マリア観音 Maria Kannon
江戸時代に隠れキリシタン達が、主に磁器の観音像を聖母マリアに見立てて拝んでいた史実があるそうです。
僕は Hidden Art(蓄光顔料を使った隠し絵画)の技法を使って、日中は観音様、夜はマリア様に変身する絵を思いつきました。
モデルは旧知の友人で、お互いにプロ意識を尊敬しあってる綿貫里絵さんにお願いしたところ、コスチューム選びから徹底的、全面的にご協力頂きました。
これはもはや僕一人の仕事ではなく、二人のプロによる共同制作になります。
2023年10月13日
絹本張り

新作の為に木枠に絹本を張りました。
下図を描いたパネルをはめ込める様に、仮枠の内側に
サッシ用すきまテープを用意します。

4辺分に切り分ける前にぐるっと囲んでみたら、
なんと丁度良い長さが残ってました。

すきまテープを貼り、

パネルのはめ外しがスムーズに出来る様に裏から養生テープを貼ります。

表に返して絹本を張りました。
いつも谷中の老舗日本画材店にて、絵具、筆、絹本を購入してます。
絹本は幅、厚みを指定して、必要な長さをロールから切り売りして貰ってます。
僕は、よく、自分の必要な長さをカットしてもらったあとに、女将さんから
「ロールの残りが中途半端に余ったから、これはサービスね」と言って、残りをプレゼントされる幸運(ご厚意?)に恵まれます。
時には1メートルを超える長さの余りを貰ったこともありました。
お得意さんと見込まれての役得ですね。
なので、今回は新しく購入すること無く、2作分の絹本が用意出来ました。
ありがたく使わせて頂きます
2023年10月17日

木枠に張った絹本。
糊付けする時はわざと縦方向を緩く張ります。

ドーサを引いたとたん、縦糸が直ぐに縮み始めます。

完全に乾くと、横糸も多少縮み、全体的にフラットになります。

もう1枚も同様


2023年10月18日
取材

今日は東博に出掛けて取材してきました。
特別展で「京都・南山城の仏像展」も開催中で、見応えありましたが、残念ながら特別展の方は全て撮影禁止でした。
常設展の方は撮影可能な仏像もいくつかあり、そちらはスマホではなく一眼デジカメで撮影してきました。

東博裏の庭園も開放されてて、蓮池がありました。
今まで蓮の取材はもっぱら埼玉県行田市の古代蓮の里に出掛けてました。
不忍池の蓮は栄養が良すぎるのか皆背が高く、花を見上げる角度で、取材には不向きだと思ってましたが、東博の庭の蓮池は背景も含め、絵にする取材地として良い雰囲気でした。
来年の夏は、ここに取材しに来ようと思います。

東博常設展示の仏像で撮影可能な物は取材出来ましたが、それ以外の仏像の名作も参考にするため、ミュージアムショップでオールカラーで写真が載ってる別冊太陽新版「仏像」も購入しました。
2023年10月24日
モデル取材

先ずはマリア様のコスチュームにてポーズして貰いました。
こちらのコスチュームは(美術モデルとして今後も使えるかもしれないからと言って)里絵さんが調達して下さったばかりでなく、なんとリアリティを出すため、医療訓練用の赤ちゃん人形までご購入して下さいました。
日頃の僕の制作姿勢を尊重、理解して下さってる故のモデルとしてのプロ意識の徹底ぶりです。

こちらは観音様に着替えて貰ってのポーズです。
当初は古典仏画を参考に、モデル無しに構想を練ることも考えましたが、天平のミケランジェロこと運慶や快慶を始め、生き生きとした造形美を表現してる仏師達の名作仏像は、生きてるモデルを参考に制作したと思われます。
僕も、古典作品の焼き直しではなく、生身のモデルを参考にしてこそ、後年の美術史に残る作品が創作出来ると考えました。

ウィキペディア「マリア観音」からのスクショ

アートスケープ「狩野芳崖 悲母観音」の一部分のスクショから
観音菩薩は出家して修行中のお釈迦様をモデルにしてるので、本来は男性です。
(そして元王族を象徴し、装飾品が豪華です)
ですが、観音様を女性に見立てて拝む心理もありますし、異教のマリア様にも崇拝心を抱ける日本人らしく、特定の宗教に捕らわれずシンプルに「母子像」として幸せ、感謝のシンボルとして描こうと思います。

観音様になる為、髪の毛の塊を頭頂部に作って貰います。
先ずは拉麺男(ラーメンマン)の様な辮髪に束ねます。
もちろんこんな依頼は初めてだったそうですが、プロの着付け師でもある里絵さんのプロ魂に火が付き、「初めての依頼だからこそ、挑戦のし甲斐がある」とばかり意欲的に取組んで下さいました。

それを頭頂部で巻いてヘアピンで固定します。

ウィッグを被せて観音ヘアー完成!

ティアラは2種類付けて貰います。
こちらはチェーンの一本は本来、頭の中心を通すものですが、頭頂部にお団子を作ったので側頭部に渡しました。
顔の左側を見せて貰うポーズなので、作画上は左右非対称には見えないから大丈夫です。

王冠タイプのティアラも装着してもらい、更にイヤリング、ネックレスも付けて貰いました。
ネット販売で、ティアラ、イヤリング、ネックレスセットが3,000円未満で買えました。

ポーズを終えて着替えて貰ったあとで、ベリーダンスショップにて購入したブレスレットの装着を忘れていた事に気づきました。
こちらは在庫が1つしか残って無かったので、左右の腕に交互に装着してもらい撮影しました。
半透明のベールやショールに隠れて薄っすらと或いは一部しか覗かない装飾品ですが、参考見本の実物を装着してポーズしてもらったら、リアリティが断然違うものに仕上がると思います。

モデル撮影の仕事を終えた後、さいたま市の
「浦和くらしの博物館古民家園」に案内しました。
着物の着付け師でもある里絵さんなら、僕から和服でのモデルを依頼された時以外でも、和装撮影のロケ地として、古民家園は役立つ事もあるんじゃないかと思い、お仕事の役に立てて頂ければと思いました。

古民家の1つに「綿貫商店」の看板を掲げた旧店舗跡があるのも知ってましたので、東浦和まで来てもらう事があったらご案内しようと思ってました。
普段着になった後も観音ヘアーです。
2023年10月26日
Photoshop シミュレーション

今回は、下図制作の前段階、PCの画像加工ソフトを使って、表の絵と隠し絵とを重ねるシミュレーション段階を初公開致します。
左側は隠し絵として浮かび上がるマリア様
右側は、マリア様と重なるように観音様の衣装をコピペして半透明のレイヤーとして被せたものです。
ベールとかは輪郭線が2つダブってますし、顔の骨格も少し西洋人に近づけるので、この写真を少し修正してからトレースします。
そしてたぶんトレースした後も修正しながら下図にしていくと思います。
ですから、写真をそのまま丸写しするわけではありませんが、下図作成の前段階で写真も利用してます。
Hidden Art(蓄光顔料を使った隠し絵画)の場合は、特に下に隠す絵と、上から描く絵の重なり具合をシュミレーションして完璧に位置を決める必要があります。
毎回、PCにてこの工程をしてから Hidden Art の下図に取り掛かってます。
今回はヌードでは無いのと、モデルの綿貫里絵さんの許可を得てましたので、この工程を初公開出来ました。
2023年10月27日
トレース

PCの画像加工ソフトで、母子共に、少し西洋人的な顔立ちに加筆修正し、プリントアウトしました。
下図の紙の上で何度も描いたり消したりすると紙が毛羽立つと思い、そうしました。
この作品は肖像画ではありませんので、モデルさんに似せて描く訳ではありません。
僕の作画意図に合わせて、モデルさんにマリア様や観音様のイメージ作り、というか、宗教画に似せて僕の本来の作画意図は人類に普遍的な「母子像崇拝」として描くので、母性愛に溢れてる里絵さんがイメージ作りに最適と思い、協力して貰ってるという訳です。

木炭の粉を揉み込んだ念紙を挟み、赤ボールペンにて輪郭をトレースしていきます。

途中まで写したところで、ちゃんとトレース出来てるか確認します。

トレースが終わったところです。

部分アップ。
骨格的には西洋人に寄せてますが、目と口はモデルさんの表情をそのままトレースしてます。
王冠タイプのティアラは描くことにしましたが、チェーンタイプのティアラは、マリア様に変身後もシルエットとして見えてしまうので、描くのを止めました。
王冠とペンダントは髪の毛の暗さに紛れ込まし、マリア様になった時は見えなくしようと思います。

部分アップ。
ブレスレットも描かない事にしました。
やはりマリア様に変身した後もシルエットで見えてしまうからと、子供を抱く腕に金属類は優しく無いと感じたからです。
2023年10月29日
観音様 下図制作

描き始めは、宝飾品から。
顔は、筆使いに慣れてきた後半に描くつもりです。
毎日の制作でも、描き始めは運筆がぎこちなく、描き続けてるうちに調子が良くなってきます。
良い感じになってきたなと自覚したタイミングで、一番肝心な顔の描写に取り掛かるという訳です。

髪や衣装の骨描きがある程度進んだところで、そろそろ顔、手、赤ちゃんの描写に入ろうと思います。

本日の最終段階(全体)
表の観音様は、日本画風に、必要最低限の陰影で描こうと思います。
隠し絵のマリア様は蓄光顔料にて立体的に描くつもりです。

本日の最終段階、部分アップです。
レースの模様は本画の絹本に描き写す時は胡粉か水晶末などの白色顔料で描こうと思ってます。
2023年10月31日

目元が気に入らなかったので、紙を貼って修正することにしました。
下図段階ですから可能な事です。
本画に描き始めたら彩色段階はともかく、骨描きの線の修正は出来なくなりますから。
下図段階で納得するまで試行錯誤し、確信を持ってから本画制作に移ります。

マリア様に変身させるので、西洋人の薄い瞼を参考にします。
ネットで拾った写真は女優の
カトリーヌ・ドヌーヴさんです。
鉛筆で下描きをして

墨で再度描き直しました。

いよいよ、本画用の絹本を張った木枠に、下図を水張りしたパネルをパイルダー・オン!

本日の最終段階です。

部分アップ。
赤ちゃんを含む人体の輪郭線は、
洋紅、岱赭、墨を混ぜた茶色で骨描きし、
あとは髪の毛と宝飾品を本画に描き写しました。
宝飾品はマリア様に変身させる時は髪の毛で隠すつもりです。
2023年11月1日
マリア様 下図制作

表の観音様の下図は出来ましたので、
本日は裏の隠し絵のマリア様の下図制作に入ります。
スキャナーで4分割して取り込みプリントアウトした後、1枚に連結して観音様のコピーを作ります。

アクリルガッシュのホワイトと、
透明水彩3色を溶いて用意します。

アクリルガッシュのホワイトで、マリア様に変身した後、頭頂部のお団子の分だけベールが下がる部分を修正します。
あとは緑、青、群青に塗り分けます。
下図段階で蓄光顔料の配色を決めていくわけです。

墨で、解いた髪を描いていきます。
王冠、イヤリング、ネックレスは蓄光顔料の光を通さないので、暗くした後もシルエットが現れてしまいますが、周りを髪の毛として蓄光顔料を塗り残す様にすれば宝飾品のシルエットを隠す事が可能です。

表の観音様の絵は、日本画、仏画の様に陰影を控えめに平面的に描きますが、
裏の蓄光顔料で描くマリア様の絵は、洋画風に立体的なボリュームを伴って浮かび上がる様に描きます。
なので、墨の濃淡で立体的な陰影を加えます。

マリア様の下図も完成です。
ちなみにマリア様に変身後は、額中央の
白毫(ウルトラセブンのエメリウム光線を発射する部分)は、目立たなくするつもりです。

下図の裏から連結してたマスキングテープを剥がし

もう一度スキャナーで取り込むため4分割します。
水彩や墨を吸って、乾いた後もやや波打ってます。

スキャナーで取り込み、それぞれ左右反転させてプリントアウトしました。
蓄光顔料での彩色は裏彩色がメインになりますので、左右反転させた訳です。
表の絵とピッタリ合わせる為、この段階では4分割した下図をあえて連結させず、表の絵の本画へのトレースが終わった後、4分割した下図をそれぞれの最適な位置に貼っていこうと思います。
水分を吸ってシワができた分、下図それぞれが多少縮んでると思うので、その誤差の調整をするためです。

下図段階での観音様とマリア様との揃い踏みです。
Hidden Art(蓄光顔料を使った隠し絵画)は、1枚の絵を仕上げる為に、絵2枚分の労力が掛かると認識してましたが、完璧な下図をそれぞれ描く事も加えれば、なんと絵1枚に4枚分の絵を描いてる事になりますね。
毎日丁寧な仕事をしてるのに、作品が売れないと収入ゼロな毎日です。
僕の絵は将来必ず価値が瀑上がりします。
個人でも法人でも、誰か僕の絵を買って、将来歴史に残る有望作家をご支援下さいませんか?
物凄い価値ある有益な資産運用になると思います。
文化にご興味のある富裕層の方に推薦して下さってもありがたいです。m(_ _)m
2023年11月3日
観音様 骨描き

観音様のベールや衣装は白っぽいので、骨描き(輪郭描写)は墨ではなく白色絵具の水晶末でする事にしました。
全体写真だと判別出来ないと思いますので

部分アップ写真です。

久し振りに蓄光シートを使います。
4枚重ねてアトリエの隅に置いておいたんですが、写真右上を上にして重ねていたので、タバコのヤニで少し黄ばんでました。
僕は一人暮らしなので、自分のアトリエ兼居住スペースではタバコ吸い放題です。
絵1枚仕上げるのに早くても一月は掛かるので、僕の作品達も皆ヤニを被って仕上ってる訳です。
後世、佐藤宏三の真作か贋作かを見極める時、化学成分を測定し、ニコチン成分が検出されたものが真作と判定される事になるかもしれません。

蓄光シートの上に乗せて

電気を消すと、水晶末で描いた輪郭線が浮かび上がりました。
水晶末は透明な顔料ですが、濃いめに溶いて塗れば遮光性が高まります。
顔や赤ちゃんなど、茶色で描いた輪郭線よりむしろハッキリ遮光してるのが、自分の今後の制作の参考になりました。
Hidden Art は理屈は単純ですが、絵具の濃淡の加減がデリケートなので、自分でも途中途中の加減を確認しながら描き進めていく必要があります。

宝冠、イヤリング、ネックレスも、盛り上げる様に水晶末を厚塗りしました。
これらには後で金箔を押そうと思ってますので、他の部分よりも凸っぱらせようと思います。

厚塗りしたので遮光性は強いです。
マリア様に変身した時は髪の毛で隠す予定です。
今日は、たったこれだけしか進みませんでしたが、表の観音様と裏のマリア様を両立させるための手順を色々考えながら進めてますので、拙速な判断は命取りになります。
この段階では、途中段階の加減も見ながら、手順も熟考し、慎重に進めていこうと思います。
2023年11月12日
観音様 表彩色

同時進行で進めている「泥中に咲く」の裏彩色が乾くまでの間に、「マリア観音」の表彩色を透明感のある染料系絵具で彩色します。
こちらは、作画上の都合から、薄くではありますが表彩色から一旦先に彩色しました。
理由は、今後の手順で明らかになります。
この様に、Hidden Art は、題材が違えば1枚1枚、手順も違ってきます。
完成イメージから逆算して制作手順も1枚1枚それぞれ考えながら進めるので、何も描いてない考えてる時間の方が実は頭を使ってます。


「マリア観音」の方は、表彩色の時に、ドーサの効きが弱く感じましたので、次の段階に進む前に、再びドーサを引いておきます。
今晩は少し早いですが、これにて制作終了させます。
2023年11月13日

「泥中に咲く」の乾き待ちの間に「マリア観音」の次の段階に進みます。
塩ビシートを間に挟み、

下図を裏からパイルダー・オン!

表にひっくり返します。

レースの模様を蓄光顔料で描きます。
レースは白なので、下図段階では墨で骨描きしてますが、本画の方は白色絵具で描きます。
白色絵具でも、不透明な胡粉で描いてしまうとマリア様に変身した後、シルエットとして模様が見えてしまいます。
なので、とりあえず蓄光顔料で描きます。
こちらも試しにナイロン製の面相筆で描いてみましたが、こちらの方はコツをつかめば筆先を効かせて描けました。

肩や手首の肌色が透けて見える部分のレースは
緑に光る蓄光顔料で描きました。

肩部分の拡大写真です。

衣装が透けて見える部分は、
青く光る蓄光顔料に変えて描きます。

拡大写真でも分かりにくいですね。

暗室代わりのトイレに持ち込んで確認。
まだほとんど見えてきません。

本画の裏に黒い表紙のクリアーファイルを透かしてみましたが、やはりレース模様はまだ薄いようです。

重ね塗りして、だいぶはっきりしてきました。
この後、肌色と重なる緑の蓄光顔料も重ね塗りしました。
裏彩色 準備

「マリア観音」の本画の上にも塩ビシートを貼ります。

更に、下図を左右反転させたコピーを、位置を合わせて表側から貼っていきます。

予想した通り、下図のコピーは水彩で彩色し縮んだので、4分割した下図それぞれが少し縮んだ分、ピッタリとは合いませんでした。
それぞれの重要な部分が本画の輪郭と重なるように配置して貼りました。

拡大写真。
数ミリの隙間が出来ました。
やはり下図4分割のまま、それぞれを貼る方法がベターでした。

裏側から見た状態です。
明日以降、胡粉の裏彩色にて立体的な陰影をつけていこうと思います。
神経を使う仕事になるので、今晩は準備だけして、明日から取り掛かろうと思います。

水彩で彩色したマリア様の下図と、それを左右反転させて観音様の下から透かせて見えてる状態です。
これからの仕事も、常に観音様の見え方と、マリア様の見え方とを両方考慮しながらの制作になります。
肉体よりも頭脳労働の比率が高い仕事になると思います。
2023年11月14日
マリア様 隈取り

「マリア観音」の胡粉による隈取りをしていきます。
ちなみにこの仕事に入る前に、すでに「泥中に咲く」の背景に群青色に光る蓄光顔料の1回目を塗ってあります。
本日も、交互に2作の彩色をして、乾き待ち時間のロスが無いように進めました。

先ずは宝飾品の存在を隠す様に髪の毛を彩色していきます。
白色絵具の胡粉ですが、光の通過を被覆して、夜に蓄光顔料を発光させた時にはシルエットになる計算です。

表側から下図を固定するためのマスキングテープの一部を剥がし

蓄光シートを中に差し込みます。

裏側に戻して

アトリエの照明を消し、胡粉の被覆具合を確認します。
まだまだ胡粉を重ね塗りしていかないと被覆が不十分です。
ネックレスがまだモロ見えです。

髪の毛に重ね塗りするとともに、顔や手、赤ちゃん、衣装の陰影を胡粉で隈取りします。
あまり一発で被覆力が強すぎると、隈取りのデリケートな陰影表現が出来ません。
髪の毛は何度も塗り重ねる手間が掛かりますが、時間を掛けて丁寧に進めていこうと思います。

隈取りもある程度進んだので

再び蓄光シートを下から差し込み

光らせます。
まだ、髪の毛の暗さは足りません。
逆に顔は陰影をつけすぎて貧相になってしまいました。

顔のつけ過ぎた陰影は洗う一方で
髪の毛など、もっと暗くしたい部分は塗り重ねました。
まだ、裏からの胡粉による隈取りは終わってませんが、続きは明日以降にします。
「急いては事を仕損ずる」です。
2023年11月15日

裏から下図を透かし見るのが見づらくなってきましたので、剥がして隣に置いて、胡粉による隈取りの続きをしました。

蓄光シートを下に敷いて暗くして確認しました。
「あっ、そういえば下図も剥がした事だし、表側からの見え方も確認出来るぞ」と気づき、

表側からの見え方も確認しました。
まだ胡粉による陰影が足りないと思いましたが、やはり一気に塗りつぶさずに、薄いのを丁寧に重ねてるおかげで、暗さの中にも髪の毛の濃淡に変化が見られます。
明日以降も、慌てず丁寧に重ねていこうと思います。
2023年11月17日

引き続き、胡粉による裏からの隈取りです。
髪の毛を更に暗くするために塗り重ねると共に、顔、手、赤ちゃん、衣装の陰影もよりハッキリさせていきました。

二日前から水に浸して膨張させておいた膠です。
粗い蓄光顔料を塗っても掛軸として丸められる柔軟性を求め、膠の配合は試行錯誤してきましたが、現在は乾燥状態でもグミの様に柔軟性のある「軟靭膠素」60%のブレンド膠で描いてます。
今日の制作中は、電熱器でこれを1時間以上煮込み、カビ菌などを消毒させ、常温でも半年腐らないと言われる膠液を作ってました。

乾いたところで、蓄光シートの上に、表側を上にして被せます。

本日の最終段階です。
アトリエの照明を消して、裏から蓄光シートで照らして確認しました。
胡粉による隈取りはOKな感じです。
2023年11月20日
洗いとドーサ引き

ドーサの効きが弱く、裏彩色の胡粉が絹の繊維を通り抜けて、表側に抜けてる箇所が見られました。

表側に余分に通り抜けた顔料を、お湯を含ませた筆で洗い、表面を滑らかにしました。

塩ビシートに付着した(主に蓄光)顔料です。

綺麗に拭き取って、また次回作の保護に使います。

裏から蓄光シートで照らし確認します。

今回は、思った以上にドーサの抜けが広範囲に見られましたので、膠を完全に固める明礬を少量溶かします。

明礬を加えたドーサの一塗り目。

乾いたら180°回転させて、反対側からも明礬入のドーサを引きました。
明日以降の彩色は、しっかり抜けずに留まってくれる事を祈ります。
2023年11月21日
赤ん坊 裏彩色

いきなり他人の作品写真になります(笑)。
神戸での展覧会で共演させて頂いた浮世絵工芸師の
小河 蒼雪 さんがレタッチし、高細密、発色豊かに再現された
歌麿筆による「髪剃り」です。
浮世絵には子供や赤ちゃんも沢山登場します。
そして浮世絵の赤ちゃんは、たいてい丸坊主ですが、
おそらく当時は衛生面で赤子は剃髪する習慣があったのだろうと思います。

僕自身は生まれた時から現在に至るまで、ずっと髪の色素も量も薄く(笑)、しかも浮世絵に描かれてる丸坊主の赤ちゃんに馴染みが深いので、個人差があると思いますが、たまに生まれて間もない赤ちゃんの髪の毛の量が多いと違和感を感じてしまう質です。
そこで、観音様が抱いてる時は浮世絵風に丸坊主で、
マリア様に変身したら西洋画風に立体感を出すと共に髪の毛も見えるように、裏彩色の胡粉で表現しようと思いました。
ちなみに参考にしてる赤ちゃんの写真は、ネットから拾った西洋人の赤ちゃんの写真です。

裏彩色で髪の毛を描きます。

蓄光シートの上に表向きに置き、

暗くして確認します。

昨日、ドーサを引いたせいで、胡粉が弾かれて、滑らかに着彩されません。

そこで、胡粉にハッカ油を数滴垂らし混ぜて彩色したら、滑らかに着彩出来る様になりました。

だいぶ髪の毛が生えてきました。
光輪と衣装 裏彩色

次の段階に進みます。
反転させた下図コピーを裏から重ねて、マスキングテープを貼り、鉛筆で光輪を軽くトレースします。

本画からマスキングテープを剥がし、カッターマットの上であらためてコンパスで綺麗な円を描きます。

アートナイフで光輪をくり抜き、

光輪の外側と内側とを、再び本画の裏に貼ります。

青く光る蓄光顔料で、光輪を裏彩色します。

先ずは、一塗り目。

2度塗り目。
一塗り目が乾いて、ザラザラした基礎が出来ると、2度塗り目から絵具の食付きがよくなります。

マリア様の内側の衣装もマスキングテープを貼って、輪郭を鉛筆でトレースします。
西洋宗教画の決まり事としては、マリア様の衣装は、内側が赤で、ショールが青(たまに逆パターンもあります)とされてますが、赤い蓄光顔料は発光が弱いのと、硫黄分を含んでいるので絵絹をボロボロに劣化させる怖れがあります。
なので、Hidden Art では、基本的に、緑、青、群青の3色の使い分けで表現します。

カッターマット上で、衣装内側をくり抜き、衣装以外をマスキングします。

一塗り目。

暗くして確認したところ。
衣装一塗り目。
光輪は三塗り目。
ちなみに観音様の時は円光として見せます。
こちらも日本の仏画によくある表現と、
西洋の宗教画によくある表現との違いを出そうと思います。

衣装の二度塗り目と、光輪の四度塗り目です。

緑に光る蓄光シートの上に、表向きに置き、

光らせてみましたが、緑の蓄光シートの光に紛れて、青く光る蓄光顔料の彩色具合が分かりません。

蓄光シートを下に敷いてない場所で確認します。
明日以降も、引き続き重ね塗りします。
今晩はここまで。続きはまた明日。
2023年11月22日

引き続き青く光る蓄光顔料にて、光輪と衣装の裏彩色です。

今日の一塗り目。

二塗り目。
完全に乾いた明日以降、次の工程に移ろうと思います。
2023年11月23日

光輪と衣装の裏彩色が終わりました。
金箔押しの断念

表側の宝飾品の周りをマスキングして、金箔を押すための下地を作ろうと思い、途中までこの作業を勧めましたが、結局、金箔を押す方法は却下しました。
マスキングの仕事が細かくなりすぎて、金箔を押す方法では細かな描写が出来ないと予想がついたからです。
たぶん、押したくない場所にまでベタっと貼られてしまいそうだし、アクセサリーの隙間の細かなマスキングだけを狙って剥がすことも困難だと思いました。
材料費が一気に跳ね上がりますが、金泥で描写する方法が、この細かさの再現に向いてると判断しました。
金箔を押す方法が一番低コストです。
面積的に、宝飾品部分全体がたぶん1枚の金箔でカバー出来そうでしたから。
金箔1枚当たりたぶん200〜300円程度だと思います。
一方で金泥は1包0.4gで、現在なら7,000円はすると思います。
しかも1包をケチケチ使っても金の輝きが出ません。
最低でも2包分まとめてドロっと濃い目に溶いて使う必要があります。
金箔を押す方法に比べて50〜70倍のコストが掛かる計算になります。
そのことから逆に、金箔のアイディアや薄く均一に伸ばす技術力が凄いな~と思いました。
最低限の量で、最大限の効果を生み出す、コスパに優れた技術ですね。

さて、金泥は今度谷中得応軒に買いに行く事にして、裏彩色の続きに取り掛かる事にしました。
衣装を囲んでいたマスキングテープを剥がし、

青いショールの周りをマスキングして、群青色に光る蓄光顔料を塗っていきます。
先ずは一塗り目。

一塗り目をそのまま裏から暗くして見た状態です。

四度目の塗り重ねをしました。

表側にひっくり返して確認します。
群青色に光る裏彩色も、一旦これで完了です。
明日以降は、いよいよ緑に光る蓄光顔料で肌色を彩色していきます。
2023年11月24日
肌と背景 裏彩色

緑の蓄光顔料による一塗り目。

上半身アップ。
一塗り目はこれほどムラが出来ます。

赤ちゃんアップ。

表側から見た状態です。
赤ちゃんの白目だけ、先に青く光る蓄光顔料で彩色してたので、緑の蓄光顔料の輝度が追いつくまでは目だけ光ってます(笑)。

背景の片側だけ、天然錆金茶13番を裏彩色します。
彩色前に絹本に湿り気を与え、塗った直後に、水を含ませた連筆でぼかすと滑らかなグラデーションが出来ます。

表側から裏彩色の塩梅を確認します。

肌色の裏彩色二塗り目。

少し明るく写りましたが、手ブレしてますから、まだまだ輝度が弱い証拠です。

天然黄茶B13番を背景全体に裏彩色します。
こちらも水だけを含ませた連筆で絹本に湿り気を与えてから彩色することで、刷毛ムラを残さず滑らかに彩色出来ます。

緑に光る蓄光顔料、三塗り目。

下に白い紙を敷いた上に置いて確認します。
背景の裏彩色も綺麗に塗れてますが、観音様の時は髪を全て上げてますので、両肩に垂れる髪の毛は表彩色で背景と似た色に塗って隠蔽する必要があります。
裏彩色は、背景も明日以降また塗り重ねるつもりですので、裏彩色の色調が決まってから調整します。

暗くして確認します。
明日以降、肌色の緑の蓄光顔料は更に塗り重ねていこうと思います。
2023年11月25日

引き続き、肌色の蓄光顔料による裏彩色です。

背景も天然黄茶B13番を全体に塗ります。

緑に光る蓄光顔料、本日二塗り目。

裏から光らせた状態です。

表からはこんな感じです。
だいぶ輝度が上がってきました。

更に塗り重ねて、本日の最終段階です。
緑に光る蓄光顔料も、もう一塗りくらいで大丈夫そうです。

明るい状態で見た本日の最終段階です。
2023年11月27日

ついこの間、膠を溶かしたばかりなのに、また残り少なくなってきたので、二日前から水に浸けてふやかしておいた膠を電熱器で溶かしながら制作を進めます。

緑に光る蓄光顔料で、肌色部分を塗り重ねます。

だいぶ輝度が上がりましたので、緑に光る蓄光顔料の裏彩色もこれで一段落とします。

背景に、新岩黄樺 白(びゃく)を塗ります。
表側から見た時は、先に裏彩色した天然朽葉色13番や、天然黄茶13のやや暗い茶色が透けて見えるはずですが、それよりも微粒子の同系色を塗り重ねる事で、岩絵具の間の僅かな隙間を埋めて、絵具の着きを安定させます。

完全に乾いたところで、表側から見た現状です。

暗くした時の現段階です。
蓄光顔料による裏彩色は一段落で、明日以降は、通常の岩絵具による裏彩色で、絹本裏面の絵具の厚みを平均化する仕事をしようと思います。
2023年11月28日
光輪 裏彩色

裏彩色にドーサを引いて絵具の着きを安定させます。

いらん事をしてしまいました。
光輪の上に被った背景色を、ドーサが乾く前に拭い取ろうとしたら、光輪に塗ってた青く光る蓄光顔料が取れてしまいました。

光輪部分の補修に入る前に反対側からもドーサを引きます。
これが完全に乾いてから、蓄光顔料での補修に入ります。

ドーサが乾きましたので、暗くして確認します。
やはり光輪の一部の発光が弱くなってます。

いよいよ、光輪の補修、一塗り目です。

光輪の裏彩色を乾かしては塗りを繰り返しました。

表面ヅラは何の進展もありません。

暗くして確認すると、だいぶ光輪の輝度が復活してきました。
この投稿後、もう一重ねして、本日の仕事を終わりにしようと思います。
2023年11月29日

光輪の内側のマスキングテープを剥がします。

水晶末を空摺りし、光輪を塗った蓄光顔料の色に似せる為、少量のノーバグリーンを混ぜて練りました。
少し黄緑にするため、それにガンボージも混ぜました。

光輪の内側の一塗り目。

光輪の内側、二塗り目。

観音様の時は後光が円光で、

夜になってマリア様になると、後光が光輪としてみえます。
2023年11月30日

光輪の内側と背景に裏から水晶末を塗り重ねます。

二度塗り目。

三度塗り目。

四度塗り目をして、本日はおしまいにします。
2023年12月1日

昨晩の仕事が乾いた状態です。

暗くするとこんな感じです。
同時制作中の「泥中に咲く」の方が搬入締切を過ぎてしまいましたので、本日はそちらの完成に全力を尽くします。
2023年12月6日
観音様 表彩色 濃淡

裏彩色の蓄光顔料より、胡粉の方が白いので、髪の毛や影の裏彩色をしてるところの方が、表側から見ると少し明るいです。

今日は染料系の透明感のある色で、表側から見た肌色や衣装の色調を調整します。
先ずは臙脂とガンボージを溶き、その2色を混色して肌色を作ります。
紙の切れ端に試し塗りして、現状の肌色と似てる濃さかどうか確認をします。

表の観音様は、日本画風に、あまり立体的な陰影をつけないつもりでしたが、ベールの透け具合は濃淡をつけて表現するので、だったら肌や衣装も、濃淡の変化をつけて表現して統一感を出すことにしました。

衣装の方も濃淡を付け、透明なベールにも少しずつ濃淡を付け始めました。
赤、黄、青の色の三原色があれば、あとはそれらの掛け合わせで一通りの色が作れます。
比重が異なり混色に向かない岩絵具は、様々な種類の顔料を揃える必要がありますが、染料系絵具は混色可能ですので、それほど多くの色を必要としません。

本日の最終段階(明)です。

本日の最終段階(暗)です。
2023年12月9日

染料系絵具で色調を調えます。

墨の濃淡を変えて、髪の毛や輪郭に抑揚をつけます。

ベールから透ける髪の毛や、陰影を必要最低限差します。

暗くしたところです。
宝飾品 表彩色 金泥

金泥を溶きます。
今までも、少なくなってきたら新たに足して繰り返し使用してきました。
継ぎ足して使ってる秘伝のタレみたいですね。
1包 0.4g で約8,000円、2包 足します。

金泥はケチケチ使うと発色しないので、新たに足す時も最低2包は足します。

膠で練って、お湯を足してかき混ぜます。
新しい金泥はアクが浮きます。

しばらく放置して、重い金が沈んだら、上澄みのアクだけを静かに捨てます。

アクを捨てて、

電熱器の上で絵皿ごと温め、水分を蒸発させます。
(焼き付け)

絵皿が熱くなってるので、少し冷ましてから
再び膠を足して練ります。

しっかり着くように、膠多めに練ります。

お湯は、ほんの少しだけ足して、
濃い目にドロっとした状態で彩色します。

宝飾品だけを大きくプリントアウトした写真を見ながら彩色します。

乾いたら瑪瑙ベラで擦って光沢を出します。
膠が薄いと、擦った時に取れて周りに拡がってしまいますが、濃い目に溶いたので、しっかり着きました。

本日の最終段階です。