簡易軸装 Simple mounting on a hanging scroll
2021年10月の個展で、試しに簡易軸装の小品も展示してみようと考えました。
これなら額装での販売と同価格で、お客様のご希望に応じて軸装での販売も可能に出来そうです。
今後の海外展開も見据え、今まで額装する事が多かった小品も、あえて和風のローカル色を出した方が外国の日本ファンの方々に喜ばれるのでは?と戦略を立て、軸装の割合を増やしていこうと考えました。
個人的にはグローバリズムよりも、ナショナリズムに立ち帰った方が国も個人も生き残れるんじゃないかと思ってます。(思想、信条についてはあくまでも個人的な見解ですので、これについての議論を戦わせるつもりはございません)
ただし、受注制作では無く、売れるか売れないか分からない作品全てを、軸装のコストを掛けるのはリスキーでした。
今回、安価な簡易軸装キットを紹介され、これなら額装と同じくらいのコストで軸装が可能だと思いました。
ちょっと試してみたいと思います。
ピタット軸(マグネット式)
商品番号17510 ピタット軸(マグネット式)
4,800円(税込) です。
色は全7種です。
作品はもちろん佐藤宏三作「桜花」シリーズの1枚 P3号(約A4サイズ)のもので、地元埼玉県小川町の細川紙(厚口)です。
ピタット軸は天地の裂地の端がマグネットで、中廻しの端を挟む様にワンタッチで装着可能です。
(参考作品も佐藤宏三作「紫陽花図」です)
キットにも中廻しに使える伝統裂地の柄がプリントされた和紙(これも色柄複数あります)と、アイロンで簡単に接着出来る裏打ち紙(写真右上に丸まってるやつ)が入ってます。
キットに入ってる中廻しを使っても良いのですが、厚手の細川紙に描いた絵と、中廻しの和紙や裂地の厚みを揃えた方が、より綺麗に仕上がるとアドバイスを受けましたので、
中廻し 裂地裏打ち
中廻しは裂地を購入し、本画との厚みを近づける為、いつもは本画制作に使う厚手の和紙を、裏打ち用に使います。
こちらは山梨県身延町西嶋和紙
山十製紙「おおむらさき」楮50%+マニラ麻50%の
手漉き和紙です。
本画を描く為に購入した和紙を裏打ち用に使うのは贅沢ですよ😊
必要な大きさに切ります。
糊はいつもの「煮糊アク止め安全糊」を、裂地用という事で、いつもの和紙同士の裏打ちの時より濃い目に溶かしました。
アイロンで裂地の皺を伸ばします。
和紙の裏打ちの時、同様、僕は「地獄打ち」のやり方でやってみます。
表装の仕方を解説した書籍も観ましたが、ちょっとやり方が違ってました。
正式なやり方では無いのかもしれませんが、あくまでも佐藤宏三流のやり方ですので、悪しからず。
裂地の方にトロッと溶いた糊を生地全体にしっかり染み込ます様に塗り、
厚みのある 楮+マニラ麻の和紙が透けるほど、左右両側から連筆で水分を染み込ませる様に引きます。
裂地を貼ったパネルを壁に立て掛け、それより一回り大きく切った和紙を被せ、なで刷毛にて左右、上下に和紙を伸ばす様にして裂地と密着させました。
これが乾けば、中廻し用の厚みのある裂地が出来上がりとなるはずです。
友人の何人かは、表装もご自身でやる経験豊かな作家もいらっしゃいますが、僕は画家が本業であり、表装はいつも表具店の職人さんにお任せしてました。
今回、簡易とはいえ、表装の一部工程に初挑戦ですので、必ず成功するか分かりません。
何事も先ずは自分で経験してみる事が大切だと思ってます。
右に置いた2冊の本を参考に進めましたが、やはり一番参考になったのはプロの表具師による本物の掛軸です。
本紙と裂地、裂地同士の継目、端の処理は本物を手に取ることで、技法書の説明だけでは、いまいちよく分かって無かった事が直ぐに解りました。
裏打ちしてあった裂地を剥がします。
紙同士の裏打ちの時より濃い目の糊で裏打ちしてましたので、剥がすのはいつもよりも難儀しました。
表に返すとこんな感じです。
裏から塗った糊が表側にも染みてました。
古タオルで表に染み出た糊を綺麗に拭き取ります。
アイロンを掛けたら裂地側が縮み、丸まってしまいました。
裏打ちする時に、和紙をもっと湿らせ伸ばしておく必要があった事に気付きました。
裂地と和紙との縮み具合の違いや、水加減は実践を経験しないと分かりませんね。
中廻し 本紙・裂地の裁断
本紙の周りを1分(3mm)だけ残し切り抜きます。
糊代を作る事で、本紙に裂地が被る事なく、画面全体目一杯見せる表装が可能になります。
裏打ちの時、裂地の外側が少し歪んでしまいました。
定規を当てて確認し、ストライプが歪んだ外側の裂地は使わない様にします。
柄の入った裂地は柄のパターンの配列が綺麗に揃う様に、裏打ちの時の糊刷毛の使い方にも気をつける必要が解りました。
ピタット軸の天の横幅より、少しゆとりを持たせた幅で中廻しの上下を切ります。
中廻し左右の柱も、かなりゆとりを持って切り分けます。
2本に切り分ける時は、裏返して白い和紙の側の方が、切り分ける場所に鉛筆で印をつけられます。
貼り付ける前に、置いて並べて確認します。
中廻し 表装
上下と柱のストライプがズレずに繋がるように、柱と本紙との接着部分の位置を決め、まち針を刺します。
まち針を刺した位置に定規を当ててから、まち針を抜いた後にカッターで切ります。
今回は、いつもの糊を一切水を加えず、原液のまま使います。
1分(3mm)幅の糊代部分だけを出し、本紙の上には糊がつかないよう定規で保護して、糊刷毛で本紙糊代に糊を塗ります。
裂地の柱裏側も1分だけ覗かせて糊を塗ります。
柱は、上を本紙に揃えて貼り、ヘラでしごいて裂地と本紙とを密着させます。
ちなみにヘラは粘土ベラを流用しました(笑)。
左右の柱を本紙に糊付けした状態を裏から見たところです。
柱の下部は、糊付けが終わってから本紙糊代の位置に定規を置いて裁ち落とします。
中廻しの上下も同様に本紙に貼り付けた後、
ピタット軸の横幅の位置に、まち針を刺します。
いったん、横幅ピタリの位置に定規を置いたあと、
端を裏側に1分折り返す為の幅を3mm確保するために、まち針の位置を3mm外側に刺し直し、次に定規をこの位置にズラしてからカットします。
まだ、端の折り込みが終わってませんが、いったんピタット軸を装着して仕上り具合を確認します。
マグネットで挟んでのワンタッチ装着なので、途中の確認も簡単に出来るのも良いですね!
左右、上下の裂地を裏側に1分折り返します。
星突(代わりのドライバーセットの中の一本)を寝かせ気味に使って折り目をつけます。
拡大写真です。
アイロンでしっかり折り返しの癖をつけます。
折り返し部分が、内側に収まる様に角を少し裁ち落とします。
糊付けして、またヘラで擦って密着させます。
表装、とりあえず完了。
これがしっかり乾いた明日以降、総裏を薄い和紙で裏打ちしたら完成です。
表側はこんな感じです。
よくよく観ると上下のストライプと柱のストライプとが、1mm位ズレてます。
今回、自分自身でやってみて、あらためてプロの表具師の凄さが理解出来ました。
元々、絵画に限らず、ものづくり全般は好きですので、今回の体験も楽しかったし、表具の工程を体験出来た事は、今後の為の良い勉強になりました。
でも、これを表具店に注文した場合の見積りの金額次第では、今後もやはり僕は絵画制作に専念し、表具は職人さんにお任せした方が合理的かもしれません。
佐藤宏三作「桜花」ピタット軸に装着する中廻しの表装、表向きは完成しました。
あとは、これの糊が完全に乾いたら、総裏を裏打ちして完成です。
総裏 裏打ち
総裏の為の紙を切り取ります。
「桜花」の総裏用と、新作「Get up, stand up.」を描く為の裏打ち紙を切り取りました。
つまり、「Get up, stand up.」を描き始める前に、総裏を貼る仕事をしていたという訳です。
普段の和紙の裏打ちと同じ要領で「地獄打ち」にて総裏を貼りました。
裏打ち紙 裁ち落とし
一週間以上経って、ピタット軸(マグネット式)に挟む表装の総裏が完全に乾いたので、裏打ち紙の耳を裁ち落として完成させます。
ここから本日の仕事になります。
裏打ち和紙の耳を湿らせ、糊を溶かします。
プラスチック製のパレットナイフを耳の下に差し込みながら剥がします。
耳の糊が乾くまでタオルの上に置いておきます。
耳が乾いたので、画面はキッチンペーパーで保護し、カッターマットに伏せます。
5厘(1.5mm)内側で、裏打ち紙だけを裁ち落とします。
拡大写真です。
表装完了しました。
表装の参考書には
1.総裏を貼ってから最低一週間は乾かす事と、
2.仮張りから剥がす時も晴天の日にすべきと
書かれてましたので、今日を待って仮張りから剥がしたという訳です。
なるほど、プロの表具師に表装を頼むときも最低一ヶ月掛かるというのが、自分で表装の一部分を体験してみて理解出来ました。