桃 Peach(仮題)
2023年8月14日
水晶末による地塗り

たぶん半年以上前に水張りしてあったパネルです。
日本画は制作に移る前の準備段階で数日掛かってしまいます。
小品は思いついたら直ぐに描ける様に、和紙ロールの余った切れっ端などで、水張りしてストックしてあります。
ところが、収納してあった箱の中で、他のパネルを出し入れした時に、こちらのパネルも擦れて和紙の繊維が毛羽立ってました。

ただ、ドーサを引くのではなく、毛羽立った和紙の繊維の隙間に水晶末を埋めるように、下地を塗ろうと思います。
藝大を始め少なくても関東の美大では、胡粉(ごふん)による下地が基本と教わってると思いますが、僕は蓄光顔料を使った隠し絵画で透明感のある水晶末を良く使うようになり、水晶末も胡粉の様に空摺りして使うときめ細かい表現が出来る事に気づき、下地にも水晶末を使う様になりました。

空摺りしてから膠で練ると、胡粉の様に団子が出来るんですよ。
百叩きまではしません(笑)。
なので、胡粉を溶く時よりも随分手間を省けます。

一塗り目

パネルを180°回転させて反対側から二塗り目をしたところです。
この投稿の後、また二塗り(計四回)くらいして今晩の仕事は終わりにしようと思います。
2023年8月15日
桃の彩色1

桃を描き始めました。
予想(期待?)通り悪だくみしてます。
本当は、次回は子供向けの隠し絵画の制作に入るつもりでしたが、
桃が店頭に並んでるうちに描かなきゃと思い立ち、急遽こちらの制作に取り掛かり始めました。
伝統的に日本画家は季節感を大事にしてます
2023年8月16日
通常「蓄光顔料を使った隠し絵画」の手順としては、先ず蓄光顔料で隠し絵を描き、その後、表の絵を透明感のある染料系の絵具で描きます。
今回は桃が旬のうちに、表の絵を先に描く手順で進めてます。

真ん中、蛍光色と見紛うほど鮮やかなブリリアントローズライト。
今春、京都の顔料問屋にて30年経っても色褪せてない色見本を確認の上で購入した顔料です。
耐光性に難のあった蛍光ピンクに代わる、期待の新戦力です。

桃の彩色に入ります。

陰影の色として洋藍や臙脂紫味も加え、一通り桃を描きました。

ガンボージと洋藍とを混ぜた緑色で背景を塗ります。

乾いたところです。

桃の彩色をしてて、顔料の定着が弱く感じましたので、ドーサを引きます。
いつもは、金箔を押す時以外は、明礬(みょうばん)を加えない薄めた膠液をドーサとして使ってますが、今回は、いつもより顔料の定着が悪く感じましたので、明礬を加えてガッチリ固めようと思います。

1度目のドーサを引きます。
やはり定着が悪く、ドーサを含んだ連筆に持って行かれました。
桃の右側にピンク色が流れてる様子や、絵皿の中のドーサ液にもピンクが混ざってる様子が分かると思います。

膠液が残り少なくなってきたので、もう一つの膠鍋に、固形状の膠を浸けておきます。
この状態で冷蔵庫に入れておくと、水を吸ってふやけ、温めたら直ぐに溶けやすくなります。
数日前から水に浸けておけば、次回直ぐに溶けてくれるという訳です。

パネルを180度回転させて、反対側からもドーサを引きます。
1度目に引いたドーサはピンクに染まってしまったので、2度目はまた新しくドーサを作りましたが、2度目もドーサにピンクが混ざりました。
今回初めて使用したブリリアントローズライトは膠と絡みにくい性質のようです。
顔料は、それぞれ膠と絡みやすかったり、逆に絡みにくいなど、それぞれ性質に違いがあります。
よく使う顔料は、膠の濃さの加減がだんだん分かってきます。
この絵具も次回からは少し多めの膠液で練って使おうと思います。

“お尻”、じゃなかった(笑)、“桃”だけ覗かせて、ティッシュペーパーで周りを隠し、スパッタリングにて臙脂淡口を散らします。
ちなみにこの後、また2度ドーサを引きました。

本日の最終段階です。
今回はこの上から蓄光顔料を塗り被せて隠し絵を描くので、白っぽい蓄光顔料を被せる事を計算に入れて、桃をより鮮やかに彩色しました。
また、背景も蓄光顔料で描く時に絵具を乗せたところとそうでないところの区別がつきやすくなるようにと、濃い目に彩色しました。

次に表の桃を描く時まで、とても保存仕切れないですから、食べ頃を逃さぬうちに食べちゃいました
もちろん美味しかったです。
一応、デジカメでも桃を撮影しておきましたので、蓄光顔料による隠し絵を描き進めた後、再び桃を仕上げる時は、たぶん写真を観ながらの仕上げになると思います。
一応、梱包材は編みパターンを確認できる様、捨てずに取っておこうと思います。
2023年8月25日
蓄光顔料による彩色

同時進行中の恐竜の絵のドーサを乾かしてる間に、桃の絵の隠し絵を3色に光る蓄光顔料で彩色し始めました。

暗くすると、こんな感じです。
2023年8月26日

今日は展覧会巡りをして、帰宅してからはこちらの作品の隠蔽工作をしました。
天然方解末13番と天然岩鼠13番とを混色すると、蓄光顔料と似た、少しくすんだ白っぽい絵具になる事が分かったので、今回もそれで隠蔽しようと思います。
僕のFBの投稿は流れてしまいますが、友人の栄正一さんが日本画家佐藤宏三公式サイトに各作品の制作手順としてアーカイブして下さってます。
「あの時、どういったやり方、材料を使ったっけ?」という時、自分の公式サイトでレシピを確認出来ます。
作者本人が一番重宝してます

とりあえず1回目の隠蔽工作終了です。
まだ蓄光顔料の付き具合も粗いので、明日以降ヤスリを掛けていったん均してから次の工程に移ろうと思います。
徐々に完璧な隠蔽に仕上がると思います。
隠蔽工作用の絵具も被せた事で、画面全体に絵具の層を覆い被せられましたので、和紙の繊維を直接傷ませずにヤスリ掛けが出来る下地も出来ました。

暗くして確認したところです。
隠蔽工作用の絵具を被せたところは、明るいところでは蓄光顔料の白さと似てますが、暗くした状態では光りませんので、黒く見えるという訳です。
2023年8月28日

いったんヤスリがけして均します。

ドーサを引いたら蓄光顔料の多くが連筆に持っていかれました。
桃の発色が復活しましたが、その分せっかく乗せた蓄光顔料のほとんどが取れてしまったという訳です。
また、ついつい連筆の継目を重ねて引いてしまった為、継目が筋状に取れてしまいました。
つくづく本日は集中力に欠き、ミスを連発してしまいました。
まさに「こうぞうも筆の誤り」な1日でした。
ただし、予備校講師時代、常々生徒達にも言ってきた事ですが、
「スポーツや音楽の演奏なら失敗が残ってしまうけど、絵の場合は修正して最終的に失敗を隠せる訳だから、途中泣きたくなるような失敗をしても、諦めないで最善を尽くせ」という事です。

暗くしたら、顔やお尻の発光が弱く、まだらになってしまいました。
でも、今までもそうでしたが、また塗っては均しを繰り返しながら滑らかな発光具合に整えていきますので、序盤から上手くいかないのは想定内です。
2023年8月30日

本日の制作の大半は蓄光顔料の彩色です。

なかなか滑らかに乗せるのは難しいです。

本日の最終段階(明)です。

本日の最終段階(暗)です。
2023年9月1日

こちらの作品は、恐竜の作品と交互に描き進め、お互いの乾き待ちの時間を無駄なく使ってます。

まだらな発光具合をひたすら滑らかにしていきます。

顔の目鼻や髪の毛にいったん蓄光顔料が被っても、今は、先ず滑らかな彩色を目指します。

今晩の最終段階(暗)です。

今晩の最終段階(明)です。
2023年9月2日
隠蔽工作

蓄光顔料を塗ったところ以外を、蓄光顔料の白さと同じくらいの白さにする隠蔽工作をします。
天然方解末13番に、少量の天然岩鼠13番を混ぜます。

前夜、蓄光顔料がはみ出て描写がボケた目鼻と髪の毛もしっかり隠蔽絵具を被せます。

「桃」本日の最終段階(暗)。
2023年9月3日

本日は、ヤスリがけから仕事をスタートさせました。
先ほど友人から、僕がやってない匿名SNSで、また僕の事で盛り上がってるとお知らせがきました。
知らぬが仏と言って、炎上内容は教えてくれませんでしたが、今度はいったい何で盛り上がってるのだろう?
まっ、アンチが増えるのは、それだけ注目され、警戒される存在なんだと前向きに捉えておきます。

1回目のドーサを引きます。
今日は前回の反省を生かし、連筆の継ぎ目を重ねない様に、数ミリの隙間を空けて引きました。

ヤスリで均されたらフラットになり過ぎて、アニメか漫画の様になってしまいました。

一塗り目が乾いたら、画面を180°回転させて二塗り目を引きます。
もちろん連筆の重ね方も、一塗り目と目分量で半分ズラしてます。
画面を逆さまから見ると、パッと見「桃」に見えます。
えっ?「お尻にしかみえません」か?
その方はエロぞうレベルの眼をお持ちのお方です。
2023年9月6日

今日は、藝大と得応軒とに出掛ける予定なので、出掛ける前に全体に水晶末を被せます。

一塗り程度では発光を妨げません。

二塗り目を終えたら、少し発光が弱くなりましたが、まだ大丈夫。

表からはもうほとんど見えません。
こちらも仕切り直しで、また桃から描き起こすつもりです。
2023年9月14日
桃の描き起こし

今シーズンはもう終わりかと思ってた桃が、今日、近所スーパーの店頭に再登場してました。
写真にも撮ってましたが、やはり本物を観て描くのが一番と思い、ちょっと高かったけどまた買ってきて描き起こそうとしました。
ところが、桃そのものよりも、梱包材の描写がすっかり見え難くなってましたので、そちらの描写からやり直し。

新しく購入した中川胡粉製の群青棒と、洋紅棒とをブレンドしたのを溶きます。
群青棒は透明感を感じましたが、洋紅棒は透明感のある染料系ではなく、不透明な顔料系の様に感じました。
なので薄めに溶いて、

輪郭線だけ入れたところで、

暗室で確認します。
薄塗りでも被覆力が高いです。

今まで使用してきた本洋紅棒と、群青棒とのブレンドに変えて続きを描きます。

隈取りをします。

本日の最終段階(明)。
結局梱包材の描写だけしか出来ませんでした。

本日の最終段階(暗)。
2023年9月15日
桃の彩色2

桃の彩色を始めます。
蛍光顔料の様に鮮やかなピンクは京都の顔料問屋で購入したブリリアントローズライトです。
一番上の臙脂淡口も綺麗な赤ですが、より鮮やかなピンクの発色が欲しくてブリリアントローズも使うことにしました。
ただし、他の3色は全て染料系で透明感がありますが、ブリリアントローズは顔料なので不透明です。

少しずつ様子を観ながら塗り重ねていき、

暗室代わりのトイレで確認。
少し暗くなってきました。

こちらも。

更に重ねて、まあ、これくらいかな。

かなり暗くなってしまいました。
やはり表の絵と裏の絵との両立が難しいです。

こちらも。

ブリリアントローズは定着が悪い事を前回使って理解したので、いったん明礬を溶かしたドーサで定着させようと思います。


桃の上で刷毛の継目を見せたくなかったので、今日はいつも使ってる連筆よりも、幅広の刷毛を使います。
この刷毛幅であれば、桃を丸ごと一塗りでドーサ引き出来ます。
ブリリアントローズは予想通り、多くが刷毛にさらわれてしまいました。

一塗り目が乾いたら180°回転させて反対側からもドーサを引きます。
一塗り目ほどではありませんが、やはりブリリアントローズがぬぐいとられ、だいぶ薄くなったと思います。

でも、トイレで確認したら、あれだけ取れてもまだ結構暗かったです。

背景を含む他の表の絵を彩色した後、バランスを観ながらまた上から蓄光顔料を薄く被せていく事になります。
今日はこれからクロッキー会に参加するので、こちらの制作はここまで。
2023年9月16日
桃の花

桃の実、単体の構図だとしたら、構図のバランスが悪いですよね。
明るい時の絵のバランスを取るため、桃の花を描きます。
トレースした線だけだとよく判らないと思いますが。

こちらも同様。

臙脂淡口と臙脂濃口とを溶きます。

本日の最終段階です。
桃の花の彩色に入りました。
表の絵は、桃の花と桃の実とを組み合わせた構図になります。
もちろん、花の咲く時期と、実が収穫される時期とは違います。
なので、実景の背景としてはありえない構図構成になります。
小・中学生の頃、少女漫画の背景に実景ではなく、心理描写や演出で、何故かお花が咲いてたりする世界観について行けませんでしたが、おじさんになった今、まさか自分の作品で、現実とは異なる、時空を超えた画面構成をする様になるとは自分でも驚きます。

暗くした状態です。
表から描く桃の花は、顔やお尻と重ならない位置に描いてます。
上の絵はシャツの柄の様になりますし、
下の絵は、メイド服がそもそも黒いので表の絵の影響はほとんど無いと思います。
僕って天才!
今のうちに天才佐藤宏三の絵を1枚でも買っておいた方が絶対良いと思います。
2023年9月17日

群青棒を溶きます。

背景全体に空色をイメージした群青棒を塗っていきます。

照明を消して確認します。
群青棒も透明度が高いようで、「桃の実=お尻」以外を塗ってもほとんど暗くなってません。

更に濃く塗っていきます。

かなり濃く塗っても、せいぜい同程度で、相対的に「桃の実=お尻」より暗くはなってません。

水晶末を被せます。
何度か塗り重ねるうちに水晶末の絵皿に群青色も混ざってきました。
表の絵の色調としては、生な群青色に水晶末を被せる事で、自然な空色に整える効果が見込め、

暗くした時、相対的に「桃の実=お尻」の明るさが勝り、主役を引き立てる為の抑えの効果があります。
本質的にエロ追求に過ぎないくせに真面目に解説してるのが、自分でも笑えます。

水晶末を被せた後、紙ヤスリで均しましたが、今から思えば擦り過ぎてしまいました。

ドーサを引きます。

反対側からも。

乾いたところ。
どうやら蓄光顔料で描いたところもかなり擦り取られてしまったようです。

トイレで確認。
かなり取れてしまってます。
もう一度最初からやり直しのレベルです。
こちらの作品は決まってる展覧会出品の予定は無いので、いったん制作を中断する事にします。
2023年9月18日
蓄光顔料による描き起こし

こちらの制作はしばらく中断すると言いましたが、同時進行作品の乾き待ちの時間を使って、再び蓄光顔料での描き起こしを開始しました。

蓄光顔料を桃にかぶせたら、明るい状態では肌色になってきました。
明るい状態でも、桃じゃなく、お尻にしか見えません
パッと見は表の絵が「桃」に見えるように誘導するためにも、背景の桃の花のイメージは不可欠になってきました。

緑に光る蓄光顔料で肌色を。

青く光る蓄光顔料で、主に衣装の白色部分を。

群青に光る蓄光顔料で背景を塗ります。
ここまでが本日の最終段階(暗)です。

本日の最終段階(明)です。
蓄光顔料を塗ってないところが青いので、そういう部分に白っぽい絵具を塗って、明るいところで見た時に、画面全体の白さが均一になるようにしてから、あらためて桃の花を再度描き起こそうと思います。
小さいサイズの作品ですが、手間とアイディアが凝縮した作品になるので、安い価格では売れない作品になると思います。