「時音〜Tokine 」制作工程

こちらから⇒【Hidden Art】「時音~Tokine」詳細ページがご覧いただけます。



新作プロジェクト開始

今度はメカの絵に挑戦!

照明を消すと中のメカが浮かび上がる時計の絵を思いつき、制作を開始しました。

日本画家 佐藤宏三「懐中時計 pocket watch」制作開始

依頼主の時計修理工房店主との打ち合わせにて、内部をそのまま馬鹿正直に透かしても、つまらない事が解ったので、内部の基本構造を理解した上で、絵にした時に面白いメカを抽出して下図制作に入ります。


7月30日

立体模型

まずは、下図制作の為の立体的な模型造りです。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」懐中時計

現在、修理工房で預かってる100年以上前に製造された懐中時計です。

明るい状態では、このように見えるように描くつもりです。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」懐中時計内部

文字盤の直ぐ下のメカはスッキリシンプルで、メカの描き応えがありません。

この階層のほとんどは透かし、この下層の歯車を中心に描こうと思います。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」懐中時計内部

裏側にひっくり返すと中のムーブメントが複雑に観察出来ます。

中のメカは、このムーブメントを描こうと思いますが、表側から透けて見える設定なので、歯車の重なり順を立体的に反転させて描く必要があります。

そこで立体的な模型を造り、内部の歯車の重なり具合を確認することにしました。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」模型工作

歯車の下図の裏にスプレー糊を吹き付けます。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」模型工作

裏から撮影した写真の拡大コピーにも同様にスプレー糊を吹き付け、

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」模型工作

2mm の厚さのスチレンボードに貼り付けます。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」模型工作

裏からの写真のパーツを切り抜きます。

裏の金具には段差がありますので、高さを出したいパーツは2枚切り取り重ね貼りして厚みを持たせます。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」模型工作

右側がくり抜いた裏の金属パーツです。

上は、裏からの写真を左右反転させてプリントアウトしたものです。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」模型工作

左右反転させた写真の下に念紙を挟み、赤ボールペンでなぞり、スチレンボードに裏パーツの位置の目安として転写します。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」模型工作

トレースし終わったところです。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」模型工作

歯車の比較的大きなパーツからくり抜いてみます。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」模型工作

最初に歯車のギザギザを切り、

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」模型工作

その後、丸く、くり抜きます。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」模型工作

くり抜き終わった後、アートナイフにてギザギザを整えましたが、これは骨が折れます。

実際に動くメカを作ってる訳ではなく、あくまでも下図を描く時の参考にする模型ですので、完璧は目指しません。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」模型工作

さらに細かい歯車のギザギザを作ろうとして挫折、妥協することにしました(笑)。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」模型工作

竹ひごを2cm間隔で切ります。
先ずノコギリで切れ目を入れ、

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」模型工作

最後は手で折って分割しました。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」模型工作

時計修理工房店主からお借りした設計図を見ながら、各歯車を竹ひごの軸を使って刺して重ねていきます。

基本的な時計の構造はどれも変わらないという事で、今回は、この設計図の直径を参考に各歯車のサイズを決めました。

実際に描く懐中時計とは各歯車の大きさが若干異なるようです。

ここから先は、この立体模型を依頼主のところに持っていき、寸法や位置の微調整、歯車の重なり具合を確認して修整していきます。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」模型工作

上は、写真。

下は、先ほどの模型を裏返してボードに刺し直した状態です。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」模型工作

大まかな歯車の重なり具合は、大体合ってるかな?って思います。

あとは、専門職に観てもらう事にします。

日本画家 佐藤宏三「懐中時計 pocket watch」立体模型

今晩の最終段階です。

来週、依頼主の時計修理工房に持っていき、改善点を教えて貰います。

現段階でおかしなところは、都度修正していきます。


8月12日

模型検証

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」依頼主店舗入口

こちらが埼玉会館正面にある
時計修理工房「時音」入口です。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」模型工作

下図の元にする模型を持参し、店主に確認してもらいました。

歯車の組み合わさる順番が、時計によって違いがある部分と、違ってはいけない部分の説明を聞いたりしました。

アドバイスを元にまた改良してみます。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」依頼主「時音」オーナー

美大進学予備校時代の教え子で店主の齋藤澄人さん。

参考になる図面を探してくれてる様子です。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」模型工作

イラストで、参考になる部分と、ちょっとおかしな部分の説明もしてもらいました。

僕も、下図段階で、また彼に確認してもらいながら、描き進めていくつもりです。

このように僕は、下図段階で専門家にも考証して貰いつつ制作をしてますので、安い絵にはなりません。


8月13日

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」模型工作

「時音」店主のアドバイスに従って、模型の手直しをしてます。

本日はここまで。


8月14日

下描き1

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」下描き

懐中時計 中の下描きを開始しました。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」下描き

店主から
「テンプが時計の心臓部なので、そこが良く見えるような構図で」と言われましたので、

一番手前にテンプがくる向きに模型を置き、それを参考にしながらスケッチをはじめました。

結果的に表の時計と左右反対向きになりましたが、

描き終わったら左右反転させてトレースするつもりです。

水張り

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」水張り

時計制作の為の紙を水張りします。

裏側に、水刷毛にて格子状に水を引きます。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」水張り

水が和紙に染み込むのを待つ間に水張りテープをちぎります。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」水張り

表にひっくり返し、側面への折り目をつけます。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」水張り

最初に紙と水張りテープとをくっつけてから、パネル側面に貼ります。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」水張り
日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」水張り

時計制作用の紙の水張り完了です。

下地づくり 水晶末

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」和紙

時計制作用の水張りした和紙も、結構表面が粗いです。

蓄光顔料の発光を高めるためと、平滑な人工物がモチーフなので、こちらは和紙の繊維の凹凸を埋める様に、下地を塗ってから描き始めようと思います。

描く対象によって、和紙の繊維を活かしたり、下地を塗って平滑にしたりと、下地段階から手順を変える訳です。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」下地づくり 天然水晶末

天然水晶末を空摺りして、精製され市販された状態から更に粒子を細かくします。

こういう一手間も、作者の品質に対するこだわりです。
日本画家の方なら、試しにやってみると、市販のまま使うより、空摺りしてから溶いた方が水晶末がよりきめ細かくなる違いが歴然と実感出来るはずです。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」下地づくり

一塗り目

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」下地づくり

乾いたら、パネルを180度回転させて反対側から二塗り目

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」下地づくり

完全に乾いたら水晶末を固める為、ドーサを引きます。

これが乾いたら下地完了です。


8月18日

下描き2

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」下図制作

文字盤の針や外側の金具をロットリングで描き、内部のメカをフリーハンドにて鉛筆で描きます。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」下図制作

先の下描きをスキャナーで取り込み、PCのドローソフト(Adoae Illustrator)にて歯車の楕円を被せます。

メカの絵を描くのにフリーハンドにこだわって、下手くそに歪む方が恥ずかしいと思います。

PCソフトと手描きとのハイブリッドにて描き進めていきます。

最終的には全て手描きになりますが、下図段階では、僕は定規、コンパス、PCソフトも使ってます。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」下図制作

先の画像をプリントアウトして、また新しい紙にトレースしました。

今日はここまで。


8月19日

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」下図制作

昨日トレースしたものから、歯車の噛み合わせも考慮し、微妙に位置調整してから、歯車を描き始めます。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」下図制作

竜頭からの連動部分と、ネジの位置や数、描き方は、三度、依頼主の時計修理工房店主と相談してから描こうと思うので、一旦この段階で中断します。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」下図制作

本日の最終段階です。


8月21日

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」下図制作

夕方、依頼主の時計修理工房に出向き、アドバイスを聞き、その場で怪しかった構造や、足すパーツ、隠すパーツなどを修正しました。

また、ここまで描き進めたからこそ気づいた根本的な修正点も店主に確認しましたので、たぶんまたもう一枚下図を描き直す事になると思います😅

今日は昼間の政治的な会合が、有意義かつ、そこでエネルギーの大半を費やしましたので、絵の仕事はこれだけ。
明日からまた頑張ります。


8月22日

下描き3

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」下図制作

スキャナーにて2枚目の下図を取り込みました。

時計本体は水平に置いて撮影したつもりでしたが、裏蓋の上部に出っ張りがあったのか、楕円の軸が斜めに傾いてました(青い補助線)。

本体や秒針の楕円の傾きに対して、中の歯車を水平な軸の楕円で描いてしまってましたので、これを一致させようと思います。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」下図制作

Adobe Illustrator にて、各歯車の位置に合わせ、軸を傾けた楕円を重ねます。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」下図制作

新しい紙に、新たにトレースし直します。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」下図制作

トレースし終わったところ。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」下図制作

本体外側はロットリングで実線を描きます。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」下図制作

新たにトレースした楕円の補助線に合わせ、歯車を描きこんでいきます。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」下図制作

今日はここまで。


8月24日

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」下図制作

依頼主の時計修理工房店主から、竜頭から連動する歯車パーツを借りて参考にします。

懐中時計より更に小さい腕時計用のパーツなんで、ちっちゃい😅

転がらない様に、練りゴムの上に固定して観察します。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」下図制作

修正しながら描写します。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」下図制作

更に修正を重ね、陰影もつけていきます。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」下図制作

テンプの周りのネジの位置も、他のパーツとの重なり具合も考慮し、何度も位置を変えて描き直します。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」下図制作

位置が確定したところで、筆圧を高め、決めの描写をし、陰影もつけます。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」下図制作

とりあえず、内部構造の下描きは一段落。

これを依頼主に見せて、OKが貰えれば下描きの最終仕上げに進みたいと思います。


8月27日

「時音」店主にチェックしてもらい、細かなパーツを描き足しました。
また、本画にトレースする前に、歯車の描写の修正点を教えて貰いました。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」下図制作

仕上げはこの向きに描くので、これまで描いてきた下図を左右反転させプリントアウトしたものにパーツを描き足しました。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」下図制作 参考資料

このパーツは、古くて高い時計にしか付いてないそうです。
100年前に製造された高級懐中時計ならではのパーツなので、是非描き足して欲しいとリクエストされました。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」下図制作 参考資料

実はこれまで歯車は、左の様に描いてきてました。
「時音」店主から、時計の歯車は、よりスムーズに回転が伝わるように右の様になってると教えて貰いました。

予備校時代は、藝大を目指す浪人生として、僕の生徒でしたが、今回は彼が僕の先生です。

このスケッチは、どちらも元生徒の店主によるものです。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」下図制作 参考資料

確かに時計の構造を伝える図鑑の表紙のイラストを見ると歯車の形がそのようになってるのが分かります。

下図を描き直すのは面倒なので、本画にトレースする段階や、骨描き段階で、このように歯車を描きたいと思います。


8月29日

下地づくり 蓄光顔料

「時音〜Tokine〜」本画制作
作品の題名を依頼主の時計修理工房の店名「時音」としました。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」下図制作

念紙を挟み、ボディと針だけトレースします。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」下図制作

トレースし終わったところ。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作

墨で骨描きします。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作

蓄光顔料は、長期保存してると粒同士がくっつき、ダマになるので、空摺りしてから膠で練ります。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作

文字盤の内側にはグリーンの蓄光顔料を、
背景には群青色に光る蓄光顔料を全面に塗ります。

歯車の描写は細かく、粗い蓄光顔料での細部描写は難しいと考えました。

なので、今回は応用編で新技法を試してみたいと思います。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作

一塗り目を終えたところです。
背景に塗った群青色に光る顔料は、緑色より輝度が低いので写真ではほとんど分かりません。

一塗り目が乾いてから重ね塗りしていくつもりです。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作

一塗り目が乾いたので、アトリエの照明を消して二塗り目をしたところです。

背景の群青も少し見えてきました。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作

明るくして見るとこんな感じです。

内部の歯車を描き始める前に、むら無く光る下地を作ろうと思ってます。


8月30日

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作

まず、昨日まで塗って乾いた画面を紙ヤスリで均します。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作

掃除機のブラシヘッドで粉塵を吸い取ります。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作

ヤスリ掛けした後の光具合を確認します。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作

ドーサを引いて定着させます。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作

画面を逆さ向きにして、昨夜とは反対側から蓄光顔料を重ね塗りします。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作

乾いたらまた絵を元の向きに戻して蓄光顔料を塗り重ねます。

塗り重ねる時は、照明を消して、発光が弱いところを重点的に重ね塗りします。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作

蓄光顔料で光らせない部分の絵具層の厚みも一定させるため、水晶末を塗ります。

絵具専門店で既に微粒子の白(びゃく)番として売られてますが、それを空摺りし、更に微粒子に整えてから膠で練ります。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作

外側のリングと竜頭に水晶末を塗ったところです。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作

本日の最終段階を照明を消して確認したところです。

明日またヤスリ掛けして、蓄光顔料をもう一重ねしたら次の段階に進めそうです。


8月31日

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作

紙ヤスリで均し、掃除機のブラシヘッドで粉塵を吸い取ります。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作

ドーサを引いて定着させます。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作

ドーサを引いた直後の暗くした写真です。

ドーサを入れた絵皿に、取れた蓄光顔料が光って見えるように、ドーサを引くと、定着力が弱かった絵具は連筆に持っていかれ取れます。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作

ドーサが完全に乾き、日が沈んだら、また蓄光顔料を塗り重ねます。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作

今晩の一塗り目を終えたところです。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作

暗くするとこんな感じです。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作

今晩の二塗り目は、表面の蓄光顔料の塗り厚の段差が分かりやすいように画面を立て掛けて行ないました。

二塗り目の絵具には、膠液とぬるま湯を足し、水分多めにし、厚塗りの絵具層を溶かし、滑らかに谷間に均す様な塗り方をしました。

これは、蓄光顔料による彩色技法の進化系です。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作

寝かせて暗くして撮影。

スマホのカメラだと、今までとの違いがほとんど分かりませんが、三日三晩塗り重ねて、だいぶ光り方のムラが無くなってきました。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作

まだ乾いてませんが、再び絵具の段差が分かりやすい様に、画面を立て掛けて撮影しました。

立て掛けるとやはり凹凸が目立ちますので、これが完全に乾いたら、またヤスリを優しく掛けて、より滑らかにしようと思います。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作

画面だけの写真です。

ヤスリで均し、ドーサを引いたら、いよいよ次の段階に進みたいと思います。


9月1日

蓄光顔料を使った隠し絵画の制作は、暗くした時の発光具合を確認するため、どうしても夜間中心になってしまいます。
昼間の会合に、しばしば遅刻してしまい、ご迷惑をお掛けしております。m(_ _)m

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作

夕方塗った蓄光顔料が乾いたので、日付が変わった深夜に、紙ヤスリで優しく均しました。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作

立て掛けて撮影しましたが、凹凸の影はほとんど見えないくらい表面が滑らかになりました。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作

照明を消して確認します。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作

ドーサを引いて定着させますが、今回は明礬を加えます。

明礬を加える事で、一旦固まった膠の層を二度と溶けなくする効果が得られます。

反面、明礬は長期的には和紙にダメージを与えるらしいので、普段、僕は明礬を使わないようにしてます。
多少滲みがあったほうが人体や風景、花などの有機的なモチーフには味にもなりますから。

でも、今回はボディに金箔を押すつもりですので、完璧に滲み止めを施す必要があります。

また、歯車などメカの描写も超細密になりますので、ちょっとした滲みも出ない様にする必要があります。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作

1回目のドーサを引きます。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作

完全に乾かした後、180度画面を回転させ、反対側からも引きます。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作

ドーサを引くときに、多少連筆に顔料を持っていかれた刷毛目が出来ましたが、許容範囲です。


9月2日

蓄光顔料による描写で、より細部描写をするための応用技法を思いつきました。

粒子の粗い蓄光顔料で、時計のメカの様な細密描写は難しいと思ったので、全面を蓄光顔料で塗って、陰影を墨で描き、更に胡粉などの白っぽい絵具を重ね隠蔽する方法を考案しました。

背景

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 背景

画面全体に水を引き、湿り気を与えます。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 背景

洋藍を背景に薄く塗ります。

画面を湿らせたのは塗りムラを目立たなくするためでした。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 背景

暗室代わりのトイレで背景の発光具合を確認します。

透明感のある洋藍なので、下の蓄光顔料も光って見えます。
背景は、明るい状態でも、暗い状態でも、共に青い背景になります。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 トレース

下描きからトレースしました。

細かいところですが、トレース時に少し位置や形を修正して写してます。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 トレース

更に補足描写を鉛筆で描き足します。

骨描き 隈取り

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 骨描き

滲みを抑えた描写をしたいので、擦った墨に、更に膠を加えます。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 骨描き

更に、下地のドーサにはじかれないよう、ハッカ油を垂らし混ぜます。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 骨描き

トレースした描写が、手で擦れてボヤけないよう、自分の右手の下にティッシュペーパーを置いて骨描きを進めます。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 骨描き

一部骨描きを描いてから、

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 骨描き

トイレで光具合を確認します。

さすが薄めに擦っても、墨の遮光力はバッチリです。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 骨描き

骨描きが終わったところです。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 骨描き

拡大写真。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 隈取り

続いて、更に薄めた墨にて陰影をつけていきます(=隈取り)

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 隈取り

軽く陰影をつけた段階でまた暗くして確認します。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 隈取り

更に隈取りを進め、陰影にメリハリをつけて今日の段階は終了です。

明日以降は、墨の線や陰影の上に胡粉などを塗って隠蔽していくつもりです。

そちらも細かく手間が掛かる事が予想されますが、

上手くいったら新技法の開発成功です!

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 骨描き 隈取り

本日の最終段階。

僕は、アイディアマンだとご評価頂いてますが、新たな発想が生まれてくる源泉は、何にもしてない怠惰な時間を毎日たっぷり取ってるからです(笑)。

制作に集中してる間は、その時の描写や色合いがイメージ通りに出来てるかに集中してますので、それ以外の余計な事は考えられず、制作中に新たな発想が湧いてくる事はありません。

新たな発想は、たいてい風呂に浸かってるときや、タバコを吸ってるとき、酒を飲んで怠惰に過ごしてる時に思いつきます!

僕の両親は、共に勤勉で、ダラダラ、ゴロゴロしてるところを見たことがありませんでした。

一方、僕は、しばしばボ〜っとしてるところを母親に注意されてましたから、もともと空想癖があったんだと思います。

両親達の方が、完璧な勤勉者でしたので、文句のつけようも無く高校生まで実家で育てて貰いましたが、高卒と同時に東京で浪人生として一人暮らしが始まって以来、誰にも監視、注意される事なく、マイペースで過ごせる様になって才能が開花した思いがあります。

真面目なお母さんの皆さん、もし、お子さんが傍目にはボ〜っとしてる様にしか見えないとしたら、もしかして天才肌の才能の素養を持ってるかもしれませんよ😆


9月3日

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 ドーサ引き

明礬を加えたドーサをまた引きます。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 ドーサ引き

乾いたら反対側からも。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 ドーサ引き

前日の墨の描写が多少滲みました。

墨自体には膠分がありますが、明礬は含んでませんので、滲ませたく無ければ一週間くらい完全に乾かし安定させる必要があります。

でも、多少の滲みがあったほうが手描きの味が出るので、この程度の滲みならむしろ良い塩梅です。

今日は明礬を含むドーサを引いたので、これ以上は滲みませんし。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 ドーサ引き

この段階でも暗室で確認します。

隠蔽工作 ブレンド胡粉1

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 隠蔽工作

胡粉を空摺りします。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 隠蔽工作

溶き終わった胡粉(左)を、タバコを吸いながら5分ほど放置し、微粒子の上澄みだけを別の絵皿(右)に移します。

後年ひび割れたり剥落しないように、贅沢ですが、右の上澄みだけを使い、左の沈殿胡粉は捨てます。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 隠蔽工作

緑色に発光する蓄光顔料は、明るいところでみると、やや緑色がかった白です。

ノーバグリーンと、ガンボージとを胡粉と混ぜて、似たような色にします。

先ずは少量で試し、

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 隠蔽工作

結局、溶いた胡粉の全てを足して蓄光顔料と似た色に調合しました。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 隠蔽工作

墨の輪郭線と陰影を塗った上だけを狙ってブレンド胡粉を塗ります。

これが思った以上に肩の凝る仕事でした。
微粒子の上澄みだけですから、何度重ねてもなかなか白くなってくれません。

沈殿させた胡粉を使えば被覆力が高いはずですが、後年のひび割れ、剥落を防ぐためには、時間と手間を惜しみません。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 隠蔽工作

途中、暗室で光具合を確認します。

墨+胡粉も重ねた事で、陰がよりハッキリし、コントラストが上がりました。

明るく描き起こしたい一部くらいなら、後で蓄光顔料で描き起こせます。

細かな描写全体の作戦としては、墨と胡粉を使った描写作戦は成功だと思います。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 隠蔽工作

問題は、隠蔽工作の労力ですね😅

今日はここまでで力尽きました。
肩凝りと、細かな描写に力の入った指先が痺れてます。

これからゆっくり晩酌を楽しみ
続きはまた明日!

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 隠蔽工作

本日の最終段階(暗)です。


9月4日

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 隠蔽工作

今日も胡粉の上澄みにノーバグリーンとガンボージを混ぜて、墨に被せる色を作りました。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 隠蔽工作

1日掛けて、だいぶ墨の暗さを隠せました。

若干暗さが隠せてないところが残ってますが、これらはむしろ明るく光らせたい部分なので、明日以降、再び蓄光顔料で描き起こすつもりです。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 隠蔽工作

照明を落とすとこんな感じです。

歯車の歯が細くなってしまったところが多いので、蓄光顔料にてそういう部分を描き起こすつもりです。

より、気合と神経を使う仕事になると思いますので、無理して今晩やらず、明日以降チャレンジしようと思います!


9月5日

蓄光顔料による彩色

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 隠蔽工作

発光力が実用レベルにある蓄光顔料は、
グリーン、ブルー、群青色の3色です。

この3色以外も存在はしますが、発光が弱く、発光時間も短く、少なくても僕にとっては使えないと感じてます。

この3色だけを使い分ける工夫してます。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 隠蔽工作

照明をつけた状態です。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 隠蔽工作 資料

時計内部のメカは、部品によって色が異なります。

これを3色の蓄光顔料にて塗り分けようと思います。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 隠蔽工作

拡大写真です。

少し薄いところが群青色で、竜頭から連動する歯車はブルーで塗ったのですが、肉眼だと色の違いが分かりますが、写真だとほとんど分かりません。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 隠蔽工作

歯車の骨描きが滲んで暗くなってしまった部分は、一番明るいグリーンの蓄光顔料にて描き起こします。

発光を復活させるためと、歯車の骨描きを目立たなく隠蔽する両方の効果を期待します。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 隠蔽工作

蓄光顔料による彩色が一通り終わったところです。

骨描きの墨の暗さはだいぶ隠れました。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 隠蔽工作

暗くして見るとこんな感じです。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 隠蔽工作

余った3色の蓄光顔料を一枚の絵皿に集めます。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 隠蔽工作

右手前の絵皿に、集めました。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 隠蔽工作

それを連筆にて文字盤全体に塗ります。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 隠蔽工作

その状態で暗くすると、こんな感じです。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 隠蔽工作

純粋な胡粉による彩色。

昨日まで墨による陰影を隠蔽してきた、緑かかったブレンド胡粉は、緑がやや濃かったので、今日は何も混ぜない真っ白な胡粉にて、上からそこを塗り、明部と暗部との明度差を近づけました。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 隠蔽工作

もう一度、蓄光顔料3色を混ぜたものを連筆にて文字盤全体に塗ります。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 隠蔽工作

今回は濃く被せ過ぎたかもしれません。

陰が明るくなってメカのコントラストがボヤけてしまいました。

後日、陰影をハッキリさせたい部分には、また胡粉を塗って発光を抑えようと思います。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 隠蔽工作

本日の仕事、あらかた乾いたところです。

明るいところで見ると、だいぶ中のメカが隠蔽されてきました。


9月6日

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 隠蔽工作

ヤスリ掛けする前の状態。

蓄光顔料で描き足したところが明らかに凸ってます。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 隠蔽工作

紙ヤスリで優しく均した状態。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 隠蔽工作

ヤスリ掛けした後、暗室代わりのトイレにて撮影。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 隠蔽工作

明礬を加えたドーサを引きます。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 隠蔽工作

乾いたら、反対側から2引目。

このあと出掛けて、帰宅したら続きを描こうと思ってましたが、外出先で飲んでしまったので、続きはまた明日。


9月7日

隠蔽工作 ブレンド胡粉2

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 隠蔽工作

これが今朝の状態です。

陰影部分にグリーンとガンボージとを混ぜた胡粉を塗り重ねてきましたが、現状グリーンが勝って、まだ明度も暗い状態です。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 隠蔽工作

完璧に隠蔽するため、今日は胡粉にカドミウムレモンを混ぜて隠蔽していこうと思います。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 隠蔽工作

カドミウムレモンを一筆分だけ混色用の絵皿に移し、胡粉をちょっと加えてみましたら、カドミウムレモンの黄色が物凄く強いのが分かりました。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 隠蔽工作

そこで混色用の絵皿の絵具のほとんどを捨て、

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 隠蔽工作

胡粉の皿(右)に少量だけ混ぜました。

ほんの少しだけ黄色味を帯びた胡粉が出来上がりました。
これで隠蔽していこうと思います。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 隠蔽工作

だいぶ陰影部分と明るい部分との色味と明度が近づいてきました。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 隠蔽工作

次に、歯車の描写が甘くなってたところの陰影をハッキリさせようと思います。

トレースするための下図を被せるとき、薄暗い部屋に持っていき、本画を光らせて下図との位置を合わせました。

なんかカッコいい!
完成が楽しみになってきました。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 隠蔽工作

最初に本画にトレースしたときは、赤ボールペンでトレースしましたので、二度目の今日は黒ボールペンで形の怪しくなった部分をトレースし直しました。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 隠蔽工作

竜頭から連動する歯車(上)と、
時計の心臓部 テンプ(下)とのアウトラインをハッキリさせました。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 隠蔽工作

黒い輪郭線を隠蔽するように、カドミウムレモンを少量混ぜた胡粉で上から塗ります。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 隠蔽工作

暗いところで、歯車がシャープに見えてきたのを確認します。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 隠蔽工作

その他の歯車も、4Hの鉛筆で一旦描き起こします。
4Hもの超薄い(硬い)鉛筆なんて、予備校講師だった時以来、久しぶりに使いました(笑)。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 隠蔽工作

鉛筆で描き起こした輪郭線と、まだ明度差を感じてた部分をあらかた隠蔽して、本日の仕事は終わりです。

だいぶ色味や明度差が無くなりました。

テンプや歯車の一部は、また蓄光顔料にて塗り重ねます。

合理的な細かな描写方法を考案したものの、それでも手間の掛かる仕事になってる事は、肩凝りと共に実感してます。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 隠蔽工作

暗くしたときの全体図。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 隠蔽工作

文字盤だけのアップ写真です。

陰影部分を明るくしたので、テンプや歯車の明部の一部が逆に暗く見えてます。

明日以降は、そういう場所を蓄光顔料にて細かく描いていくつもりです。

結局、いくつかの部分は、蓄光顔料での細部描写が必要という訳です。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 隠蔽工作

文字盤だけのアップ(暗)。


9月8日

ひび割れ対策

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 隠蔽工作

昨日、画面にひび割れを発見しました。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 ひび割れ解説

こちらは一年前に絹本に「化仏 不動明王〜大日如来」を描いてる時に、蓄光顔料に、ひび割れ剥落が見られた時に、原因を図解説明した時の再投稿写真です。

今回は絹本ではなく、和紙に描いてますが、どうやら蓄光顔料は膠の吸収がよく、沢山膠を吸収する故に、それらが縮み、ひび割れしやすい顔料のようです。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 隠蔽工作

蓄光顔料を溶くのに使った絵皿の縁にこびりついた顔料は頑固に固まり、最早普通に洗っても取れませんでしたから。

接着力が強いのは長所でもありますが、度を超えると、ひび割れ剥落のリスクが出てきます。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 隠蔽工作 軟靱膠素(なんじんこうそ)

ひび割れ補修用に、こちらの軟靱膠素(なんじんこうそ)を使います。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 隠蔽工作 軟靱膠素(なんじんこうそ)

この膠は、グミの様に固形状態でも水分を保ち柔軟性があります。

概ね膠の硬度と接着力とは比例してるので、この膠単独では接着力が弱いのですが、他の膠とブレンドすると、掛軸など丸める絵の接着剤として最適な膠になります。

単独では、主に文化財の修復に使われる膠です。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 隠蔽工作 軟靱膠素(なんじんこうそ)

鋏でチョッキンと切り、3gの表示を確認し、

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 隠蔽工作 軟靱膠素(なんじんこうそ)

10倍の30gになるように水を加え、加熱して溶かし、明礬を加えます。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 隠蔽工作

画面全体に軟靱膠素10倍溶液に明礬を加えたドーサを引きます。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 隠蔽工作

完全に乾いたらひび割れが収まりました。

膠 殺菌消毒

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 隠蔽工作 膠液

こちらは、顔料と練る為の膠で、前日から一晩水に浸して溶けやすくふやかしておいたものです。

三千本膠
軟靱鹿膠
魚膠の

3種類のブレンドになります。
今回は丸めない作品で、なおかつ金箔を押すつもりですので、基本的には柔軟性よりも接着力重視でブレンドする膠を選びました。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 隠蔽工作 膠液

カビ菌を殺菌消毒するため、煮沸します。

これは一年前武蔵美美術館にて「膠を旅する」展の図録で知った、藝大では習わなかった方法です。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 隠蔽工作 膠液

約3分の1の容量になるまで煮込みました。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 隠蔽工作 膠液

元の容量になるまで水を足し、

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 隠蔽工作 膠液

今度は直火では無く、湯煎にて溶かします。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 隠蔽工作 膠液

木綿(綿)の手ぬぐいで濾してアクを取り除きます。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 隠蔽工作 膠液

洗っておいたもう一つの膠鍋に移して使います。

常温でも半年間腐らない膠になるそうです。

毎日制作してれば、一度溶かした膠は、1〜2ヵ月で使い切りますので、半年も持たなくても充分ですが、

カビ菌を殺菌消毒した膠で描いた作品は、完成後何十年もカビが生える不安が無くなる効果が期待出来ます。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 隠蔽工作

蓄光顔料3色で発光が弱かった部分を描写します。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 隠蔽工作

明るくして見るとこんな感じ。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 隠蔽工作

作品単独で光ったところ。

隠蔽工作 水晶末

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 隠蔽工作

さて、いよいよ隠蔽工作仕上げの工程に入ります。

水晶末を空摺りし、より微粒子に整えてから膠で練って塗りやすい濃さに水を足します。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 隠蔽工作

一塗り目は縦方向に塗ります。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 隠蔽工作

一塗り目が乾いたところ。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 隠蔽工作

暗くして、水晶末を通しての発光具合を確認します。
一塗りくらいじゃびくともしません。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 隠蔽工作

今度は、水平方向に二塗り目をします。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 隠蔽工作

二塗り目直後にも発光を確認します。

この後も、発光具合と隠蔽具合のバランスを確認しながら同じ作業を繰り返すつもりです。

今晩の投稿は、二塗り目の乾き待ちの間にしましたので、この続きはまた明日!


9月9日

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 隠蔽工作

昨日の夜中、結局水晶末を合計4回塗り重ねました。

今朝の段階です。
色的には真っ白くメカの描写が隠れましたが、蓄光顔料の盛り上がりで凹凸が気になります。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 隠蔽工作

ヤスリで均し、

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 隠蔽工作

軟靱膠素を

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 隠蔽工作

約10倍に薄め溶かし、明礬を加え

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 隠蔽工作

ドーサを引きます。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 隠蔽工作

ドーサが乾いたところです。

ヤスリを掛けても蓄光顔料の盛り上がり部分の方が水晶末より強硬で、完全なフラットにはなりませんでした。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 隠蔽工作

暗いところで確認。

盛り上げたり、ヤスったりを繰り返した事で、

蓄光顔料の色の塗り分けの違いが明快になったり、
光具合にも濃淡の変化が出て、
アンティークな味わいが出てきました。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 隠蔽工作

隠蔽工作最後の仕上げに入ります。

なるべく平滑な文字盤にしたいと思い、今まで以上に水晶末を念入りに空摺りしたところ、

なんと、膠と練り合わせているうちに、胡粉と同じ様に団子にまとまりました!

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 隠蔽工作

竜頭や外側のリングには金箔を押すつもりなので、そこも平滑になるように塗りました。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 隠蔽工作

もちろん文字盤全体にも水晶末を被せました。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 隠蔽工作

暗くして確認します。

乾くと見た目は白い水晶末も、物質的には透明ですので、蓄光顔料の蓄光、発光を妨げません。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 隠蔽工作

仕上げの水晶末を塗って乾いた状態です。

微妙に凹凸で中のメカが見えてますが、文字盤を描けば、パッと見には分かりにくく隠れてくれると思います。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 隠蔽工作

最後にまた軟靱膠素によるドーサを引いて乾かします。

トレース 骨描き

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 表彩色

画面が完全に乾いたので、

懐中時計の写真をトレースして、表の画の描写に入ります。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 表彩色

先ずは、長針、短針、秒針をトレースして確認しました。

下の画と寸分違わずトレースするのは難しそうでしたので

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 表彩色

長針と短針とは、薄っすら透けて見える隠し絵をなぞって鉛筆で描く事にしました。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 表彩色

秒針と文字盤とはトレースした線を頼りに骨描きしようと思います。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 表彩色

秒針の文字盤の細い線は、
伝家の宝刀「加山用筆」を使います。

師匠、加山又造先生が筆メーカーに特注で作らせていた極細の面相筆です。

先生がお亡くなりになった後も、その筆メーカーに在庫がいくらか残ってたので、形見分けの様に頂いたり、数本は買い取ってました。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 表彩色

鋭く尖らせた4Hの鉛筆と比べても、それより更に細い線が描けます。

ただし、筆先だけでなく、軸も細いので、長時間持ってると指に食い込んで痛くなります。

小柄な女性の様な体格で、指も細かった加山先生には使い熟せても、僕にとっては使い熟し切れず、滅多に使わない、実質的には記念品的な伝家の宝刀でした。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 表彩色

文字盤のリングから描き始めます。

トレースの線はボールペンでなぞった線なので、それをそのままなぞるのではなく、あらためて滑らかな楕円を描くつもりで線を引きます。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 表彩色

外側のリングを描き終えてから

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 表彩色

目盛りをトレースします。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 表彩色

念紙でトレースし終わったところです。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 表彩色

目盛りを墨で描きます。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 表彩色

数字をトレースします。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 表彩色

数字を墨で描きます。

一気にトレースして、一気に骨描きせず、
こうして一段階ずつに分けて丁寧に写し取りました。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 表彩色

長針と短針とを鉛筆で描きます。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 表彩色

墨にて骨描きしました。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 表彩色

本日はここまでで止めておきます。

手数こそ少ないですが、一筆一筆の重要度、難易度が高いので、慌てず丁寧に描き進めていこうと思います。


9月10日

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 表彩色

本日最初の手順から。

文字盤の輪をトレースし、墨で骨描きします。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 表彩色

また写真を被せて、分の目盛りをトレースします。

「なんだ写真をトレースするのかよ」って、
がっかりされる方はどうぞ。

僕は、写真を利用しようがしまいが、どうでも良い事だと思ってます。

一番大事な事は、出来上がった作品が、
お客様から喜ばれる素晴らしいものかどうかに尽きると思います。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 表彩色

トレースし終わったところです。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 表彩色

墨で骨描きした後、

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 表彩色

目盛りを太くします。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 表彩色

数字をトレースします。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 表彩色

トレースし終わったところ。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 表彩色

右側のトレースした数字が擦れてボヤけないようティッシュを当てて、左側の数字から描いていきます。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 表彩色

少し描いては、直ぐ休憩を挟み、ゆっくり丁寧に描き進めます。

休憩の度に、加山用面相筆も洗い、休憩中に筆先が固まるのを防ぎます。

墨は滲まない様に膠液を足し、乾くと直ぐに固まる様にしてますので。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 表彩色

数字を描き終わったところです。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 表彩色

本日の途中段階。
明から暗へ移り変わる途中段階の写真です。

このように
Hidden Art「蓄光顔料を使った隠し絵画」は、
明から暗へ移り変わる途中段階が、
鑑賞するときの醍醐味になります。

我ながらカッケー!って思いました😆

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 表彩色

真っ暗な状態で撮影するとこんな感じです。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 表彩色

外側のリングをトレースし、骨描きします。

金箔押し下地づくり1 軽石

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 表彩色

竜頭とボディ、針には金箔を押したり、金泥を塗るつもりです。

箔を貼ると、反射により凹凸が際立ちます。
なので、下地に盛上絵具を塗って、凹凸をつけようと思います。

盛上絵具の材料は軽石です。
膠を吸収しやすく、立体的に盛り上げるのに適した絵具です。

掛軸など丸める絵などには不向きですが、今回は丸めない作品なので、久し振りに使ってみます。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 表彩色

アップで撮ると、凄く盛り上がってますが、完全に乾いたらヤスリで均し、ほどほどの出っ張りに整えるつもりです。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 表彩色

秒針と、周りのリングも。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 表彩色

今日の最終段階です。


9月11日

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 表彩色

昨日、盛上絵具で盛り上げた部分にヤスリがけしました。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 表彩色

軟靱膠素を薄く切り、

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 表彩色

約10倍に薄める為の水を加え、溶かして明礬を加えます。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 表彩色

そのドーサを引きました。

擦った墨に接着力を高める為の膠を加えて描いた数字や目盛りでさえ、流れてしまいましたので、流れ、滲んだ墨は、直ぐにティッシュで拭いました。

やはり、(岩絵具に比べ定着力の強い)墨も、完全に乾くまで一週間ほど待たないと水に溶けてしまうんだなと、あらためて思いましたが、他に売約が無い現在は、この作品を早く仕上げるしか収入の当てがありません。
一週間何もせずに、ただ待ってはいられません。

沢山注文が入り、複数の制作を同時進行で進められる状態になってくれる事を渇望してます。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 表彩色

長針、短針、秒針、そして竜頭、ボディのリングの上には金箔や金泥を乗せるため、面相筆にて更に明礬入りのドーサをピンポイントで塗りました。


9月12日

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 表彩色

盛上絵具をヤスリで均した状態。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 表彩色

至近距離で見るとかなり表面が粗いです。

金箔を貼ると表面のわずかな凹凸が目立つ様になりますので、この上に、粒子の細かい絵具を塗り重ねていって、平滑にしようと思います。

金箔押し下地づくり2 新岩樺茶とゴールドアフレア

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 表彩色

盛上絵具は13番でしたので、今度はそれより微粒子の
新岩樺茶 白(びゃく)を重ねようと思います。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 表彩色

塗っては乾かしを繰り返し、3回塗り重ねました。

樺茶を選んだのは、もちろん金色の同系色だからです。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 表彩色

至近距離で見ると、盛上絵具での下地段階よりはマシになりましたが、まだ筆跡の凹凸や、絵具のザラつきが感じられます。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 表彩色

ヤスリがけします。

かなり滑らかになって、表面にテカりが見られる部分も出てきました。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 表彩色

次に、更に微粒子のゴールドアフレアを重ねようと思います。

ゴールドアフレアは、言わば金泥の偽物です(笑)。
微粒子で膠と練り合わせる時に逃げるので、分散剤も加えて練り上げます。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 表彩色

ゴールドアフレアも3度塗り重ねました。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 表彩色

近くで見ると、やはり筆跡の筋目が凹凸してますが、この段階では仕方ありません。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 表彩色

平たく置くと照明を反射してかなり明るく光ってます。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 表彩色

軟靱膠素を溶かしてドーサを作ります。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 表彩色

10倍ほどに水で薄め、溶かし、明礬を加えます。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 表彩色

ドーサ 一塗り目。

ゴールドアフレアの定着が弱く、ドーサを塗るとき、だいぶ動きました。

絵皿の中にも取れたゴールドアフレアが沢山混ざりました。

金箔の下地として、ゴールドアフレアの層は弱いかな?と不安になりましたが…

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 表彩色

2度目を塗るときには、もうほとんど動かなくなりました。

さすが明礬を加えたドーサは、一旦乾けば二度と溶けない堅牢な被膜になります。

塗っては乾かしの単純作業になりますので、2度目塗った後は、乾き待ちの間はハイボールを飲みつつYouTubeを見たりと、半分リラックスタイムに入りました。

以前の投稿で
「飲んだら描くな」と反省のコメントを投稿したこともあった様な気がしますが😅
もう、その反省は忘れてます🤣。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 表彩色

結局、下地ドーサは合計5回塗り重ねました。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 表彩色

蓄光顔料による内部の描写は何も描き加えてませんが、竜頭とボディリングの下地がしっかり塗りつぶされたため、文字盤内部や背景とのコントラストがハッキリしてきたと思います。


9月13日

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 表彩色

昨日までの下地で、秒針を忘れてました😅

決して酔っ払ってのミスではありません。
ハイボールを飲み始める前からここの下地を塗るのを忘れてました。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 表彩色

黄樺の工程は飛ばして、ゴールドアフレアにて重ね塗りします。

数回塗って乾かしを繰り返したあと、秒針だけでなく他の金箔を押す部分にも捨てドーサを2、3度塗ります。

金箔押し

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 表彩色 金箔押し

金箔を出し、

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 表彩色 金箔押し

ロウ付きアカシ紙を密着させます。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 表彩色 金箔押し

アカシ紙をつけた裏側からカッターナイフで適当な幅に切り分けます。

金属同士だとくっついてしまい、綺麗に切れないので、竹刀で切るのが良いとされてますが、僕はカッターナイフの歯にベビーパウダーをつけて、アカシ紙の側から切ってます。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 表彩色 金箔押し

ドーサを全体に塗って、乾き切る前に次々と箔を押していきます。

もし途中でドーサが乾いてきたら、また塗り足してから箔を押します。

広めなパーツから押して、はみ出て余った箔の切れ端は、その後押す細かなパーツに使います。

今回使った新品の金箔は2枚のみ。
後は、今まで箔押しで余った切れ端を再利用して間に合わせました。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 表彩色

今日の最終段階。

金箔を押し終わったところです。


9月14日

試し描き 金箔押し

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」箔押し下地づくり ドーサ引き

「時音」本画で金箔を押した後、上からの彩色を試し描きする必要を感じました。

そこで、裏彩色での試し描きで使い、まだドーサ引きしてなかった生紙にドーサを引きました。

2、3度ドーサを引きましたが、裏に抜けてしまいます。

完璧なドーサは、乾燥した冬場が最適なんです。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」箔押し下地づくり 水晶末

そこで、一旦水晶末を空摺りし、和紙の繊維の隙間を埋める様にこれを塗りたいと思います。

40歳過ぎてからのここ15年くらいの画業では、最初から完璧なドーサ(滲み止め)からスタートせず、絵具を紙の繊維に染み込ませ、食い込ませながら、仕上げに向けて徐々にドーサを効かせていく手順に変えてましたので、今回もその工程を挟むことにしました。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」箔押し下地づくり 水晶末

水晶末、一塗り目。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」箔押し下地づくり 水晶末

二塗り目。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」箔押し下地づくり 水晶末

二塗り目が乾いたところです。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」箔押し下地づくり ドーサ引き

あらためて明礬を加えたドーサを引きます。

一塗り目は、直ぐに紙及び水晶末に吸い込まれてしまいます。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」箔押し下地づくり ドーサ引き

捨てドーサ三回目を塗ったところです。

これまでのドーサの皮膜が、和紙にこれ以上の水分を吸い込ませなくなったのが、新たに塗ったドーサが、直後は直ぐに染み込まず、しばらく表面に水溜りが出来る事で確認出来ます。

これで、箔押しの下地は完了です。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」箔押し下地づくり ドーサ引き

三回目の捨てドーサが乾いたら、いよいよ箔押しの為のドーサを引きます。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」金箔押し 試し描き

紙を180度回転させ、反対方向からもドーサを引いた後、昨日の箔押しの後、余っていた金箔の切れ端を押します。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」金箔押し 試し描き

ロウ付きアカシ紙を剥がし、後は完全に乾くのを待つだけです。

今日は、ドーサを塗っては乾かすだけの一日でしたので、昼間から酒を飲み、YouTubeや本を読みながらゴロゴロ過ごす休養日みたいな感じでした😆

待ち時間95%、作業時間5%くらいでしたかね。


9月16日

止めドーサ

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 表彩色

掃除機のブラシヘッドを直接画面に当てて、はみ出た金箔を直接吸い取ります。

ブラシヘッドは結構しっかり画面に当てて擦り付けながら吸い取りますので、万が一接着が弱いところがあれば金箔が剥がれてしまうでしょうが、それで剝がれる弱い接着なら、むしろこの段階で剥がれてしまったほうが、完成前に補修出来て良い訳です。

一旦接着されてる様に見えてたのが、納品後に剥がれる方が信用失墜してしまいますから。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 表彩色

剥がれる場所はありませんでしたが、はみ出してくっついてる部分はいくつかありました。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 表彩色

紙ヤスリを小さく千切って、輪郭をはみ出してくっついた金箔を擦り剥がします。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 表彩色

ビフォー

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 表彩色

アフター

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 表彩色

ビフォー

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 表彩色

アフター

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 表彩色

止めドーサを引きます。

止めドーサとは、むき出しの金箔の上に固めたドーサの皮膜を作り、ちょっと触れた程度では容易に剥がれない様に保護する役割と、金箔の上から更に絵具を重ねる場合、絵具が食いつきやすくする役割とがあります。

今回は金箔の上から少し彩色して光り具合に変化をつけたいので、試し描き用の金箔下地にも止めドーサを引いておきます。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 表彩色

止めドーサを三回目引いた段階での投稿です。

このあと、更に二回くらい重ね、合計五回くらい重ねてしっかりコーティング&下地処理したいと思います。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 表彩色

明から暗の途中段階の写真です。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 表彩色

こちらは真っ暗にして撮影したところです。


9月19日

ボディメイク 金箔の上からの彩色

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 金箔彩色

天然焦茶末は固まってるので、空摺りしてから膠と練ります。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 金箔彩色

左から天然焦茶末、バーントシェンナ トランス、天然岩金茶13番、天然金茶石13番、棒絵具代赭

天然絵具はメーカーによって産地が異なるので、色味が異なります。

これらを使って金箔を平押しした上から、陰影や映り込みに変化をつけて立体的に見せていこうと思います。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 金箔彩色

膠で練って水で薄めたところです。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 金箔彩色

例えばボディリングの上は艶がありますが、下の方は艶消しになってます。

下のリングには金茶を被せて、艶消しにしていき、
上のリングも陰影と映り込みとを描き込んで立体感を出そうと思います。

一番光ってるところだけ、絵具を被せず金箔の輝きを最大限に効かそうと思います。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 金箔彩色

試し描きの紙に貼った金箔の上に金茶石を重ね、艶消し風になるか確認します。

二度重ねたくらいから、艶消し効果が出てきたのが分かります。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 金箔彩色

違うメーカーの岩金茶の方は、はじいてしまって金箔に一様に乗りません。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 金箔彩色

ハッカ油を数滴垂らし、

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 金箔彩色

再び塗りますが、やはりはじいて乗りません。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 金箔彩色

金茶石を被せてあった下地には、ザラつき引っ掛かる下地があったおかげか、岩金茶もはじかれずに乗りました。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 金箔彩色

そこで、ハイライトとして光らせたいところ以外には、一様に金茶石を塗りました。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 金箔彩色

バーントシェンナもいきなりだとやはりはじいてしまいます。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 金箔彩色

同じく金茶石の下地の上からなら、乗ります。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 金箔彩色

金茶石で下地を乗せた段階では、まだハイライト部分との明度差がほとんどありません。

これから被せる絵具の足掛かり的な役割です。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 金箔彩色

岩金茶から段々暗くしていきます。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 金箔彩色

バーントシェンナ

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 金箔彩色

天然焦茶末

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 金箔彩色

茶系の絵具で一通り変化をつけた段階です。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 金箔彩色

本藍(インディゴブルー)と洋藍(プルシャンブルー)とをブレンドした絵具で影をつけます。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 金箔彩色

墨に藍を混ぜた色で、長、短針の影や、竜頭、ボディリングにアクセントを加えます。

完成度がグッと上がりました。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 金箔彩色

最後にまた明礬入りのドーサを引きます。

アクリル板入りの額装ではなく、和洋折衷の掛軸として仕上げたいので、軽く触った程度では絵具や箔が取れないようにコーティングします。

今晩は二度引き、明日日中の光で確認して完成として良ければ、落款を押します。


9月20日

落款

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 落款

落款(=サイン)の場所を決めました。

P3号の小さい作品なので、署名は入れず、印のみを目立たない場所に捺します。

自分が藝大生だった頃、日本で一番有名な先生が、落款を誇らしく堂々と記していましたので、当初、落款とは作者名を目立つ様に入れるものだと誤解してました。

卒業後の個展にて、藝大の同級生だった画家の友人から落款の位置が絵を邪魔してると指摘され、古くからの参考文献のコピーなどを送って頂き、落款の正しい入れ方を学びました。

(※日本で一番有名な先生が誰か分かった方、コメント欄にその先生のお名前は書かない様、ご配慮願います)

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 落款

印を捺す場所を決定するまで、他の位置にダミーの印を置き、検討してみます。

この場合、左上から右下へ、画面を斜めに貫く軸が一直線に揃って良くないです。

ちなみにこの作業中は、画面を真上に向けてるので、アトリエの照明をもろに反射してドーサがテカテカ光ってますが、画面を垂直にしたらドーサのテカりは気になりません。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 落款

時計の軸から大きく外し、反対側の影側に捺すのも考えましたが、印が画面の中央寄りに来てしまいます。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 落款

かと言って画面の端に時計から離して捺すと、印が単独で目立ってしまいます。

以上のパターンを一通り試してみて、やはり一番最初に投稿した写真の位置に捺すのがベストと確信しました。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 落款

印を捺して

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 落款

天然珊瑚末13番を振りかけ、印泥の油分を吸い取らせ

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 落款

筆で掃いて珊瑚末のケースに戻します。

この珊瑚末はこの目的だけに特化させ、絵具としては使いません。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 落款 完成

「時音」完成。

天気の良い日に表具店に持って行き、この作品に合う裂地を選び、ピタット軸にて掛軸として表装するつもりです。

洋風なモチーフですが、和洋折衷という事で、敢えて和風に表装してみようと思います。


9月21日

ピタット軸装

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 落款 完成

パネルから画を剥がします。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 軸装

表具店に作品を持ち込み、裂地(きれじ)を選びます。
こちらの裂地に一目惚れしました。

ただ、明るいベージュのピタット軸とのコントラストが強かったので

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 軸装

裂地との明度を近づけるため、ベージュよりは濃い、薄茶のピタット軸を選びました。

※写真では両者の違いがあまり分かりませんね

素敵な金襴だと思って値段を見ずに選んでしまいましたが、金糸を使って織り込んであるので高価でした!

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 軸装

値段が半分くらいで似たような裂地も合わせてみましたが、最初に直感で選んだ裂地がやはり一番合います。

ええい! 金に糸目は付けん! 
一番絵が引き立つ高級金襴にしました。

コストよりも品質を優先します!

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 軸装

今回の一枚の絵を仕上げるために描いた下図や模型、参考資料など。

今回は新境地の表現でしたので尚更ですが、たった一枚の絵の為に、これだけやってますので、僕の作品は、安い価格では売れません。

材料費だけでなく、資料を調べたり、アイディアを練って整理したり、実験したりという下準備にこれだけ掛けてますし、何よりも子供の頃からこれまで描き続けて磨いた審美眼と技術もありますから。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 軸装

簡易軸装キットのピタット軸(マグネット式)です。

天地は既に出来上がってて、マグネットで画を囲む中廻しを挟み込む仕様になってます。

キットにも付属の裂地と、裂地風の模様が印刷された和紙と、それらを裏打ちする紙もセットでついてますが…

僕はキットに付属ではない、自分の作品を一番引き立てる裂地を特別に選び、買い求めます。

どんな裂地を合わせるかで、画の見え方が断然違ってきます。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 軸装

今までは、伝統的な手法で、中廻し(上)・(下)・左右の(柱)を切り分けて、柄を合わせてドッキングさせてきました。

ところが前回まで自分でやってみて、上下と柱との柄をズレない様に連結するのが思いの外難しいと実感しましたので、今回は一枚の裂地から中窓を切り抜き、画を裏から覗かせるように貼る方法でやってみます。

そうなると、一尺(約30cm)の長さでは足りなくなります。

たまたまこちらの裂地が一尺五寸ほど余ってましたので、本当は尺単位でしか買えないのですが、一尺5寸の価格で売って貰えました。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 軸装

幅は、ピタット軸ニ幅分取れそうでしたので、半分に切ります。

裏側の色柄も素敵な裂地ですので、次回作には(金糸を隠す贅沢で)敢えて裏地を見せる表装も粋だと思います。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 軸装

自分の過去作品も参考に中廻しに必要な高さ(長さ)を見当つけて、

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 軸装

カットします。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 軸装

裂地の縁がやや縮んで、真っ直ぐ伸びないと感じましたので、

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 軸装

ハサミで裁ち落としました。

裏打ちするとき、糊で、裂地全体を歪みなく伸ばす必要があるので、裏打ち作業の前準備としてそうしました。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 軸装

裏打ち用の和紙を裂地より一回り大きく切り分けます。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 軸装

余った切れ端は、また試し描き用にでも使います。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 軸装

今回は本紙「時音」と中廻しの厚さとを近づけるため、裏打ち用の和紙は本画制作用の、厚手の和紙を使います。

山梨県身延町西嶋和紙 山十製紙製
おおむらさき 楮50%+マニラ麻50%の手漉き和紙です。

裏打ち作業は、明日晴れたら日中にやろうと思います。


9月22日

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 軸装裏打ち

裂地(きれじ)にアイロンを掛けて伸ばします。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 軸装裏打ち

仮張り用のパネルに裂地を裏にして置き、濃い目に溶いた糊をたっぷり染み込ませ、縦横に伸ばすように塗ります。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 軸装裏打ち

ほつれた糸が内側に入り込んだところは

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 軸装裏打ち

ピンセットで摘み、外側に退かします。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 軸装裏打ち

定規を隣に置いて、真っ直ぐに揃ってるか確認します。

裂地の歪みを直し、水平、垂直に揃うように糊を塗りながら伸ばす事が大切です。

この段階で真っ直ぐに伸ばさないと、裏打ちが乾き、剥がした後で歪みが出てしまうのと、柄のパターンにも歪みが出てしまいますから。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 軸装裏打ち

反対側も確認します。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 軸装裏打ち

裏打ち用の和紙は本画制作にも使える厚手の和紙なので、水を一度引いたくらいでは足りません。

裂地の裏にたっぷり糊を塗ってますので、裂地も水分を吸って膨張してるはずです。

なので裏打ち用の和紙にも横横縦縦4回水を引き、びしゃびしゃになるくらい、たっぷり水分を染み込ませ伸ばします。

これは初めて自分で裂地の裏打ちをしたとき、裏打ち用の和紙への水分が足りなかったせいで、乾いた時に裂地の側だけが大きく縮み、内側に丸まり癖がついた失敗から学びました。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 軸装裏打ち

裂地を伸ばしたパネルを、壁に立て掛けます。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 軸装裏打ち

裏打ち紙を当てて、撫刷毛にて垂直、水平に伸ばしながら密着させて裏打ち完了です。

あとはこの状態で数日乾燥させます。


9月24日

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 軸装 中廻し作成

本日最初の手順から。

裏打ちして乾かしてあった耳の部分を湿らせ、糊を溶かします。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 軸装 中廻し作成

耳の部分にプラスチック製のパレットナイフを差し込み剥がしていきます。

メジャーリーグ中継を観ながらの、ながら仕事です。
画面にはトラウト選手、次が大谷選手の打順なので、一旦TVに集中します😅

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 軸装 中廻し作成

剥がし終わりました。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 軸装 中廻し作成

タオルハンガーの上に乗せ、一旦湿って糊が溶けた縁を乾かします。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 軸装 中廻し作成

仮張り代わりに使ってたパネル表面に着いた紙の繊維と、糊を溶かし、拭い去ります。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 軸装 中廻し作成

タオルで拭き取り

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 軸装 中廻し作成

乾いたらアルコール除菌。

これが、正しい使用法。
直接人体に吹き付けるものじゃありません。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 軸装 中廻し作成

乾いてきたら裏側に丸まるように縮んできましたが、どうでしょう?

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 軸装 中廻し作成

アイロンを表裏から掛けたら、

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 軸装 中廻し作成

今度は内側に丸まりました。

買い物に出掛け、様子をみます。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 軸装 中廻し作成

買物から帰宅したらフラットになってました。

我ながらグッジョブ!😊

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 軸装 中廻し作成

本紙の周りに一分(3mm)幅の糊代を残し、カットします。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 軸装 中廻し作成

裂地の模様に合わせて、

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 軸装 中廻し作成

縦を真っ直ぐに切ります。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 軸装 中廻し作成

横幅をピタット軸の幅35cm+耳折3mm x 2=35.6cm に合わせ、待針を刺します。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 軸装 中廻し作成

待針に定規を当てて切り落とします。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 軸装 中廻し作成

高さは、自分の過去作品を参考にして決めます。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 軸装 中廻し作成

縦と直角になるよう、三角定規も当てて横を切ります。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 軸装 中廻し作成

反対側も同様に直角を取って切ります。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 軸装 中廻し作成

今回は、左右の柱と、天地とを分けず、一体型の中廻しから中窓をくり抜く方法でやってみようと思います。

裏側に3Hの鉛筆で薄く枠を引きます。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 軸装 中廻し作成

中窓を切り抜くとき、余計に切り過ぎないよう、カッターの替刃を止めたい場所に置きます。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 軸装 中廻し作成

中窓を切り取り終わりました。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 軸装 中廻し作成

本紙と中廻しとの接着は水で薄めず、原液のまま使います。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 軸装 中廻し作成

手順の詳細は、自分の公式サイトのチュートリアルを確認します😆

自分が事細かにアップしてる制作過程は、自分自身でも役立ってます。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 軸装 中廻し作成

中廻しの裏側、本紙の糊代幅、一分(3mm)に
糊を着けます。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 軸装 中廻し作成

3mm分だけ糊を塗るため、定規を当てます。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 軸装 中廻し作成

本紙の糊代にも同様に糊を塗ります。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 軸装 中廻し作成

裏側から本紙を覗かせるように貼り付けます。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 軸装 中廻し作成

裂地の生地が傷まないよう、手拭いを当てて、ヘラでしごいて密着させます。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 軸装 中廻し作成

右上の接着が弱く、浮いてます。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 軸装 中廻し作成

中廻しの上側を一旦剥がし、もう一度糊をつけ足しました。

バットの中の原液の糊が乾き始めてましたので、数滴の水で湿り気を足して塗りました。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 軸装 中廻し作成

本紙と中廻しが糊付けされました。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 軸装 中廻し作成

裏から見るとこんな感じです。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 軸装 中廻し作成

中廻しの耳折のクセをつけます。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 軸装 中廻し作成

最初に手で折目をつけ、

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 軸装 中廻し作成

アイロンで更に折ぐせをつけます。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 軸装 中廻し作成

折目が重なる角は、切り取ります。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 軸装 中廻し作成

上下左右の耳折を糊付けし、ヘラでしごいて、

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 軸装 中廻し作成

仕上げは再びアイロンで密着させます。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 軸装 中廻し作成

今日の最終段階です。

まだ総裏の仕事を残してますが、天地はマグネット式で簡単に着脱可能なピタット軸なので、完成したらどんな感じになるか一旦ピタット軸の天地を装着してみました。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 軸装 中廻し作成

完成の様子を確認した後、再びタオルハンガーの上で乾燥させます。

これが完全に乾いたら、いよいよ総裏を貼って完成となります。


9月27日

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 軸装 総裏

ロール石州紙から総裏用の紙を切り取ります。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 軸装 総裏

仮張り用の木製パネルに伏せて、裏にたっぷり糊を染み込ませるようにして伸ばしながら密着させます。

糊は裏側に塗ってますが、糊の水分が表側にも浸透し、パネルに貼り付きます。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 軸装 総裏

裏打ち用の石州紙には、水をたっぷり引きます。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 軸装 総裏

壁に立て掛けたパネルに、石州紙の上端を摘み、近づけ、軽く貼り付けます。

最初から皺なく貼れなくても大丈夫です。
皺が寄ったところは一旦剥がして、伸ばしながら再び貼り直します。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 軸装 総裏

二度、三度貼り直して、大きな皺は無くなりました。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 軸装 総裏

仕上げは、撫刷毛で、縦方向、横方向それぞれ内側から外側に撫で伸ばす様に動かして、密着させます。

また数日間乾かしてから、いよいよ仕上げの仕事に入ります。


9月30日

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 軸装 総裏

パネルに仮張りしてた総裏を剥がします。

外側にはみ出た裏打ち紙だけを湿らせます。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 軸装 総裏

糊がふやけてきたら、プラスチック製のパレットナイフを差し込み剥がします。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 軸装 総裏

タオルハンガーの上で乾かします。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 軸装 共シール

作品の裏に貼る共シールを書きます。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 軸装 総裏

裏打ち紙の耳を裁ち落とします。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 軸装 総裏

裏打ちの石州紙はとても薄いので、カッターナイフにはほとんど力を入れず、表面を滑らすように切ります。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 軸装 総裏

中廻しの裂地を裏に折り込んだ部分まで切ってしまわない様、裏打ちの石州紙だけを切り取りました。

まさに「紙一重」の技です。

補修

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 補修

総裏を貼る仕事で、背景の一部が剥がれてしまいました。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 補修

洋藍を溶き、試し描き用の和紙に塗って濃さを確認します。

共シールに題名を書く時も、先ず試し書きしてました。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 補修

洋藍にて、剥がれた部分を塗ります。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 補修

こちらはひび割れ発見。

蓄光顔料は膠の吸収が良過ぎて、ひび割れやすい事が分かってきました。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 補修

水分を含み乾燥後も柔軟性を保つ「軟靱膠素」を約10倍に薄め溶かします。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 補修

最初は面相筆で、ひび割れの谷間にのみ軟靱膠素を薄めたドーサを塗ります。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 補修

文字盤全体にも軟靱膠素を塗り、乾くのを待ちます。

本日はここまでやって、あとは画廊廻りやベリーダンスショーを観に行きます😊


10月1日

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 完成

昨夜帰宅して軟靱膠素のドーサが乾いた状態を確認。

ひび割れの跡は残ってますが、割れ目からのめくれ上りは収まったと思います。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 完成

表側からドーサを引いて乾いたので、表側が縮みました。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 完成

裏からも軟靱膠素を引いて相殺しようと思います。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 湾曲補修

画面の上にキッチンペーパーを被せ、新聞のインクが画面に移らないよう、保護します。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 湾曲補修

ひっくり返して、裏から全面に軟靱膠素を溶かしたドーサを引きます。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 湾曲補修

タオルハンガーの上で干して、翌朝まで乾かします。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 湾曲補修

まだ少し表側が縮んでますが、これくらいなら良しとします。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 ひび割れ補修前

これが、表、裏から軟靱膠素のドーサを引く前の状態です。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 ひび割れ補修後

ひび割れの端がめくれ上がってたのは、フラットに落ち着きましたのでこれでOKとします。

新作ではありますが、100年前のアンティーク懐中時計ですので、文字盤の滲みや、ひび割れ跡も歴史を感じさせる味わいになったと思います。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 共シール

共シールを裏に貼ります。

使う糊は僅かですので、市販のヤマト糊を使います。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 ギャラリー彩光舎

旧職場の画材店に出掛け、

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 ギャラリー彩光舎

ピタット軸作品用の箱を注文しました。

旧作「桜花」と同サイズの箱を新作用に作って貰います。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 完成(ピタット軸)_明
「時音〜Tokine」完成 明
日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 完成(ピタット軸)_暗1
「時音〜Tokine」完成 暗1
日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 完成(ピタット軸)_暗2
「時音〜Tokine」完成 暗2
日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画制作 完成(ピタット軸)_暗3
「時音〜Tokine」完成 暗3
日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」_明
「時音〜Tokine」完成 絵画部分(明)
日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」_暗
「時音〜Tokine」完成 絵画部分(暗)

ピタット軸 収納

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」ピタット軸収納方法

続いて収納方法を紹介します。

ピタット軸(マグネット式)を外します。(地)

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」ピタット軸収納方法

ピタット軸(マグネット式)を外します。(天)

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」ピタット軸収納方法

天、中廻し、地と分割し、

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」ピタット軸収納方法

天地はマグネットでくっつきます。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」ピタット軸収納方法

天地から箱に収納し、

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」ピタット軸収納方法

作品を含む中廻しも同じ箱に収納出来ます。

丸めずにコンパクトに収納出来ますので、後年、蓄光顔料が割れ、剥がれ落ちるリスクは低いと思います。


10月5日

日本画家 佐藤宏三【Hidden Art】「時音 Tokine」修整リクエスト

納品のために浦和の時計修理工房に伺ったところ、最後に細かな修整リクエストがありました。

店主は考え込んでる様にみえますが(笑)、めっちゃ満足げに喜んで下さいました!

もちろん照明を消して内部のメカもご覧頂きました。

日本画家 佐藤宏三【Hidden Art】「時音 Tokine」修整リクエスト

秒針の中心を加筆して欲しいというのが最後のリクエストでしたので、一度また持ち帰りました。

オーダーメードの作品ですので、依頼主のリクエストに完璧にお応え致します♪


10月20日

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画 加筆修正

加筆したのは秒針の付け根の小さな○だけです。

墨と代赭棒にて描きました。

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画 加筆修正

完成いたしました。

部分アップ

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」納品

そして、無事納品。

時計修理工房 時音 主人の斎藤澄人さん

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」納品

入口のガラスには埼玉会館の壁が映ってます。


「時音〜Tokine」完成

掛軸全体

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画 完成
「時音〜Tokine」完成 明
日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画 完成 明

本紙部分拡大

日本画家 佐藤宏三「時音 Tokine」本画 完成 暗

暗くすると蓄光顔料で描いた内部のメカが光って見えます。


2024年8月10日

日本画家 佐藤宏三【Hidden Art】「時音 Tokine」ピタッと軸

ピタット軸にて軸装して納品しましたが、蓄光顔料の膠が濃い為に、表側が縮み、波打ってしまいました。

アクリル板付きの額装にしたらフラットになるということで、額装も出来る様にと、オプション注文を承りました。

時音さんからいったんこの作品を引き取り、その足で表具店「マスミ東京」さんに向かい、和風の額縁の注文をしてきました。

2024年9月20日

日本画家 佐藤宏三【Hidden Art】「時音 Tokine」額装換装

こちらが新たに額装したものです。
(撮影時は反射を防ぐためにアクリル板を外しました)

画面の亀裂は蓄光顔料を厚塗りした作品だった為、完成時から入ってて、時音の店主からは、それを承知の上でお買上げ頂いております。

今後万一亀裂から剥落しそうになったら責任を持って補修致します。

今後は、気分に合わせて、額装、軸装、二刀流の飾り方が可能です。

日本画家 佐藤宏三【Hidden Art】「時音 Tokine」専用収納箱

額装と、ピタット軸、両方を収納出来るサイズに箱を作って頂きました。

これに、マジックテープ式の結束バンドを取り付けます。
好きな長さにカットして使えるフリーバンドを適当な長さに2本切り分けます。

日本画家 佐藤宏三【Hidden Art】「時音 Tokine」専用収納箱

カッターナイフで結束バンドを通す穴を開けます。

日本画家 佐藤宏三【Hidden Art】「時音 Tokine」専用収納箱

結束バンドを通します。
内側は布テープで補強してます。

日本画家 佐藤宏三【Hidden Art】「時音 Tokine」専用収納箱

外側は結束バンドの上から布テープで補強しました。

ピタット軸の天地は丸めて結束バンドで固定します。
これで移動時に、軸が箱の中で動いて皺が出来たりするのを防げます。

日本画家 佐藤宏三【Hidden Art】「時音 Tokine」専用収納箱 収納

軸装、額装、2ウェイの飾り方が出来るのが、コンパクトに1つの箱に収められました。

お買上げ頂いた後も、ご要望に応じてオプションサービスや、作品の補修にも応じております。


こちらから⇒【Hidden Art】「時音~Tokine」詳細ページがご覧いただけます。