捏造歴史人物画
「八代将軍徳川吉宗公像 8th Shogun Tokugawa Yoshimune」
新作のコンセプトは「捏造歴史人物画」です。
世の中、嘘ばかり。コロ助騒動を体験し、その思いをますます強めてます。
外国の製薬会社が開発した治験中の薬を大量に買わされたり、よその国の戦争に加担して支援したり、敗戦後の属国扱いは、もう隠しようもないほどあからさまになってきてます。
歴史も勝戦国側に都合の良い様に捏造されるのが常ですが、我が国ほど自虐史観を洗脳されてる国は他に無いのでは?と思ってます。
どうせ捏造するなら、自国に誇りが持てるような美談や、美男子の歴史人物画を描いて残そう、という僕なりの反発心と、社会諷刺を込めた作品になります。
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2023年5月8日
制作準備
新作用に絹本と、真菰和紙とを木枠に張りました。
絹本は、いつもの要領で、ドーサを引くと縦糸が縮むので、縦方向はわざと緩く張りました。
真菰紙は、初めて使います。
和紙の風合いを活かす為、表側からの厚塗りを避けるため、裏彩色が出来るよう、パネルでは無く、木枠に張ってみましたが、結論は失敗でした。
真菰紙(葉の繊維)は、弱く、水分が蒸発して収縮するとき破けて皺が入ってしまいました。
茎の繊維で漉いた真菰紙はもう少し丈夫そうでしたが、葉の繊維で漉いた真菰紙は弱いのが判りました。
本格的な制作に入る前に分かって良かったです。
木枠に糊付けした部分を湿らせ、糊をふやかします。
剥がすとき、何箇所が破いてしまいました。
これは試し描き用の紙として使おうと思います。
質感が面白いのと、神聖な材料なので、なんとかこの紙の性質を知り、使いこなせる様にしたいと思います。
もう一度湿らせ、乾かす事で水張りの時に出来た皺を消そうと思います。
常にトライ&エラーを繰り返し、新たな表現方法を模索していきます。
2023年5月30日
下図制作
Amazonで、DVDを取り寄せ、デジカメで撮影したものを参考にします。
ポーズは真ん中のものをベースと決めましたが、着物の柄など、細部が不鮮明だったので、かろうじて羽織の柄が判別出来た右の柄を参考にします。
鏑木清方の作品です。
本物を国立近代美術館にて拝見し、人物自体ももちろん素晴らしいですが、精緻に描いた着物の柄や質感描写のリアリティが、間違いなく作品のクオリティを支えていると感じました。
僕が描こうとしてるのは、捏造歴史人物画ですが、作品のクオリティには手抜きせず、いかにも格調高い肖像画作品にしたいと思います。
社会諷刺であっても、本気で真面目に描いた方が、単なるジョークではなく、作者の想いが伝わると思うからです。
東京国立博物館の常設展示を取材しに行き、将軍着用の直垂も細かな柄が分かるように撮影してきましたが、この柄はさすがに細か過ぎて描写仕切れないと断念しました。
刀も撮影してきました。
細部描写にリアリティを持たす為、DVDやネットから拾った資料だけでなく、本物を取材に行く事が大切になります。
描き始める前の資料集めや、それらを組み合わせて絵を組み立て、構想を練る段階が一番苦労する段階です。
DVDでは、袴の結目とかも判別出来ないので、YouTubeの袴の履き方の動画もスクショして参考にします。
こちらは一文字に結んでで、十文字結びよりも、ややカジュアルらしいですが、DVDのドラマでは、吉宗公は不鮮明ながら一文字に結んでる様に見えました。
着物通販サイトでは、最も格式高い十文字結びで袴の前を結んでいる画像がほとんどですが、あまり格式重視すると、成人式用に着付してもらった様な印象を持ちます。
DVDで不鮮明ながら、たぶん袴の柄はこの柄かな?という似た和柄のパターンを、いつも表具でお世話になってるマスミ東京さんの裂地通販サイトから見つけ、これもスクショさせて頂きました。
輪郭線のみ、DVDから撮った写真を拡大し、トレースし、羽織や袴の柄は、パターンを整理しながら鉛筆でアタリを付けていきました。
墨の線で、柄のパターンを決めていきますが、鉛筆でのアタリをそのままなぞるのではなく、あらためて、格子の幅などを整えながら決めていきます。
今日はこの段階にじっくり時間を掛けて制作しました。
下図段階で納得出来て、本画では修整の必要が無い完璧を目指します。
彩色をはじめました。
2023年5月31日
2023年6月2日
瞳の位置で表情が変わるので、マスキングテープに瞳を描いて、アートナイフで丸く切り抜いて仮貼りし、位置を決めようと思います。
最初、瞳が小さかったので、ちょっと怖いですね。
一回り大きく描き、切り取ります。
やや、右を向かせたり、
少し中央寄りにして、遠くを見てるような眼差しにしてみたりして、しっくりくる位置を決めます。
瞳の位置がだいたい決まったら、先に羽織の柄や刀を仕上げます。
下図段階では、葵の御紋と刀の一部のみに金泥を使いましたが、本画では羽織の柄も金泥で描こうと考えてます。
瞳シールを貼ったまま、輪郭線を入れ、
瞳シールを剥がします。
瞳を入れて、瞼、まつ毛、口元、髪、眉毛の生え際など、顔全体の描写を整えて完成です。
肌色の赤味も少し濃くしました。
本日の最終段階。下図完成です。
2023年6月6日
本画制作
下図を絹本を張った仮枠の裏からパイルダー・オンさせて、画面の外側にマスキングテープを貼ります。
画面サイズは、軸装した大きさが展覧会出品規定範囲内に収まる大きさから逆算して決めてます。
また、絹本を張った仮枠より一回り小さくしてるのは、
1つは、仮枠に張った絹本の隅は皺が出来やすい
2つめは、裏彩色する時、木枠ギリギリ目一杯は塗り難いからです。
最初は、墨や、棒絵具など、微粒子のもので輪郭線のトレースや彩色をしていきます。
輪郭線をトレースし、主に染料系の絵具で彩色していきます。
頭部の周りは、墨が背景に着かない様にマスキングテープで囲いました。
下図を外し、絹本の裏には白い紙を裏からはめ込み、色の濃淡を確認しながら彩色していきます。
本画に描くに当たっての変更点は、着物も濃淡に変化をつけて彩色する事にした事です。
2023年6月7日
金泥 羽織
毎回、膠を加えて繰り返し使用してる金泥の皿に、新しく買い足した金泥0.4g×2包を加えます。
金は時価で、今回はかなり値上がりしてました。
2包で15,000円超えの買物になりましたが、金泥は濃い目にドロッと溶いて塗らないと発色しませんので、作品のクオリティの為に材料費はケチりません。
藝大生時代から、ずっと利用してる谷中得応軒さんです。
2包=0.8gを足して
膠を加えて練ります。
少し多めの膠で一度練り上げたら
お湯を加え、撹拌し、しばらく放置し、黒ずんだアクが浮き、金泥が底に沈むのを待ちます。
上澄みのアクを捨て、
電熱器に乗せて温め
水分を飛ばし焼き付けます。
熱くなった絵皿が少し冷めたら、再び膠を加えて練ります。
新しく購入した金泥は、こうしてアクを捨て、焼き付け、膠で練り直す事を2度ほど繰り返してから使用します。
下図では、絹本から透けてよく見えるように墨で描いてた羽織の柄を、金泥でなぞります。
まだ、途中段階です。
描く時の右手の下にティッシュを敷いて、汗や絵具の汚れが画面に着かない様に描き進めてます。
羽織の柄を一通り描き終わったところで、夕食の食材の買物に出掛けます。
金泥皿が乾いてしまわない様に、ラップを被せて買物&夕食休憩とします。
夕食を済ませた後、絹本の裏から、下図に替えて白い紙を張ったパネルをはめ込み、瑪瑙ベラで金泥描写した部分を擦り、輝かせます。
真正面からの写真だと金泥の輝きが分かりにくいので
少し下から仰ぎ見るような角度で撮った写真です。
一塗り目で厚塗り出来てた部分は、よく輝いてます。
輝きが足りない部分を、重ね塗りしていこうと思います。
筆の方は、すっかりカチンコチンに固まっていましたので、お湯を足し、電熱器で温めながら、金泥で固まった筆も戻して行きます。
輝きの足りない部分を重ね塗りし、乾いた後、再び瑪瑙ベラで擦りました。
本日の最終段階。
今日は丸一日使って金泥一色を塗る仕事に費やしてしまいました。
単純な手数よりも、一つ一つの工程のクオリティが大切なので、今後も慌てず丁寧に進めていこうと思います。
仕事の終わりに、金泥皿に熱湯を注ぎ、撹拌し、膠と金泥とを分離させます。
しばらく放置し、金泥が絵皿に沈むのを待ち
上澄みの膠液を捨てます。
絵皿に残った金泥の水分が蒸発したら、蓋を乗せて、また次回使う時まで絵皿に入れた状態で待機させておきます。
金泥に限らず、使い切らなかった岩絵具も、同様に膠抜きをして、絵皿に入れた状態で、次回使う時まで待機させておきます。
ちなみに微粒子で軽い絵具は、絵皿に沈ませる事が出来ないので、膠抜きをして残りを使う事が出来ません。
2023年6月8日
棒絵具 羽織 袴
昨日、金泥で描いた羽織の柄ですが、皺の陰になった部分の光を抑えるため、棒絵具で暗くしていきます。
代赭と洋紅とをブレンドした茶色で、陰になる部分の金泥に暗く被せます。
先ほどのブレンド茶色に洋藍を加え、皿に暗い色を作ります。
陰に引っ込むところは金糸の輝きも暗くすることで、絹織物のボリュームや光沢を感じさせます。
吉宗公は、倹約を奨励するため、絹ではなく木綿の羽織や着物を着用してたという伝説も残ってますが、そこは「捏造歴史人物画」ですから、将軍の立派なイメージとして絹織物の羽織を着せて表現させて頂きます。
袴の柄を描く為に、染料系の絵具を溶きます。
左からガンボージを溶いた黄
ガンボージ&洋藍ブレンドの緑
洋藍&洋紅ブレンドの紫
洋紅を溶いた赤
マスミ東京さんの裂地通販サイトからスクショした柄を参考に袴の柄を描きました。
こちらも下図は全て墨で描いてたのを、本画では色を塗り分けて彩色しました。
染料の発色だけでは弱いので、染料の上から顔料にて各色を重ね塗りしていくつもりです。
羽織の裏彩色をしてしまうと、下図に書いた文字が透けて見えなくなるので、普段、落款(サイン)は絵が完成してから入れますが、印だけ最後に捺すことにして、落款を含む文字をこの段階で入れることにしました。
最初「徳川八代将軍吉宗公像」としてましたが、
「八代将軍徳川吉宗公像」と下図の方から改めました。
本画の裏から下図を透かして文字を書きました。
字が真っ直ぐ揃う様に、下書きを透かして書いてます。
恥ずかしい制作工程ですが、それも隠さず公開してるのが日本画家佐藤宏三の特長とご評価頂いてますので、あえて公開します。
本日の最終段階です。
今夜はこれから伽藍Bar にてベリーダンサーLaLaさんをモデルにしたライブドローイングをしに出掛けますので、これにて終了。
2023年6月13日
質感表現 裏彩色
羽織の絹織物の質感表現に、角度を変えると玉虫色に色が変化する絵具を使ってみる事を思いつきました。
自作の試し塗りの色見本を参考に、
ラピスサンライトを羽織の裏彩色で使用してみたいと思います。
色見本左側の和紙に直接塗ったラピスサンライトはピンク色に光って見えると思います。
(右側の墨の下地に塗った方は青緑に光って見えると思います)
光の角度を変えると和紙に直接塗った方も青緑色に光って見えると思います。
絹本の裏彩色で、この様な効果が出るか分かりませんが、とりあえず試し塗りをして確認してみようと思います。
過去の作品で試し塗りに使ったものを引っ張り出してきました。
もう、新たに試し塗りするスペースが残り少ないですが…
ラピスサンライトを溶きます。
袋の中はピンクに見えて、絵皿に溶いた方は青緑に見えると思います。
裏側から塗って乾くのを待ちます。
乾き待ちの間に水晶末を空摺りして、更に微粒子に整えます。
刀の柄や、白いぼんぼりを裏彩色します。
後から裏彩色する着物の色が多少はみ出しても、表側から白さがキープされる様にです。
裏から彩色したラピスサンライトを表側から見たところです。
裏彩色をして、表から絹本を通しての見え方は、角度を変えても玉虫色に変化する効果はあまりありません。
試しに似たような光沢を持つゴールドアフレアを溶きます。
こちらは玉虫色の変化は無く、金色っぽく輝きます。
羽織の表彩色は純金泥にて柄を描きましたから、同系色の微妙な色違いで、さり気なく見せるのも良いかもしれません。
試し塗りの裏彩色画面では左側にゴールドアフレアを塗りました。
表側から、ラピスサンライトとゴールドアフレアの発色を確認しました。
羽織の裏彩色はやはりラピスサンライトを使い、ゴールドアフレアは袴の裏彩色に使うことに決めました。
本画では、面積の小さな袴の方からゴールドアフレアを塗って、
表側から確認します。
さり気無い光沢感が絹織物っぽくて、良い感じです。
写真では分からないと思いますが、角度を変えると、微妙に光沢感が変化します。
裏彩色の効果を確認して、良い感じでしたので、重ね塗りして更にしっかり塗りました。
羽織にラピスサンライトを一部塗って、
表側から確認します。
こちらも良い感じなのが確認出来ましたので、
続きを塗り、
更にこちらも重ね塗りで、しっかり塗りました。
天然象牙色を溶きます。
顔の裏彩色として象牙色を塗りました。
着物を塗る前に周りにマスキングテープを貼り、鉛筆で輪郭を取ります。
※西日が差し込んで若干オレンジ色になっています。
カッターマットに貼り替えて、アートナイフで切り、
着物の外側をマスキングします。
ウルトラマリンブルーを超える耐光性の、新開発顔料インミンブルーを溶きます。
色合いも、ウルトラマリンよりも天然群青に近い深みがあります。
明るく光らせたい部分は先に水を引き、
端から濃く塗ってはボカシ、濃淡に変化をつけて光沢感を出していきます。
インミンブルーを濃淡つけて裏彩色し終わったところ。
背景 裏彩色
背景は天然緑青をフライパンで加熱して、少し濃く、渋味をつけます。
一塗り目。
二塗り目。
刷毛の運びを90度変えて、三塗り目。
着物の明るいところが、光って見えるというより、色褪せて見えるといけないので、スカイブルーを溶きます。
京都の顔料屋さんで、色見本を確認して耐光性が強い顔料を選んで購入した絵具の内の一色です。
インミンブルーを薄くした部分も含め、スカイブルーを着物全体に塗ったので、色褪せた感じには見えず、しっかりとした発色が得られました。
表に返して確認したら、焼いたはずの背景の緑青が、ちょっと綺麗過ぎでした。
背景は「捨て色」と言って、着物や顔色の引き立て役として、やや渋味を伴って落ちついて欲しいので、補色の赤茶掛かった色を被せようと思いました。
赤茶系のどの色が最適か選んでたら…
横浜みなとみらいギャラリーでの展示で知り合った香り作家「ほにひ」さん事、竹内まや さんから頂いたお香の粉末が、一番最適に思えてしまいました(笑)。
もう、これは理屈抜きです。
長年色の重ね塗りを積み重ねてきた経験から刷り込まれてきた直感的な閃きで、これが一番と本能的に思ってしまったのと、クリエイターとしての好奇心から、これを絵具として使いたい!という欲求に抗えなくなりました。
膠で練って溶いてみたら、色材としては弱いかなと感じましたが、何しろお香ですから、良い香りがします。
表側から塗ることも考えましたが、とりあえず裏から浸透させるようにたっぷり塗ってみました。
色材として弱かったとしても、良い香りがするなら、ありがたいおまじないとして意味がありますし、
後年退色したとしても、裏彩色なら、少なくても悪影響は無いと思います。
ほんの隠し味程度でも、そもそも隠し味的に使おうと思った絵具ですから。
2023年6月14日
昨晩の投稿の後、ドーサを引いてから就寝しました。
今朝、裏から白い紙を張ったパネルを差し込み、表から見た現状です。
お香を裏彩色した事で、若干背景の色彩が落ち着きましたが、刷毛目(筆跡)が出て気に入りません。
昨日はお香を使用しましたが、そういえば大阪泉佐野市の紙漉き 明松(かがり)政二さんからサンプルとして頂いていたマコモダケに寄生する黒穂菌(コクボキン)の顔料の存在に気づきました!
真菰は出雲大社のしめ縄に使われる神聖な植物で、それを原料にした手漉き和紙を購入したり、地元埼玉で真菰の苗を抜く体験や、買った苗を育ててる最中です。
昨晩のお香で足りないと感じた裏彩色に、さらにご利益のありそうな神聖なマコモダケに寄生する黒穂菌を塗ってみようと思いつきました。
黒穂菌は、繁殖しすぎるとマコモダケの食用に向かなくなってしまいますが、マコモダケを肥大させるきっかけとして不可欠な菌なんです。
この菌の存在が無ければ、マコモダケを美味しく頂く事も不可能です。
自然の摂理は共存共栄で、そのバランスとタイミングこそが重要です。
食用としては黒穂菌が増えすぎると賞味期限を逸する事になりますが、こうして絵具としての深みは増します。
黒穂菌の価値を認め、成仏させて頂くお手伝いをさせて頂く想いで、僕の作品の隠し味として有り難く有効利用させて頂きます。
黒穂菌を塗る前の裏彩色の現状です。
お香の渋味は効果を発揮してるものの、塗る時に定着が不安定だったラピスサンライトなども混ざり、裏彩色とはいえ刷毛目(筆跡)が出てしまい、僕としては納得ゆきません。
黒穂菌由来の顔料の一塗り目。
乾いた後、表側から確認。
良い感じです。
ところが
僕はそれで満足せず、黒穂菌の塗る方向を変えて二度塗り目をします。
ここから先の工程は、違いが分かる人だけに分かる非常にマニアックな工程になります。
三度塗り目。
四度塗り目。
反対方向から五度塗り目。
四度塗り目と五度塗り目とでは、刷毛目の継ぎ目をズラし、さらに180度塗る方向を替えて塗ってます。
黒穂菌を五回重ね塗りした裏彩色の状態です。
裏彩色に渋味が加わり、歴史の風格を加えた訳です。
令和5年に仕上げる新作ですが、あたかも古くからあった重要文化財のような風格を感じさせるための隠し味的裏彩色です。
違いの分かる人だけにご共感頂けるマニアックな仕事です。
表から確認した状態です。
背景の渋味は出ましたが、ちょっと暗くなってしまいました。
もったいないと思われるかもしれませんが、洗います。
余分な黒穂菌や、ラピスサンライトを洗い取ります。
塗って洗ってを繰り返す事により、接着の不安定な絵具は取れ、洗っても取れない定着の良い顔料だけが残ります。
この工程の繰り返しにより、何十年、何百年と、長期間安定した品質を保証出来る絵画となる訳です。
洗って乾いた段階の裏彩色です。
表から見たら裏彩色の効果はハッキリと分からないかもしれませんが、
背景を落ち着かせる渋味が加わった上、
余分な暗さは無くなった丁度良い加減が、次の写真と見比べれば分かってもらえると思います。
これが裏彩色をする前の写真です。
背景の緑青が綺麗過ぎて、主役の邪魔になってる事や、歴史の風格を感じさせず、安っぽく見せてる状態であることが、違いが分かる人には分かってもらえると思います。
2023年6月16日
細部描写 表彩色
下図をカラーコピーしたものを隣に置いて、まずは髪、眉、目を描いていきます。
拡大写真です。
袴の柄を、岩絵具で彩色します。
着物の色を表側からも彩色します。
絵具は京都の顔料店で購入したを使いました。
日本画用の岩絵具と違い、水彩絵具や油絵具の材料になる微粒子の顔料ですので、水彩絵具同様に、混色しても分離せず、赤紫と青との中間の紫色が作れました。
髪や衣装をしっかり仕上げた上で、バランスを見ながら最後に肌色の濃淡を整え、仕上げました。
平面的な大和絵風の肖像画ではなく、江戸後期から試みられた西洋的な立体感を採り入れた表現で描きました。
明日、表具店に持って行き、軸装の裂地を合わせ、本格的な日本画のスタイルで装いますが、西洋文化の影響も採り入れ、古くからの伝統と現代的な表現の融合として仕上げました。
本画完成です。
2023年6月17日
表装の注文
マスキングテープを剥がします
絹本の四隅を止めてた画鋲も抜き、
木枠と絹本との接着部分だけに、
たっぷり水を引き糊を溶かします。
剥がしました。
糊を含んで皺がよった糊付部分を切り落とすと、画面がフラットに伸びます。
大谷選手の最終打席を観ながら丸めてスライドケースに入れる準備をしてます。
表具の注文を終わらせたら、本日銀座で行なわれるLGBT法案反対のデモに遅れて合流しようかとも考えてましたが、結局、表具の注文を終えた段階で16時になってて、デモ行進が終わった頃だろうと思ったのと、
このスライドケースを持って参加したら、バズーカ砲を持った過激派と誤解されるかもと思い自重しました。
王子で都電荒川線に乗り換え、大塚駅の1つ手前の巣鴨新田駅で降りると、
表具店マスミ東京は直ぐです。
もちろん大塚駅からも徒歩10分掛からないくらいの近さです。
社長の奥様から、
「あっぱれじゃ、褒美を取らそう」みたいなイメージの裂地をご提案されました。
結局、色合いが本画の色調に似ていた為、今回は選びませんでしたが、裂地選びは、いつも社長さんも奥様も作者の僕も、この裂地はどうだろうかと、合わせるのを楽しみながら選んでます。
次の表装で使う時に、裂地の名称を覚えておくため、写真で記録を撮っておきました。
社長から最初に提案された、一番広い面積を占める天地の裂地と、上下に挟む一文字は、僕が「福寿」の文字が柄の裂地を置いてみました。
この裂地で画面が締まって良い相性だと思ったので、この後は、一文字の裂地合わせを試行錯誤してましたが、
社長が閃いて、一文字に使うつもりの金襴の裂地を大きく使い、一文字に最初の暗い裂地を挟んで締める事も試してみました。
金襴の面積が多くを占めると、まさに豪華絢爛で、将軍様の威光を飾るのに相応しいと思いました。
吉宗公は、倹約を推奨するために、自身は、絹ではなく木綿の着物を着用してたという説もありますが、何しろこれはハンサムな俳優に似せて捏造した歴史人物画ですから、とことん立派に演出します。
社長さんが、さらに、一文字よりも中縁で上下左右をぐるっと囲む表装をご提案下さいました!
この表装スタイルは、神聖表具や本尊表具と言われ、仏教の仏像祖師の肖像画に使われる重厚な様式だそうです。
上様の肖像画ですから、これが相応しいでしょう!
軸先まで豪華にしてしまうと、ちょっとやり過ぎに感じてしまうので、渋い軸先で引き締めます。
本紙を囲む中縁の暗い色の裂地
総縁の金襴。金ピカの裂地はお値段が高価な事が多く、普段一文字として少ない面積の使用なら使えますが、総縁として広い面積に使うとお高くつくかな〜?と、ちょっと心配になりましたが、むしろ中縁の裂地より少し安くて助かりました(笑)。
表装してしまえば、見られなくなってしまう裏彩色の様子。
社長も、羽織袴に雲母(キラ)の様な光沢のある絵具の裏彩色をして絹織物の質感を表現した工夫や、
背景の緑青を落ち着かせるためにマコモダケの黒穂菌を裏から塗った工夫に感心して下さいました。
本来、作者と表具師にしか観ることが出来ない裏彩色の秘密です。
マスミさんで撮影した裂地をPC上で切り貼りして、イメージしてみた完成予想図です。
上下左右の裂地の幅は多少比率が違ってくると思いますが、全体の印象はこんな感じに仕上がると思います。
2023年7月14日
表装完成 箱書
捏造歴史人物画「八代将軍」表装が完成しました。
表装は毎度お馴染みマスミ東京さんに依頼しました。
上様を讃えるに相応しい豪華な掛軸に仕上がりました。
金沢21世紀美術館でも、ベトナム・ハノイでも、ひときわ目を引く作品になったと思います。
搬入前に、いったん家に持ち帰り、桐箱への箱書をします。
箱書前に練習します。
鉛筆で縦線を引き、曲がらない様に字を書きます。
墨が完全に乾いたら鉛筆の中心線を消します。
印も、曲がらない様に、印矩を蓋の深さに合わせて上下逆さまに固定してから、印を捺します。
朱肉の油分を天然珊瑚末13番を振り掛けて吸収させ
筆で掃いてケースに戻します。
木目に入り込んだ珊瑚末はウエットティッシュで拭き取り、完全に乾いたら掛軸を収納します。