「春の影」 M10号 2021年制作
4月26日
枝垂桜トレース
どちらも埼玉県内で取材した物ですが、それぞれ別の場所で撮影した古民家と枝垂桜とを photoshop のレイヤーで重ねて構図を決めました。
無料見学可能な古民家の写真です。
隠し絵画の春画の舞台にしようと思い、取材に行きました(笑)。
丁度、庭の造成中で、取材に行った時は庭に何の植物も植えられてませんでした。
このままだと寂しいので、最初当時盛りだった梅の枝でも描き加えようと思いましたが、梅は春画では男の子の筆下ろしを意味すると知り(笑)、少し待って桜を描き加える事に決めました。
清雲寺の枝垂桜を取材に行った時、この古民家と組み合わせるのに丁度良い枝垂桜を見つけましたので、最初投稿の写真の様な組み合わせをイメージ出来ました。
枝垂桜を合成した左半分の写真の下に、念紙(ねんし=カーボン紙の様なもの)を挟み、
マスキングテープで写真を固定して、赤ボールペンで輪郭をトレースします。
プロの画家のくせに写真からトレースするのかよ!って言われそうですが、写真の発明以降、フェルメールもドガも写真を利用してます。
写真からトレースしても、こんなですよ(笑)。
結局、写真を隣に置いて、目で見比べながら描き写していく時の目安程度にしかなりません。
花弁描画
新しい膠を水に漬けて、冷蔵庫で3日くらい経過してました。
面白いくらい膨張してました(笑)。
湯煎で溶かした後、ガーゼで濾してアクを取り除きます。
今回は雲母(きら)を使って枝垂桜の花弁を描こうと思います。
写真と見比べながら、少しずつ雲母で花弁を描き込みます。
今日の最終段階です。
雲母の粒子で和紙の繊維を埋める様に描きました。
この後、もう一度ドーサを引いて雲母粒子を和紙の繊維ごとガッチリ固めたいと思います。
4月27日
古民家トレース
古民家だけの写真から、念紙でのトレースをして、
本画の方は、障子を閉めた設定にするので、鉛筆で閉めた障子と棧を描き足しました。
本日は他にも仕事がありましたので、この作品の進展はこれだけです。
4月29日
骨描き~隈取り
まず、骨描き(こつがき=輪郭線描)します。
骨描き終了段階です。
隅取り(くまどり)をします。
墨の濃淡で陰影をつける事です。
明礬を含んだドーサ(滲み止め)だと、和紙の表面で完璧に滲み止めしてしまいますが、僕の様に明礬を加えない薄めた膠液でのドーサだと、和紙の繊維に染み込みながら定着します。
特に薄墨で水分が多いと滲み効果がよく現れます。
和紙の繊維に染み込む事で、和紙の風合いが際立つという訳です。
本日の最終段階です。
5月2日
本画彩色
膠抜きしてあった絵具に、再び膠を加え、桜をピンクに塗るつもりです。
右は、既に溶いた胡粉(ごふん)です。
取材した枝垂桜は白っぽかったのですが、画面構成と、制作手順上、ピンク色に表現します。
空と障子に胡粉を塗って白い下地とするので、白い桜だと障子や空との区別がつきにくくなるからです。
枝垂桜のアップ
写真では古民家の後に木がありますが、全面空としてスッキリ見せたいと思います。
空には群青色に光る蓄光顔料、障子には一番発光の強い緑の蓄光顔料を塗るつもりです。
蓄光顔料の下地は白い方が発光力が増しますので、空と障子の下地として、胡粉を何度か重ね白くします。
隠し絵の下描きを本画の上に重ね、今回は朱土(しゅど)を揉み込んだ念紙を間に挟みます。
いよいよエロぞうの妄想が加わる段階にきました。
赤ボールペンで下描きをなぞります。
さすがに朱土でのトレースでは見えにくいので、
鉛筆で輪郭を描きます。
障子の棧との重なり具合も考慮し、人体の影の形を直して、その後、シルエットとしてどんな風に見えるか分かりやすくするため、鉛筆で軽く調子をつけました。
鉛筆の調子は後で綺麗に消すつもりです。
蓄光顔料に膠を加え、
練り合わせ、
最後にぬるま湯を加え、筆で塗りやすい濃度に調整します。
今晩の一塗り目です。
塗り始めはムラがありますので、この後、完全に乾いてから塗り重ねる仕事をくり返して滑らかに光る様に整えていくつもりです。
外に飲みにもいけないから、完全に変態ヲタクのGWになりそうです…
今日の最終段階です。
障子に映る影は、現在、鉛筆で薄く調子を着けてますが、周りの蓄光顔料が乾いたら、消して見えなくするつもりです。
5月4日
クルミの煮汁で古民家の梁や柱などを着色しました。
更に岩絵具で彩色しました。
明礬を含まないドーサ(滲み止め)なので、岩絵具は和紙の表面だけにくっつくというより、和紙の繊維に半分食い込みながら絡みついていく感触です。
一通りの彩色が一段落したところで、また明礬を加えないドーサを上から被せ、和紙と岩絵具がガッチリ絡んだ状態で定着させようと思います。
後年、絵具が剥落したりひび割れたりしない彩色方法として自信があります。
人体シルエットの鉛筆を消そうと思います。
輪郭の一部は消えずに残ってしまいましたが、後で水晶末で彩色し、白く見えなくするつもりです。
デジタル中間下図
夜になってから、
照明をつけて撮影した本画画像と、
照明を消して撮影した画像とをPCに取り込み、
2つの画像を photoshop のレイヤーで重ね、
レイヤーの不透明度を75%くらいにして、
下の画像を確認しながら、
空と、縁側や地面に漏れた光をどう塗るかシュミレーションします。
デジタル技術を使った中間下図という訳です。
レイヤーの不透明度を100%にしたらこんな感じです。
今回の作品に関しては、完全な真っ暗で鑑賞するより、僅かに建物の外観も同時に見える暗がりでの鑑賞がベストですね。
ここまではあくまでもPCでのシュミレーションです。
ノートパソコンの中間下図を見ながら、アトリエの照明をつけたり消したりしながら、本画の方はアナログ作業で蓄光顔料の彩色をしていきます。
本日の最終段階(明)
シルエットで浮かばせるつもりの人体には、水晶末で白く塗ったので今日の段階ではかえって明るく見えてしまってます。
この先、周りの色と区別がつきにくい様に微調整していきます。
本日の最終段階(暗)
蓄光顔料は数日に分けて、塗り重ねたり、紙ヤスリで均したりしながら発光具合を滑らかにしていくつもりです。
5月6日
人体のシルエットを周りに馴染ませるため、蓄光顔料の色に似た「淡緑」を塗る事にします。
淡緑を塗って
乾くと周りとの区別がつきにくくなりました。
紙ヤスリで全体を均します。
ヤスって取れた絵具の粉を払い落とした後、画面に残った絵具は、ドーサを塗って固定させます。
蓄光顔料をまた重ねます。
アトリエの照明を消して、濃淡の具合を確認しながら蓄光顔料を塗り重ねます。
隠蔽工作1
水晶末を空や障子に塗り、蓄光顔料で描いてる隠し絵を完全に隠します。
水晶末が乾いたら、また紙ヤスリで擦った後、ドーサで定着させます。
制作途中で、余分に着きすぎた絵具や、定着の不安定な絵具を落とし、画面にしっかり着いてる絵具をより安定させる事を繰り返す事で、作品の品質を将来に渡って保証します。
水晶末を塗った後も、蓄光顔料がちゃんと発光するか確認します。
この先の試し塗りの為に、和紙の切れ端にも蓄光顔料を塗って乾かしておきます。
色々と技術開発の苦労をしております(笑)。
本日の仕事開始前の状態です。
蓄光顔料や、水晶末を重ねたので障子の棧が一旦見えにくくなってます。
鉛筆で棧のアタリをつけます。
墨で棧を描きます。
本日の最終段階。
障子の棧を墨で描き起こしました。
表側から見ると、障子の向こう側に棧が隠れてますので、棧はこんなにハッキリ見えません。
なので、この先棧の上に明るい絵具を被せて、明るい時は棧を目立たなくします。
でも、外が暗くなり、室内の明かりで照らされた時は障子の棧がハッキリ現れます。今日はその為の描写です。
外が暗くなり、室内の明かりで照らし出された時は障子の棧がハッキリ現れます。
5月8日
本日の最終段階。
真っ暗じゃなく、ほんのり照明も点けた状態で撮影してみました。
室内照明の、光源から広がるグラデーションが、だいぶそれらしくなってきました。
LED 照明のリモコンを手元に置いて、蓄光顔料を塗る準備を整えます。
真っ暗にして蓄光顔料を塗っていきます。
最近はまた昼夜逆転の生活リズムになってます。
形状修正
おっぱいが細く尖ってしまうなど、シルエットの形で気に入らない箇所がいくつか出てきました。
おっぱいの形を、不透明な岩絵具の淡緑で塗り、形良く膨らませます。
この様に、シルエットの形を整えました。
蓄光顔料は真っ暗にして塗るので、塗り終わって明るいところで確認すると、かなり表面の絵具の凹凸にムラが出来てます。
なので、完全に乾いたら紙ヤスリで擦って均します。
紙ヤスリで擦った後は、ドーサを引いて絵具の着きを安定させます。
前もって蓄光顔料を塗っておいた、試し塗り用の和紙の切れっ端。
空には群青色に光る蓄光顔料を塗ってありますが、昼間の明かりで見ると、蓄光顔料はほぼ白です。
昼間の明かりで見た時にも青空に見える様に、上から絵具を塗ります。
染料の「洋藍(プルシャンブルー)」と、今回、思い切って天然群青11番を試し塗りしてみようかと思います。
不透明な岩絵具を蓄光顔料の上に塗ると、光の吸収、発光を塞いでしまうと思いますが、粗い粒子の岩絵具を薄く塗れば、もしかしたら絵具の粒の隙間から蓄光顔料の発光が期待出来るかもしれません。
という訳で、既に蓄光顔料を塗っておいた、試し塗りの紙で実験してみます。
あちゃ〜、ちょっとドーサの効きが不十分でした。
やはり雨降りの日はドーサの効きが悪いですね。
試し塗り用の和紙で良かったですが、本画用のドーサ引きをする時、こちらの切れっ端も一緒にドーサ引きしておくべきでした。
5月9日
描き起こし
一旦描いた障子の棧の上から蓄光顔料や、人体の上には薄緑や水晶末を塗ったので、棧がぼやけてしまってます。
もう一度、墨で棧を描き起こします。
墨で棧を描き起こしたところです。
ただし、これは夜間、室内の明かり(蓄光顔料)で照らされた時に初めてハッキリ見えるものです。
日中、外から見た時には障子の棧はよく見えません。
まずは、水干黄土(すいひおうど)にて棧の固有色っぽくします。
水干黄土にて、墨で描いた棧を塗り被せます。
隠蔽工作2
更にその上に障子紙が被って、外側からは棧が見えにくいイメージとして胡粉(ごふん)を塗ります。
必要なのは少量なんですが、団子を作ったり、百叩きするために、ある程度の量を空摺り(からずり)しなければなりません。
日本画は手間が掛かります。
膠と練り合わせて胡粉団子を作りました。
これを絵皿に百回叩きつけて、振動で胡粉と膠とをしっかり馴染ませてから、お湯で少しずつ溶かします。
溶かし終わった胡粉も、直ぐには使わず、タバコ休憩を挟み、5分ほど放置します。
5分ほど放置した絵皿の上澄みの胡粉を、別の絵皿に移し、こちらを絵具として使います。
最初の皿に沈殿した胡粉は、後年、ひび割れや剥落の恐れがあるので使いません。
上澄みに厳選された超微粒子できめ細かな飛び切りの胡粉だけを使うのです。
たとえ悪ふざけと捉えられそうなエロい隠し絵画でも、佐藤宏三ブランドは妥協ない仕事を徹底してます。
胡粉で棧を塗り隠しました。
黄土も胡粉も棧からはみ出ない様に丁寧に、それぞれ3度ずつ塗りました。
第一の隠蔽工作完了。
隠蔽工作はボロが出ない様に丁寧に完璧にする必要があります(笑)。
隠蔽工作3
第二の隠蔽工作に入ります。
障子の向こうの男女の影が薄っすら見えてしまってますので、今度は障子全体に水晶末を塗り被せます。
日本画材の白色顔料はいくつかあります。
胡粉、白土、カオリン、方解末、水晶末など。
これら白色顔料の中で一番透明感があるのが水晶末です。
元は透明な水晶ですが、粉末状に砕かれ表面が乱反射して白く見えます。
膠で溶いて塗って乾いても表面上は白く見えますが、性質は光を透過させますので「蓄光顔料を使った隠し絵画」の実用新案申請でも、第二層に水晶末を塗る方法を明記したほど、必須アイテムになります。
一塗り目は、画面を逆さまにして
一塗り目が乾いたら、画面天地を戻して二塗り目。
これを繰り返して、両方向から合計4回水晶末を塗り重ねました。
湿った時は男女のシルエットが浮かび上がりますが、4回塗り重ねて乾いたら、ほとんど判らなくなりました。
アトリエの照明を消して、水晶末を塗った後も、下層の蓄光顔料が発光するのを確認します。
大丈夫、バッチリ見えます。
連筆で塗った後、柱に被った水晶末は、水を含ませた筆で洗い取ります。
隠蔽工作、完了!
障子の棧も障子紙を透かして僅かに見える程度になりましたし、男女の影も、初めてこの作品を観る方には気付かれないレベルになったと思います。
本日はこの後も続きの制作をしましたが、一旦はここまで。
空の彩色
まず、昨日試し塗りした物を、照明を消して発光具合を確認してみます。
一番上が天然群青11番を薄く塗った部分。
中段が洋藍(プルシャンブルー)を薄く塗った部分。
下段の絵具を被って無いところより、ほんの少し発光が抑えられてますが、さほど影響が無い事が確認出来ました。
ちなみに蓄光顔料は左から
グリーン、ブルー、スーパーブルー(群青)です。
真ん中のブルーはドーサの効きが弱く、昨日塗って乾いた後、紙ヤスリで擦ったら大半が落ちてしまいました。
今回の制作では、左のグリーンと、右のスーパーブルーしか使ってませんので、両端の実験結果が確認出来たので問題ありません。
染料の洋藍を溶かして、また別に用意した和紙の切れ端に試し塗りしてみます。
昨日の実験より更に薄いですが、今回は失敗が許されませんので、とりあえずはこの薄さで一塗りしてみたいと思います。
空だけでなく、庇の陰の障子にも塗ります。
空部分は、蓄光顔料の膠分が濃かった為か、少し弾いてムラが出来ましたが、薄い雲が浮かんでるとも捉えられるムラなので良しとします。
一旦照明を消して洋藍の影響を確認します。
ほぼ無影響です。
昨日、試し塗りした後、膠抜きしてあった天然群青11番に再び膠を加え、練り溶かします。
こちらも試し塗りして、昨日の試し塗りより濃く無い事を確認してから本画に塗ります。
下地の膠分が濃くて、上から重ねる絵具を弾いてしまう時、ハッカ油を数滴垂らし混ぜて塗ると馴染みます。
この時ハッカ油の良い香りがします(笑)。
明らかに弾く感じはありませんでしたが、やはり空を均一に塗る事が出来ませんでした。
でも、柔らかな薄雲が漂う空として、これはこれで良しです(笑)。
ちなみにこれの乾き待ちの間に、本日一度目の制作過程を投稿しました。
これが乾いた後、空をもう一塗りして、この段階よりもう少し濃くなったのが、本日の最終段階となります。
この段階でも一旦照明を落として発光具合を確認します。
OKです! 充分発光してます。
群青が被った茅葺き屋根の一部は水を含んだ筆で洗い取ります。
建物や地面に落ちた影も青みを帯びて見えますから、影になった部分にも群青を被せます。
本日の最終段階です。
透明感のある染料の洋藍だけでなく、不透明な天然群青も使って青い色を彩色してみましたが、粗めの岩絵具を薄く塗れば、下層の蓄光顔料の発光をそれほど妨が無い事が確認出来ました!
本日の最終段階、照明を落として見たところです。
5月12日
蓄光顔料を塗ってある試し塗り用の和紙に、墨と、天然素鼡 11番を塗ってみます。
暗室代わりのトイレに持ち込み、発光具合を確認します。
墨の方は発光がかなり弱められてしまいましたが、素鼡 11番を薄く被せた方は、粗い岩絵具の隙間から下地の蓄光顔料が光って見えます。
群青での影だと綺麗過ぎて実感に乏しかったので、薄く素鼡を被せました。
本画もトイレに持ち込み、ちゃんと発光するのを確認します。
古民家・枝垂桜の彩色
古民家の彩色をします。
障子と空以外は、透明感を気にする必要がありませんので、岩絵具でしっかり彩色していきます。
またドーサを引いて絵具の定着をしっかりさせます。
ドーサが乾いたら、新岩絵具 桃 白番と、墨にて枝垂桜と枝とを描いていきます。
本日の最終段階です。
枝垂桜を描き終わってから、また全体のバランスを整えれば完成です。
だいぶ完成が近づいてきたと思います。
5月13日
本日最初は、まず、胡粉(ごふん)で、枝垂桜や、茅葺、瓦などを明るく描き起こしました。
絵だけのアップです。
その後、臙脂やガンボージで少し彩りを加え、完成として、この後、落款(らっかん=サイン)として印を押します。
他の出品作の共シールも書きました。
グループ展なので、果たして5枚も飾れるか分かりませんが、とりあえず搬入時には5作品持参してみようと思います。
※ gallery zaroff企画「宣言下のエロティカ」
2021年5月23日~6月5日
作品の題名が直ぐに浮かばない時、僕は俳句の季語辞典から探します。
「春の影」は、春の陽光を指す季語です。
明るいところで見た時の、この絵の題名としてももちろん、
暗くした時にも「春(画)の影」としてダブルミーニングな題名となります(笑)。
こんなご時世に、楽しんでて不謹慎と不快に思われる方がいらっしゃるかもしれませんが、
不安や恐怖に負けない為にも、僕はエロやユーモアで自分自身はもちろん、展覧会を観に来て下さる方々の免疫力を高める役割で貢献したいと思ってます。