「一夜城」One Night Castle
「登龍門」を仕上げたら次回作は、Hidden Art「一夜城」なる作品を描くことにしました。
「一夜城」は豊臣秀吉公が、小田原の北条軍攻めをした時に、小田原城を見下ろす高台に、まるで一晩で城を築き上げたかのように見せ掛けた逸話ですが、
僕は昼間は現代の天守台だけがある皇居東御苑の風景が、夜になると江戸城天守が忽然と現れる Hidden Art を描こうと計画を立ててます。
毎晩、暗くなると姿を現す江戸城天守という意味で「一夜城」という題名を思いつきました。
2024年4月4日
取材行
早速「江戸城」の下見に行ってきました。
現在は「皇居東御苑」が正式名称ですが…
せっかくなら桜が咲いてる時期に行っておこうと思い、「登龍門」の完成を待たずに本日、ロケハンしてきました。
本日僕が歩いたルートをピンクの線で示します。
東西線「竹橋」駅から地上に出たら、先ず喫煙所を探します。
毎日新聞社ビルの中にJTが管轄する公共の喫煙所が入ってました。
皇居側へ交差点を渡り、振り返って毎日新聞社ビルを撮影。
皇居の周りも桜が咲き始めてます。
平川門に通じる橋を渡ろうと思います。
守衛さんに手荷物検査をしてもらいますが、無料で入園出来ます。
自分が通過した後振り返って、後から入園される外人さんの様子を撮影。
これが平川門です。
江戸城のお濠は、内濠、外濠というより、螺旋状にぐるぐると何重にも囲んでます。
一番外側が隅田川、神田川を通って、四谷、赤坂、溜池、虎ノ門、汐留から太平洋に抜ける広大な範囲が江戸城内だったそうです。
現在の皇居敷地内に入ってからも、更に内側の濠があるという訳です。
僕の頭の中には、現在の皇居ではなく、昔の江戸城の天守に近づいて行ってるイメージが占拠してます。
そう思ってあらためて見直すと天守の手前の石垣も高くて堅牢ですね。
梅林坂を上り詰めると、天守台の北東、天守正面入口の裏側に出ます。
ここから先、天守台の上に江戸城天守を再現させた時の構図をイメージしながら写真を撮っていきます。
こちらが北側、天守の真後ろになります。
再び北東側、天守の斜め後側からです。
桜とのツーショットの構図にするなら、天守との間の常緑樹は無いものとした構図にします。
天守東側、正面から見たら右側から見たところ。
さすがに、昼間の風景としては、空ばっかりで構図が持たないかな?
まっ、雲の表情などで変化をつけることも可能ですが。
こちらが(南側)天守台正面から見た景色。
やはり天守入口が見える正面からの構図が絵になりそうです。
昼間は、現代の観光客が天守台に群がってる様子も点景として描いた方が、活気があって良いと思いました。
僕も天守台に登ってみます。
石を切り出す時の表面の溝なども至近距離で確認します。
入口手前の桜も咲いてて良い感じです。
天守台頂上はこんな感じ。
天守台を下ります。
少し斜め向きから。
真正面からより、天守の立体感が出しやすく、格好良く描ける角度になると思います。
今度は左斜め前から。
明るい時には天守が無く、画面上部が空だけだだっ広いと構図が決まりにくいので、前景に、樹木とかがあった方が良いかもしれません。
あちこち移動しながら、前景に相応しい樹木の入った景色の写真を数パターン撮っていきます。
こちらの樹も良いです。
こっちもありかな?
こちらからだったら、いくつかの枝を間引きして、画面構成上絵になりそうな枝だけ加えます。
桜の枝との組み合わせが良いんですけど、女子達が離れてくれません
まっ、絵にする時は消させて頂きますけど。
本日のロケのもう一つのメインモチーフが、この小屋の中にあります。
江戸城天守30分の1サイズの模型です。
これまでの実景ももちろんですが、これはスマホではなく、デジカメにて色々な角度から撮影させて頂きました。
こちらは蓄光顔料で描き、現在の天守台だけの景色を暗くすると忽然と現れる様に組み合わせようと思います。
現在の天守台は、寛永期の天守台より一間分低いと説明されてます。
先日東博で観たVR江戸城の映像でも、天守が復元される時天守台も高く変化しましたので、僕もそういう変化をさせようと思います。
あらためて、現段階では、この構図が第一候補かな?
まっ、桜を除けば、何時でも無料でこの場所にロケハン出来ますので、下図制作に入ってから迷ったら、また来れば良いです。
帰り道も桜を楽しみながら歩きました。
2024年4月27日
木枠制作
絹本を仮張りするための木枠を作りました。
木枠の設計図を描いて、必要な角材の寸法を割り出します。
また、ネジや釘の本数が足りてるか確認します。
今日はホームセンターに材料を買いに行ってる間に、電動ドライバーの充電を済ませておこうと思います。
だんだん段取りが上手になってきます。
いつものように、平らな床に表裏ひっくり返して置いてみて、反りの少ない真っ直ぐな角材を選びます。
床に寝かせた2本が選んだ真っ直ぐな角材で、
立て掛けてある2本は選外の角材です。
カットサービスカウンターで、どうカットして欲しいかを図で示します。
必要な材料をエコバッグに入れて持ち帰ります。
一本ささくれた角材がありました。
制作中に怪我をしないように、ささくれた場所を切り取り、ヤスリをかけ、更に布テープで覆いました。
自分の公式サイトから、過去の制作手順のアーカイブを確認し、手順を間違えないようにします。
制作手順を省略無しに全て公表してるのは、他のアーティストへのサービスというより、むしろ自分自身の為の忘備録として役に立ってます。
科学者、研究者は、必ず自分の実験経過を記録しながら、前回までの経過通りか、または改善点を加えながらより良い物を見つけようとすると思います。
僕も、感情任せに無計画に描き進めるタイプではなく、科学者、研究者の様に冷静、合理的に制作を進めるタイプだと思います。
後年、絵にトラブルが発生した時に、過去の制作経過を見直す事で、トラブルの原因を推察し、改善策を見つけられる様になると思います。
自分の絵の品質が、経験を積めば積むほど上がっていく事に繋がります。
アイディアに関しては、閃きに左右される部分があると思いますが、色褪せない、ひび割れ剥落しない、カビが生えないなどの品質は、こうして制作経過を記録しながら、冷静に分析、研究を重ねる事で、運任せではなく確実に自分の作品の品質が向上していくというわけです。
まだ駆け出しの若手とはもちろん、歳だけ重ねてこれまでの経験から学ばないアーティスト達とは、レベルが違うと自負しております。
釘を打つ場所にキリで穴を穿ちます。
こうする事で、いきなり釘を打って角材が割れるのを防ぎます。
組み合わせる角材の木口の中心に釘を打ちたいところでしたが、一箇所、丁度中心位置に木目がありました。
木目は硬いので、ここは中心から少しズラして釘穴を穿ちます。
L字金具を養生テープで固定してから、ネジ穴もキリで穿ちます。
普段力仕事をしないヤワな掌なので、キリを使うと掌にマメが出来ます。
(写真では判別出来ませんでしたが…)
テーブルと椅子の間に挟んで立て掛け、先ずは釘で結合させます。
写真を撮り損ないましたが、木工用ボンドも接着部分に既に塗ってあります。
養生テープを端から剥がしながらネジで留めていきます。
最初の挿入は、手動ドライバーでゆっくり丁寧に真っ直ぐネジを入れていきます。
ネジの真っ直ぐな挿入が安定したら、電動ドライバーに持ち替えて一気に奥まで挿入します。
いきなり乱暴にやっては、ネジが斜めに曲がったり、ドライバーを挿す溝が拡がってしまいます。
あの時の気遣いと一緒です。by エロぞう
L字金具の取付け完了。
強力ながら剝がす事も出来る両面テープを木枠内側に貼ります。
両面テープのシールを剥がし、サッシ隙間テープをその上に貼ります。
サッシ隙間テープで内側をぐるりと囲みました。
下図用のパネルの着脱をスムーズにし、サッシ隙間テープのスポンジ表面を保護するため、養生テープをその上から貼ります。
下図用のP20号パネルをパイルダー・オンさせます。
表から見たところです。
これまで、エロぞうスコープに収まるサイズを念頭に、P10号以内の Hidden Art ばかりを描いてきてました。
しかし、前回の「登龍門」制作から、やはり感動を与え、迫力を感じさせる為には、ある程度の大きさが必要だと思い、エロぞうスコープに収まらない大きさの絵を描きたくなりました。
「一夜城」発表にはエロぞうスコープに頼らない特別な秘策を計画してますので、どうぞお楽しみに!
2024年4月28日
絹本仮張り
木枠に糊を塗る前に、木枠の画面に近い内側にマスキングテープを貼ります。
新しい木枠なので捨て糊を塗っては乾かし、
乾いたらまた塗るをくり返します。
4回目の糊を塗って内側に貼ってたマスキングテープを剥がします。
完成し、剥がした後、糊代部分はシワシワになってしまいます。
軸装の時は、画面の外の糊代は全て断ち切ってしまうのでフラットになりますが、今回はパネルに水張りして額装する予定なので、パネル側面に貼る糊代には仮張り時点では糊をつけない配慮です。
たぶん経験者にしか分からない配慮なので、一般の方は分からなくて結構です。
木枠をいったん壁に垂直気味に立て掛けて緩く貼った後、床に寝かせてしっかり貼っていきます。
余分は断ち切り、左右1cmくらいを外に引っ張りながら、横方向へはピーンと張りながら木枠に密着させていきます。
最後に瓶の腹で扱いて木枠に密着させます。
縦は緩く、左右に引っ張りながら貼ったので、横方向への皺が残ります。
四隅に画鋲を刺して明日までしっかり乾かします。
構図確認
皇居にて取材した写真をPCのPhotoshopにてレイヤーを重ねて構成します。
江戸城も皇居内に飾ってある実物の30分の1の模型の写真を使ってます。
これは江戸城の写真を半透明で重ねたところです。
江戸城模型写真を濃度100%にしたところです。
月や星に見えるのは、模型展示室の照明です。
また蓄光顔料は、緑、青、群青での表現になりますので、背景は群青色になります。
江戸城のレイヤーを見えなくしたところです。
左の松と右の桜は他の角度からの写真から切り取って画面上にコラージュし、元々この角度からの写真に写ってる桜の後方の松は消そうと思います。
明るい時は空に表情をつけて退屈にならない様にするつもりです。
2024年4月29日
ドーサ引き
木枠との糊付け部分が湿って糊が溶け剥がれないようにマスキングテープを貼って保護します。
明礬入りのドーサ引きをします。
僕はかれこれ20年くらい、金箔を押す(貼る)時くらいしかドーサに明礬を入れない手法で描いてきました。
明礬を加える事で、表面が完全に固まり、もうこれ以上膠液が染み込まないように表面がコーティングされます。
僕はある程度可塑性が残ってた方が、上から被せる絵具と溶けて馴染んだり、洗い取る事も出来るので、敢えて序盤のドーサには明礬を溶かさない方法を取ってきました。
全然滲まないというのも味気ないですし。
ところが、蓄光顔料は、膠分の吸収力が貪欲で、完成したと思った後も、膠や糊を吸ってしまいます。
出来上がった作品の裏打ちをした後、その糊を蓄光顔料が更に吸い取ってしまうと裏打ち紙の一部が剥がれてしまう事を経験しました。
そういう訳で蓄光顔料を使った作品に関しては、最近また明礬入りのドーサも使うようになりました。
特に今回は細密な江戸城がモチーフです。
滲みのないシャープな猫写が必要ですので、最初から明礬入りのドーサで滲み止めするという手順を採用します。
自分自身で試行錯誤しながら技法も柔軟に変えていってます。
また、表現する対象によって、滲み、ぼかしが必要な物と、シャープな猫写が必要な物とによって、滲み止めの加減も、その都度柔軟に変えます。
ドーサ引き一塗り目です。
引いた直後から緩かった縦糸がみるみる縮みはじめます。
一塗り目が完全に乾いたら、画面を180°回転させて反対側から二塗り目を引きます。
乾き待ちの間に、「泥中に咲く」をエロぞうスコープⅣと一緒に、今度はパリの展覧会を企画してる会社に宅配便を使って搬入しに行きます。
送り主が企業じゃない場合は、一点物の美術品を運送会社が宅配便としては受け付けてくれなくなりました。
品名で使うのは「おもちゃ」が最適です。
ある意味エロぞうスコープは、おもちゃみたいなエンタメグッズですから。
本画トレース
現状の天守台の写真を裏から透かして鉛筆で本画にトレースしていきます。
現在の天守台は、復元させる寛永度の江戸城の天守台より面積が広く、高さが低いので、PCの画像編集ソフトを使って、蓄光顔料で復元させる寛永度の江戸城に滑らかに繋がるよう、比率を歪ませてます。
写真をそのまま移すのではなく、それとは気づかれない様に作画上のウソをついてる訳です。
写真からトレースするなんて、手抜きだと思われるかもしれませんが、輪郭線のハッキリした漫画やイラストをトレースするのと違い、写真からのトレースって、トレースした後の描写力が無いとリアルに再現するのは難しいですよ。
裏から白い紙を当てても、薄っすらアタリが見える程度です。
この後は、写真と見比べながら骨描き、隈取りしていかないとリアルに見えてきません。
合成し画面構成に加える桜の枝も写真を差し込み鉛筆でトレースしました。
漫画やイラストと違い、現実には輪郭線というものは存在しません。
なので、重なりあう物同士の明度差がハッキリした部分だけが、便宜上の輪郭線を引けますが、明度差が曖昧な部分も多いので、写真からのトレースは、実際に写実的な絵を描かない人々が思われてるより簡単な方法では無いという訳です。
膠液が残り少なくなってきましたので、使い果たす前に、次に溶かす膠を水に浸して冷蔵庫で保管しておきます。
先々を見越して段取り良く準備しておくのも大切です。
2024年4月30日
桜の彩色
最初は、写真を下から透かした状態で、濃く溶いた臙脂で赤味の濃いところを彩色します。
次に薄く溶いた臙脂で全体的に彩色します。
薄墨で枝を描いてから、
写真を裏から取り出して、写真を観ながらだんだん仕上げていこうと思います。
桜の様な淡い濃淡の写真は、絹本の下から透かし観てもよく分かりませんので、直接見比べながら彩色していきます。
また、輪郭線を骨描すると固くなってしまいますので、骨描きせずに、朦朧体で絵具の濃淡で描き進めていこうと思います。
墨や臙脂は、薄いものを何度も重ねながら濃淡に変化をつけていきます。
棒群青で陰影もつけます。
ひたすら濃淡の変化を少しずつつけていきます。
濃墨を加えたり、ガンボージと洋藍とを混ぜた緑も加えます。
極極淡い絵具の濃淡で花を描いていきます。
仕上げは、臙脂と棒群青とを混色した紫色を陰の色として被せ、桜の花の出来上がりです。
面積的には全画面のうちの狭い範囲ですが、本日はほぼ、桜の猫写だけで1日掛かりでした。
桜のとりあえずの完成。
もちろん裏彩色を始め、全て一通り描いた後、バランスを整えるため、再び加筆する可能性は大いにあります。
天守台のトレース
現状の天守台を描こうと思います。
こちらは最初から写真を表に出し、
判別し難かった部分は、直接見比べながら鉛筆で加筆して、
骨描していきました。石垣の様に硬いものは骨描きが適してます。
写真からトレースしたところで、結局は筆による猫写力が絵の出来を左右するという事が分かって頂けたと思います。
写真からトレースしたら素人でも上手に描ける訳では無いですし、プロの画家や漫画家が写真をトレースした事を批判するようなニュースがこれまで何度かありましたが、オリジナルの写真の著作権を持った人か団体に使用許可を取れば問題無いですし、まして自分自身で撮った写真をトレースすることは、ズルでも手抜きでもありません。
仕事の効率化をするために猫写のアタリをトレースするのは合理的だと思います。
結局トレースしたアタリは、目安程度で、最終的には画家の描写力が優れて無ければ、トレースによって写真の様なリアルな描写が誰にでも描ける訳では無いのです。
2024年5月3日
天守のディテールアップ
左右反転させた写真を表側から貼る前に透明シートを貼ります。
写真を差し込み、裏から見ますが、絹本を通して観るとディテールが不鮮明でボヤケてます。
このままでは写真から細密な下図をトレースすることは不可能です。
先ずロットリングにて輪郭線を描き起こします。
拡大写真。
次にグレーカラーのアルコールツインマーカーにて、陰影をよりハッキリさせます。
拡大写真。
次にアクリルホワイトで明部を明るくします。
寛永度江戸城の壁面は漆喰の上に黒い銅板を張って耐久性を強化してたそうで、一見、黒く見えます。
黒い下地のまま、銅板の輪郭線を引いても、絹本を通して観ると輪郭線が判別出来ません。
とても面倒で骨の折れる作業でしたが、銅板をアクリルホワイトで明るく描き起こすことで、銅板の輪郭線がハッキリしてきました。
まだ全て明るくしてませんが、初重(一階)の銅板を明るくし終わったところで、
絹本の下から透かし観てみました。
これなら銅板の輪郭線もトレース出来そうです。
一通りコントラストとディテールアップが完了しました。
壁面の銅板は、最終的には黒っぽく、あまり発光しないように仕上げるつもりですが、最終的に見えにくいディテールも、最初はいったん細密に描いて、段々見えにくく抑えていくつもりです。
明日以降は、裏彩色の骨描きに入ろうと思いますが、自分の Hidden Art 制作史上、最も細密な描写になりそうです。
今月中にもう一枚、制作を計画してた Hidden Art の新作の計画は頓挫してしまいましたが、一夜城の制作だけで手一杯になりそうなので、もう一枚の制作が頓挫して良かったと考えます。
2024年5月4日
胡粉による骨描き
先ずは胡粉による骨描きをしようと思います。
空摺りして、
膠液を加えます。
現状使用の膠液が残り少なくなってきましたので、
2日前から水に浸して冷蔵庫で保管してた新たな膠を溶かしておこうと思います。
胡粉団子を溶かし、
溶かし終えてから5分ほど放置した後、上澄みだけを小さな絵皿に移し、こちらを絵具として使います。
大きな絵皿にに沈殿した胡粉は、勿体ない様ですが捨てます。
表側から下図とする写真を位置を合わせて貼ります。
テーブルの高さに合わせて、キャリーケースとその上に本を重ねます。
手が届きやすい様に、画面を逆さまにして、裏から胡粉での骨描きをしていこうと思います。
透けて見える写真は不鮮明ですので、別に模型をクローズアップで撮影した写真を参考にしながら描いていきます。
透けて見える輪郭線をなぞるというより、透けて見える写真は位置の目安で、実際には直接見えてる鮮明な写真を参考に描写していくわけです。
胡粉で骨描きし始めましたが、どうも明礬入りのドーサを引いた絹本に思い通りのシャープな骨描きが出来ません。
弾かない様にハッカ油も加えてみましたが、絹の繊維の網目のせいか、胡粉を含ませた面相筆を滑らかに運筆させることが出来ませんでした。
絹の網目が粗く感じるほど、今回の描写がいかに細かいか思い知らされました。
蓄光顔料による裏彩色
作戦変更です。
面相筆が滑らかに運筆出来ないなら、蓄光顔料を置いていくように彩色していくことにします。
蓄光顔料も保存中にダマになりやすいので、軽く空摺りして粒子をバラけさせます。
最上重の金箔部分から、緑に発光する蓄光顔料を筆先で置いていくように彩色していきます。
暗室代わりのトイレで確認します。
赤や黄色に光る蓄光顔料もありますが、発光が弱く、青系の蓄光顔料と併用すると、青や緑の発光に負けてほとんど視認出来ません。
しかも赤系の蓄光顔料は、明るい時も、赤や黄色の色をしてるので、完全に隠せませんし、どうやら硫黄分を含んでいるようで、筆がボロボロになります。
赤や黄色の硫黄分を含んだ蓄光顔料を、筆と同じ生物由来の有機物である絹本に塗ると、絹が溶けて穴が開く恐れもあります。
なので、金箔部分は緑の蓄光顔料で彩色して、群青色の蓄光顔料で空を塗った時に、相対的に黄色味を感じて貰えれば良いと判断しました。
四重目、三重目も同様に彩色していきます。
こんな感じです。
二重目や初重は、画面を横向きにして描きます。
手が届きやすい様に、画面を回します。
蓄光顔料は粗いので、筆先の利く面相筆をつかっても、蓄光顔料を含むとどうしても筆先が膨らんでしまいます。
おそらく今回は蓄光顔料で描ける細部猫写の限界へのチャレンジになると思います。
近距離用の眼鏡も外して、裸眼で棟方志功の様に顔を近づけて、一筆一筆、慎重に蓄光顔料を置いていきます。
顔も近づけて描く必要から、画面を横にした時は、先ず、左半分の彩色だけをして、
右半分は、画面を180°回転させてこちら側から彩色しました。
今日は丸一日掛けて、これだけの描写しか出来ませんでした。
大きなお月様に見えるのは蓄光顔料が入った絵皿です。
江戸城の金箔部分の彩色は、本日後半に彩色した下層ほど発光が弱くなってます。
明日以降も重ね塗りをして下層の方の発光も高めたいと思いますが、今晩は、ここで力尽きました。
続きはまた明日。
2024年5月5日
昨夜の続きから始めます。
金箔が貼られた部分を、緑に光る蓄光顔料にて彩色の続きです。
先ず、画面の右側を手前にして塗り重ねます。
暗室代わりのトイレで確認します。右半分が明るくなったのが確認出来ました。
前の投稿で動画をアップした細かな描写の様子です。
左半分も塗り重ねました。
金箔部分の彩色完了しました。
次に銅瓦葺の彩色に入ります。
建造当初は銅そのものの色だったそうですが、直ぐに酸化して緑青色に変化したそうです。
東博で「VR江戸城」を観たときに、スタッフから、「上野東照宮の五重塔の銅瓦葺と同じ色だったそうです」と聞き、東博を出た後、五重塔を観察してイメージを定着させてました。
緑に光る蓄光顔料は、相対的に黄色く光って見えるようにしたいので、
銅瓦葺の色には、青く光る蓄光顔料と緑に光る蓄光顔料とを半分ずつブレンドして緑青色を作ろうと思います。
蓄光顔料同士の混色は今回初めてです。
比重に大きな違いが無ければ、2色の中間の色に混ざっているはずです。
トイレの便座カバーの上に置いて撮影。
写真で観ると緑が勝ってるように見えますが、肉眼だと2色の中間の緑青色に光ってました。
ほんの一部分を塗ってから、
トイレで確認。
まだ一塗り目で、発光は弱いですが彩色出来てます。
今度は左半分から彩色していきます。
細かい(細い)銅瓦葺の描写も粗い蓄光顔料で描いて行けそうです!
左半分の銅瓦葺を一通り彩色しました。
日が暮れたので、アトリエの照明を消して確認します。
まだ発光が弱いながらも、蓄光顔料でここまで細かく塗れる手応えを感じました。
右半分も彩色していきます。
一通り銅瓦葺の彩色をしたところです。
更に塗り重ねて銅瓦葺もだいぶ発光してきました。
写真では、金箔部分の緑と、銅瓦葺の緑青の色の違いが判りにくいですが、肉眼では両者の発光の色の違いはちゃんと区別出来ます。
なお、上で光ってる絵皿の様に、江戸城の上に月が光ってたらカッコいいと思いましたので、月も描こうと思います。
方角的に北北西(11時の方角)なので、満月は見られないはずですが、三日月なら見られると思います。
まぁ、どのみちフィクションなので、満月にしちゃっても良いかなとも思いますが
2024年5月13日
桜は夜も光って見えるように蓄光顔料で裏彩色します。
蓄光顔料でメインに使えるのは蓄光力、発光力共に高い、緑、青、群青の3色です。
3色の中で一番白く感じさせる、青く光る蓄光顔料を桜の裏彩色に選びます。
暗室代わりのトイレで確認します。
銅葺瓦も、面相筆に持ち替えて青く光る蓄光顔料で重ね塗りしていきます。
画面を横にして、手が届きやすい画面左半分を彩色し、
180°回転させて、画面右半分の銅葺瓦も細い線で重ねていきます。
トイレで確認。
日が暮れたので、アトリエの照明を消して確認出来るようになりました。
銅葺瓦もだいぶ明るくなりました。
桜も更に重ね塗りして明るくしました。
松の表彩色
裏彩色用の左右反転させた写真をいったん剥がします。
剝がす前に、また貼るときに同じ位置に貼れるよう印をつけました。
アクリルシートも、木枠に印をつけてから剥がします。
松の写真を、今度は裏側から貼ります。
木枠にピッタリハマる木製パネルをパイルダー・オンさせて、
表側にひっくり返します。
最初は、裏側から写真を透かして、大まかなアタリをつけます。
絹本を通して透けて見える松は不鮮明ですので、薄墨でだいたい一通り描いたら、
裏から剥がして上に出し、直接写真を観ながら濃淡をつけて描いていきます。
本日はここまで。
2024年5月14日
裏彩色による隈取り
下図の陰影をもっとハッキリさせようと思います。
加筆前
加筆後。
違いが微妙過ぎて、たぶん分かってもらえないと思います。
裏彩色用の下図から、隈取り(=陰影の濃淡をつけること)するための加筆です。
絹本を透かして観た時に、より陰影のコントラストを上げる加筆をしたという訳です。
アクリルシートを表から貼り、
更に裏彩色用の下図を再び伏せて貼ります。
最初、胡粉で骨描きしようとしたら、たぶん微粒子過ぎて絹本の織り目に弾かれて上手く乗せられませんでした。
その後、骨描きの手順を飛ばして蓄光顔料にて裏彩色したら、粒子が程よく粗いため、絹本繊維に食いつきやすく感じました。
なので、裏彩色の隈取りを今回は胡粉ではなく、少し粗い13番の方解末に、インド旅行で手に入れた謎の鉱物のブレンドでやってみようと思います。
英語ネイティブではないインド人が表記した鉱物の名前の綴りからは何の鉱物かは分りません
宝石を売ろうとやってきたセールスマンに、
「僕はジュエリーには興味が無い。宝石を削る時に出来るストーンパウダーなら欲しいけど」と断ったら、「明日の同じ時間にまた来る」と言って、翌日額に玉の汗を浮かべ、「昨日から家族総出でストーンパウダーを作った」と言って持ってきた絵具の一つです。
ラピスラズリなど、欲しいストーンパウダーと、正直いらないと感じたストーンパウダーとが混ざってましたが、宝石商のご家族の苦労に報いる為、全てのストーンパウダーを買い取らせて頂きました。これまで使い途がないまま、もったいないから捨てずにとっておいたその時の絵具の一つです。
白過ぎる方解末を、蓄光顔料の明度に近づけるため混ぜるのにちょうど良い暗さでしたので、これを選びました。
このままでは粗すぎるので、乳鉢で更に細かくしようと思います。
細かくしました。
絵皿に半分ずつ出してみました。
肉眼だと方解末と、ナゾの鉱物を空摺りしたものの色の違いは判るのですが、日中の写真だと、明暗のコントラストが強すぎて、微妙な色の違いが分かりにくいですね。
膠で練ってぬるま湯を加え撹拌したものです。
幸い、比重の違いはほとんど無く、分離せず中間のグレーに混ざってくれました。
軒下の凹凸部分を、胡粉で骨描きし始めた痕跡です。
弾いたり拡がったりしてシャープな描写が出来ませんでした。
久し振りにハズキルーペも使ってみましたが、結局、裸眼で画面に顔を近づけて描くのが一番描きやすいとなりました。
絵具自体は粗いですが、推測通り、胡粉より絹本の織り目に食いつきやすく感じました。
透けて見える写真と、直接見える写真両方を観ながら陰影をつけていきます。
隠し絵の為の陰影なので、明るいところで見たときは、明度差を感じさせてはいけません。
絵具の塗り厚を変える事で、最後に塗る蓄光顔料の発光具合に濃淡をつけるという訳です。
漆喰の壁を補強する銅板の継目や、
千鳥破風を飾る青海波文(Wifiのマークに似た文様)も、完璧には再現出来ませんが、ニュアンスでそれっぽく描写していきます。
完成後もどれだけディテールが判別出来るか分かりませんが、見えるか見えないかの微妙な描写に手間を掛けることで、完成後のクオリティに違いが出る事を信じてやるしかありません。
まだ全て終わってませんが、裏からの隈取りの効果がどれほどのものかを確認するため、本日の仕事の終わりに、いったん下図を剥がします。
蓄光シートは緑に光る物しか持ってませんが、これを下に置き、
アトリエの照明を消して確認。
あちゃー、陰影としての被覆力がまだ全然薄かったです。丸一日頑張ってこれだけか〜。
めちゃくちゃ細かい描写をこの先何度も重ねる必要があります。
まあ、でも、一気に暗くはならないという事は、それだけ明暗の幅が豊かに表現出来るという事です。
地道に塗り重ねながら、濃淡に幅をつけて行くしかないです。
細い線を引くため、筆を持つ指に力が入ってますので、1日の終わりには指先にしびれが残ります。
いったいいつになれば、日々の苦労が報われる様になるのだろうか…。
インドの宝石商も、単なるバイヤーではなく、製造者だと知って全て買い取りたくなりました。
現代は作る人にお金が入らず、商売の上手い人達だけがずる賢く儲けています。
価値あるものを生み出す人こそ、正当に評価され、価値に見合った報酬が得られる世の中になって欲しいと思います。
2024年5月15日
制作途中のドーサ引き
裏彩色の絵具が、絹本の網の目から表側に抜けてしまってますが、制作序盤は想定内です。
絹本での制作では、制作前に絹本にドーサを引いても、網の目の隙間から絵具が通り抜けてしまう事があります。
ある程度描き(塗り)進めて、絹本の網目が絵具で埋まってきたところで、網目を埋める絵具もろともドーサで固めると、抜けないコーティングが完成します。
絵具が反対側に抜けて、下図に染み込むのを想定し、それを防ぐ為に、間にアクリルシートを挟んでました。
見事に抜けて、アクリルシートに着いた絵具です。
この先も、度々制作途中に引くと思いますが、
この段階で、いったん明礬入りのドーサを引いて、現在まで着いて絹本の網目を埋めてる絵具もろとも固め、網目から抜けない様にコーティングします。
アクリルシートに着いた絵具も、いったん綺麗に拭き取ります。
この後出掛けますので、本日の制作はこれだけです。
2024年5月16日
絵具と筆の相性
谷中の老舗日本画材店 谷中得應軒に寄って、「一夜城」の制作に必要な画材を買ってきました。
また、数日前に通販で注文してた蓄光顔料も届きました。
蓄光顔料は筆や刷毛に含むと、筆や刷毛が膨らみ、なかなか画面へ下りてくれません。
高価な金泥刷毛は、やはり最も高価な金泥を無駄無く画面へ下ろし、無駄に刷毛に留めないよう、下りの良い性質を持ってます。
ただし金泥刷毛は写真左の4.5cm幅のものでも7,000円超えでした。
谷中得應軒の女将さんから、毛束が薄い刷毛メーカーのものを提案され、そちらは金泥刷毛の半額以下でしたが、蓄光顔料の下りが良さそうです。
全てを横向きから撮影してみます。
左が今回、蓄光顔料用に購入した刷毛です。
中央や右の連筆と比べ毛束が薄いのが分かると思います。
通常の絵具を塗る時、僕は右の含みの良い連筆を愛用してきました。
含みが良い方が、塗り始めと塗り終わりの濃淡差が少ない長所となってきましたが、蓄光顔料の様に筆や刷毛に溜まりやすく、画面に下りにくい絵具の場合はそれが短所になってました。
使う絵具の性質によって、相性の良い筆との組み合わせも変わってくるという訳です。
2024年5月17日
方解末とインドで購入した謎の鉱物とのブレンド絵具で、裏からの骨描きと隈取りの続きです。
部分アップ
日が暮れたので、蓄光シートを下に敷き、
アトリエの照明を消して確認します。
まだまだ全然薄いです。
蓄光シートを下に敷き、暗闇の中で骨描き、隈取りをしましたが、細か過ぎて暗闇の中の描写はきつかったです。
それでも少しはハッキリしてきました。
暗いテーブルの上に置いて、白が薄いところを濃くしていく方法に切り替えました。
弱いとはいえ、もう一通り下図からのトレースは完了したので、あとは既にトレースした線や陰影を重ね描き、重ね塗りしていけば良いわけです。
部分アップ
だいぶハッキリしてきました。
壁を補強する銅板は黒っぽいので、蓄光顔料の発光を抑える為に面としても塗りました。
ありゃりゃ、銅板を一塗りしたら、思いのほか銅板の継ぎ目が目立たなくなってしまいました。
これは、裏彩色の骨描きと隈取りをもっとハッキリさせる必要があります。
部分アップ
同じく部分アップ。
千鳥破風(=三角屋根部分)の陰影のコントラストも弱いので、明日以降も細かな描写を重ねる必要があります。
今晩は力尽きたので続きはまた明日。
2024年5月18日
胡粉による裏彩色の骨描と隈取り
絹本を透かして観るとボヤケて視認し難いディテールがあります。
今日は下図を裏側の上に位置を合わせて留め、間に念紙を挟んでボールペンでなぞってトレースしてみます。
軒下の梁の間の暗がりなどをトレースで写しました。
大き過ぎて細部の比較がし難かったので、下図の写真を分割しました。
そして今日は一番粒子のきめ細かい胡粉にて骨描きや隈取りをしていこうと思います。
部分アップ。
梁の間の暗がりなどを胡粉を重ねる事で、光を通さない様にしていきます。
つまり、裏彩色で白さが濃いほど、暗くして蓄光顔料を発光させた時にはより暗くなるという訳です。
「一夜城」は、昼間は天守台の上の空が大きく見える作品になります。
雲に表情をつけて、昼間の絵柄も、ちゃんと絵として見応えあるものにしたいと考えてます。
最近は窓の外を見たり、外出するたびに、空の観察や、写真を撮るようにしてます。
これは夕食の買物に出たときに本日撮った写真です。
微粒子の胡粉による描写は、筆先が効き、細部描写がしやすいと感じました。
粒子の粗い蓄光顔料と、方解末とで、ザラザラした下地が出来てる上への描写は、胡粉の乗りも良く、これまでの下仕事も無駄ではありませんでした。
ある程度、胡粉でディテールアップしたところで、日が暮れましたので、下に蓄光シートを敷いて確認してみようと思います。
全体
部分アップ
だいぶピリッとしてきましたが、まだ陰影の弱いところも確認出来ました。
継続して描き続け、本日の最終段階です。
蓄光シートを下から光らせて本日の最終段階を確認します。
先ずは全体から。
部分(上)
部分(中)
部分(下)
胡粉によるディテールアップは、筆先が効いて描きやすい事が実感出来ましたので、昨日まで方解末13番とインド産絵具のブレンドで描いてきた細部描写を、あらためて胡粉でも、より緻密に描いていこうと思います。
まだ数日、指先も足も痺れる細かな描写の日々が続きますが、ディテールに魂が宿ると信じて、出来る限りの手間を掛けようと思います。