉に切り裂かれながら木を下りる。
それが無限に繰り返される という場面です。

参考にしたのは「六道絵 衆合地獄幅」の一場面です。
僕は、もっと分かりやすく誘惑する美女として描こうと思います(笑)。

エロぞうとしては、この場面が他人事とは思えず、感情移入が最も自然に出来る場面です。
恐ろしくもあり、自虐的に笑える場面でもあります。


2019年9月19日

地獄極楽変相図 大下図

左側「雨炎火石」
右側「等活地獄」の中の一場面

地獄極楽変相図 大下図

雨炎火石の場面は「地獄草紙」を参考に描いてます。

地獄極楽変相図 大下図

こちらは「六道図 等活地獄幅」を参考に描いてます。
魚を捌く様に罪人の肉を削ぎ、骨だけにしてる場面です。

ほぼ模写に近いところに、オリジナルを描き加え、構図のバランスをとりながら試行錯誤で進めてます。

「六道図」では捌いてる方の獄卒の、手足の動きに不自然さを感じましたので、姿見の前で自分でポーズをしながらオリジナルのポーズに変えました。

大相撲中継を見ながら制作してますので、体型は力士も参考にしてます(笑)。

骨だけになった罪人に、獄卒が「活々」と唱えると赤子として甦り、この責め苦は延々と繰り返されるそうです。


2019年9月23日

地獄極楽変相図 大下図

連休中、他の予定の合間に少しずつ描き進めた部分です。
左上は、罪人を引っ立てる獄卒と、罪人。
右上は、墨壺を使って罪人に鋸を引くときのガイドラインをつけようとしているところ。
真ん中は、二人の獄卒が鋸を引いてるところ。
左下は槌で罪人に釘を打つところで、これはオリジナルとして描き加えるつもりです。

地獄極楽変相図 大下図

参考にした「六道絵 黒縄地獄幅」です。
上は、墨壺を使って罪人に鋸を引くときのガイドラインを引こうとしているところ。
拷問や処刑するための鋸のガイドラインを、律儀に正確につけようとしているところが可笑しいですよね。
しかも平滑な材木面と違って、凹凸のある人体に、墨を着けた糸を弾いたところで綺麗な一直線が引ける訳がありません(笑)。
また、墨壺で基準線をつける工程では縦につけようとしてるのに、切断する工程では横に鋸を引いてるし(笑)。
直前の工程、無視かよ(笑)!

地獄極楽変相図 大下図

「六道絵」では、鋸を引く獄卒の動きに不自然さを感じました。
特に左側の獄卒は、鋸を押してるのか引いてるのかどっちつかずに見えました。
右側の獄卒の方が肘を畳んで鋸を引いてる動きに感じましたので、
左側の獄卒は明らかに鋸を押してる動きに描き直してみました。

地獄絵は、長い歴史の中で、繰り返し過去の作品を参考に何枚も描かれてきました。
ほとんどの作品が、
過去の作品を真似て描いた部分と、新たな解釈で描き加えられた部分が混在してます。
100%オリジナルのものはほとんど無く、作品同士に非常に類似した場面があります。
僕も過去の名作を参考にしながらも、自分独自の解釈で描き直したり、描き加えながら、令和時代制作の「地獄極楽図」を歴史に残したいと思ってます。


2019年9月24日

地獄極楽変相図 大下図

さすがにトレードマークのサングラスは違和感ありすぎになってしまいますので描きませんが、骨格的に有末先生に似せて描きました。

地獄極楽変相図 大下図

こちらの自作を取り入れました。

地獄極楽変相図 大下図

左側は、ほぼ「六道絵 等活地獄幅」の模写になります。

右側の場面は「十王図 伍官王幅」の獄卒が罪人の舌を抜く場面も参考にしてますが、ほぼ新しく描き起こしました。

地獄極楽変相図 大下図

「六道絵 等活地獄幅」の一部

地獄極楽変相図 大下図

「十王図 伍官王幅」の一部です。


2019年9月26日

地獄極楽変相図 大下図

地獄は八段階あるそうです。

限られた画面に、八段階の場面全てを収めるのは不可能と諦め、僕は概ね五段階目の大叫喚地獄までのセレクト場面を描く事にしました。

各段階は、それぞれ断崖の上に展開させ、その間はマグマがたぎる谷底として、さらに落ちると、六段階目~八段階目の
焦熱地獄、大焦熱地獄、阿鼻地獄へと続くという画面設定とし、更に恐ろしい地獄は想像に委ねるとしました(笑)。

地獄極楽変相図 大下図

黒縄地獄の一場面です。

罪人は重い鉄の岩を背負わされ、獄卒に追い立てられて鉄の縄を渡らせられます。

途中で落下するとマグマがたぎる谷底へ。
渡り切ったとしても、次の段階、衆合地獄へたどり着くだけです。
という設定は僕の解釈で決めました。

地獄極楽変相図 大下図

衆合地獄。

鉄の臼に放り込まれた罪人達が、獄卒によって鉄の杵で突き潰される場面です。

ミンチ状に擂り潰された肉を、地面に捨てると、また赤子として甦り、永遠に責め苦を受け続けるそうです。

地獄極楽変相図 大下図

こちらは岩盤で挟み込んで罪人達を潰す場面です。

地獄極楽変相図 大下図

監視役と思われる獄卒は、あらぬ方向に気を取られているようです。

刀葉林の色っぽいお姉さんの方が気になるのでしょうか(笑)?

「六道絵 衆合地獄幅」の、この構図構成が面白いと感じましたので、ここはオリジナルの構図構成をそのまま引用させて頂きます。


2019年9月30日

地獄極楽変相図 大下図

先週末から本日に掛けて、画面一番下を描きしました。

落款(らっかん=サイン)を入れる場所も下書きしておきます。

地獄極楽変相図 大下図

全体像が見えてきました。

地獄極楽変相図 大下図

「六道絵 阿鼻地獄幅」を参考に描いた部分。

地獄の業火で熱せられた鉄の塊を飲み込まされる罪人。
僕は、罪人が逃げられない様に、手と足とを獄卒が踏んでる様に描きました。

右の獄卒は六道絵では顔が七つある様ですが、僕はイクメンならぬ五面(イツメン)にしてみました(笑)。

僕の画面構成としては、八つの地獄最下層の
「阿鼻地獄」までは描かず、マグマに放り込まれた先にもっと恐ろしい「焦熱地獄」以下が繰り広げられるという解釈で表現することにしましたが、ラスボスは、やはり他の獄卒とは別格なキャラクターが良いと思い、複数の顔を持った獄卒を引用することにしました。

顔が完全に楽しそうなのも逆に恐ろしい(笑)。

地獄極楽変相図 大下図

「六道絵 黒縄地獄」の場面を参考に、追い立てられた罪人達を、獄卒達が、より下界の地獄(マグマ)に放り込む場面です。

槍で突き落とす獄卒以外は全てオリジナルで描きました。

地獄極楽変相図 大下図

同じく「六道絵 黒縄地獄」を参考に、追い立てる獄卒達と、追い立てられる罪人達を描きました。

オリジナルで描く人体が写実に近いので、古典作品の引用場面も現実的な人体の動きプロポーションに直します。

そのようにして、古典引用部分と新規描き足し部分が自然と融合するようにしてます。


2019年10月2日

地獄極楽変相図 大下図

本日は上部左右の飛天を、より精密に描きました。

地獄極楽変相図 大下図

そもそも、依頼された時に提示されたのが
白隠禅師による「地獄極楽変相図」でした。

この掛軸が元々のベースになってます。

白隠禅師は漫画か落書きの様に軽妙なタッチで描いてますので、構図のバランス的には、画面上部が間延びした印象です。

地獄極楽変相図 大下図

そこで「地獄曼荼羅」を参考に、画面上部左右に飛天を配置する事にしました。

地獄極楽変相図 大下図

地獄曼荼羅の飛天を拡大コピーしたものと、ネットから拾った琵琶奏者の写真を参考に、左側の飛天を描きました。

地獄極楽変相図 大下図

右側の飛天は、笙(しょう)を吹いてる様に見えますが、怪しいので、やはりネットから笙を吹いてる画像も拾い、両者を参考にしながら形を整えて描きました。

左右それぞれ、エロぞうらしく、現代的な色気を感じられる様に描きました。というか、自然にそうなっちゃいます(笑)。


2019年10月4日

地獄極楽変相図 大下図

釈迦三尊像
左から 普賢菩薩、釈迦如来、文殊菩薩です。

ベースにしてる白隠禅師の「地獄極楽変相図」の構成に習いました。

地獄極楽変相図 大下図

白隠禅師「地獄極楽変相図」です。

地獄極楽変相図 大下図

さらに、おそらく白隠さんが参考にしたと思われる大元、
京都東福寺にある「釈迦三尊像」です。
中国の呉道子筆と伝えられてます。

白隠さんのタッチはおおらか過ぎて、僕の画風とは掛け離れてます(笑)ので、僕も大元となったこちらを参考に描きました。

地獄極楽変相図 大下図

こちらは同じ時代に我が国の絵師、良全が東福寺の「釈迦三尊像」を参考に描いた「釈迦三尊像」です。

多少元の絵と変えて描いた部分もありますが、東福寺の物より画像が鮮明なので、僕は両者とも参考にしながら描きました。

釈迦如来の印(いん=手のポーズ)は白隠さんに習ってますので、三作品+僕なりの解釈をミックスさせて描いてるという訳です。


2019年10月10日

地獄極楽変相図 大下図

本日はこの辺りを描きました。

地獄極楽変相図 大下図

一番上が白隠禅師の「地獄極楽変相図」

左右の僧侶の参考にしたのは
「列僧図」陳賢筆 京都・萬福寺蔵の
右、第一祖摩訶迦葉尊者
左、第二祖阿難尊者 です。

地獄極楽変相図 大下図

修羅道の場面。

参考にしたのは「地獄曼陀羅図」

僕は、他人を攻撃する者には、因果応報で自分にも返ってくるという解釈で、殺す側と殺される側とを同一人物とし、同じ顔にしてみました。

また、戦争時は必ずしも個人の倫理観だけの悪行とは断定出来ないと判断し、甲冑は脱がしました。

右側の方は、最近TVでよく見る顔に似てしまいましたが、判った人も名前を特定するコメントは差し控え下さい。m(__)m


2019年10月16日

地獄極楽変相図 大下図

本日の最終段階です。
左右に地蔵菩薩と鬼子母神とを加えました。

地獄極楽変相図 大下図

ご依頼主のお寺のご本尊様は釈迦三尊像ですが、その他に地蔵菩薩と鬼子母神も祀られてます。
奉納先のお寺は、水子供養を含む子供を護るお寺なので、是非この菩薩様達も描き加えて欲しいというリクエストと共に、画像を送って頂きました。

地獄極楽変相図 大下図

賽の河原に地蔵菩薩を描き加えるスペースは取れませんでしたが、画面上部になら入れられると思いました。

この子達を地蔵菩薩の周りに描く事で、救済された物語を感じて頂ければ幸いです。

地獄極楽変相図 大下図

こちらは鬼子母神です。
元々は他人の赤子を食らう鬼神でしたが、自分の末の子供を隠され半狂乱で七日間探し回り、子を失う苦しみを理解、猛反省し仏道に帰依し、その後子供や安産の守り神になりました。

地獄極楽変相図 大下図

釈迦如来を頂点として、光背の高さを左右対称に下げる様に揃えるのも、ご依頼主のご提案でした。

クライアントとの相談は大事です!
下図段階から、両者のやり取りを綿密にする事で、本画制作で迷いなく腕を奮える様になります。

地獄極楽変相図 大下図

海苔の様に見えるのは念紙(ねんし)と言って、薄い和紙に微粒子の絵具(これは木炭の粉)を揉みこんだ自家製カーボン紙の様なものです。

これを間に挟み、ボールペンでなぞり下図にトレースします。
赤ボールペンを使うのはトレースした線とまだトレースしてない線の区別をつきやすくするためです。

地蔵菩薩はボールペンの高さ位の小ささですのでネックレスは割愛させて頂きました。
細かいディテールを割愛させて頂き、シンプルにしても、ハズキルーペが必要な細かな描写になります(笑)。

地獄極楽変相図 大下図

トレースし終わったところです。

墨入れ

地獄極楽変相図 大下図

画面の下から墨入れを始めました。

どうして画面下から墨入れをするのかは、最後の写真で説明します。

地獄極楽変相図 大下図

熱した鉄球を飲ませる場面

地獄極楽変相図 大下図

崖に追い込む獄卒達と、更に下界の地獄へと放り込む獄卒達

制作の様子

大きな絵は、この写真の様に「乗り板」に乗って描きます。

どうしても乗り板からはみ出た爪先が、画面に触れてしまいます。
鉛筆で描いた画面下部は、擦れてボヤけてしまいがちですので、描写を定着させる墨入れは画面下部から先にしていこうと思いました。

多少描線が荒くてもむしろOKな地獄から描き始め、描写の腕が慣れてきてから釈迦如来や菩薩達へと描き進めようという意図もあります。


2019年10月18日

地獄極楽変相図 大下図

ご依頼主からの進言に従って、この作品の正式題名を「地獄極楽変相図」とする事に致しました。

白隠禅師が描いた同名の掛軸を元に、約300年の時を隔てて、佐藤宏三筆によるそれを描いて欲しいというご依頼でしたので。

「変相」とは、有り様、様子の意味と捉えられます。

本日は釜茹の刑、舌を抜かれたり目をくりぬかれる刑、更に下層の地獄(マグマの下にあるという設定)へ落とされる場面を墨入れしました。


2019年10月24日

地獄極楽変相図 大下図

ここ数日で墨入れした場面です。

地獄極楽変相図 大下図

黒縄(こくじょう)地獄

大工仕事の様に獄卒達が罪人達を責める場面です。

地獄極楽変相図 大下図

同じく黒縄地獄

鉄の塊を背負わされ、縄を張った谷間を渡らされる場面です。

参考にした「六道絵 黒縄地獄幅」では下には灼熱の巨大な釜がある様に描かれてますが、僕は大地の裂け目にはマグマが流れてるという設定で描こうと思ってます。

地獄極楽変相図 大下図

衆合地獄

上は罪人達が鉄の臼に放り込まれ、鉄の杵で突かれる場面です。
ミンチ状になった肉片を棄てると、赤子として蘇り、この責め苦が何度も繰り返されるという訳です。

下は大きな岩盤で罪人達が押し潰される場面です。


2019年10月25日

地獄極楽変相図 大下図

「六道絵 等活地獄幅」を参考に、獄卒がまな板の上の罪人を魚を捌くように解体する場面と、右奥は罪人同士が鉄の爪でお互いに傷つけ合う場面です。

地獄極楽変相図 大下図

骨だけになるまで捌かれた罪人に、
獄卒が「活々」と唱えると赤子として蘇り、この責め苦は延々と繰り返されるとの事ですので、僕なりにより分かりやすくアレンジしました。

六道絵の獄卒は棍棒を持ってますので、骨になった罪人を更に粉砕しそうに見えます。

僕はむしろバラバラになった白骨を人体の形に組み立て、呪文を唱えて甦らせる役割なので、「払子」という仏様や僧侶が持つ仏具を持たせてみました。

更に赤子のポーズを骸骨と同じポーズにする事で、この骸骨から甦った赤子だということを表してみました。

地獄極楽変相図 大下図

鉄の爪でお互いを傷つけ合う場面では、一組は女性の罪人同士の争いにアレンジしてみました。

男の組は六道絵を参考にしたので、何だか楽しそうにダンスをしてる様な表情になってしまいました(笑)。
本画の絹に描き写す段階で表情を修正しようと思います。

女性の表情を狂気じみた顔に描くのは、何故かすんなり描けました(笑)。


2019年10月27日

地獄極楽変相図 大下図

本日墨入れした場面です。

「業の秤」と「雨炎火石」の二場面。

鉛筆での下描きを直しながら、あらためて墨の線で決めていってますので、我ながら進みが遅いなぁと思ってます。


2019年10月28日

地獄極楽変相図 大下図

今日はここまでで力尽きました(笑)。

もうすぐ地獄の全貌が見えてくると思います。

地獄極楽変相図 大下図

閻魔王庁の場面です。

左側は浄玻璃鏡に生前の悪事が映し出されてるところです。

右側のポールの上の男女の顔は「檀荼幢」と言います。
男の大山府君は亡者の生前の悪行を見抜き、
女の黒闇天女は亡者の生前の善行を見抜きます。

地獄極楽変相図 大下図

屎糞所の場面です。

説明不要ですね(笑)。

地獄極楽変相図 大下図

刀葉林の場面です。

美女に誘われ、罪人が鉄刀の様な葉っぱが繁った樹を血だらけになりながら上ると、樹上に美女はおらず、いつの間にか樹下に降りて手招きしてます。
罪人が延々と刀葉樹を上り下りし続ける場面です。

着物の胸元をつい、はだけ過ぎました。
ここまではだけると乳首が見えてしまいますね(笑)。
本画に写す時にはギリギリになるよう微調整してから写したいと思います(笑)。


2019年10月31日

地獄極楽変相図 大下図
地獄極楽変相図 大下図

上から「修羅道」、「餓鬼道」、「賽の河原」

地獄極楽変相図 大下図

右奥から「死出の山」、「衣領樹」、
「奪衣婆」、「三途の川」

まだ三途の川を渡る前ですが、罪人が逃亡を図るといけないので、獄卒をここから配置してみました(笑)。


2019年11月1日

地獄極楽変相図 大下図

今日は、左右の僧侶、地蔵菩薩、鬼子母神、普賢菩薩まで墨入れが出来ました。

明日以降、左右の天女、文殊菩薩、そして釈迦如来に墨入れをします。

地獄極楽変相図 大下図

「畜生道」と「人道」(老の坂)、鉛筆での下描きから、

地獄極楽変相図 大下図

墨入れまで。

もっともこれもあくまでも下図なので、ここから本画を描く絵絹に写すのが清書となります。


2019年11月2日

地獄極楽変相図 大下図

一通り「骨描き(こつがき=輪郭線描)」が終ったので、
修正や「隅取り(くまどり=墨の濃淡づけ)」の段階に入りました。

谷底からマグマの蒸気や硫黄ガスが立ち上るイメージで、濃淡をつけながら彩色していくつもりです。

既に濃く描き過ぎだったと、気に入らない場所もありますが、本画は絹に写して描きますので、大下図段階での濃淡さじ加減の反省点は本画制作に生かせます。

地獄極楽変相図 大下図

最後に取っておいた極楽の方も骨描きが完了しました。

地獄極楽変相図 大下図

細かな修正は、小さく紙を貼って直しました。

左の修正前は着物がはだけ過ぎました。
これでは乳首が見えてしまいます(笑)。
見えそで見えないギリギリがそそられます。

また、着物に隠れたプロポーションを想像したら、胴と二の腕が長過ぎに感じましたので、上半身を下げました。

地獄極楽変相図 大下図

こちらは僕の解釈で、最初は棍棒を払子に代えて描きました。
FBの投稿に、ご依頼主で僧侶の友人から間違いを指摘されるコメントが寄せられましたので、棍棒に戻しました(笑)。

制作経過を逐一アップする事は、皆様の興味を引くと同時に、遠い故郷のご依頼主にもチェックして貰える効能があります♪

地獄極楽変相図 大下図

更に下層の、焦熱地獄、大焦熱地獄、阿鼻地獄はマグマの下に続くという画面構成を思いつきました。

マグマに落ちる瞬間に一瞬で燃え尽きてしまいますが、下層の地獄で再び蘇り、延々と責め苦を味わされる事でしょう。


2019年11月3日

地獄極楽変相図 大下図

昨夜の仕事を終え、晩酌をしながら眺めているうちに、光背の円が、円弧に沿って並ぶ様に、普賢、文殊菩薩の位置を上げた方が収まりが良さそうだと思いつきました。

フリーハンドで軽く円弧を描き就寝しました。

今朝起きてからあらためてきちっと計って光背の位置を先ずずらしました。

地獄極楽変相図 大下図

当初は山形に光背の位置を並べてました(上)。

普賢、文殊菩薩をそれぞれデジカメで撮影し、プリンターにて実物大で出力し、新たに移動させたい光背の位置に合わせて仮留めしました。

依頼主にもメールにてこの画像を送ってますので、OKのお返事が貰えたら糊着けしようと思います。

地獄極楽変相図 大下図

業の秤の場面にも違和感を感じた部分がありましたので、上から紙を貼って修正しました。

上の縄の掛け方だと、本来であれば重しの向きが90度捻れてしまいます。
空間立体把握が得意な方なら、この間違いに気付くと思います。

縄の吊るし方を変えると同時に、重しの石の高さも明らかに罪人より上にあることを分かりやすくしました。


2019年11月4日

仮枠

地獄極楽変相図 大下図

大下図がだいたい完成しましたので、今日は本画の絹本を張るための仮枠を作りました。

地獄極楽変相図 大下図

手書きの図面です。
大下図を張ってあるパネルサイズより上下左右2mmずつ大きな内径になるように寸法を決めます。

ホームセンターで、角材をカットして貰うとき「1~2mmの誤差はご了承下さい」と言われます。
パネルよりも大きい分には問題ありませんが、万一パネルより仮枠の内径が小さくなると、パネルをはめ込む事が出来なくなりますので、誤差分をサバ読みするのが1つ目の理由。

2つ目は、絹本制作中に膠を吸ってどんどん縮みます。
仮枠ごと縮む事もありますので、最初からきっちりはまり過ぎると、制作途中で大下図のパネルを外せなくなってしまいます。

裏箔や裏彩色を施す予定もありますので、パネルはいつでも着脱可能に出来る様にゆとりが必要です。

地獄極楽変相図 大下図

ホームセンターで切って貰った角材をマイカーで持ち帰ります。
出掛ける前に、メジャーでマイカーに収納出来る長さか確認しました。
もし、マイカーに収納出来ない場合は、ホームセンターで軽トラをレンタルする必要が出てくるからです。

地獄極楽変相図 大下図

L字金具とネジで仮枠を作ります。

仮枠の内径のゆとり部分には厚さ2mmの隙間テープを貼りましたが、15年以上前に購入した物だったせいか、粘着力が弱かったのと、試しに大下図のパネルをはめ込んでみたらユルユルでした。

もう一度ホームセンターに行き、もう少し厚みがあって粘着力の強い隙間テープを買いに行くことにしました。

地獄極楽変相図 大下図

新しい仮枠を使う場合は「捨て糊」と言って、木枠の絹を貼る予定の場所にあらかじめ糊を塗って乾かしておく必要があります。

今回新たに組み立てた仮枠には、2度捨て糊をしました。

地獄極楽変相図 大下図

内側の小さな仮枠は以前の制作で使用したものです。

今回は今まで描いた事の無い画題ですので、彩色段階でいくつかの技法を別の絹本で試し描き、試し塗りしながら進めようと思います。

なので、試し塗り用の絹本を張る仮枠にも捨て糊をしました。
こちらは下地の糊が既に着いてますので、捨て糊は1回だけ。

地獄極楽変相図 大下図

夕飯を食べた後、本日2回目のホームセンターへ(笑)。

写真の隙間テープは厚み5mmで強粘着。
今回の用途にバッチリでした。

地獄極楽変相図 仮枠

更に仮枠の裏側には、スムーズに大下図のパネルをはめたり外したり出来る様に滑りの良い養生テープを貼りました。

最初の写真が仮枠に大下図のパネルをはめ込んだものですが、5mmの隙間テープと、この養生テープのおかげでスポッとはまり、しかも高密着で内側のパネルがぐらつきませんでした。

あとは絹本を張るためのアシスタントが欲しいです(笑)。
ほんの5分くらい、絹本の片側を持ってて下されば良いだけですので、猫の手では無理ですが、人間の手であればどなたでも簡単に出来る手伝いです。

冷やかしではなく、本気でお手伝いをお申し出下さる方がいらっしゃいましたらダイレクトメッセージ下さい。
僕のアトリエは埼玉県川口市で、最寄り駅は武蔵野線の東浦和駅です。
お近くの方で気軽にお越し頂ける方が最適です! 今回は(笑)、老若男女問いません。


2019年11月5日

取材

地獄極楽変相図 取材

火山活動が活発になったのが、そもそも交通規制の始まりでした。
何年か前に来た時よりも噴煙の量が増えていた印象でした。

僕が今描いてる絵では、ここまで豪快に噴煙は入れられませんが本画制作に取り掛かる前に、観察出来て良かったです!

地獄極楽変相図 取材

ロープウェイ大涌谷駅では、駅舎から出ることは出来ません。

駐車場にも観光客の車は入れません。
数台見える車は、台風19号の土砂崩れの復旧や、設備点検の作業員の車。

地獄極楽変相図 取材

芦ノ湖湖畔の桃源台駅から早雲山駅間をロープウェイで往復し、大涌谷の噴煙は車窓から写真を撮るだけの取材でした。

連休明けを待ち、混雑を避けて出掛けましたので、待ち時間もほとんど無く、車内も空いてて撮影には最適でした。

地獄極楽変相図 取材

ヘルメットを被った作業員達もロープウェイを利用してました。

大涌谷での復旧作業時はガスマスク着用でお仕事されてるとの事です。
お疲れ様です。

地獄極楽変相図 取材

桃源台に戻る景色。
奥に芦ノ湖。山は紅葉し始めてました。


2019年11月8日

地獄極楽変相図 取材

現在制作中の地獄極楽変相図の地獄の釜の場面の参考になるかもしれないと思い、インターネットにて川口オープンファクトリーの工場見学、第三希望まで鋳物工場ばかりを選び、応募しました。

左上の写真は、鋳造作業が終わり、釜の蓋を外したところです。
まさに地獄の釜の蓋が開いた光景そのものでした♫

僕が画家で、地獄の釜の参考に見学に来た事を告げると、工場長さんが特別に湯釜を覗きこめる至近距離まで近づく許可を与えて下さいました。
覗きこんだときの熱気はやはり強烈でした。
熱を体感出来た事も制作の役に立ちます。

地獄極楽変相図 取材

毎月市民宅に配布される広報川口に挟んでありました。
ローカルイベントの中にも、たまに興味深いものが見つかる事があります♫

地獄極楽変相図 取材

市内20数ヶ所の工場の中から、見学希望の工場を第三希望までネットでエントリーし、抽選で当たったのが銅合金製継手メーカーの神陽金属工業株式会社さんでした。

地獄極楽変相図 取材

神陽金属工業さんはキューポラではなく、もっと原始的な小さな釜ですが、そのおかげで人力での微調整やメンテナンスがしやすいそうです。

大量生産ではなく、特殊で高品質な部品を製造するのには、むしろ小さな町工場の方が向いてたりします。
自分と通じるものも感じ、工場長さんとも意気投合しました♫

地獄極楽変相図 取材

こちらは川口駅東口にある銅像です。
沢山ある町工場の中でも特に鋳物工場は
「キューポラの街」川口市の代表格です!

地獄極楽変相図 取材

神陽金属工業さんは、海上自衛隊の船舶や、大手企業の商船の配管継手として採用されてる、小さな町工場ながら一流の技術を提供されてる会社でした。

地獄極楽変相図 取材

本日見学させて頂いたのは、これらの製品の鋳造過程です。

鋳造したものを削って磨いて完成させる工程もありますが、やはり見学希望が高い段階はマグマの様に溶かした合金を、湯釜から柄杓ですくって鋳型に流し込む鋳造段階というご説明でした。

地獄極楽変相図 取材

上2枚の写真は、鋳造前の準備段階です。
完成品に気泡等が混ざらない様に不純物のアクを取ってる段階です。
この段階の方が煙が立ち上ぼり、いかにも暑そうな雰囲気が出ています。

下の写真が、いよいよ釜の温度を1100度に上げ、鋳造に入った段階です。
より高温になり、合金の純度が高まると煙の立ち上ぼり具合に派手さは見られなくなります。

マグマの温度も相当なものですから、もしかすると派手な噴煙は立ち上らないのかもしれません。
絵に描く時は、色々観察した上で、必ずしも真実に忠実ではなく「いかにもそれらしく」描こうと思ってます。

地獄極楽変相図 取材

左上 合金の「湯」を柄杓に注ぐ
右上 柄杓を鋳型まで運ぶ
左中 柄杓から鋳型に注ぐ
右中 鋳型から外し、並べて冷ます
左下 鋳型を水で冷やす
右下 鋳型を水から上げたところ

水で冷ましても鋳型はまだ150度くらいの余熱を持ってるそうですが、繰り返し使うので、一旦冷まさないと、鋳型も膨張変形してしまうそうです。

冷却水も作業後に触らせて頂きましたが、鋳型の熱を吸収し、お風呂より熱い50度くらいになってました!

以上、とても興味深く有意義な工場見学でした。


2019年11月15日

ドーサ引き

地獄極楽変相図 ドーサ作り

太鼓膠 8g
軟靭膠素 6g
軟靭鹿膠 4g
計 18g
を絵具の接着用としては 水200ccに溶かします。

ドーサとして使用する時は、それを更に3~4倍に薄めます。

地獄極楽変相図 ドーサ作り

左上 三種の膠を前日から水に浸し冷蔵庫で保存
右上 水分が浸透し、ふやけ膨張した膠
左中 湯煎にて溶かしたブレンド膠
右中 漏斗にガーゼでアクを濾しとります
右下 澄んだ膠液として抽出されました

地獄極楽変相図 ドーサ作り

10年前くらいから僕は通常の制作のドーサには明礬(みょうばん)を入れるのを止めてます。
多少和紙の繊維に膠や岩絵具が浸透埋没した方が、完璧過ぎる滲み止めをしてしまうよりも良い加減になるからです。

今回は金箔を押す(貼る)ために、より強固な滲み止めが必要です。
現在僕は金箔を押す時のみ、明礬を加えたドーサを使用してます。

左上 膠液原液 30gを量りの上に出したところ
右上 お湯を注ぎ 約120g(4倍)に薄めたところ
左中 明礬は2g
右中 明礬がさっと溶ける様、擂り潰します
左下 明礬を加え
右下 連筆にてかき混ぜ溶かし、ドーサの完成

地獄極楽変相図 ドーサ作り

試し描き、試し塗り用の絹本にドーサを引く作業です。

左上 仮枠に糊付けしたところがドーサで濡れて
糊が剥がれるのを防止するためマスキング
テープで養生します。
ドーサを引く前の絹本は敢えて緩く張る

右上 1回目のドーサを引いた直後
ドーサの水分を吸って、一旦縦糸が伸びる

左中 ドーサが乾くと縦糸が縮みピーンと張る

右中 裏返し90度回転させて2度目のドーサ

左下 また表にして1回目とは180度回転させ
反対方向から3回目のドーサを引く準備
引く方向を1回目と重ならない為の番号

右下 3回目のドーサを引いたところ

地獄極楽変相図 ドーサ作り

本日最後の4回目のドーサを再び裏から引き終わったところです。
裏側も当然、2回目と4回目とでは180度回転させて引いてます。

計4回のドーサを全て違う方向から引くことで、ドーサの厚みにムラのない均一な下地が出来るというわけです。

4回目のドーサが乾いたら、仮枠に緩く糊付けしてあった絹本がピーンと張りました。
今日は試し塗り用の方だけ先行してドーサ引きをしました。

本画の絹本糊付けは、日曜日に助っ人が来てくれますのでその時行います。

この一週間は本画制作が出来ませんでしたので、少し早めですが大掃除などして過ごしてます(笑)。


2019年11月17日

絹本張り

地獄極楽変相図 ドーサ作り

主に横糸を伸ばす様に、指で引っ張りながら仮枠に密着させていきます。

友人に作業を手伝って貰ったのは、最初の仮留めだけで、後は作業の様子を撮影する役を担って頂きました。

縦糸、横糸とも上下左右の糸が垂直、水平に揃う様に貼りますので、何度も剥がしては歪みを直し、張り直します。
一人でこんな地味で手間の掛かる作業をしてると泣きたくなります(笑)。

本音はアシスタントというより、孤独な作業中温かく見守ってくれる人がいて欲しかったのだと思います。

一人でしたら、とてもこんな笑顔で出来る作業じゃないです(笑)。

地獄極楽変相図 ドーサ作り

絹の織られ方を図解したものです。
横糸は真っ直ぐ
縦糸は隣り合う2本の糸が、互い違いに横糸を上下にくぐる様に編まれます。

ドーサ引きや、膠で溶いた絵具で彩色を重ねる度に絹本は縮みますが、特に縦糸の縮み具合が激しいのはこの様に織られているからだと思います。

ちなみに学生時代に絹本制作した30年前は、そこまで縦糸の縮みが激しくはありませんでした。

5年前くらいに久しぶりに絹本制作をした時
「あれ? 絹本張りってこんなに難しかったっけ?」と、もしかして腕が落ちたか不安になったものですが、老舗の画材店主や表具師に伺いましたら

  1. 現在は全て機械織り
  2. 蚕の交配を重ね、短期間で太くて長い糸を出す蚕にした為、糸そのものの質が、昔のきめ細かかった質から大雑把な質に変化してる

というお話で、明らかに質が変わってきてるとの事でした。

素材の品質が変われば、それを扱う技法も変化させて対応する必要があります。

地獄極楽変相図 ドーサ作り

糊の濃さは、和紙の裏打ちをするときに比べ、かなり濃いめです。
正確に量ってはいませんが、感覚としては

糊の原液8 : 2水といったところでしょうか。

制作中にどんどん縮む絹本が、制作中に剥がれる事が無いように、かなり濃いめの糊でしっかり仮枠に接着させます。

地獄極楽変相図 ドーサ作り

横糸はドーサを引いても、それほど縮みませんので、糊付け段階からある程度ピーンと張るように貼ります。

縦糸はドーサを引くとみるみる縮みますので、糊付け段階では意図的に緩く張ります。

横に走る皺がなるべく水平に揃う様に、何度か剥がしては歪みを直し、糊も付け足したりしながら張り直す仕事を繰り返します。

繊維の歪みを妥協したまま仮枠に貼っても、ドーサを引けばピーンと張って、一見フラットに張れた様に見えると思います。

でも、制作が終わり、掛軸に仕立てる時に仮枠から剥がします。
掛軸として仕立てた後に、制作中の歪みの反動が悪影響しないとも限りません。

表面的には、手抜きや誤魔化しをしてもバレにくい下準備の段階から、何百年後の事も考えて手間隙を惜しみません。

その一方で、こんな苦労してる事を、誰かに見て貰いたいという気持ちも持ってました(笑)。

地獄極楽変相図 ドーサ作り

仕上げは空き瓶の腹でしごいて圧着させます。

たぶん「ごはんですよ」の空き瓶だったと思います(笑)。

地獄極楽変相図 ドーサ作り

完璧とは言えませんが、
ほぼ水平、等間隔の皺をつけて張り終えられました。
皺なくフラットに張る方がよっぽど簡単だと思います(笑)。

今回は友人がずっと興味深く仕事ぶりを見守って下さってましたので、心が折れそうになる地味な作業も、心に張りを持ってやれました。


2019年11月19日

地獄極楽変相図 ドーサ引き

仮枠に糊付けし、充分乾燥させた状態です。
ドーサを引くと縦糸が特に縮みますので、わざと皺が出来る様に緩く張ってます。

地獄極楽変相図 ドーサ引き

ドーサを引く時は、引いたところと、まだ引いてないところの区別がつきやすい様に窓からの光に向かい合う方向で作業をします。

これは1回目のドーサを引いた直後の写真です。
直ぐに縦糸が縮み始め、ピーンと張り始めてるのが分かると思います。

地獄極楽変相図 ドーサ引き

2回目は裏にして、さらに90度回転させて引きます。
裏側から引くときは、画面を床から浮かす為、仮枠の下に角材を敷いてます。

地獄極楽変相図 ドーサ引き

3回目は再び表から引きます。
ただし1回目に引いた方向とは180度回転させて反対方向から引きます。

地獄極楽変相図 ドーサ引き

4回目を再び裏の反対方向から引き、後は乾くのを待つだけです。

これから友人の個展に出掛けてきます(笑)。


2019年11月21日

大下図トレース

地獄極楽変相図 大下図トレース

自分で描いた大下図の一部を撮影し、実物大にプリントアウトして試し描き用の絵絹仮枠の下からはめ込み、透けて見える線をトレースします。

地獄極楽変相図 大下図トレース

ボカすところもありますので、最初は薄墨でトレースしました。

地獄極楽変相図 大下図トレース

濃い墨を重ね、濃淡を付けます。

地獄極楽変相図 裏箔

試し描きの方に裏箔を押しました。
絹や薄い和紙の様に透ける素材に描く時に使える技法です。
表から押す(貼る)方が輝きは強いですが、裏からほんのり光るのも上品です。

本画の制作を進めていくうちに、他の色彩とのバランスを見て、最終的には表から金箔を押したくなるかもしれませんが、とりあえずは裏箔の輝きを生かした状態で描き進めてみようと思います。

何しろ初挑戦の題材ですので、初体験の技法も出てきます。
こうして試行錯誤しながら描き進めてます。


2019年11月22日

地獄極楽変相図 大下図トレース

いよいよ絹本本画への墨でのトレースを開始しました。
今日は画面下、全体の4分の1くらいをやりました。


2019年11月23日

地獄極楽変相図 大下図トレース

椅子に座って描く時も、描写が細かいので眼鏡の上に更にハズキルーペを重ねて描きますので、決して優雅な制作姿勢ではないと思います(笑)。

地獄極楽変相図 大下図トレース

本日絹本本画に墨入れした場面 その1

地獄極楽変相図 大下図トレース

場面その2

地獄極楽変相図 大下図トレース

場面その3


2019年11月25日

地獄極楽変相図 大下図トレース

今日は昼間久しぶりに晴れたので、試し描き用の裏箔の止めドーサも引きつつ、本画制作を進めていきました。

地獄極楽変相図 大下図トレース

上「業の秤」
下「雨炎火石」

地獄極楽変相図 大下図トレース

左「浄玻璃の鏡」と獄卒に引き立てられる亡者達

地獄極楽変相図 大下図トレース

上「屎糞所」
下「刀葉林」

刀葉林は、鋭い葉の感じを出すため、一筆目から濃い墨でいきなり描きました。

それ以外の場面は、噴煙に煙る表現を加えられるよう、最初は一通り薄墨でトレースし、後で濃淡に変化をつけられる様にしておきます。


2019年11月28日

地獄極楽変相図 大下図トレース

昨日、今日でやっと一通り、骨描き(こつがき=墨での輪郭線描き)が終わりました。

右手の5本指が筋肉痛です(笑)。
細い線を歪みなく引くので、思いの外、指に力が入ってたのだと思います。

地獄極楽変相図 大下図トレース

左上 修羅道 右上 人道(老いの坂)
左中 餓鬼道 中央中 畜生道
左下 賽の河原 右下 閻魔王庁

地獄極楽変相図 大下図トレース

三途の川、奪衣婆、衣領樹

地獄極楽変相図 大下図トレース

全体は、こんな感じです。


2019年11月29日

大下図彩色 1

地獄極楽変相図 大下図トレース

絹本に薄墨で必要最低限の輪郭線をトレースし終わりましたので、仮枠の下にはめ込んでた大下図を外しました。

地獄極楽変相図 大下図彩色

仮枠に張った本画の方は、裏箔を押す場所に下地ドーサを引きます。

金箔を押すのは後日ですが、引いては乾かしを繰り返し、金箔を押す場所をしっかりコーティングしておきます。

地獄極楽変相図 大下図彩色

本画のドーサの渇き待ちを利用して大下図に試し塗りしていきました。

絵皿に溶いた絵具も含め、全て水彩絵具です。
水彩だとスピーディーに彩色出来ます。

日本画の岩絵具だとこうはいきません(笑)。

地獄極楽変相図 大下図彩色

地獄の最下部は光と影の状況を出したので劇的になりそうです。

地獄極楽変相図 大下図彩色

画面上部はほとんど平面的な彩色で塗ってみましたが、マンガチックでなんだかほのぼのしてしまいます(笑)。

陰影をつけて立体感を出した方が劇的になりそうですし、その方が僕の普段の画風に近くなると思いました。

この先はしばらく大下図の方で表現方法を試行錯誤してみようと思います。

本画制作は一旦中断し、また大下図の仕事に戻ります。
完成までの道のりは長いです。


2019年12月2日

地獄極楽変相図 大下図彩色

大下図での試し塗りです。
水彩での彩色を一旦中断し、墨で濃淡をつける仕事を挟みました。

試行錯誤が続きます。


2019年12月4日

地獄極楽変相図 大下図彩色

各キャラクターの彩色と、徐々に噴煙立ち上る場の彩色にも手を着け始めました。

余白を残す噴煙の表現は、本画ではやり直しの効かない仕事になりますので、先ず大下図にて試してます。

キャラクターの彩色方法も色々変えて試してます。
水彩と日本画の岩絵具ではまた違うと思いますので、たぶん本画に入ってからも試行錯誤はあると思いますが、それが微調整で済むように大下図にて色々試してます。

地獄極楽変相図 大下図彩色
地獄極楽変相図 大下図彩色
地獄極楽変相図 大下図彩色
地獄極楽変相図 大下図彩色

2019年12月5日

マチエール検証

地獄極楽変相図 大下図彩色

恐山を取材した時の写真を参考に、それっぽいマチエールを表現したいと思います。

空想、絵空事の表現ではありますが、実際の景色を参考にリアリティーを出したいと思います。

地獄極楽変相図 大下図彩色

PIGMENT(ピグモン)で、店員さんと相談して選んだ、カラースペースイエローと、クリスタルシルバー。

片方は雲母(きら)由来。片方はアルミ粉を着色した物ですが、変色、退色の心配は無いそうです。
先ずはこれらの顔料を膠で練ります。

地獄極楽変相図 大下図彩色

普通は、膠で練った絵具にぬるま湯を加えて塗りやすい濃さに薄めるのですが、今回は擦った墨汁を加え希釈します。

地獄極楽変相図 大下図彩色

2色とも墨汁を加え、希釈しました。

地獄極楽変相図 大下図彩色

ランダムにこれらの絵具を、塗ったり、置いたり、散らしたりしました。

地獄極楽変相図 大下図彩色

カラースペースイエローは金泥(きんでい)、
クリスタルシルバーは銀泥(ぎんでい)の様な光沢で浮かび上がりました。

結構良い雰囲気のマチエールになりそうですが、問題は本画制作で、こんな大胆に絵具を散らす事が出来るかどうかです(笑)。

縁蓋(えんぷた)という、汚したくない場所に薄い和紙を仮貼りするマスキング技法等が使えるかどうかの実験も必要になるかもしれません。

地獄極楽変相図 大下図彩色

古くから日本画や浮世絵で絵具として使われてる雲母でも、似たような効果が得られるか試してみようと思います。

地獄極楽変相図 大下図彩色

右側が雲母と墨汁ブレンドによるもの。

まだ乾いてませんので、最終的な結果は分かりませんが、今回試した新素材に比べると光沢や発色が、墨に飲み込まれてしまった様です。

新素材の使用は、依頼主のご意見も聞きながら判断したいと思います。


2019年12月6日

大下図彩色 2

地獄極楽変相図 大下図彩色

今日は主に極楽場面の彩色をしました。

まだ塗り残した細部もありますが、だいぶ全体像が見えてきました。

地獄極楽変相図 大下図彩色

下図ですので、安価な材料で代用します(笑)。

でも、これ結構輝きます。水彩のゴールドより輝きは上ですね。
展覧会を観に行って知り合った他のアーティストの方から教えて頂きました。

地獄極楽変相図 大下図彩色

下図では金を上から塗りましたので、仏様達の顔がすっかり塗りつぶされてしまいましたが、本画では絹本の裏側から裏箔を押しますので、輪郭線が隠れる事はありません。
また、絹を通して透けて輝く金ですので、背景の空との対比ももっと上品になると思います。

釈迦三尊像は雲に乗ってご來迎というイメージですが、地獄の噴煙をリアルに煙らせますので、極楽場面の雲も、装飾的(いわゆる筋斗雲的)な雲にはしないつもりです。

大下図を利用してとりあえず全体の配色バランスなどをシュミレーションしてる訳です。

本画制作では細部の配色や表現を変更する事もあり得ます。


2019年12月8日

試し塗り

地獄極楽変相図 大下図彩色

裏箔の更に裏側に金と同系色の 新岩樺茶 白(びゃく)を塗ります。

地獄極楽変相図 大下図彩色

獄卒や罪人達のキャラクターには裏彩色の 胡粉(ごふん)を塗ります。

地獄極楽変相図 大下図彩色

空も裏側から群青を塗ります。
裏彩色だと、釈迦如来を避けずに塗れます。

地獄極楽変相図 大下図彩色

画面を表にして ガンボージ、えんじ等、染料系の絵具で軽く彩色してみます。

後から、より耐光性の強い顔料系の絵具で濃くしていくつもりです。

地獄極楽変相図 大下図彩色

例の金属粉を膠で練ったものと、墨とを混ぜたもので、溶岩大地を裏彩色してみます。

表に塗ったものに比べ、裏彩色をして表から見ると金属光沢は大人しく、ちょうど良いとも言えますし、あまり意味が無いかも(笑)とも思えます。

もう少し表からの彩色を進めてバランスを見極めたいと思います。

地獄極楽変相図 大下図彩色

本日の試し塗り最終段階です。

一見、上手くいってる様に見えるかもしれませんが、試し塗り用で制作を進める中で、幾つか気を付けるべき手順に気付きました。

微妙過ぎる事ですので、FBでは詳しく説明しません(笑)。


2019年12月11日

本画制作

箔押し

地獄極楽変相図 本画制作

いよいよ本画の絹本裏側に金箔を押し(貼り)ました。
あとは一晩乾かします。


2019年12月12日

地獄極楽変相図 本画制作

昨日押した(貼った)金箔が乾いたので、余分に浮いた金箔を乾いた筆で掃き集めました。

一部ちゃんと押せてないところもありますが、想定内です。

地獄極楽変相図 本画制作

押せてないところの補修前に、掃除機のブラシヘッドで余分な金箔のチリを吸い捕ります。

地獄極楽変相図 本画制作

押す時に余った断片を使って、穴の補修をします。

地獄極楽変相図 本画制作

その後は、キャラクターの裏に胡粉(ごふん)で裏彩色し始めました。

あらかじめキャラクター達の裏に胡粉を塗っておき、完全に乾いた後、やはり裏から背景を塗れば、表から見た時に背景とキャラクターとの塗り分けが綺麗になるかもしれません。

でも、胡粉による裏彩色は、裏箔ほどの被覆力は無いと思います。
特に、水分を含んだ連筆で何度も塗ったりボカしたりする場面では、たぶん胡粉に色が染み込んでしまうと思います。

なので、この裏彩色は手間の割に、どれほどの効果を発揮するか分かりません(笑)。

効果が未知数な仕事ですが、全てのキャラクターの裏彩色を終わらせるのに更に数日かかりそうです(笑)。


2019年12月13日

地獄極楽変相図 本画制作

今日、1日やってこれしか進んでません。


2019年12月14日

地獄極楽変相図 本画制作

今日は一気に全キャラクターの裏彩色までたどり着きました。

今までは、狭い乗り板の上で脛だけで体重を支えた姿勢はきつく、直ぐに足が痺れて、しょっちゅう休憩を挟みながらの制作でした。

今日は画面下部の彩色でしたので、床に爪先をつけられるようになり、正座での仕事がだいぶ楽になりました。

一通り全キャラクターの裏彩色は終わりましたが、まだ濃淡の微調整や、塗り忘れ箇所のチェックが必要です。
が、今日はもう疲れはてました(笑)。

続きはまた来週(笑)!


2019年12月16日

地獄極楽変相図 本画制作
地獄極楽変相図 本画制作
地獄極楽変相図 本画制作
地獄極楽変相図 本画制作
地獄極楽変相図 本画制作

大下図と、裏箔、裏彩色した本画を表から見た現段階の写真です。


2019年12月18日

地獄極楽変相図 本画制作

裏箔を施したところを日中窓からの光で透かし見ると、粗が見えましたので、二重に貼ることにしました。

贅沢ですが、金に糸目はつけません(笑)。

地獄極楽変相図 本画制作

その後は、画面表から少しずつ墨で濃淡を着け始めました。

墨での仕事はやり直しが利きませんので、少しずつ進めます。

地獄極楽変相図 本画制作

本当に少しずつしか進みません(笑)。

気長にお見守り下さい♪


2019年12月19日

地獄極楽変相図 本画制作

今日はこの辺りを。墨で濃淡を着けました。

僕の日本画の作風は西洋画の様に、立体的、空間的に表現します。

今回も、平面的な日本画の古典作品を参考にしながらも、僕らしい表現を加えて仕上げを目指したいと思ってます。

西洋画の様な表現は、北斎、大観、栖鳳、春草等々、日本画の歴史に名を残した巨匠達も採り入れて日本画表現に融合させてます。

ですので、決して邪道ではなく、一つの王道の継承だと僕は思ってます。


2019年12月20日

地獄極楽変相図 本画制作

裏箔を押して乾いた後、止めドーサを裏から引きました。

止めドーサは、主に金箔表面の保護、そして箔の上に更に絵具を重ねて塗るときの定着を良くする役割を持ってます。

試し塗り画面では箔を押した周辺部分だけに止めドーサを引きました。
その後、裏から群青を塗りました。

真正面から見ると分かりませんが、見る角度を変えると、止めドーサを引いたところだけ、他より光って(明るく)見えます。

ドーサを引いた回数が場所によって差があると、明礬(ミョウバン)の結晶濃度の違いから、光り具合にも差が出てしまうという訳でした。

地獄極楽変相図 本画制作

ですので、本画の止めドーサは、金箔を押した部分だけでなく、画面全体に引く事にしました。

これで、胡粉(ごふん)の裏彩色もドーサでしっかり固まるので、裏彩色を重ねる時、背景とキャラクターとの色の滲みもほぼ完璧に防げる効果も期待出来ます🎵

地獄極楽変相図 本画制作

明るい窓を正面にしてドーサを引くと、ムラ無く引けているかの確認がしやすいです。

地獄極楽変相図 本画制作

ひと塗り目が乾いたら、画面を180度回転させ、反対方向から引きます。

連筆は、刷毛よりも絵具の含みが良く、塗り始めと塗り終わりの濃淡差が少ないものの、やはり塗り始めと終わりとの濃度差は出来ます。

引く方向を180度替えて交互に塗り重ねれば、画面全体のドーサ濃度が均一になります。

今回はかなり薄いドーサを画面上下を交互に計4回塗りました。

日中のうちにドーサ引きの作業を済ませ、夕方からは画廊巡りに出掛けてきます🎵


2019年12月21日

隈取り

地獄極楽変相図 本画制作

画面上部からじわじわと、キャラクターの隅取り(くまどり=墨で濃淡をつける事)をしてます。

地獄極楽変相図 本画制作

隅取り後(上)と
隅取り前(下)。


2019年12月22日

地獄極楽変相図 本画制作

今日はこれしか進みませんでした。

電気炊飯器が故障したり、シンクの排水が悪くなったりと、年の瀬に来て色々とトラブル発生してます。

手順の解説

大下図からトレースした最初の骨描き(こつがき)では、薄墨で描きました。
キャラクターの一部は噴煙で見えにくい場所もありますので。

ハッキリ見えるキャラクターは、あらためて濃い墨で骨描きします。

その後、濃淡に強弱をつけて、立体感や光の状況を出していきます。
墨で濃淡の変化をつける仕事を隅取り(くまどり)と言います。

画面上部は上からの光を想定してますが、画面下部ではマグマから発する光に照らされる様に表現するつもりです。

一体一体のキャラクターを描きながらも、画面全体の光の演出を考えながらですので拙速には出来ません。

慌てず、じっくり仕事を進めようと思います。


2019年12月24日

地獄極楽変相図 本画制作

キャラクターの隅取りはだいたい終わりました。


2019年12月25日

裏彩色

地獄極楽変相図 本画制作

絹本は、掛軸に仕立てる時に和紙で裏打ちをしますが、和紙の裏打ちだけだと少し透けて金箔の輝きが少し心許ない感じかします。

金箔の発色をしっかりさせるため、同系色の樺茶 白 (かばちゃ びゃく) を裏から塗りました。


2019年12月26日

地獄極楽変相図 本画制作

洋顔料の群青 インミンブルーにて裏彩色しました。
日本画用の群青でこれだけ濃い色だと11番位の少々粗い粒子になってしまいます。
掛軸に仕立てますのであまり粗い粒子の絵具は多用出来ません。

絵具を含ませた連筆と水を含ませた連筆とを交互に使い、暈します。

地獄極楽変相図 本画制作

表から見たところです。

地獄極楽変相図 本画制作

続いて溶岩大地の裏彩色もしていきました。

画面上(奥)に置いてある大下図の写真は PC の画像処理ソフトにて左右反転させた物です。

これも参考にしながら、濃淡をつけ彩色します。

空も、インミンブルーの上に、日本画の白群(びゃくぐん)を被せました。

地獄極楽変相図 本画制作

今日の最終段階です。


2019年12月27日

彩色

地獄極楽変相図 本画制作

本画の裏に白い紙を張ったパネルをはめ込んだ状態です。

この先、いよいよ表側から彩色を施していこうと思います。

噴煙を塗り残しながら彩色していきますので、色の濃淡が確認しやすいよう、こういう準備をしました。

地獄極楽変相図 本画制作

パネルから大下図を剥がし、新たに真っ白な新鳥の子紙を水張りしたところです。

地獄極楽変相図 本画制作

大下図と制作中の本画を並べたところです。

地獄極楽変相図 本画制作

左、裏が透けてる状態。右、白い紙をはめ込んだ状態。

彩色を施したところと塗り残したところの視認性が高まったと思います。


2020年1月7日

地獄極楽変相図 本画制作

左から
ガンボージ、本藍、臙脂、赤口本朱

朱以外は染料系の絵具で
ガンボージと本藍は、ぬるま湯を着けた指で直接、撫で溶かします。

臙脂と朱は膠で練ってから、ぬるま湯で適量に薄めて使います。

地獄極楽変相図 本画制作

地獄の釜をイメージしたマグマ周辺は、マグマの明かりに照らされた光の状況を出します。

光はガンボージと臙脂とで表現。

影になる部分を、本藍で様子を見ながら塗り重ねていきました。

マグマから離れた場面は、上からの光をイメージして描くつもりです。

1枚の画面に複数の光源がある画面構成はあまりありませんが、極楽から徐々に地獄の底へと場面が移動していく様子を、光の状況も変えていくことで表現したいと思ってます。

地獄極楽変相図 本画制作

本日の最終段階です。


2020年1月9日

地獄極楽変相図 本画制作

金茶を焼いて紅葉茶にします。

地獄極楽変相図 本画制作

赤くなります。
主に男の罪人や獄卒達の肌下地として塗ります。

地獄極楽変相図 本画制作

一番左は焼く前の金茶、その隣が焼いた紅葉茶。

地獄極楽変相図 本画制作

緑青も焼きました。

地獄極楽変相図 本画制作

今日の最終段階です。


2020年1月11日

地獄極楽変相図 本画制作

釈迦三尊像と、地蔵菩薩、鬼子母神の衣装部分は色を塗ります。
裏箔の輝きを抑える為に、今日は下地に胡粉(ごふん)を塗りました。
一気に濃く塗ると、後年剥落の恐れが出来ますので、4~5回塗り重ねました。

地獄極楽変相図 本画制作

全体的にはこんな感じです。

罪人を含む人間達の肌色として珊瑚末を塗りました。
男性の肌色は下地に紅葉茶(もみじちゃ=焼金茶)を塗ってあり、女性の肌よりやや濃いめです。

地獄の罪人を描くに当たっても、やはり女性の肌は男性の肌より白くあって欲しいという願望が投影されます(笑)。


2020年1月19日

地獄極楽変相図 本画制作

前回迄に使用して膠抜きしてあった絵具を使います。
新しく溶く絵具も使いたいところですが、まずは残ってる絵具で今回の絵に使えるものから先に使い回します。

地獄極楽変相図 本画制作

下地はあえて渋い色を塗っていくことにしました。
現代の新作ですが、あまり鮮やかで綺麗過ぎると安っぽく見えそうですので、隠し味的に。

あとは描き進めながら、発色の具合は調整していくつもりです。

地獄極楽変相図 本画制作

今日はここまで。


2020年1月20日

地獄極楽変相図 本画制作

本日の最終段階です。

地獄極楽変相図 本画制作

普賢と文殊とは、絵具の定着が弱いと感じましたので、一旦塗った絵具を洗いました。

まるで長い年月を経過し剥落した様な雰囲気になりました(笑)。

地獄極楽変相図 本画制作

今日は一旦この様に塗りましたが、この先まだ行きつ戻りつする仕事を繰り返す事になると思います。


2020年1月23日

地獄極楽変相図 本画制作

1.天道~左右の飛天

い、仏界~中央の釈迦如来
ろ、菩薩界~普賢、文殊菩薩
は、縁覚界~地蔵菩薩、鬼子母神
に、声聞界~左右の僧侶

2.人道~中央「老いの坂」を歩く人々
3.修羅道、4.餓鬼道、5.畜生道

A.賽の河原(左)、
B.死出の山、奪衣婆、三途の川(右)

そして閻魔王庁から下の場面で、
6.地獄道

い、ろ、は、に で四聖、
1,2,3,4,5,6 で六道(りくどう)、合わせて十界を示してます。

A,B は、地獄の手前というか境目ですね。

地獄極楽変相図 本画制作

地獄は罪の重さにより、八段階あると言われてます。

僕の絵では、

1.等活地獄(魚の様に捌かれたり、罪人同士が鉄の爪で傷付け合う場面)

2.黒縄(こくじょう)地獄(大工道具で責められたり、鉄の塊を背負って綱渡りさせられたりの場面)

3.衆合地獄(美女につられ針の樹を血だらけになって登り降りしたり、鉄臼、鉄杵で突かれる場面)

4.叫喚地獄(釜茹にされたり、熱した鉄球を飲まされたりする場面)

5.大叫喚地獄(目や舌を抜かれる場面)

くらいまでを具体的に描き、

6.焦熱地獄
7.大焦熱地獄
8.阿鼻地獄 は、何れも熱責めらしいのと、これまでの責め苦の合計×1000倍の苦しみが与えられる(どんだけ! 笑)とされてますが、過去の絵師や僧侶達も、地獄前半の責め苦以上の拷問方法は想像を超えたものらしく、具体的に描かれた絵がありません(笑)。

さすがの 水木しげる先生でさえ
「のんのんばあと地獄めぐり」でも、
焦熱地獄から大焦熱地獄へ移動して
「うわ~、さっきよりすごい火だッ!」って、言葉で説明してるだけで、図柄から両者の違いは変わりばえしませんし、最後の阿鼻地獄も、のんのんばあが、「今までの千倍苦しいんじゃよ」と解説で補ってるだけです(笑)。

僕の想像でも、過去に描かれた拷問以上の場面はなかなか思い付きませんでしたので、

ええい、焦熱地獄以下は、この地獄の釜(マグマ)に放り込んでしまえ。
この先でもっと酷い責め苦に合わされるらしいよ!
って、あとは見る人の想像力に丸投げする画面構成とさせて頂きました(笑)。


2020年1月30日

地獄極楽変相図 本画制作

「老いの坂」の場面の奥の山を一旦洗いました。

上~洗う前
中~洗って濡れ色になった状態
下~乾いた状態

上の画像と下の画像には見た目ほとんど違いがないと思います。

掛軸として丸めても剥落しないように

1.洗う事により不安定な絵具を取り去り、洗っても取れないしっかり定着した絵具だけを残す

2.厚塗りの絵具層はひび割れ剥落の原因になるので、余分な絵具を取り去る

訳です。下地の粒子の洗い絵具がいくらか取れましたが、上層の白緑(びゃくろく)や白群(びゃくぐん)は比重が軽いので乾くまでに上層に浮いてきます。
ですから洗う前と見た目の変化がほとんど無いですが、絵具の接着が安定し、必要最低限の薄さに改善された訳です。

地獄極楽変相図 本画制作

キャラクター達も一通り濃く彩色しました。
彼らも今後、洗う工程を挟みながら仕上げに向かいたいと思います。

岩絵具は鮮やかで発色が良いのですが、それぞれのキャラクターの色分けがハッキリしすぎるとマンガっぽくなりますので、洗う工程も挟み、絵具の安定及び日本画としての風合いを出したいと思います。


2020年1月31日

地獄極楽変相図 本画制作

今日は全てのキャラクターの「洗い」と明礬を溶かさない「薄めた膠液塗り」の仕事をしました。

不安定な絵具は洗い取ってしまい、画面に残った絵具の定着をしっかりさせるため、膠液を塗ります。

地獄極楽変相図 本画制作

ビフォー&アフターです。
赤、青、緑の生々しい彩色が、少し落ち着いたのが解るでしょうか。

地獄極楽変相図 本画制作

今日1日の仕事を終えた状態

絵皿の中の膠液の方にも、ボウルの中の水にも取れた余分な絵具が沈んでます。

地獄極楽変相図 本画制作

左ビフォー、右アフター

日中の撮影と夜間の撮影となので、全体の色味の違いは光の状況のせいです。

膠液が濃くなると色が暗くなりますので、各キャラクターの衣装や肌色が暗く落ち着いた違いが解りますか?

左のビフォーの方は、原色が鮮やか過ぎて、何だかオモチャっぽいですよね(笑)。


2020年2月2日

地獄極楽変相図 本画制作

三途の川を渡る以前に、死出の山を越えるのも大変だった事が、白装束の汚れで伝わる様になりました。
当然、地獄に落ちたら汚れや傷、青アザだらけになることでしょう。

地獄極楽変相図 本画制作
地獄極楽変相図 本画制作
地獄極楽変相図 本画制作

更に下層の地獄の釜の底、マグマが燃え上がる様子を効果的に見せるため、陰になった岩の斜面にいるキャラクター達には焼群青を被せ暗く目立たなくしました。

近づいて細部を観れば様子が判りますが、画面全体として見たときには、マグマや噴煙を上げる地獄全体の迫力が真っ先に感じられる作品に仕上げたいからです。

地獄極楽変相図 本画制作
地獄極楽変相図 本画制作
地獄極楽変相図 本画制作

本日の最終段階。


2020年2月7日

地獄極楽変相図 本画制作
地獄極楽変相図 本画制作

出血大サービス!

地獄極楽変相図 本画制作
地獄極楽変相図 本画制作
地獄極楽変相図 本画制作

2020年2月9日

地獄極楽変相図 本画制作

本日の全体像。

キャラクターの陰影をハッキリさせると共に、溶岩大地と噴煙とのコントラストも徐々に上げていってます。
箱根大涌谷での取材を元に描いてるので、温泉地みたいにも見えます(笑)。

地獄極楽変相図 本画制作

パッと見には before & after の違いは分かりにくいと思いますが、キャラクター一体ずつを見比べると違いが分かると思います。

地獄極楽変相図 本画制作

う~ん、我ながら見比べても微妙な違いしか変わってません(笑)。

地獄極楽変相図 本画制作

本日の最終段階。
もちろん全体に手を入れましたが…

地獄極楽変相図 本画制作

昨日までと、違いの分かりやすい描写箇所です。

閻魔帳が白紙では判決を下せませんので、文字を書き込みました。

文字列をそれっぽくするため、展覧会図録から古文書の図版を参考に書きました。

「南禅寺領諸国所々紛失御判物帖」だそうです。
項目、場所、時、毎に箇条書きされてるので、それっぽいかなと思いました(笑)。

ディテールにこだわるのが、絵空事にもリアリティーを感じさせるコツだと思います。

地獄極楽変相図 本画制作

上下で before & after です。

ご興味ある方、またはお暇な方は違いを探してみてください。
ちなみに全問正解のご解答をコメント下さっても、何の商品も当たりません(笑)。


2020年2月11日

地獄極楽変相図 本画制作

本日の最終段階です。
完成間近になってくると微調整なので、どこが進んだか直ぐには見分けがつかないと思います。

噴煙と、各キャラクターの輪郭や陰影のぼやけた所をメリハリつける仕事をしました。


2020年2月12日

地獄極楽変相図 本画制作

ついに完成させられました!

ちなみに今晩の撮影では、いつも暗くてよく見えない画面下部の様子が良く見えるように、画面を逆さまにして撮影しました。
天井の照明に近い画面下部が明るく写り、極楽は実物より暗く写ってます。

明日の昼間、自然光も入る明るい条件でちゃんと撮影します。

あとは表具屋さんと日程を相談し、軸装へと進みます。

地獄極楽変相図 落款

紙の切れ端に一度練習してから、落款を入れました。

あと、軸装の時、裁ち落とし場所に鉛筆でトンボを入れました。

制作中に、どんどん膠を吸って絵絹が縮み、結局完成した現在は画面の四隅の皺は綺麗にピーンと張りましたが、万一四隅に皺が残ったとしても、最初から仮枠より一回り小さい画面に仕上げる計画で描けば、多少皺が残った外側を裁ち落とせば、内側の画面は綺麗に仕上がるという訳です。


2020年2月13日

軸装

地獄極楽変相図 完成

仮枠の裏にはめ込んでた白い紙を張ったパネルを外しました。

胡粉で塗ったキャラクターの白色部分と比べ、絹地をそのまま塗り残した噴煙の白さは少し落ち着きます。

掛軸に表装するときは薄い和紙で裏打ちされますので、表装が完成したら、裏に真っ白い紙をはめてた時と、この状態との中間くらいな見え方になると思います。

地獄極楽変相図 糊を溶かす

制作中は仮枠に糊着けした部分を湿らさ無いようマスキングテープで保護してましたので、まずマスキングテープを剥がします。
左に丸めて置いてあるのが剥がしたマスキングテープです(笑)。

地獄極楽変相図 糊を溶かす

仮枠に糊着けしてある耳の上から何度も水を塗って、糊を溶かします。

地獄極楽変相図 剥がし終わり

剥がし終わったところです。

地獄極楽変相図 乾燥

新聞紙を敷いた上で乾かします。
明日完全に乾いたものを丸めて表具屋さんに持って行きます。


2020年2月14日

地獄極楽変相図 軸装

裂地を選んでるところです。
今回は今までで最速で、最適な裂地が選べました。

— 場所: 株式会社マスミ東京

地獄極楽変相図 軸装

仮枠から剥がした後、糊がカピカピに乾いたらかなり縮み、画面にたるみが沢山出来ました。

裂地と合わせる前に、糊代部分をカットしてもらってるところです。

地獄極楽変相図 軸装

同じく最後の1辺をカットしてるところです。

糊代部分をカットしたら画面の波打ちがほぼなくなりました。


2020年3月9日

解説原稿作成

地獄極楽変相図 解説原稿作成
地獄極楽変相図 解説原稿作成

2020年3月11日

地獄極楽変相図 解説原稿作成

準備だけは進めております。
万一個展が開催中止になっても、作品解説冊子の原稿にも流用出来ますから。

個人的には少なくても我が国に関しては、通常通りの生活に戻して問題無いと思ってますし、それを強く望んでおります。

ちなみに明心寺は僕の小、中、高の同級生が住職を務めるお寺で、今回の掛軸の依頼主です。
個展会場の岩見沢市絵画ホールの正面にあるお寺です。


2020年3月12日

地獄極楽変相図 解説原稿作成

2020年3月27日

地獄極楽変相図 軸装完了

週末の首都圏行動自粛要請の前日に引き取りに来られて良かったです!

天地の裂(きれ)を含むと高さ約2メートルの大きな掛軸に仕上がりました。

予定通りに進めば来月から出身地北海道岩見沢市絵画ホールての個展にて初披露致します。


2020年3月28日

桐箱 落款

地獄極楽変相図 桐箱落款

落款を入れる前に、桐箱の砥粉(とのこ)をウェットティシュで拭き取ります。

地獄極楽変相図 桐箱落款

滲み止めの膠液を引きます。

スピィーディに達筆に書ける書家の方々や、僧侶の方々でしたら滲み止めのこの工程は必要無いと思います。
僕は一文字一文字、ゆっくり書かないと(僕レベルで)上手く書けません。
グズグズ書いてると墨が滲んでしまいますので、この工程をしておきます。

地獄極楽変相図 桐箱落款

ピンセットで印を押してある紙を署名の下に置き、その位置に合わせて印矩の位置を固定します。

マスキングテープや、ポストイットなど、身の回りにある小物を挟んで箱の縁との高さを揃え、水平に保ちます。

そういう段取りを踏んでから印を押さないと、ちょっと曲がって押してしまったりする事があります。

地獄極楽変相図 桐箱落款

印の油分を吸収させ、表面を乾かすため、天然珊瑚末13番を振りかけます。
天然珊瑚末は、絵具としてももちろんよく使用してますが、小さなタッパーに入れた珊瑚末は、印に振り掛け専用として繰り返し再利用します。

地獄極楽変相図 桐箱落款

桐箱の蓋から珊瑚末をタッパーに戻します。

地獄極楽変相図 桐箱落款

蓋裏に残り、筆で取り切れ無かった珊瑚末を再びウェットティッシュで拭います。

完全に乾燥したら箱書き完了!

地獄極楽変相図 桐箱落款

印矩(いんく)を固定し、印を押し終わったところです。


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