「髑髏一休」制作 Skull Ikyu
2月21日
外枠(仮枠)作製

ぜひ掛軸にしたい画題を思いつき、いつもの老舗日本画材店で絹本を購入したら、中途半端に余った切れ端をオマケに下さいました。
せっかくなので、試し描きを兼ねた小品を描く事にしてF3号を囲む角材をホームセンターのカットサービスで購入してきました。

裏側にL字金具を固定し、キリでネジ穴のきっかけを穿ちます。

外枠は、F3号パネルより少しだけ大きく作っておきます。

サッシ用気密パッキンテープを用意します。

幅30mmのパッキンを半分に切って15mm幅にします。

外枠の内側にパッキンを貼り、

更に裏側からパネルのハメ外しがスムーズに出来る様に養生テープを貼ります。

F3号のパネルがピッタリハマります。

表側から見たところ。隙間に見えるところはパッキンで埋まってます。
絹本は制作中、膠を吸うたびに縮み、外枠もそれに引っ張られ縮むので、内側のパネルより一回り大きく作っておく必要があるんです。

メイン作品の外枠も同様にパッキンと養生テープを装着します。
メイン作品の外枠は、過去の絹本作品で使用したものを再び使います。

外枠の内径より更に一回り小さいサイズで特注してあったパネルがピッタリとハマりました。

外枠の準備完了です!
受注制作じゃ無いのに掛軸の制作に取り掛かろうとするなんて、我ながら無謀なギャンブラーだと思います。
大下図水張り

大下図用に新鳥の子紙を切り分けます。

大下図の水張り完了。
前回の絹本「地獄極楽変相図」の大下図は、新鳥の子紙の表に描きましたが、ツルツル過ぎて味わいが出なかったので、今回は裏側に大下図を描いてみようと思います。
2月23日
絹本張り

煮糊アク止め安全糊にお湯を加え、塗りやすい濃度に溶かします。

「捨て糊」
塗って乾かしを3回ほどくり返し、しっかりくっつきやすい下地を作ってから、いよいよ絹本を張るための糊を塗ります。

壁に垂直気味に糊を塗った木枠を立て掛けます。
絹本の上左右2箇所を摘み持って、木枠に近づけ仮張りします。

床に寝かせた状態で絹本を左右に引っ張りながら木枠にしっかりと糊着けしていきます。
仕上げに瓶の側面でしごいて密着させます。

大きい方も同様に、壁に立て掛けて仮止めします。
この時は不規則な皺や緩みがあっても構いません。
あくまでも仮止めですので。

寝かせてから、1辺ずついったん剥がし、また糊を塗ってから、左右に引っ張りながら本張りしていきます。

絹本は、膠分を含み乾く度に、特に縦糸が大きく縮みます。
(「地獄極楽変相図」を描いた時、描き始めは高さ152cmだったのですが、完成し、掛軸として表装し終わった後に高さを測ったら151cmに縮んでました)
ですので仮枠に貼るときは縦方向はあまりピンと張らず、ゆとりを持たせます。
横糸はほとんど縮みませんので、仮枠に張るときから横方向に引っ張りながらピンと張る様にします。
結果、水平方向に皺が出来る張り方になる訳です。

大きい方は、四隅に画鋲を刺して、糊が乾く途中で剥がれるのを予防しておきました。
2月24日

仮枠に糊着けして乾いた状態です。
主に横方向への皺だらけです。
糊着けしたところが湿って剥がれないようにマスキングテープを貼って保護します。

ドーサを引いた直後、直ぐに縦糸が縮み始めます。
ちなみに僕は箔を押す(貼る)時以外は、ドーサに明礬を溶かしません。ただの薄めた膠液です。

ドーサが完全に乾いてピーンと張れました。
3月8日
一休宗純像模写

こちらは絹本での Hidden Art が計画通りに進むかどうかの実験を兼ねたF3号の小品です。
一休宗純禅師の肖像画は東京国立博物館蔵の模写です。画面上の賛は通常漢文で書かれますが、誰もが読んで意味が直ぐ分かる様に、伝承に過ぎないかもしれませんが、一休禅師が詠んだとされる口語の詩を書きます。

こちらが、計画してる掛軸の小下図です。
一休さんがお正月の京都の街を、髑髏を掲げて、上の詩を詠みながら練り歩いたという言い伝えを、蓄光顔料での裏彩色による髑髏への変化にて、生と死とは表裏一体という事を画でも伝えようと考えました。
決して一休さんをモチーフに悪ふざけしてる訳ではなく、むしろ一休禅師の言わんとするところに共感し、尊敬の念を込めた作品の計画です。
酬恩庵一休寺様には、この小下図を含む資料をお送りし、作画する事を快諾して頂いております。
また、和尚という敬称も付ける事にしました(笑)。

こちらは酬恩庵一休寺蔵の一休宗純像です。
掛軸のサイズと、一休さんのお顔はこちらを参考に描く予定です。

こちらの一休宗純像は東京国立博物館蔵のもので、顔を含む上半身のみですが、酬恩庵一休寺蔵の頂相と瓜二つの肖像画の最高傑作だと思います。
一休禅師はかなりの破戒坊主だったらしいですが、一方で大変尊敬され名僧の誉れも高いですよね。
この頂相を観ると、僕は立川談志師匠をダブらせてしまいます(笑)。
一休さんや談志師匠が現在生きてたら、この欺瞞に満ちたコロナ騒動をどの様に一喝してくださるか。なんて事も想いながらこの肖像画を模写してます。

東博蔵の掛軸を実物大に出力し、上の詩は何度か練習して自分で半紙に書いた字です。
絹本を張った仮枠の下から、F3号のパネルに貼ってはめ込み透けて見える様にセットします。

詩から書き写しました。
画より、字の方が心配でしたので、まあまあ上手く書けて一安心です。

透けて見えるといっても、顔の皺とか、薄い線で描かれたところは判別しづらいので、別冊太陽一休特集の表紙を見ながら描き写します。

とりあえず、一通り線を写し取りました。
クルミ

薄い線はクルミの煮汁で描こうと思います。
細かく砕いて

鍋に投入

途中色が薄く感じたので、クルミの粉末を足して煮出しました。

コーヒーの要領で煮汁だけを絵皿に移します。

線の濃淡を確認しやすくする為、下図のコピーは剥がし、白い紙を張ったパネルをはめ込んで続きを描きます。
少し描いてみたらクルミの煮汁が薄かったので、絵皿ごと電熱器で温め、水分を飛ばして濃縮させてから続きを描きました。


墨と煮汁、それぞれ濃淡に変化をつけて描いていきました。

本日の最終段階です。

一休宗純像、模写クローズアップ写真。
膠液のブレンド調合

丸めたり、拡げたりする掛軸の制作の時は、柔軟性のある膠を調合します。
まず、一番柔軟性のある軟靭膠素を6g
グミの様な柔らかい膠ですが、柔軟性と接着力は概ね反比例しますので、他の膠とブレンドします。

2種類目は太鼓膠です。
これは太鼓の革を張り替えたあと、使用済の革を煮て集めた膠だそうで、散々叩かれた革を煮出して作った膠は通常の膠より柔軟性が増すそうです。
こちらも6g入れます。

3種類目は通常制作でも使ってる軟靭鹿膠です。
これが一番硬い膠ですが、接着力を高めるため、4gだけブレンドします。
違った性質の膠を3種類ブレンドする事で、お互いの欠点を補い合い、柔軟性と接着力両面兼ね備えたブレンド膠になります。

これらを水に浸し、冷蔵庫で保管します。
一晩水に浸して置く間に膠が水分を吸収し、ふやけて溶けやすくなります。
3月10日
クチナシ

クチナシの実を細かく砕きます。

鍋に入れて

煮出します。

コーヒーフィルターで濾します。

全体に塗ります。
蘇芳

次に赤みを出すため蘇芳を使います。

鍋で煮ます。

赤い色素が溶け出しました。

コーヒーフィルターで濾します。

顔に蘇芳の赤味を塗ります。

もう一度クルミを細かく砕きます。

クルミの煮汁を濾します。

全体に塗ります。

刷毛で、溜まったムラを均一に均して一旦終了。
続きはまた明日!

上の詩と頂相(ちんそう=肖像画)との間にマスキングテープを貼ります。

頂相の周りに薄墨を塗ります。
膠の湯煎(膠液)

2日前から水に浸してあった膠です。
かなり水分を吸収し膨張してます。
この状態からなら直ぐに溶けます。

湯煎で溶かします。

ガーゼで濾してアクを取ります。

唇の色として臙脂淡口を少量溶く事にします。

膠で練った後、水差しから少量の水を加え適当な濃度にします。

唇に臙脂を塗りました。
蓄光顔料による裏彩色

いよいよ蓄光顔料での裏彩色に入ります。
蓄光顔料に膠を加え

練った後水を加え、塗りやすい濃度にします。

画面を裏返し、髑髏の参考に、藝大での美術解剖学授業で使ってた教科書のコピーを用意します。

髑髏の参考写真を見ながら、一休さんの顔に合わせて蓄光顔料を塗っていきます。

歯や首の骨も描き加え、裏彩色で描いた髑髏がちゃんと描けてるか、アトリエの照明を消して確認します。
スマホのカメラは自動的に明るく補正してしまうみたいなので、かなり明るく写ってますが、現状はまだ発光が弱いので、乾いたらまた塗り重ねを繰り返す必要があります。
明日以降もこの仕事が続きます。

蓄光顔料が、昨晩顔に塗った蘇芳の染料を吸収し、赤く染まりました。こんなに蘇芳の影響が強いとは想定外でした。
蓄光顔料の発光が充分な段階まで塗り終わった後、あくまでも表側から観た一休さんの顔色が自然に見える様に調整しようと思います。
3月12日
蘇芳と膠の科学反応
染料「蘇芳」が膠に反応して、一休さんのお顔がニホンザル級に真っ赤になってしまいました!

今朝、表から見た状態です。
膠で練った蓄光顔料の裏彩色によって、顔に塗っていた蘇芳が膠との科学反応で真っ赤になってしまいました!
老舗日本画材店の店主からは、明礬に反応すると真っ赤になると聞いていましたし、過去に明礬に反応させて赤味を増す変化の具合は確認済みでしたが、明礬を加え無い膠液でもまさかここまで真っ赤になるとは誤算でした。
蓄光顔料の成分に科学反応したのかもしれませんが、何れにしても、この組合せは今回の作品には適さないと思いました。

手ブレしてしまいましたが、表からも絹本を通して髑髏の裏彩色がちゃんと光る事は確認出来ました。

裏彩色の蓄光顔料は、乾いてから塗り重ねたので、最初のうちは赤く染まりましたが、層を重ねる毎に白くなりました。
でも、問題は表から見える色なんで…。

駄目元で蘇芳を洗ってみます。
ホーローボウルに張った水に、薄く蘇芳が溶けてるのが分かると思いますが、ほとんどは絹にしっかり染み込んで洗い取れません。

裏から蓄光顔料もろとも洗いますが、やはり一度染み込んだ染料は洗い取れません。

こうなったら、画面全体も洗ってみます。
クチナシやクルミの染料が少し取れてホーローボウルに張った水が、黄土色になってきました。

表からも洗いますが、茶色い洗い汁ばかり取れて、蘇芳の赤は頑固に残ってます。

ここまで赤いと、乾いてもたぶん薄くならないんだろうな〜。

乾いたところ。
むしろ、周りが薄くなったせいで、顔の赤さがひときわ目立ちます(笑)!
潔く諦めがつきました!
これは、もう、修正不可能。
新しい絹本を買ってきて1から描き直しします!
蓄光顔料を使った隠し絵画で無ければ、胡粉(ごふん)を塗って顔色を整えられますが、裏彩色の蓄光顔料の発色を活かす為に表層は透明感が必要です。
透明感を保つため、使い慣れた顔料は使わず、透明感のある染料で彩色してきた訳です。
次回は蘇芳を使わず、それ以外の染料の組合せで顔の彩色をする事にしました。

谷中の老舗日本画材で、新しい絹本と、軟靭膠素、クチナシ、クルミを買い足しました。
蘇芳は、ちょっと取り扱いが難しい染料だと痛感したので今回はもう使いません。
今回は、失敗という恥も公開しましたが、新しい表現として結実させるまでには、数々の失敗も避けられません。
新機軸の作品1枚を生み出すために、どれだけ苦労してるかをあえて曝しました。
安売り競争には将来がありません。
1点1点、本気で良い物を考え、作り、一点物の価値を消費者の方々に訴えていきたいと思います。

木枠と絹本の接着部分を保護してたマスキングテープを剥がします。

木枠部分に刷毛で水を何度かひき、糊をふやかします。

貼る時は難しいですが、剥がすのは実に簡単で呆気ない(笑)。

また木枠に捨て糊を2度ほど塗って下地を作ってから、本張り用の糊を塗ります。

壁に立て掛けて仮張りします。

床に寝かせた状態で、絹本を左右に引っ張りながら、また、接着の弱い部分は一旦剥がし、糊を塗り重ね、再び接着させるを繰り返して本張りします。

例によって縦方向を緩く張ります。
ドーサを引くのは、完璧に糊が乾いた明日以降にします。
大下図~詩~

大きな掛軸用の「髑髏一休」の大下図の準備に取り掛かります。
こちらはスケッチブックに描いた小下図です。

小下図をスキャナーで取り込み、画像ソフトで拡大し、A4サイズの紙x4枚に分けて出力しました。

例によって、詩の部分を何度も書いて、絵とのバランスを取りました。
掲げた髑髏を避けるように、改行しました。
明日以降は、小下図を拡大コピーした下描きの上から墨で最終的な描線を決めていこうと思います。
「あわてない、あわてない、一休み、一休み」
3月13日
ドーサ引き

三千本膠をブレンドした普段の制作と違い、掛軸用により柔軟性を高める為にブレンドした太鼓膠は、やや飴色が濃いです。
見た目の濃さだけでは最適なドーサの濃さが判断しにくいので、量りで計量して薄めます。

木枠に絹本を糊付けした接着面をマスキングテープで保護し、膠液の水分を吸って糊が溶け、剥がれるのを防ぎます。

ドーサを引いた直後の写真です。
まだ縦方向にゆとりがあって皺が大きく波打ってます。

ものの3分ほどで急速に縦糸が縮み始めます。
絹が縮んでいく様子は、まるで生き物が急速に成長するかのようで、眺めてて楽しいです。
次回は動画で撮影してみたいと思います。

引いてから5分くらい経過したところです。
この様にドーサを引いてから短時間で乾く事で、ドーサの効きがよくなります。
腐って接着力が弱くなる暇を与えないって事です。
完璧に乾けばぴーんと張られる事でしょう。
経過の続きはまた明日!
3月15日
大下図~髑髏一休~

網代笠の歪みを整えます。

姿見に自分の足を映して、それを参考に足の運びを修正します。

掲げた髑髏の位置も上げました。

墨を入れてみてから、数珠の持ち方に不自然さを感じましたので、紙を貼って、描き直し、さらに房も加えました。

本日の最終段階です。
3月16日

じっくり精査して気が付いた間違いを、大下図のうちに修正します。
腕が外れてると気が付いたので、内側にずらそうと思いました。
トレースして、

内側にずらします。

数珠の玉の重なりがおかしいのに気が付きました。
これじゃあ、エッシャーのだまし絵です(笑)。

数珠の玉の重なりはこうなるはずでした!

修正中の写真です。

本日の最終段階です。
3月20日
落款の位置決め

小下図の段階で落款の位置を決めてましたので、拡大コピーでだいたいの位置は決まってます。

大下図に白い紙を貼り、印を押す場所にピンセットでダミーを置きます。
ピンセットがタミヤなのはご愛嬌(笑)。

ダミーの位置に合わせて印矩(いんく)を置きます。

印矩の位置が決まったらダミーの印を退かし、印矩をしっかり押さえて印を押します。

印を押した状態です。

天然珊瑚末13番を振り掛け、朱肉表面の油分を吸わせます。
余分な油分を吸わせたら、筆で珊瑚末を払い、元のケースに戻します。
このケースの中の珊瑚末は、既に何度も繰り返し朱肉パウダーとして使ってますから、絵具としては使いません。これ専用です。

鉛筆でサインの位置も決めます。
画面の端に落款を入れると、かえって落款だけが独立して目立ちますので、一休さんの足元に添える様にしました。

落款の位置を決めた最終段階です。

継ぎ足しの大下図をパネルに固定しました。
これを一回り大きな絹本を張った仮枠の裏からはめ込み、透けて見える大下図をトレースする様に骨描き(こつがき=輪郭線を描く事)していく訳です。
ドーサ洗い

ところが、ドーサ引きによって縮んだ絹本に引っ張られ、仮枠まで縮み、一回り小さかったはずのパネルがはめ込められなくなってしまってました。
ドーサが濃すぎだったという事です。

ボウルに60度くらいのお湯を用意して、ドーサを洗う事にしました。
僕は、ドーサには明礬を入れてませんので、お湯を含ませた連筆で何度も表面を濡らせば、ある程度濃すぎる膠の層を溶かし、薄める事が可能なはずです。
もし明礬を入れたドーサだったら、完全に溶けなくなり、洗って薄める事は不可能だと思います。
今後の制作で、仮にドーサの効きが弱く感じたら、その段階で再びドーサを引き直せば良いと思いますし、お湯で洗っても、完全にドーサが抜ける訳ではなく、たぶん必要最低限な滲み止め効果は残ると思います。

濡れた表面が光るくらい、何度もお湯を引きました。
余分な膠分が引いたお湯に溶け出した事と思われます。

新しいタオルで、膠が溶け出したお湯を拭き、吸い取らせました。

絹本が濡れて、やや膨張してるうちにパネルをはめ込みましたら、良かった!今度は、はまりました。

絹本表面はまだ濡れてますので、大下図まで湿らない様に、パネルのはめ込みは浅くしておきます。
完全に乾き、本画にトレースする段階で、裏のパネルを深く押し込み、表面の絹本と密着させようと思います。

濡らした絹本を伏せる時は、絹本表面が汚れたり、ラグを濡らさない様にするため、角材2本を渡し、仮枠の下支えとしました。
3月21日

小品用の絹本が緩んでました!
まるで湿度計です。
晴耕雨読と言います様に、湿気の高い日は制作せずに別の新作の構想を練るのが得策です!

ぴーんと張りすぎてた大きな作品用の絹本は、さすがにドーサを洗った後も、緩む事はありませんでした。
逆に言えば、お湯で溶かして拭い去った後の膠分でも充分なドーサが効いてるという事だと思います。
この様にトライ&エラーを繰り返して、だんだん最適な、さじ加減を掴んでゆく訳です。
日々の天候の変化に応じたさじ加減も必要になりますから、実践経験でしか習得出来ません。
日本画を安く売れないのは、決して岩絵具などの材料が高価だからという訳ではありません。
その作品一点に掛けた労力だけで無く、習得するまで積み重ねてきた技術に対して、その事に敬意を払って下さる方にこそ買って頂きたいからです。
3月22日

これは昨日の小さい方の絹本仮張り。
昨日は室内の湿度計38%。

今日も曇りで、夕方小雨が振りましたが、昨日のたるみが目立たなくなりました。
室内の湿度計は27%を示してました。
骨描き

裏からはめるパネルに、下図としてコピーを被せ、再びはめ込み、ドーサの効きを確かめるため法衣の骨描きから描き始めました。

ドーサが効いて骨描きの線が滲まなかったことを確認出来たので、画より僕にとっては難関の詩の方から先に書きます。

大きい方の昨日までの状態。
絹本と大下図を貼ったパネルとの間には隙間が空けてありました。

骨描きのトレースをする為、裏のパネルを押し込み表の絹本と密着させます。

こちらも上の詩から書きたいところですが、万一ドーサが弱く滲んでしまってはいけないので、目立たない足の方の骨描きから始めて、滲まない事を確認しました。

画面の上の方は、普段なら乗り板を渡し、乗り板の上から描くのですが、夕飯を食べた直後で、乗り板の上から上半身を屈めて字を書くのはキツい事が分かりました(笑)。

わずかな高低差ですが、乗り板の上から屈むより、画面の上に直接正座した姿勢の方が書きやすいと気づき、そうして上の詩を書きました。
そういえば師匠の加山又造先生は女性並みに小柄で体重も軽かったので、画面に直接乗って制作されてました。
女性の同級生の何人かも、直接画面の上に乗って制作してたものです。

僕は加山先生より体重が重いので、パネル裏の桟が通ってる場所を確認して、この上に慎重に座りました。
もし桟の通ってない場所に乗ったら、パネルのベニア板を突き破る事でしょう。

小品の方から墨によるトレースを完了させました。
次の段階では、下図を剥がした白いパネルをはめ直し、墨の濃淡を調節しながら骨描きを完成させるつもりです。

画面を寝かせて、乗り板の上から屈んだ姿勢では、画の方も繊細な描写がしづらいと感じ、立て掛けて描く事にしました。
絵具で彩色する段階では、垂直気味に立て掛けると、粘りのある油彩と違って、水で溶いた岩絵具が乾く前に垂れてしまいますので、水平に寝かせて彩色するのが基本です。
でも、骨描き段階なら垂直気味に立て掛けて描く事が可能です。
そういえば「地獄極楽変相図」の制作時も、骨描き段階では、立て掛けて描いたかもしれません。

画面の下の方は、仮枠を乗り板の上に乗せて描きやすい高さにして続きを描き、トレース完了。

本日の最終段階。

大作と小品両方のトレースが完了しました。
3月23日
今日は3時間くらいしか描いてません。
桜が咲いてる時期は、昼間は桜の取材を優先し、夜間のみの制作になると思いますのでペースダウンすると思います。
あわてない、あわてない。一休み、一休み。

近所の散策から帰ってきてから、下図を剥がし、

白いパネルにした状態で絹本仮枠の裏からはめ込みます。
骨描きの線の濃淡が確認しやすくなります。

濃さが足りないところを濃くしていこうと思います。

濃い油煙墨、クルミの煮汁、薄い松煙墨の三種類を使って模写の小品の骨描きは一旦終了です。

小品の顔のアップ

大作の方もこちらを隣に貼って参考にしながら、骨描きしていきます。

本日の最終段階(部分)。

今日の最終段階(全体図)。
3月31日
彩色

クチナシを煮て黄色い染料を抽出します。
ほうじ茶に似た香ばしい薫りが漂います。
飲料にもなるのかな? 好奇心が湧きますが、
明日も外出するので人体実験は止めておきます(笑)。

コーヒーフィルターで濾します。

全体に塗ります。
顔料では無く、染料を使用してるのは、裏彩色で塗る蓄光顔料への紫外線吸収と、照明を消した後の発光を阻害しない為です。

大きな作品の方は法衣を濃く、肌色としては薄めてクチナシを塗りました。

次にクルミの煮汁で陰影と、地面を塗りました。

小さい方も、顔以外の全体と、顔の方は軽く陰影をつける程度にクルミの煮汁を塗りました。

本日の最終段階。
4月2日
マスキング

マスキングテープを上半身に貼ります。

鉛筆で輪郭線をトレースします。

いったん絹本から剥がします。

ガラス窓に貼り、

アートナイフで輪郭線を切ります。
窓ガラスなら、カッターの刃では傷つきませんから。

小さなパーツから切り取っていきます。

輪郭線の通りに切り抜けました。

再び、絹本に貼り直します。
背景 洋藍

洋藍(プルシャンブルー)の棒絵具を指で優しく撫で溶かします。
棒絵具は、染料を膠で棒状に固めた物です。

下の方は、あらかじめ水だけを含ませた連筆で湿らせておき、それが乾き切らない内に、洋藍を上から引いていき、下の方はボケる様にします。

薄く一層目を塗ったところです。

上空の方は空の色を濃くしたいので、最初に塗った洋藍液に、さらに棒絵具を溶き足して濃くします。

先に塗った薄い洋藍が乾き切らない内に、濃い洋藍を重ね、グラデーションを滑らかにしようとしましたが、水分を含み過ぎたため、裏側にまで染みてしまいました。

絹本の裏にはめ込んでた、新鳥の子紙に洋藍の染みが移ってしまいました。
まあ、こちらはただの下敷きなのでこれくらいのよごれは何てことありません。

マスキングテープの下にも少し染みてしまいました。
まあ、これも一休さんの年季の入った法衣や網代笠に出来た染みと捉えようと思います。

背景の空は上空を濃く、下を薄くぼかしたいので、画面を上下逆さまにして乾かします。
乾くまでは次の仕事が出来ませんので、本日の制作はこれにて終了。
元生徒の初個展を観に出掛けることにしました。

帰宅したらすっかり乾いていました。
こちらが本日の最終段階です。

ちょっと染みが出来てますが、一休さんの衣装としても、作品としても、少し年季が入った様な味が出て、良しとします。
何事も完璧を求めると、味も素っ気も無くなって、つまらないですから。
また、顔や手足は裏彩色にて骸骨を描くので、透明感を保つため被覆力の強い岩絵具は塗りませんが、背景や衣装は、今後、岩絵具を塗り重ねますので、染料による僅かな色ムラは目立たなくなると思います。
4月4日
一休禅師 肌 臙脂

小さい方は、詩が書かれた部分をマスキングし、頂相(ちんそう=肖像画)の周りの背景を、薄く摺った松煙墨で塗り、頂相が明るく引き立つようにします。
一気に暗くせず、薄塗りを重ねて暗くします。

臙脂も染料系絵具ですが、顔料の様に膠で練ってから適度な濃さに薄めて使います。
膠の色の微妙な変化や、鼻を近付けて僅かな匂いの変化を感じましたので、今日の使用後に、新しく変えようと思いました。
膠は腐ってくると接着力が弱まるのと、何より臭くなりますので、もったいない様ですが残りは捨てて取り替えます。

臙脂は最初濃いめに溶き、まず唇だけ彩色します。

唇に臙脂を塗ったところです。

小さい方も唇を臙脂で塗ります。

肌全体にはかなり薄めて塗りたいと思うので、ぬるま湯を足して薄めます。

画面外側、掛軸にするとき裁ち落とす部分で試し塗りをしながら、臙脂の濃度を確認します。

まずは足から塗って確認します。
ほんのりと肌色に赤味が加わり、丁度良い感じになりました。

顔と手にも臙脂を薄く塗り重ねました。

小さい方も、顔に臙脂を薄く被せた後、再び背景を暗くします。

量りで量りながら、明日以降使う新しいブレンド膠を水に浸します。
丸めたり拡げたりを繰り返しても、絵具の剥落、ひび割れが出ない様に、柔軟性に優れた軟靭膠素(なんじんこうそ)と、太鼓膠(たいこにかわ)をベースに、硬い分接着力の強い軟靭鹿膠(なんじんしかにかわ)を二粒だけ加えたブレンドが、僕が掛軸用の絵を描く時の配合になります。

本日の最終段階です。
ここまでは透明感のある染料系絵具のみで彩色してきました。
明日以降、蓄光顔料を含む顔料で彩色していこうと思います。

頂相周りの松煙墨がまだ乾き切ってませんが、小品の方の今日の最終段階です。

大小2つの作品、今日の最終段階です。
4月5日
背景 くるみ

頂相(ちんそう)の周りに薄墨を塗る時、画面上部を保護してたマスキングテープを剥がし、模本の色合いと比べます。
東博所蔵のオリジナルに比べ、明るく黄色いので、顔以外をくるみの煮汁で落ち着かせようと思います。

くるみを細かく砕き、煮て、コーヒーフィルターで濾します。

一塗りしましたが、薄かったので、

電熱器で絵皿ごと熱して水分を飛ばし、濃縮します。

昨晩水に浸けてふやかしてあった膠を溶かし、こちらはガーゼでアクを取り再び膠鍋に戻しました。

煮汁の染料は和紙や絹の繊維に染み込みますので、通常、膠は必要としません。
ただ、今回は、絵皿を熱して濃縮する無茶をしたので、念の為、膠匙一杯分だけ膠を加え、定着力を高めようと思います。

濃縮したくるみの煮汁を塗りました。
模本よりはまだ明るく黄色いですが、今回は完璧な模写では無く、オリジナルにアレンジを加えた別物ですから、そこまで模本の再現に拘りません。
顔以外が少し暗く落ち着いてくれたので、これで良しとします。

大きな作品の地面も少し暗く塗り重ねました。ボカシのグラデーションをつけるため、上の方には水を塗り、画面を立て掛けた状態で、くるみの煮汁を塗って行きました。
五条袈裟 天然錆白群緑

別冊太陽「一休」特集号より。
酬恩庵一休寺蔵に保管されてる一休さん愛用の着衣や道具を参考に描いてます。

五条袈裟の彩色に、天然 錆白群緑(さびびゃくぐんろく)を焼きます。

かなり焼いて渋くなったらフライパンの色と区別がつかなくなりました(笑)。

冷めたところで絵皿に出します。
焦茶(こげちゃ)色に焼けてますが、これは不純物の多い絵具なので、これから不純物の焦茶と、焼き群青とに分離させていきます。

膠を加え、練った後、ぬるま湯を加え撹拌させ、少し時間を置きます。

上澄みの軽い焦茶を別の皿に移します。

沈殿した方にまた膠を加えます。
群青や緑青は他の絵具より少し濃い目の膠の方が定着が良いので。

練って、また少しぬるま湯足して、撹拌し、

また5分ほど待ちます。

再び上澄みの焦茶を、さっきの皿に移します。

これを3度ほど繰り返すと、重たい焼き群青と、軽い焦茶とに分離出来、今回はこの2色の塗り分けで五条袈裟を彩色しようと思います。

絹本を張った仮枠を裏返し、木枠の下に角材を渡し、画面が直接床につかないよう隙間を空けて伏せます。
色の濃淡が確認しやすい様に、床には白い画用紙を敷いてあります。
焼き群青で袈裟の濃い部分を塗ります。

網代笠の表は梅鼠、裏は電気石で塗り、焼き群青が乾いたら、上澄みの焦茶を袈裟の明るい部分に塗っていきます。
焦茶は水分が多く、薄かったので、この後、2度重ね塗りしました。

直綴(じきとつ=僧衣の一種、腰から下に襞があり、禅宗の僧侶の日常衣)は、天然金茶石 白(びゃく=岩絵具で一番微粒子な番数)で塗ります。
裏彩色で進めてる理由は、表側から塗ると、骨描き(こつがき=輪郭線)の線が見えにくくなってしまうからです。
また、掛軸制作の場合は、丸めたり拡げたりを繰り返しますので、粗い番数の絵具は不向きです。
白〜13番くらいの微粒子の絵具や、もっと微粒子の洋顔料(油絵具や水彩絵具用の顔料)を膠で練って使う様にしてます。

小さい方の法衣は天然金茶石13番を焼いた「紅葉茶」を膠抜きしてキープしてあったので、それを2度重ね塗りして彩色しました。
古さも感じさせたいので、大小どちらもここまでは、昔ながらの天然岩絵具と、天然染料のみで彩色してきました。
最もこの後、蓄光顔料という、如何にも現代的な材料で、隠し絵を仕掛る訳ですが(笑)。

大小、の現段階。
夕食後、暗くなったらいよいよ蓄光顔料で隠し絵を描こうと思います。

大きい方の拡大写真です。

小さい方は、表側はほぼ完成です。

夕食後、力尽きました(笑)。
蓄光顔料による裏彩色の骸骨描写は、これらの作品の肝なので、もう一度気力を充実させてからにする事にしました。
今朝は大谷翔平選手が初登板&DH制度を使わず2番打者としても出場する試合が放映されるという事で、珍しく早起きし、試合中継を観つつ午前中から制作してたんだっけ(笑)。
(やっぱり、スポーツ、エンタメ、芸術は活力を与えてくれるから必要だと思います!)
という訳で、本日夕食後は、ドーサ引きだけしてお終いにしました。
あわてない、あわてない。一休み、一休み。
4月6日
蓄光顔料による裏彩色

本日の手順を最初から順番に紹介します。
画面が床に当らない様に、左右に角材を渡しておきます。
さらに、白っぽい蓄光顔料で描く骸骨を確認しやすくなるよう、下が透ける絹本の画面の下に、黒い表紙のスケッチブックを敷きます。

左右に渡した角材の上に外枠を乗せるようにして、画面を裏にして置きます。
こうすると画面表は直接床に着きません。

膠で溶いた蓄光顔料で髑髏(どくろ)を描いていきます。

たまに照明を消して確認しながら描いていきます。
この仕事は夜間にしか適さないので、また生活リズムが夜型にズレ込むのが難点です(笑)。

大きい方も同様に、左右に角材を渡し、骸骨を描く場所の下に黒い表紙のスケッチブックを置いておきます。

こちらも裏側を上にして伏せるように置きます。

塗っては乾かしを繰り返し、少しずつ塗り重ねていきます。
大きい方と小さい方とを、乾き待ちの時間を無駄にしないよう、交互に塗り進めましたが、今晩はこれくらいでお終いにして、明日の晩、完全に乾いた上からまた塗り重ねていこうと思います。
下地の絵具が完全に乾いてからじゃないと、塗り重ねが上手く乗りません。
ここから先も慌てずじっくり描き進めようと思います。

この状態を照明を消して撮影してみました。
絵皿の絵具の発光に比べ、まだ描画した部分の発光が弱いですし、何より手ブレ写真になってしまった事からもまだまだ発光が弱いのが推察出来ると思います。

小さい方の作品、本日の最終段階。
表から見ても骨が透けて見えますが、最終的にはこれの解決策は考えてあります。

表側からも裏彩色の蓄光顔料が光って見えます。
まだ微調整があるので完成ではありません。
4月8日

蓄光顔料の発光具合を確認しながらの制作は夜間しか出来ません。
昼間出来る事は、蓄光顔料の定着を良くする為に彩色箇所にドーサを塗る事です。
明るいうちに、塗っては乾かしを3度ほど繰り返しました。

日が暮れてからいよいよ蓄光顔料での裏彩色再開です。
前日膠抜きして乾かしておいた蓄光顔料に再び膠を加え練り直します。

日中、ドーサを塗って安定させた上に蓄光顔料を重ね塗りします。
安定した下地の上だと顔料の乗りが良いです♪

乾いたところで表側に向け、

照明を落とし、表側からも蓄光顔料の発光が見えるのを確認しました。
だいぶ発光が強くなってきました。
あと一晩の重ね塗りで、充分な発光が得られるかもしれません。

大小二枚、表向きにして並べたところです。

だいぶ発光が強くなってきました!
あともう少しです!
4月9日
網代笠・数珠・竹竿

別冊太陽「一休」特集から。
酬恩庵一休寺所蔵の一休宗純禅師の愛用品のうち、網代笠です。

昨日、某駅前にて友人と待ちあわせする時、托鉢中のお坊さんを見つけました。
お布施を納めた上で、写真を撮らせて頂く許可を得られました。

網代笠の網目を描写しようと思います。
別冊太陽の写真では、網目が細か過ぎてよく判別出来ず、今まで描いてませんでしたが、やはり細部のリアリティは大事ですから。
鉛筆で、まず網目の切り返し部分を描き、

鉛筆で網目の配列のアタリをつけて、

墨で網目の立体的な陰影を描きました。
墨が完全に乾いたら、鉛筆でのアタリは練りゴムで消します。

網代笠は、円錐状の先端が尖ったものから、丸いものまで様々あります。
別冊太陽に掲載の一休愛用の網代笠は先端が欠けてしまって分かりませんでしたが、僕はすでに先端が尖った状態で本画に墨で描いてしまってますので、今更丸く修正は出来ません(笑)。
ネットから拾った網代笠で、先端が尖って仕上げに漆を塗った一休愛用の網代笠のイメージに近い物を見つけたので、これも参考にして描きました。

網代笠の網目を描いた墨で、数珠も暗く塗っていきます。
一塗り目は中濃度の墨を塗り、

残った墨汁をまた硯で擦って、濃度を濃くし、重ね塗りをしながら数珠の丸い立体感を出していきました。

髑髏(どくろ)を掲げる竹竿用に天然岩黄土12番、
数珠の先の房用にコバルトバイオレットを溶きます。

岩黄土とコバルトバイオレットを裏から一塗したところです。
これも塗って乾かしてを2、3度重ね塗りして適切な濃度にしていきます。
この後、夕食を食べてすっかり日が暮れたら、蓄光顔料を使った裏彩色に入ります。
続きはまた深夜に(笑)!
4月10日

本日夜の部を順を追って解説します。
まずは蓄光顔料による骸骨の彩色、3日目です。
3日間くらい掛けてしっかり蓄光顔料を定着させます。
数珠の房のコバルトバイオレットも3、4回に分けて塗り重ねました。

蓄光顔料がむらなく塗れました。
裏彩色 天然水晶末

天然水晶末 白番を溶きます。

明るい状態で表側から見た時に、骨が透けて見えない様に、骨以外の皮膚の下地に水晶末を塗り重ねていきます。
これも、3、4回に分けて塗っては乾かしてを繰り返し、だんだん被覆力を高めていきます。
一気に濃く塗らない事が、筆むらを無くし、乾燥後のひび割れや剥落を防ぐ事になります。

すっかり真っ白く塗り潰しました。
蓄光顔料の下地も白い方が、発光が強くなるそう(メーカーの説明)なので、蓄光顔料の上にも水晶末を塗り重ねます。

直綴(じきとつ=禅僧の法衣)の下地にも薄く水晶末を塗りました。
これは、今後の制作過程で、背景を裏彩色で濃くするつもりなので、背景色が一休さんの衣装を透かして表側から見えない様にするためです。

水晶末の裏彩色をする前の上半身です。
骨が表側からも確認出来ます。

裏彩色で水晶末を塗り終わって表からみた上半身です。
骨は皮膚を通した自然な見え方に感じる程度になりました。

こちらも、裏彩色の水晶末を塗る前の足。
レントゲン写真の様に骨が透けて見えます。

裏彩色の水晶末を塗った後。
適度に薄い皮膚から骨が感じられますが、男、老人の足として適度な骨張り具合になりました。

小品の方のアップ。
よく見ると頚椎(けいつい=首の骨)が薄っすら見えますが、老人特有の染みにも見えます。

照明を落とした状態。こちらも、髪の毛や皺などが見えて怖さ倍増です(笑)。

今晩の最終段階です。
この後、大きな作品の方は、背景を裏彩色でもう少し濃く(暗く)し、一休さんが明るく引き立つようにしたいと思います。
小品の方は、ほぼ完成かな?
僕の気が変わらなければ…(笑)。

表側から照明を消して見たところです。
絹本を通して裏彩色の蓄光顔料もしっかり光って見えます!
表から墨で描いた髪の毛や眉、鼻が見えるのも、なかなか生々しくて良い効果だと思います。

2つの作品を並べた状態で照明を落としたところです。
やはり肌色が被っていない、剥き身のしゃれこうべが一番明るく発光しますね。
4月13日
裏彩色 インミンブルー

インミンブルーは天王洲アイルにあるマニアックな画材店、PIGMENT(ピグモン)にて購入した新開発の顔料です。
ウルトラマリンよりも耐光性に優れた群青色だそうです。
天然群青でこれくらい鮮やかな色となると、11番くらくらいの粒子になってしまいます。
丸める掛軸用としては少し粗い粒子になりますので、ここは微粒子で鮮やかな発色の新素材を使います。

乗り板に角材を2本渡し、傾斜をつけて絵を伏せます。

明るくボカしグラデーションを滑らかにしたい部分に、あらかじめ水を引いておきます。
ちなみに、この段階で網代笠の上に皺が出来てるのは理由があります。
網代笠から下の一休さん本体は、膠で練った絵具で彩色し縮んでます。
ところが、背景の空は膠を含まないプルシャンブルーの染料のみの着色ですので、あまり縮んでいないため、網代笠の上に皺としてたるみが出てしまってるという訳です。

インミンブルーを塗っていきます。
一塗、二塗り程度では連筆の刷毛目が出てしまいますので、湿っている内に刷毛目をズラしながら何度も引き、刷毛目を馴染ませます。
画面下方は水を含ませた連筆で明るくボカす用に、インミンブルーを洗い取ります。

一通りグラデーションをつけて引き終わり、少し落ち着いた頃を見計らって、画面を逆さまにして壁に立て掛けます。
これによって、上空ほど濃い空になるはずです。

蓄光顔料と水晶末で塗ってあった上にもインミンブルーが被ってます。

表側からはブルーの影響は僅かな事を確認しましたが、

湿らせたティッシュで拭き取っておきます。

こんな感じ。

インミンブルーの裏彩色が乾いたところです。
背景の空にも膠分を含む顔料を塗った事で、背景も少し縮み、網代笠の上にあった皺がピーンと張りました。

翌日、裏面全面にまた明礬を含まない膠液だけのドーサを引きました。
表装する時の裏打ちは表具屋さんにお任せするつもりです。
表具屋の職人さんにとっては、他人の画の裏打ちを任され、裏に水や糊を塗る時、絵具が溶けて動く事を心配されます。
裏彩色された画ならなおさら不安に感じさせてしまうと予想されます。
職人さんに安心して裏打ちして貰うために、ダメ押しの滲み止めという訳です。
明礬を入れるとより完璧な滲み止めになりますが、明礬の酸性が、絹本にダメージを与えてしまいます。
胡粉(ごふん)は貝の粉末で、カルシウムを含むアルカリ性なので、胡粉の地塗りをすると、和紙や絹を中性に中和出来ます。
藝、美大の日本画専攻では、明礬を入れたドーサを引き、胡粉で下地を塗る事を基本として指導されてます。
でも、この制作の場合は、裏彩色の蓄光顔料の発光を阻害しないため、不透明な胡粉の地塗りはしません。
最初から明礬を入れなければ、胡粉を塗る必要も無いという訳です。
これはあくまでも佐藤宏三流の技法です。
4月15日
動画だと露光時間が短く、画像が不鮮明でしたので、あらためて一眼カメラにて静止画を撮影しました。




東京国立博物館所蔵 一休宗純像模写 応用版


落款

落款(らっかん=サイン)を入れる手順を解説します。
絹本の裏にパネルと大下図を差し込みます。
ちなみに仮枠の内側にピッタリハマる様に作った特製パネルは絹本が膠を吸って縮み、もうハマらなくなってましたので、一回り小さい別のパネルを使ってます。

本画とピッタリ重なる位置に大下図をはさみ、落款の位置を透かして確認します。

東博所蔵の一休宗純像の模写をアレンジした小品にも、落款だけの紙を裏に差し込み、位置を決めます。
左下だと窮屈で、左右のバランスも偏ります。

いったん裏にハメるパネルを外し、落款の紙を右下に置き直します。

右下の方が収まりが良いです。
落款を入れる位置は、画を見る人の視線の向かう方向とは逆に入れるのが良しとされます。
髑髏を掲げた大きな作品の方は、掲げた髑髏が右上なので、落款は反対の左下が良く、
こちらの小品は一休さんの視線が向かって左を向いてるので、落款は視線の方向と逆の右下が良いという訳です。

金泥の絵皿を用意します。
金泥は純金の粉末で高価ですので、毎回膠抜きして無駄なく使用を繰り返してます。

膠を加え、

しっかり練って膠と絡めます。

膠鍋を湯煎で暖めた周りのお湯を匙ですくって、筆で書きやすい濃度にしますが、かなりトロミが残る位、濃い目に溶かないと金泥の発色が不十分になってしまいます。

まず、金泥でサインを書きます。
それが乾いたら印矩(いんく)を大下図の印の位置に合わせてセットします。

印も押しました。

印の朱肉が後で擦れて周りに伸び広がらないように、天然珊瑚末13番を振り掛け、専用の筆で朱肉表面にまぶします。

余分な朱肉の油を吸い取った珊瑚末を、筆で専用ケースに掃き戻します。

こちらは金泥のサインがハッキリ見えます。

大きい作品の方は、地面の色と同系色で目立ちませんが、落款は控え目で目立たぬ様に入れるのが良しとされますし、伝統的に仏画には絵師の落款を入れません。
頂相(ちんそう=僧侶の肖像画)の場合は、賛を入れた僧侶の落款だけが入れられますので、絵師は特定出来ないケースも数多くあります。
僕はさり気なくでも歴史に名を残したいので、落款は当然入れさせて頂きます(笑)。

金泥が完全に乾いてから、メノウベラで擦って金泥が光るように艶を出します。
8月3日
仮枠剥がし

仮枠に貼った状態で買い手が現れるのを待ち、売約を取り付けてから軸装しようと思ってましたが、お寺さんも、法事や参拝客が減ってなかなかゆとりが無いみたいです。
こうなったら銀座での個展で発表し、売約と「蓄光顔料を使った隠し絵画」の認知度を上げる勝負に出ます。

制作中に、湿って剥がれる事を防止する為に貼ってたマスキングテープを剥がします。

仮枠に糊付けしてた部分を水で湿らせて、

剥がします。
張るのは難しいですが、剥がすのは呆気ないほど簡単です(笑)。

タオルの上で乾かします。

湿ってた糊が乾くと再び縮み、皺が出来ます。

糊付けしてた部分をカットします。

フラットになったら、

保護の紙を被せて、

ボール紙の芯に巻き付けます。

ケースに入れて、明日表具店に持って行きます。
8月4日
表装
額縁選びも同様ですが、掛軸の表装は、直接絵を合わせながら最適な裂地(きれ)を合わせるのがベストです。
正直に打ち明けると額縁の方は、多くの場合、購入費と選ぶ時間のコスパを良くする為、どんな絵にも合うタイプの型をまとまった数注文してきました。
掛軸の方は、毎回絵に合わせて裂地を選んできましたので、絵と同様、一つ一つ全て違う裂地で表装してきてます。
表装も含め、まさにこの世にたった1枚だけのオリジナル作品に仕上がります。
量産品では無い、この世にたった1枚だけの本格的な日本画をオーダーメイドで、どんな画題でも、ご予算を含め相談に乗ります。

定規を当てて画面ピッタリサイズに切って貰います。

三角定規を当てて直角になる様に定規を当てます。

掛軸の「天地」の裂地と、絵を上下に挟む細い「一文字」用の裂地とを選びました。

天地と一文字の裂地を入れ替えた組み合わせも試してみましたが、最初の組合せがベストでした。
他の裂地も3種類くらい合わせてみましたが、やはり最初の裂地がベストでした。

軸先(赤丸で囲んだ部分)も選びました。
軸先も、木製、陶製、金属製など色々ありますが、今回は金属製の物を選びました。

国立東京博物館蔵「一休宗純像」模写版の小さい方も天地の裂地と、絵を細く縁取る裂地、軸先を選びました。
こちらの軸先は木製に「塗り」を施したもの。
どちらも表装の出来上がりが楽しみです。
9月10日

「髑髏一休」の表装完成しました。

暗くすると裏彩色の髑髏が光ります。

東博所蔵の「一休宗純像」の模写版も表装が仕上りました。
こちらも照明を落とすと髑髏が光ります。