「真説 桃太郎」The True Story of Momotaro
2025年3月31日
アイディアスケッチと構図

美術モデル兼着付師の二刀流
Rie Watanuki さんに我が家のアトリエにお越し頂き、ポーズをとって頂きました。
大きな桃を食べた老夫婦が、たちまち若返り、久し振りに事を致したところ、元気な男の子が生まれ、若返ったお母さんが、その桃太郎に授乳してる場面から撮影開始しました。
二児の子育て経験者で、着物の訪問着、日常着の実際にも精通されてますので、授乳期は帯を結ばず、下の紐のみで結んでます。

大きな桃を手に入れてご満悦のお婆さんから、若返って桃太郎に授乳してるお母さんに変化する Hidden Art のアイディアが閃き、アイディアスケッチをしました。

スケッチ2枚を重ね、桃が、桃太郎のお尻に変化します。
「受粉」のアイディアの流用です。
自分自身には、一切の制限を設けず、思いついたアイディアを自由に制作に移してるからこそ、色々なジャンルのアイディアが結びついて、次々と新たなアイディアが湧いてくるのだと思います。

今の季節に桃はありませんので、代わりの果物を探しに行き、通常の桃より一回り大きく、赤ちゃんのお尻サイズを想定して、文旦を選びました。

桃に見立てた文旦の香りを嗅いで、これは美味しそうだとニンマリしてるところのポーズです。
隠し絵を透かせるため、あまり濃くなくて柄も控えめな着物と帯を選んで貰いました。
事前にメッセージで写真のやり取りをしての衣装合わせをしてます。
「マリア観音」の時にご購入頂いた赤ちゃんの模型も再び役に立ちました。
この文旦は、一つお土産に里絵さんに差し上げました。

若返ったお母さんと、桃を持ったお婆さんのポーズをAdobe Photoshop のレイヤーを半透明にして重ね、微妙にポーズを変えて貰いながら、何パターンかポーズして貰いました。

暗い色は、蓄光顔料の光を塞いでしまうので、隠し絵で現れる若い母親の顔と、お婆さんの頭部を離すと、お婆さんの姿勢が窮屈そうでした(写真中央)。
お婆さんを白髪にすれば、左右の様に、多少頭と顔とが重なっても、隠し絵の顔を透かす事が可能かもしれません。
明るい状態のお婆さんの絵単独でも日本画作品として成立する、日常的な小さな喜びの雰囲気を保ちたいので、あまり窮屈そうな姿勢にはしたくありません。
今日、撮影させて頂いた微妙にポーズを変えた写真のいいとこどりをしながら、それぞれ単独の絵としての魅力を持ちつつ、画像の重なりでも悪影響が出ない様な、絶妙なバランスを取りながら下図制作に取り組もうと思います。
2025年4月1日
下図用の水張り

下図用の水張りをしようと、新鳥の子紙の残りの上にP20号のパネルを置いてみました。
惜しい!ぴったり過ぎて、側面に折り込んで水張りテープで糊づけする糊代分だけ足りませんでした。
これまで奇跡的に紙の余りが糊代分も合わせてぴったり残ってるラッキーが続いてきてましたが、そうそう奇跡は続きませんよね。

でも大丈夫!
まだ未使用の新鳥の子紙のロールがありますので、こちらから切り分けます。

糊代分を確保して切り分けます。

使って減った残りを包装紙に書いてから、

箱にロールを戻します。
新鳥の子紙は未使用のロールが他にも2枚キープされてます。

下図用の水張り完了です。
上にある2本の細いロールは、本日買ってきた絹本のロールと、先日使い切った裏打ち用の石州紙10mのロールです。
新作のアイディアが湧いたら直ぐに次の制作に移れるよう、下図用の紙や裏打ち用の紙は常に在庫を補充するようにしてます。
2025年4月2日
下図制作

表側の下図用紙は、昨日買ってきた裏打ち用のロール石州紙から切り分けます。
石州紙は薄く下が透けて見えるので、隠し絵の下図が出来上がったら、その上に被せて表側の下図を描こうと思います。
ちなみに本画用の和紙や絹を切り分ける時は、必ず天地を合わせます。
そうしないと掛軸にした時にスムーズに丸まらないからです。
でも今回は下図用紙で天地を合わせる必要がありませんから、パネルを横向きにして切り分けました。

明礬入りのドーサを引いていきます。
ドーサを引くとほとんど透明になり、写真に撮っても紙の存在が見えなくなりそうでしたので、途中まで引いたところで写真を撮りました。

部屋干し用のハンガーの上で乾かします。
本当は雨模様の湿度の高い日はドーサ引きに向かないのですが、関東地方の今週は毎日雨模様なので、晴れる日を待ってられません。
ハンガーの上に置くと通気が良くなって早く乾き、ドーサの効き目もたぶん問題無いと思います。

あちゃ〜、膠を焦がしてしまいました。
下図制作やドーサ引きの作業をしてる間、カビ菌を完全消毒する為に、直火の電熱器にて煮沸させてました。
いつもなら容積が1/3になる頃に電熱器を切ってましたが、今日は制作に集中するあまり、焦げた匂いが漂ってくるまで気づきませんでした。
もったいないですが、これは捨てて、また新たな膠を水に浸してふやかすところからやり直しです。

桃に見立てて、モデルさんの手に持たせていた文旦を半分だけ食べました。
皮を三角コーナー用のストッキングタイプのネットに入れて、文旦湯を楽しみました。

本日の最終段階
裏彩色用の隠し絵の下図なので、出来上がったら左右反転させますが、仕上がりのイメージを確認したいので先ずは左右反転させずに描き進めます。
2025年4月3日

隠し絵の下図に墨を入れる前の鉛筆素描の段階で、表の絵柄の下図制作に入ろうと思います。
パネル側面に折り込んだ部分に画鋲を刺して仮止めしようと思うので、和紙を強化するため、折り込み部分にマスキングテープを貼ります。

折り込んだ側面に画鋲を刺して仮止めします。

画鋲で上下左右を止めたところです。

母親の手と、赤ちゃんのお尻は、表裏一致しますので、先ずは手とお尻の位置を、隠し絵を透かし見て、なぞります。

桃の香りを嗅ぐ背中を丸めたお婆さんを描いていきます。
隠し絵の若いお母さんの顔と、お婆さんの頭髪が重なるので、お婆さんの髪は白髪にします。

表側の下図に鉛筆で下描きを入れたら、再び隠し絵の制作に戻り、骨描きと隈取りをします。
写真と大きく異なるのは桃尻の赤ちゃんです。
将来、鬼退治に行くので、赤ちゃんの時から栄養たっぷり摂って逞しく育ちます。

隠し絵の下図
本日の最終段階です。

表側の下図にも、骨描き、隈取りをし始めました。
鉛筆で調子を付けていくよりも、薄墨で隈取りしていった方が早いので、こちらは直ぐに隈取りに入りましたが、若干ドーサが効いてないところがありました。
やはり湿度の高い時のドーサ引きはダメですね。
まっ、でも下図ですから問題ありません。
本画制作に入ったら、適切な天候を選んでドーサ引きする様にします。

隠し絵の下図が透けて見えると、表側の絵柄が見辛いと思ったので、間に白い画用ボードを差し込みました。
下半身の着物は、柄こそ表裏で変化させますが、形や皺の付き方は表裏で一致させます。
2025年4月4日

石州紙に途中まで描いた表の絵柄の下図です。
このままだと薄くて裏が透けて見えるのと、彩色の際に破けないように厚手の紙で裏打ちしようと思います。
糊代部分に補強で貼ってたマスキングテープを剥がします。

新鳥の子紙から、裏打ち用の紙を切り取ろうと思います。

切り取りました。

F40号のパネルに横向きに新鳥の子紙を伏せ、裏面全面に糊を塗ります。

絵を描いてる石州紙の方には水を引きます。
やはりドーサの効きが不十分な様で、裏側に水分が抜けてしまってます。
本来の裏打ちは、厚手の本紙の裏に、薄い裏打ち用の紙を貼るのですが、今回は、厚手の紙の上に薄い本紙を貼るので裏打ちならぬ「表打ち」になります。

糊を塗ってパネルごと立て掛けた新鳥の子紙の上に、水で湿らせた本紙を被せ、撫で刷毛で縦横に伸ばしながら密着させました。
これが乾いたら、あらためてドーサを引こうと思います。

隠し絵の下図に着物の柄を彩色していきます。
蓄光顔料で発光力が強いのは、緑、青、群青の青系のみになります。
柄部分には群青色に光る蓄光顔料を塗ろうと思います。

モデルさんが用意してくれたこちらの着物の柄は、飛翔する鶴の柄でしたが、羽根の色が、鴇(とき)色というかサーモンピンクなので、パッと見にはシャケの切身が並んでるようにしか見えません。
羽根を群青に変換した方が鶴っぽく見えると思います。

彩色途中になりましたが、本日これから出掛けるので、続きはまた明日!
2025年4月6日

群青棒で一通り彩色しましたが、淡かったので、洋藍と洋紅棒も混ぜて、群青を濃くして鶴の羽根を彩色していきます。

鶴の羽根柄を一通り群青で彩色しました。

表打ちして乾いた表柄の下図に明礬入りのドーサを引きます。
表打ちの糊のおかげで、このドーサが染み込む事はありませんでしたが、糊は水分を吸うと溶けますから、やはりこの段階で明礬にて完全に固めてしまうのが良いと思います。

墨で鶴本体を彩色します。

飛翔する鶴の柄です。

群青を薄めて表側の着物の彩色をします。
本日はここまで。
2025年4月7日
絹本張りと下図の張替え

木枠に捨て糊を塗ります。
「一夜城」制作の時に使い、その時の糊が木枠に付いてるので、今回の捨て糊は一回だけ塗りました。

絹本を張ります。
いつものように絹本は縦糸の方が縮むので、縦方向は緩く、横皺が出来るように張ります。

着付師兼美術モデルの
Rie Watanuki さんが、ご参考にと言って若い頃の写真を送って下さったので、それを参考にしながら隠し絵の仕上げをします。

仕上がった隠し絵の写真を撮り、PCの画像ソフトで左右反転させ、等倍にプリントアウトしたものを繋ぎ合わせて裏彩色用の下図を用意します。

隠し絵の下図はパネルから剥がします。

表側の下図を仮貼りから剥がし、

隠し絵の下図を張ってたパネルに水張りします。

表側の下図をパネルに水張りしました。

水彩で少し彩色し、

洋藍と洋紅とを混色した紫で着物を濃くしていきます。

画面の隅は彩色のムラが出やすいので、幅15mmほど内側を画面とします。

マスキングテープを4辺の端に貼ります。

背景をクチナシの煮汁で彩色しようと思います。

手ぬぐいで包んで、破片が飛び散らない様にして手ぬぐいの上からラジオペンチで細かく砕きます。

煮て色素を抽出します。

コーヒーフィルターで濾して、

塗りましたが、今回は思った以上に派手な黄色になってしまいました。
煮てる時間や紙との相性などで、色味がその都度違ってしまいます。

発色を抑えるため、まず京上 淡緑色を被せます。

次に京上 珊瑚を被せます。
これは下図なので、絵具を重ねて微調整出来ますが、本画は裏彩色の発光を生かすため、厚塗りは出来ません。
本画の彩色時には下図を参考にしつつ、薄塗りで慎重に重ねていこうと思います。

蓄光顔料が、緑、青、群青の青系発光のものばかりなので、最近は表側からブリリアントローズという蛍光色と見紛うような派手なピンクの顔料を被せ、肌色に赤味を加える工夫をし始めました。
まず大まかにこれを塗り、

乾き切らないうちにドーサで洗い、周囲と馴染ませます。

表側の下図、本日の最終段階です。
まだ下図としても完成ではありません。
2025年4月8日

木枠と絹本との糊付け部分が湿らないように、マスキングテープで保護します。
ドーサ引き直前は水平方向の皺が目立ちますが、

ドーサを引いた直後から、みるみる縦糸が縮み、縦方向の皺が目立つ様になります。

完全に乾くとフラットになります。

表面が床に着かないよう、木枠の下に角材を敷いて浮かせ、裏面からもドーサを引きます。
朝顔追加

さて、表側の絵ですが、お婆さんと桃だけでは寂しいと感じました。
かと言って、若返った時のお母さんを綺麗に発光させて見せたいので、複雑な背景描写はせずに、ワンポイント季節の花でも添えようかなと思いました。
夏に咲く花を思い浮かべ…

鏑木清方の名作「築地明石町」に、朝顔が描かれていたのを思い出しました。
ワンポイントの爽やかな彩りを添えてます。
(ちなみに、さらに左奥に港と船も描かれてます)

学生の頃スケッチした朝顔です。
現在もそうですが、学生の頃から早起きが苦手でしたので、花を彩色するのが精一杯で未完のスケッチでしたが

背景として描くとかなり小さくなってしまうので、むしろ手前に朝顔を入れ、朝顔ごしに奥にいる奥さんを見る視点にしようと思いました。
山への芝刈りも、川への洗濯も、朝飯前の仕事という設定です。
昔の人は日の出と共に早起きしたと思いますので。
鉛筆で軽くアタリを付けて、

ネット画像等も参考に描き込み、最適な位置に配置します。

上部をマスキングテープで固定し、間に念紙を挟んでボールペンでなぞりトレースします。

念紙を使ったトレースが終わったところです。

花は発色を良くするため、アクリルガッシュのホワイトで地塗りします。
葉や茎、支えの竹は背景色の上から直接絵具を塗り被せるつもりです。

朝顔の地塗り 部分アップ写真です。
2025年4月9日

ガンボージ(黄)と群青棒とを溶いて、薄塗りから始め、

だんだん塗り重ねて濃淡をつけていきます。
葉の緑色は、画面上でガンボージと群青とを重ねて出してます。
朝顔とお婆さんとの位置関係が分かりにくいので、膝の手前に一部重なる葉を描き足そうかなと思います。

朝顔部分のアップ。
夜になったら花弁が萎む仕掛けを思いついたので、不透明にしてしまう顔料を使わず、透明感のある染料系絵具で、ここも描き進めようと計画してます。
下図の制作をしながら、やり直しの効かない本画制作のシュミレーションをしているような感じです。
2025年4月11日
帯の修正と着物の彩色

写真だと暗くてよく分かりませんでしたが、帯の柄を描くに当たって見直してみたら、明らかに帯が細過ぎです。
石州紙を上から貼って修正しようと思います。
正しい帯の幅に直して輪郭線を描きます。

膝の手前に被せる葉の先端部分にも石州紙を貼ろうと思います。

カッターマットの上で、アートナイフで切り抜きます。

少ない面積ですし下図なので、ヤマト糊を薄めて使います。

下図画面の方にヤマト糊を塗り、

石州紙を貼ります。

モデルさんと衣装合わせのやり取りをした時に送って頂いた写真です。
松葉柄だそうです。縁起が良いですね!

こちらもモデルさんから送って頂いた帯の写真です。
Hidden Art では隠し絵を光らせるため、表の絵の彩色はなるべく明るめにしたいので、一番上の帯を選びました。

帯と着物の柄の写真も参考に、鉛筆で柄を描き込みます。

アクリルガッシュのホワイトで着物の柄を描きました。

柄がよく見えるように着物に群青棒を塗り重ねました。

本日の最終段階です。
着物のベースが暗いところは柄がよく見えますが、明るめのところは柄がよく見えません。
本画の仕上がりのイメージはこんな感じになると思いますが、下図のもう一つの目的は、絹本の裏から透かして、本画にトレースする役目があります。
帯や葉など一通り下図として仕上げた後で、トレース用に、柄は墨でなぞってハッキリさせるかもしれません。
2025年4月14日

表の下図完成しました。

着物の松葉柄は、本画に写す時に視認しやすい様に墨で描きましたが、本画では白抜きする予定です。

絹本を張った仮枠の裏から下図のパネルをパイルダーオンさせます。
絹本に骨描き

絹本を透かして見える下図の輪郭線をなぞって骨描きします。
お婆さんを透かして、若返ったお母さんに変身させるので、お婆さんの骨描きは薄墨で描いてます。
手前の朝顔の葉っぱは暗くなった時もシルエットで見せるので濃い墨で骨描きしてます。
朝顔の花は夜になると萎ませたいので、墨を使わず、透明感のある群青棒を溶いた染料で輪郭線を描きました。
帯の柄も染料で描きました。
2025年4月16日

マスキング液で、表面の着物の柄の松葉模様を描きます。
筆先がくっついて固まらない様に、ナイロン面相を石鹸液でこまめに洗いながらマスキングしていきます。

拡大写真です。
マスキング液は乾くとゴムの様になります。
着物全体を塗った後、生ゴムで擦ると、それにくっつく様にしてマスキングが剥がれます。
その工程は、まだずっと先になります。

画面の下に白い紙を敷き、表彩色の為の骨描きを確認します。
裏彩色の若い母親と赤ちゃんとがよく見えるように、表彩色の骨描きはかなり薄く描いてるのが判ると思います。

拡大写真です。

朝顔部分の拡大写真です。

表側に、先ず透明シートを貼ります。
これは裏彩色のドーサが抜けて、表側に染み出した時に、下図に着かない様、防御するための目的です。
裏彩色用の下図はプリンターにて出力したものなので、絵具の水分が加わるとインクが溶けて絹本表面に付いてしまうので、間に透明シートを挟む訳です。

裏から透かし見て、位置を合わせて左右反転させた下図のコピーを貼ります。

裏側から見たところです。

拡大写真です。

朝顔は暗くなると萎む仕掛けにしようと思いますので、萎んだ朝顔を描いて、これも裏から貼り付けます。

萎んだ朝顔の下描きも挟み、裏彩色の準備完了です。
2025年4月17日
蓄光顔料による裏彩色

一番細かい着物の鶴柄から彩色していきます。
2025年4月18日

本日一塗り目の蓄光顔料による裏彩色をし終わったところです。
表側に抜けた絵具が、反転させた下図に染み込むのを防ぐ透明シートにかなり付着してます。

透明シートを焦茶色のテーブルの上に置くと、かなりの絵具が表側に抜けてしまってるのが判ると思います。

透明シートは布巾で絵具を拭き取って、また使えるようにします。

蓄光顔料による裏彩色、一塗り目が終わった段階です。

表側にひっくり返し、暗くして確認します。
一塗り目でムラなく塗るのは不可能な材料ですので、もちろん多少のムラはありますが、Hidden Art 表現を編み出して丸々4年。
一塗り目でここまで完成のイメージに近づけられる様になったのは、だいぶ蓄光顔料をムラなく塗るコツが身についてきたのだと思います。

二塗り目以降は絵具が反対側に抜けてしまわない様に、ドーサを引きます。
ちなみに透明シートで防御してた事からもお分かりの通り、一塗り目がある程度反対側に抜けてしまうのは想定内というか確信犯でした。
一塗り目で絹本の網目の隙間を埋め(中には網目を抜けてしまう絵具もありますが、抜けた部分は乾いた後重ね塗りして埋めました)、絹本の網目の隙間が全て埋まったところで、あらためて明礬入りのドーサを引いて固める事で、これ以降は塗った絵具が反対側に抜ける事を防ぐ事が出来るという訳です。

二塗り目を終えたところです。
本日はここまで。

母親の顔から胸と、着物にはまだムラがありますので明日以降も蓄光顔料の塗り重ねが必要になりますが、赤ちゃんと母親の手足は二塗り目で、かなり完成度の高い塗り具合になってます。
思えば、粒子の粗い岩絵具をムラなく塗る技術の習得にも、藝大入学してから卒業後の足掛け10年間を要しました。
蓄光顔料を画材として扱い始めて今年から5年目に突入しましたが、もしかしたらさらに5年後の10年目くらいには一塗り目でムラなく塗る技術を身につけてるかもしれません。
なお、一日で蓄光顔料による裏彩色がここまで進んだのは、完璧な下図を何日も掛けて制作してたからです。
完璧な完成イメージが無ければ、たった一日でこんなに完成形には近づけられません。
2025年4月19日

昨日までの仕事を、あらためて観察してみました。
着物の鶴柄、先ず羽根を群青色に光る蓄光顔料で裏彩色し、その後、生地全体を青く光る蓄光顔料で裏から全体に塗り重ねました。
表側から見ると、先に塗った群青色に光る羽根が生地全体の色とは違って見えますが、もっとハッキリした違いを出すためには、この先、生地の色を濃く塗り重ねる前に、もう一度羽根部分の群青を濃く塗り重ねておいた方が良いかもと思いました。
既に羽根の裏側にも生地の青色を2度塗り重ねてますから、今更群青を濃くしたところで、表層から見える発色にハッキリとした違いが現れるかどうか分かりません。
徒労に終わるかも知れませんが、やるだけやっておこうと思いました。

もう一度左右反転させた下図を表側(裏から見ると裏側)から位置を合わせて仮留めしますが、着物の生地全体に青く光る蓄光顔料を2度重ね塗りした後なので、あまりクリアに透けて見えません。

左右反転させた下図をもう1枚出力し、それを観ながら鶴の羽根部分だけ、群青色に光る蓄光顔料を塗り重ねていこうと思います。

羽根部分だけ、2度重ね塗りしました。
蓄光顔料は明るい環境では白っぽく見えますので、羽根柄を塗り重ねた部分は、生地全体よりも、より白く見えると思います。

裏から照明を消して観てみますが、柄はハッキリ見えません。
群青色に光る蓄光顔料よりも、青色に光る蓄光顔料の方が輝度が高いので、濃くした群青と、まだ薄塗りの青色が拮抗してるのだと思います。

群青色に光る蓄光顔料が少し余りました。
蓄光顔料の膠抜きは、上手くいきません。
熱湯を加えると、高温でも発光具合に変化が生じる様で、膠抜きした物と、袋から出した新品とで発光に違いが出てしまいます。
ただ、高価なものですので捨てて洗うのはもったいないと思い、大きな絵皿に移し、刷毛で背景を塗ろうと思います。

捨てるにはもったいないと思いましたが、刷毛で背景を一部塗っただけで、直ぐに使い切りました。
ほとんど意味ない程の微量しか塗れませんでしたが、無駄に捨ててしまうよりは、心にも環境にも優しいと納得させます。

表側から暗くして確認します。
萎んだ朝顔の背景に塗った蓄光顔料は全然光って見えません。
群青色に光る蓄光顔料は、緑と青に光る蓄光顔料よりも輝度が劣るので、たっぷり塗り重ねないと効果を発揮しません。
たいてい背景色として使用してる脇役的な顔料なんですが、そんな訳で、主役の彩色に使ってる緑や青に光る蓄光顔料よりも、多くの回数買い足してます。
今回の作品でも100gのパッケージ一袋、群青色だけ使い切りそうな予感がします。

さて、鶴の羽根と生地の色の違いはハッキリするでしょうか?
今夜の段階では輝度が拮抗してて判別し難いですが、今後、生地の青色を塗り重ねる事で、輝度差が大きくなれば、柄もハッキリするかもしれません。
今晩の仕事が、やらないよりはマシな効果が出ることを期待します。
2025年4月20日

肌色にしてる緑色に光る蓄光顔料と、着物の生地にしてる青色に光る蓄光顔料をさらに塗り重ねます。

だいぶムラが無くなってきました。
もう少しです。

さらに塗り重ねます。

背景には群青色に光る蓄光顔料を塗ります。
大き目な絵皿に一塗り目から沢山用意します。
蓄光顔料は保存中に袋の中で絵具同士がくっついて、ダマになったりしますので、乳鉢で軽く空摺りして、それぞれの粒に解してから膠で練ります。

群青色に光る蓄光顔料を背景全面に塗ります。
通常の絵具の場合、刷毛よりも含みの良い連筆を使ってきましたが、蓄光顔料を含ませると筆や連筆が大きく膨らみ、画面への下りが悪くなります。
薄っぺらくて絵具の下りが良い刷毛が、蓄光顔料を塗る時には適してます。
絵具の性質に合わせて筆や刷毛、連筆を使い分けてます。

まだ完全に乾いてませんが、本日の最終段階(明)です。

本日の最終段階(暗)。
背景の群青はたぶん三度くらい塗り重ねないと発光が見えてこないと思います。
2025年4月21日

本日の仕事に取り掛かる前に、暗室代わりのトイレで確認します。
蓄光顔料は乾いた状態の方がしっかり発光します。
背景の群青も少し光って見えるようになりました。

本日も、緑、青、群青の蓄光顔料をそれぞれの場所に塗り重ねました。
制作前に暗室で撮影したスマホ画面を見ながら、明るさが足りない部分を重点的に塗り重ね、滑らかな陰影の濃淡になる様にします。

人物の肌と着物はある程度完成度が上がりました。
背景の群青だけ、さらに塗り重ねます。
絵具の袋の容量が半分以下になりました。

背景に群青色に光る蓄光顔料を塗り重ねたところです。

まだ乾いてませんので、背景の発光は弱いですが、母子の裏彩色はいったん完成です。
今後、表彩色をした後、発光が弱くなった場所があれば補強するかもしれませんので、あくまでも「いったん完成」とします。
2025年4月22日

裏彩色が乾いたところです。

完全に乾いたら、蓄光顔料の発光もハッキリします。
背景の群青も写真に写る輝度になりました。
染料系絵具による表彩色

表彩色の準備に入ります。
水晶末を空摺りします。

水晶末を塗ります。
水晶末は乾くと白ですが、絵具そのものは透明なので光を通します。

水晶末が乾いたところです。

ドーサで洗いつつ、定着させて平滑な表面にします。

完全に乾いた後、ブリリアントローズライトを薄く溶いて表彩色をスタートさせます。

緑に光る肌色に、赤味を加え隠し味の効果を期待します。
隠し絵の母親の上だけ赤味を加えると、明るい時から存在に気付かれそうですので、背景の一部にも少し赤味を加えてみます。

慎重に薄く塗ったので、あまり赤味は加わってません。
透明感が損なわれていないので、後から少しずつ赤味を加えていこうと思います。

ドーサで洗いつつ、定着させます。

ガンボージを薄く溶いて背景に塗っていきます。
朝顔の輪郭周りは面相筆で塗り、広い面積は連筆で塗っていきます。

一塗り目が終わったところです。
顔料と違い、染料系絵具はいったん定着すると洗って薄くする事が出来ませんので、薄塗りを慎重に重ねていきます。

ガンボージ二塗り目。
本日はここまで。
2025年4月23日

朝顔の花弁を彩色します。
グラデーションを掛けるため、極薄に溶いた群青棒を段階的に濃くしながら重ね塗りしていきます。

絵皿の中の群青も塗り重ねる度に濃くしていってる様子をご覧下さい。

三度塗り目。

終盤には洋藍も重ね、花弁のグラデーションを出していきます。

ガンボージで、肌色や桃、葉に黄味を加えます。
染料系絵具は一度染めると洗って薄く出来ませんので、薄く塗っては様子を見ながら徐々に濃くしていきます。

群青棒と洋紅棒とを混色した紫にて着物を彩色します。

暗室代わりのトイレにて隠し絵の発光具合を確認します。
青系の染料は紫外線をよく通すので、もう少し着物の紫は濃くしても大丈夫そうです。
かなり薄塗りだったのに、背景に塗ったガンボージは色相的に紫外線の補色になる黄色のためか、背景の明るさの方がかなり遮断されてます。

着物をさらに重ね塗りし、朝顔の葉なども一通り彩色し、この後、葉の濃淡もつけました。

もう、日が暮れたのでアトリエの照明を消して確認します。
着物は紫を通して、かなり隠し絵の蓄光顔料も光って見えますが、桃として塗り残したお尻が、まさに桃の形でひときわ明るく見えてますから、紫外線を通しやすい紫色と言えども多少光を遮断してるのが分かります。
背景の群青の輝度を高めて朝顔のシルエットを見せたいので、
背景の裏彩色 蓄光顔料

群青色に光る蓄光顔料を空摺りし、

背景全面に塗り重ねます。
今晩はここまで。
2025年4月25日

マスキング液を剥がすとき絹本の下地を支えるために、下図のパネルを裏からパイルダーオンさせます。

生ゴムで表面を擦るとマスキング液が剥がれ、松葉模様が白抜きで現れます。

全体を剥がし終わったところです。

暗室代わりのトイレで確認します。

マスキングされてたところだけ、他より光をよく通すため、目立ってしまいます。
隠蔽工作

赤ちゃんの上に松葉模様が透けてしまうところだけ、新岩銀鼠を塗って光の通過を塞ぎます。

松葉模様の通過を塞ぎました。

桃上部のピンクを濃くします。

群青棒と洋紅棒とをブレンドした紫で、着物の陰をさらに塗り重ねます。
陰になるところの松葉模様は真っ白では浮いてしまうので、紫色を被せて陰に馴染ませます。

幽体離脱の様にお婆さんの背中に見えてた隠し絵を、ブリリアントローズを薄く被せて周りに馴染ませます。

水晶末にて白髪を塗り、一方、墨で骨描きと要所を隈取りします。
表側のお婆さんのコントラストを上げる事で、隠し絵の存在に気づきにくくさせます。

日が暮れてからの制作は、表側を描き進めながら、アトリエの照明を消しては、隠し絵の見え具合を確認しながら制作を進めます。

桃の尖端に臙脂を差して、小さいけれど主役としての存在感を持たせます。

本日の最終段階(暗)
お婆さんの目鼻立ちが胸の上に見えてしまってますが、この後、微調整で隠蔽工作しようと思います。

本日の最終段階(明)
パッと見にはほぼ完成です。
ここから先は表裏の見え方のバランスを取りながらのデリケートな最終調整になります。
2025年4月28日
表と裏から微調整

暗室代わりのトイレのドアを半開きにして、明暗半々の見え方を確認します。

トイレのドアを完全に閉めて、隠し絵の見え方を確認します。
お婆さんの時の顔が、隠し絵段階でも見えてしまっています。
暗くした時には、お婆さんの顔を目立たなくしていこうと思います。

肌色は基本的に透明感のある染料系絵具にて彩色してきましたので、墨で描いた目鼻口だけが光を防ぎ、暗くした時に、見えてしまう訳です。
目鼻口周辺の肌色は、不透明な岩絵具で彩色し、光の通過を弱める事で目鼻口だけが浮かび上がるのを目立たなくする事が出来るはずです。

目鼻口の周りの肌色は、不透明な岩絵具を重ね塗りしました。

トイレのドアを閉めていきます。

胸の上に浮かんでたお婆さんの顔が目立ち難くなりました。

部分アップ

乾かす間に別の場所の微調整を進めます。
背景を微妙に引っ込めるため、ガンボージに、群青棒、洋紅棒を少量ずつ混ぜて、薄い黄土色を作り、全体に塗り重ねます。
お婆さんの背後に若返ったお母さんの存在が見えてるのを、パッと見には気づき難いようにする微調整です。

背景の裏彩色用に群青色に光る蓄光顔料を空摺りして溶きます。

背景の裏彩色をしたところです。

お母さんの胸と赤ちゃんの上半身を明るく光らせたいので、緑色に光る蓄光顔料を、部分的に塗り重ねます。

アトリエの照明を付けたり消したりしながら、表側からも緑色に光る蓄光顔料を塗り重ねます。

表側からも蓄光顔料を塗って乾くと、明るい時はそこが白っぽくなります。
表の絵柄の見え方の邪魔にならない程度を見極めながら、塗っては乾かしを繰り返す微調整段階に入ります。

「分福茶釜」の時も、狸の頭部の輝度を上げるべく、表側からも蓄光顔料を重ねましたので、表の絵柄でも、少し白く煙った様に見えてます。
たぶんこの作品同様、表の絵柄でも、お婆さんが手に持つ桃の上が少し白く煙った感じになるかもしれません。
ここから先は、表裏の絵の見え方を確認しながらの微調整になります。
今晩ももう少し同様の仕事を続けると思いますが、乾き待ちの間にこの投稿をしました。
2025年4月29日

出かける前に暗室代わりのトイレにて現状確認

母親の顔の濃淡を滑らかにしたいのと、胸の上に見えるお婆さんの顔ももう少し隠したいところです。

理想はもちろん下図の様に見せたいですが、表側の絵の見え方とのバランスを取りながらの微調整になります。

帰宅してから制作開始。
表側から蓄光顔料を塗り重ねますが、なかなか滑らかに乗ってくれません。
塗り重ねては、水を含ませた平筆で滑らかにぼかし、を繰り返しながらですので、少しやっては乾き待ちで、ほとんど乾き待ちの時間です。
昼間録画予約してたMLBの試合を観ながらの、ながら仕事です。