「受粉」 Pollination
2023年8月14日
水晶末による地塗り
たぶん半年以上前に水張りしてあったパネルです。
日本画は制作に移る前の準備段階で数日掛かってしまいます。
小品は思いついたら直ぐに描ける様に、和紙ロールの余った切れっ端などで、水張りしてストックしてあります。
ところが、収納してあった箱の中で、他のパネルを出し入れした時に、こちらのパネルも擦れて和紙の繊維が毛羽立ってました。
ただ、ドーサを引くのではなく、毛羽立った和紙の繊維の隙間に水晶末を埋めるように、下地を塗ろうと思います。
藝大を始め少なくても関東の美大では、胡粉(ごふん)による下地が基本と教わってると思いますが、僕は蓄光顔料を使った隠し絵画で透明感のある水晶末を良く使うようになり、水晶末も胡粉の様に空摺りして使うときめ細かい表現が出来る事に気づき、下地にも水晶末を使う様になりました。
空摺りしてから膠で練ると、胡粉の様に団子が出来るんですよ。
百叩きまではしません(笑)。
なので、胡粉を溶く時よりも随分手間を省けます。
一塗り目
パネルを180°回転させて反対側から二塗り目をしたところです。
この投稿の後、また二塗り(計四回)くらいして今晩の仕事は終わりにしようと思います。
2023年8月15日
桃の彩色1
桃を描き始めました。
予想(期待?)通り悪だくみしてます。
本当は、次回は子供向けの隠し絵画の制作に入るつもりでしたが、
桃が店頭に並んでるうちに描かなきゃと思い立ち、急遽こちらの制作に取り掛かり始めました。
伝統的に日本画家は季節感を大事にしてます
2023年8月16日
通常「蓄光顔料を使った隠し絵画」の手順としては、先ず蓄光顔料で隠し絵を描き、その後、表の絵を透明感のある染料系の絵具で描きます。
今回は桃が旬のうちに、表の絵を先に描く手順で進めてます。
真ん中、蛍光色と見紛うほど鮮やかなブリリアントローズライト。
今春、京都の顔料問屋にて30年経っても色褪せてない色見本を確認の上で購入した顔料です。
耐光性に難のあった蛍光ピンクに代わる、期待の新戦力です。
桃の彩色に入ります。
陰影の色として洋藍や臙脂紫味も加え、一通り桃を描きました。
ガンボージと洋藍とを混ぜた緑色で背景を塗ります。
乾いたところです。
桃の彩色をしてて、顔料の定着が弱く感じましたので、ドーサを引きます。
いつもは、金箔を押す時以外は、明礬(みょうばん)を加えない薄めた膠液をドーサとして使ってますが、今回は、いつもより顔料の定着が悪く感じましたので、明礬を加えてガッチリ固めようと思います。
1度目のドーサを引きます。
やはり定着が悪く、ドーサを含んだ連筆に持って行かれました。
桃の右側にピンク色が流れてる様子や、絵皿の中のドーサ液にもピンクが混ざってる様子が分かると思います。
膠液が残り少なくなってきたので、もう一つの膠鍋に、固形状の膠を浸けておきます。
この状態で冷蔵庫に入れておくと、水を吸ってふやけ、温めたら直ぐに溶けやすくなります。
数日前から水に浸けておけば、次回直ぐに溶けてくれるという訳です。
パネルを180度回転させて、反対側からもドーサを引きます。
1度目に引いたドーサはピンクに染まってしまったので、2度目はまた新しくドーサを作りましたが、2度目もドーサにピンクが混ざりました。
今回初めて使用したブリリアントローズライトは膠と絡みにくい性質のようです。
顔料は、それぞれ膠と絡みやすかったり、逆に絡みにくいなど、それぞれ性質に違いがあります。
よく使う顔料は、膠の濃さの加減がだんだん分かってきます。
この絵具も次回からは少し多めの膠液で練って使おうと思います。
“お尻”、じゃなかった(笑)、“桃”だけ覗かせて、ティッシュペーパーで周りを隠し、スパッタリングにて臙脂淡口を散らします。
ちなみにこの後、また2度ドーサを引きました。
本日の最終段階です。
今回はこの上から蓄光顔料を塗り被せて隠し絵を描くので、白っぽい蓄光顔料を被せる事を計算に入れて、桃をより鮮やかに彩色しました。
また、背景も蓄光顔料で描く時に絵具を乗せたところとそうでないところの区別がつきやすくなるようにと、濃い目に彩色しました。
次に表の桃を描く時まで、とても保存仕切れないですから、食べ頃を逃さぬうちに食べちゃいました
もちろん美味しかったです。
一応、デジカメでも桃を撮影しておきましたので、蓄光顔料による隠し絵を描き進めた後、再び桃を仕上げる時は、たぶん写真を観ながらの仕上げになると思います。
一応、梱包材は編みパターンを確認できる様、捨てずに取っておこうと思います。
2023年8月25日
蓄光顔料による彩色
同時進行中の恐竜の絵のドーサを乾かしてる間に、桃の絵の隠し絵を3色に光る蓄光顔料で彩色し始めました。
暗くすると、こんな感じです。
2023年8月26日
今日は展覧会巡りをして、帰宅してからはこちらの作品の隠蔽工作をしました。
天然方解末13番と天然岩鼠13番とを混色すると、蓄光顔料と似た、少しくすんだ白っぽい絵具になる事が分かったので、今回もそれで隠蔽しようと思います。
僕のFBの投稿は流れてしまいますが、友人の栄正一さんが日本画家佐藤宏三公式サイトに各作品の制作手順としてアーカイブして下さってます。
「あの時、どういったやり方、材料を使ったっけ?」という時、自分の公式サイトでレシピを確認出来ます。
作者本人が一番重宝してます
とりあえず1回目の隠蔽工作終了です。
まだ蓄光顔料の付き具合も粗いので、明日以降ヤスリを掛けていったん均してから次の工程に移ろうと思います。
徐々に完璧な隠蔽に仕上がると思います。
隠蔽工作用の絵具も被せた事で、画面全体に絵具の層を覆い被せられましたので、和紙の繊維を直接傷ませずにヤスリ掛けが出来る下地も出来ました。
暗くして確認したところです。
隠蔽工作用の絵具を被せたところは、明るいところでは蓄光顔料の白さと似てますが、暗くした状態では光りませんので、黒く見えるという訳です。
2023年8月28日
いったんヤスリがけして均します。
ドーサを引いたら蓄光顔料の多くが連筆に持っていかれました。
桃の発色が復活しましたが、その分せっかく乗せた蓄光顔料のほとんどが取れてしまったという訳です。
また、ついつい連筆の継目を重ねて引いてしまった為、継目が筋状に取れてしまいました。
つくづく本日は集中力に欠き、ミスを連発してしまいました。
まさに「こうぞうも筆の誤り」な1日でした。
ただし、予備校講師時代、常々生徒達にも言ってきた事ですが、
「スポーツや音楽の演奏なら失敗が残ってしまうけど、絵の場合は修正して最終的に失敗を隠せる訳だから、途中泣きたくなるような失敗をしても、諦めないで最善を尽くせ」という事です。
暗くしたら、顔やお尻の発光が弱く、まだらになってしまいました。
でも、今までもそうでしたが、また塗っては均しを繰り返しながら滑らかな発光具合に整えていきますので、序盤から上手くいかないのは想定内です。
2023年8月30日
本日の制作の大半は蓄光顔料の彩色です。
なかなか滑らかに乗せるのは難しいです。
本日の最終段階(明)です。
本日の最終段階(暗)です。
2023年9月1日
こちらの作品は、恐竜の作品と交互に描き進め、お互いの乾き待ちの時間を無駄なく使ってます。
まだらな発光具合をひたすら滑らかにしていきます。
顔の目鼻や髪の毛にいったん蓄光顔料が被っても、今は、先ず滑らかな彩色を目指します。
今晩の最終段階(暗)です。
今晩の最終段階(明)です。
2023年9月2日
隠蔽工作
蓄光顔料を塗ったところ以外を、蓄光顔料の白さと同じくらいの白さにする隠蔽工作をします。
天然方解末13番に、少量の天然岩鼠13番を混ぜます。
前夜、蓄光顔料がはみ出て描写がボケた目鼻と髪の毛もしっかり隠蔽絵具を被せます。
「桃」本日の最終段階(暗)。
2023年9月3日
本日は、ヤスリがけから仕事をスタートさせました。
先ほど友人から、僕がやってない匿名SNSで、また僕の事で盛り上がってるとお知らせがきました。
知らぬが仏と言って、炎上内容は教えてくれませんでしたが、今度はいったい何で盛り上がってるのだろう?
まっ、アンチが増えるのは、それだけ注目され、警戒される存在なんだと前向きに捉えておきます。
1回目のドーサを引きます。
今日は前回の反省を生かし、連筆の継ぎ目を重ねない様に、数ミリの隙間を空けて引きました。
ヤスリで均されたらフラットになり過ぎて、アニメか漫画の様になってしまいました。
一塗り目が乾いたら、画面を180°回転させて二塗り目を引きます。
もちろん連筆の重ね方も、一塗り目と目分量で半分ズラしてます。
画面を逆さまから見ると、パッと見「桃」に見えます。
えっ?「お尻にしかみえません」か?
その方はエロぞうレベルの眼をお持ちのお方です。
2023年9月6日
今日は、藝大と得応軒とに出掛ける予定なので、出掛ける前に全体に水晶末を被せます。
一塗り程度では発光を妨げません。
二塗り目を終えたら、少し発光が弱くなりましたが、まだ大丈夫。
表からはもうほとんど見えません。
こちらも仕切り直しで、また桃から描き起こすつもりです。
2023年9月14日
桃の描き起こし
今シーズンはもう終わりかと思ってた桃が、今日、近所スーパーの店頭に再登場してました。
写真にも撮ってましたが、やはり本物を観て描くのが一番と思い、ちょっと高かったけどまた買ってきて描き起こそうとしました。
ところが、桃そのものよりも、梱包材の描写がすっかり見え難くなってましたので、そちらの描写からやり直し。
新しく購入した中川胡粉製の群青棒と、洋紅棒とをブレンドしたのを溶きます。
群青棒は透明感を感じましたが、洋紅棒は透明感のある染料系ではなく、不透明な顔料系の様に感じました。
なので薄めに溶いて、
輪郭線だけ入れたところで、
暗室で確認します。
薄塗りでも被覆力が高いです。
今まで使用してきた本洋紅棒と、群青棒とのブレンドに変えて続きを描きます。
隈取りをします。
本日の最終段階(明)。
結局梱包材の描写だけしか出来ませんでした。
本日の最終段階(暗)。
2023年9月15日
桃の彩色2
桃の彩色を始めます。
蛍光顔料の様に鮮やかなピンクは京都の顔料問屋で購入したブリリアントローズライトです。
一番上の臙脂淡口も綺麗な赤ですが、より鮮やかなピンクの発色が欲しくてブリリアントローズも使うことにしました。
ただし、他の3色は全て染料系で透明感がありますが、ブリリアントローズは顔料なので不透明です。
少しずつ様子を観ながら塗り重ねていき、
暗室代わりのトイレで確認。
少し暗くなってきました。
こちらも。
更に重ねて、まあ、これくらいかな。
かなり暗くなってしまいました。
やはり表の絵と裏の絵との両立が難しいです。
こちらも。
ブリリアントローズは定着が悪い事を前回使って理解したので、いったん明礬を溶かしたドーサで定着させようと思います。
桃の上で刷毛の継目を見せたくなかったので、今日はいつも使ってる連筆よりも、幅広の刷毛を使います。
この刷毛幅であれば、桃を丸ごと一塗りでドーサ引き出来ます。
ブリリアントローズは予想通り、多くが刷毛にさらわれてしまいました。
一塗り目が乾いたら180°回転させて反対側からもドーサを引きます。
一塗り目ほどではありませんが、やはりブリリアントローズがぬぐいとられ、だいぶ薄くなったと思います。
でも、トイレで確認したら、あれだけ取れてもまだ結構暗かったです。
背景を含む他の表の絵を彩色した後、バランスを観ながらまた上から蓄光顔料を薄く被せていく事になります。
今日はこれからクロッキー会に参加するので、こちらの制作はここまで。
2023年9月16日
桃の花
桃の実、単体の構図だとしたら、構図のバランスが悪いですよね。
明るい時の絵のバランスを取るため、桃の花を描きます。
トレースした線だけだとよく判らないと思いますが。
こちらも同様。
臙脂淡口と臙脂濃口とを溶きます。
本日の最終段階です。
桃の花の彩色に入りました。
表の絵は、桃の花と桃の実とを組み合わせた構図になります。
もちろん、花の咲く時期と、実が収穫される時期とは違います。
なので、実景の背景としてはありえない構図構成になります。
小・中学生の頃、少女漫画の背景に実景ではなく、心理描写や演出で、何故かお花が咲いてたりする世界観について行けませんでしたが、おじさんになった今、まさか自分の作品で、現実とは異なる、時空を超えた画面構成をする様になるとは自分でも驚きます。
暗くした状態です。
表から描く桃の花は、顔やお尻と重ならない位置に描いてます。
上の絵はシャツの柄の様になりますし、
下の絵は、メイド服がそもそも黒いので表の絵の影響はほとんど無いと思います。
僕って天才!
今のうちに天才佐藤宏三の絵を1枚でも買っておいた方が絶対良いと思います。
2023年9月17日
群青棒を溶きます。
背景全体に空色をイメージした群青棒を塗っていきます。
照明を消して確認します。
群青棒も透明度が高いようで、「桃の実=お尻」以外を塗ってもほとんど暗くなってません。
更に濃く塗っていきます。
かなり濃く塗っても、せいぜい同程度で、相対的に「桃の実=お尻」より暗くはなってません。
水晶末を被せます。
何度か塗り重ねるうちに水晶末の絵皿に群青色も混ざってきました。
表の絵の色調としては、生な群青色に水晶末を被せる事で、自然な空色に整える効果が見込め、
暗くした時、相対的に「桃の実=お尻」の明るさが勝り、主役を引き立てる為の抑えの効果があります。
本質的にエロ追求に過ぎないくせに真面目に解説してるのが、自分でも笑えます。
水晶末を被せた後、紙ヤスリで均しましたが、今から思えば擦り過ぎてしまいました。
ドーサを引きます。
反対側からも。
乾いたところ。
どうやら蓄光顔料で描いたところもかなり擦り取られてしまったようです。
トイレで確認。
かなり取れてしまってます。
もう一度最初からやり直しのレベルです。
こちらの作品は決まってる展覧会出品の予定は無いので、いったん制作を中断する事にします。
2023年9月18日
蓄光顔料による描き起こし
こちらの制作はしばらく中断すると言いましたが、同時進行作品の乾き待ちの時間を使って、再び蓄光顔料での描き起こしを開始しました。
蓄光顔料を桃にかぶせたら、明るい状態では肌色になってきました。
明るい状態でも、桃じゃなく、お尻にしか見えません
パッと見は表の絵が「桃」に見えるように誘導するためにも、背景の桃の花のイメージは不可欠になってきました。
緑に光る蓄光顔料で肌色を。
青く光る蓄光顔料で、主に衣装の白色部分を。
群青に光る蓄光顔料で背景を塗ります。
ここまでが本日の最終段階(暗)です。
本日の最終段階(明)です。
蓄光顔料を塗ってないところが青いので、そういう部分に白っぽい絵具を塗って、明るいところで見た時に、画面全体の白さが均一になるようにしてから、あらためて桃の花を再度描き起こそうと思います。
小さいサイズの作品ですが、手間とアイディアが凝縮した作品になるので、安い価格では売れない作品になると思います。
2023年12月22日
表彩色調整
久しぶりに、引っ張り出しました。
制作を再開します。
制作途中の現状(明)です。
(暗)です。
蓄光顔料で重ねるところと、暗くした時光らなくて良いところには、天然方解末13番+新岩青口鼠13を塗ります。
制作中、何度もアトリエの照明を消して、暗闇でも描き進めます。
暗くしたいところの青さが、
方解末と青口鼠とのブレンドでは、充分白っぽく隠せないので、天然水晶末 白(びゃく)番に、ほんの少しだけノーバグリーンを混ぜた白色絵具を溶こうと思いましたが、
結局、これでもノーバグリーンが多かったので、溶きながらノーバグリーンの大半を捨て、新たに象牙色も加えて蓄光顔料に似た白色絵具をブレンドしました。
一番右の絵皿に入ってるのが、ノーバグリーンと象牙色とで色調を調えた水晶末です。
青かった上にこれを被せ、全体的な色調を似せる事が出来ました。
暗くして見た本日の最終段階です。
2023年12月24日
こちらが本日の仕事に入る前の状態です。
群青色に光る蓄光顔料を背景に塗ります。
一塗り目が終わって確認。
ほとんど変わってません。
さらに二塗り目を重ねます。
少しだけ、背景の光り方のムラが無くなりました。
これが乾いたら、一旦紙ヤスリで画面全体の凹凸を均し、また濃淡や色ムラを確認しながら進めていきます。
蓄光顔料を滑らかに光らせる為には手間が掛かります。
今日はこれだけでおしまいです。
2023年12月25日
本日の仕事前の状態です。
厚塗りの油絵の様にマチエール(=絵肌)が粗いのがお分かり頂けると思います。
こちらも同様。
蓄光顔料の粒は、ある程度の粗さ(大きさ)が無いと充分に蓄光出来ないそうです。
なので、微粒子にすると蓄光能力が乏しくなるということです。
この粗さ故、工業印刷では高細密で滑らかな描写が再現出来ず、卓越した技量を持った手彩色でしか写実的な描写を再現出来ないという訳です。
クローズアップ写真
紙ヤスリで優しく擦り、表面を均します。
掃除機のブラシヘッドで粉塵を吸い取ります。
ヤスリ掛け後です。
こちらも。
一塗り目のドーサを引きます。
一塗り目のドーサを引いた時は、掃除機で吸い取り切れなかった蓄光顔料の粉が、連筆で拭い取られます。
ドーサを入れた絵皿の中で拭い取られた蓄光顔料の粉が光ってるのが分かると思います。
一塗り目が乾いたら、反対側から二度目のドーサを引きます。
一塗り目のドーサが乾いた段階で、画面上に残った蓄光顔料は、しっかり画面に定着するため、二塗り目を塗った後は、ドーサを入れた絵皿に蓄光顔料が移る事はありません。
二塗り目のドーサが乾いたところです。
だいぶ全体が整ってきました。
この後、今まででしたら、再び蓄光顔料を塗り重ねるところですが、今回は、少し手順を変える事を思いつきました。
胡粉による細密描写
胡粉を空摺りします。
蓄光顔料という新素材を使ってみるかと思いきや、伝統的な材料、技法も引き継いでます。
伝統技法と、新たな工夫との融合が僕の真骨頂です。
実は2年前、武蔵美美術館にて開催された
「膠を旅する」展の図録をよく読むと、新素材の膠 アートグルーを開発した、渋谷ウエマツ画材店社長の上田邦介氏による研究、分析の結果、
現在の精製技術で作られた胡粉は、膠で練った後、団子にして百叩きする必要は無いと書かれてます。
古くからの膠の弱点を指摘し、アートグルーを開発した事には、研究、開発者として尊敬出来る面もありながら、僕自身は新素材膠であるアートグルー使用には反対です。
僕は可逆性のある膠の方が、何百年後、僕の絵が国宝や重要文化財として修復してもらう時に、それが可能となるので、弱点では無く、長所だと思ってます。
諸行無常の方が長期的視点で考えた時、優れてると僕は思ってます。
反面、思想信条的には相容れませんが、研究者としての実験経過には説得力を感じ、百叩きを止めたり、常温で半年腐らない煮込み膠の技法などは採り入れてみて納得してます。
胡粉の使用法としては、百叩きを省略する代わり、溶き終わった胡粉を5分(韻を踏んで覚えやすいでしょ)ほど放置し、微粒子の上澄みだけを別の皿に移し、そちらだけを絵具と使用する方法を徹底したほうが、確実にキメの細かな彩色、描写が出来て、後年の剥落も防げる実感があります。
粒子の粗い蓄光顔料の彩色を重ねて
徐々に細かく滑らかに描写するよりも、
蓄光顔料でザックリ大まかに彩色した後、
筆先が効く微粒子の胡粉により、
輪郭をはみ出した部分や、髪の毛、目鼻の陰影部分を描写した方が、断然高細密な描写が出来ると思いました。
今までも、裏彩色や、懐中時計のメカの描写で採り入れてきた技法ですので、今回初めて試した手順ではありませんが、
「春の画SHUNGA」を観て、当時の春画は、絵師、摺師、彫師の最高技術力が結集した芸術品である事を再認識し、僕のモチベーションも、エロティックな画題であっても、僕の最高レベルの描写に高めたいと意欲が高まり、また、より筆先の効いた細部描写をするためには、この方法の方が効率が良いと確信できました。
また、暗闇でも、ブラックライトで照らしながら描くと、完全な真っ暗闇よりも、胡粉の絵皿や、筆先を確認しながら描ける事に気づき、僕にとっての技術革新を発見しました。
髪の毛や、メイド服のフリルなどは、胡粉で筆先を利かしながら描いた方が、断然良い手応えがあります。
ブラックライトのほんのりとした明かりで、自分の筆先がどう運筆されてるかを確認しながら、攻める、もとい(笑)描く事が出来るのも、非常にやりやすいです。
こちらの作品の本日の最終段階(暗)です。
明るくするとこんな感じで、あらためて、白過ぎる胡粉を周りに馴染ませる必要はありますが、そちらは明るい照明化で出来る微調整なので、難しい事ではありません。
こちらの作品の本日の最終段階(暗)です。
同じく最終段階(明)です。
陰影の役割の胡粉彩色が、愛液の様に見えてエロいです。
一部そういう表現として採り入れようかとも思います。
何しろ春画の本気のエロティック表現に感動、共感しましたので、より本気で取り組む所存です!
2023年12月27日
花の描き起こし
墨で花の骨描きを描き起こします。
水晶末にて、花弁のハイライトを描き起こします。
こちらも同様に、墨での骨描きと
隈取りにて花の陰影をつけます。
2枚の絵は実際には交互に取り替え、適度に乾燥時間を挟みながら描き進めます。
こちらも水晶末で花弁にハイライトを入れます。
明日以降は、
裏の人物の白過ぎるところを背景の空色に馴染ませ、
表の桃の実と花とだけを浮き上がらせようと思います。
2023年12月28日
背景の隠蔽工作
群青棒を溶かします。
胡粉で彩色した部分が他より白さが目立つので、先ずは白さの目立つ部分から群青棒を溶いた色を重ねていきます。
今回も2枚の絵を交互に取り替えながら進めましたが、それぞれ連続写真で経過をご覧頂こうと思い、それぞれに分けてアップします。
二塗り目
三塗り目から、元々空色だった周りの背景にも重ねます。
暗くして確認します。
三塗り目が乾いたところです。
胡粉の下地の上に塗ったところが、他よりも明度、彩度とも高いので、
ガンボージと岱赭棒とをブレンドして溶かした絵具を溶き、
胡粉下地の明るく鮮やかな色調を、少し抑えるように塗り重ねます。
更に本洋紅棒も溶かし混ぜます。
ちょっと色調を抑え過ぎたかもしれませんが、だいぶ落ち着きました。
今晩の彩色では、特に蓄光顔料の厚い層での滲みが感じられましたので、今後の彩色を進める前に、いったん明礬を溶かしたドーサで滲み止めをしようと思います。
明礬入りドーサ一塗り目。
これが乾いたら画面を180°回転させて、反対側からもドーサを引き、今晩の仕事を終わらせようと思います。
明礬入りのドーサを含んだ連筆は、二塗り目を待つ間いったん洗います。
画面が乾くまで連筆を放っておくと、連筆の毛先も明礬で固まってしまいますから。
一塗り目が終わって、乾き待ちの時間を利用して、この投稿をしてます。
こちらの作品も、まとめて順番にアップします。
群青棒一塗り目
二塗り目
三塗り目
暗くして確認
三塗り目が乾いたところ
ガンボージと岱赭棒とをブレンド
本洋紅棒も追加
一旦投稿した後、晩酌をしながら夜中に制作を進めました。
水晶末を空摺りし、溶きます。
水晶末を全体に塗ります。
水晶末が乾きました。
ドーサを引きます。
乾いたら180°回転させて反対側からも引きます。
ドーサが乾きました。
ブリリアントローズライト
蛍光色と見紛うほど鮮やかな
ブリリアントローズライトを溶きます。
これだけ鮮やかということは、たぶんこの絵具の粒子はガラスビーズのように滑らかで、光を反射する性質を持ってると思われます。
表面が滑らかゆえに、膠が絡まり難く、画面への定着がし難いのだと推察しました。
そこで、この絵具をしっかり定着させる方法を考えてみました。
チマチマ部分を塗らず、画面全体に塗っては乾かしを繰り返します。
これが一塗り目を終えたところです。
合計四度塗りをして、夜中の仕事を終わらせます。
夜中の仕事はお酒を飲みながらしましたが、水晶末、ドーサ、ブリリアントローズ全て、画面全体を塗る仕事でしたので、酔ってても問題ありません。
晩酌して、もう寝ようとしたのですが、次の工程をどうするか考えてたら頭が冴えて眠れなくなってしまったので、どうせ眠れないなら次の工程を進めようと思ったという訳でした。
2023年12月29日
本日は、日中から再スタートします。
ちなみに暗室代わりのトイレで発光具合を確認したら、こんな感じで、ブリリアントローズの層を通して蓄光顔料がちゃんと光ってます。
ここから、接着し難いブリリアントローズライト用に発案した彩色方法の仕上げに入ります。
まず、明礬を加えたドーサを、幅の広い連筆にて、画面全体に引きます。
ドーサが乾き切らないうちに、桃の花と実以外のブリリアントローズを、そのドーサを含ませた小さな連筆で洗い取ります。
こちらも同様に。
背景 桃の花 桃の彩色
完全に乾いたら、背景に群青棒を溶いた絵具を塗り重ねます。
群青棒を溶いた絵具も三度ほど塗り重ねました。
この段階も暗室で光具合を確認します。
臙脂淡口、臙脂濃口、ガンボージも溶き、花と、桃の割れ目などを彩色していきます。
ブリリアントローズ単色だった桃に、ガンボージの黄色も加えます。
墨と臙脂濃口で、枝や花の描写にメリハリをつけます。
暗くしても確認します。
画面構成上で実より後ろに描いた花の方がコントラストが高くなってしまってアンバランスです。
また、全体に色が濃く、鮮やかになり過ぎて下品な印象です。
桃の花は現実にこれくらいピンクが濃いのですが、僕や多くの日本人の好みとしては、やはりソメイヨシノの様なほんのり淡いピンク色を好むと思います。
先ずはリアルな桃の花として描いてみましたが、ここから先は、あくまで絵画表現として、上品に感じられる淡い色調にして行こうと思います。
蓄光顔料による彩度調整
再び、蓄光顔料を上から重ねます。
裏の絵柄がより明るく輝く効果と、桃の鮮やか過ぎるピンクを淡く抑える一石二鳥を狙っての仕事になります。
アトリエの照明をつけたり消したりしながら、蓄光顔料を塗り重ねます。
こちらも同様に
これが現在の状況です。
こちらも、いったん顔全体に蓄光顔料を塗り重ねました。
お尻や、顔のベースを滑らかに蓄光顔料を塗り重ねてから、後日、目鼻口は胡粉で描き起こすつもりです。
今晩も、乾かしてから、また蓄光顔料を塗り重ねる仕事を継続しようと思いますが、乾き待ちの間を利用して、昨晩から本日の経過を投稿しました。
2023年12月30日
顔とお尻に蓄光顔料を塗り重ね、乾いたところで紙ヤスリで均します。
掃除機のブラシヘッドで粉塵を吸い取り
ドーサで定着させます。
暗くして確認します。
蓄光顔料を重ねます。
確認。
また重ねます。
確認。
水晶末を顔と、お尻以外に被せます。
またヤスリ掛けします。
明礬入りのドーサを引きます。
顔とお尻とは、だいぶ滑らかに光るようになりましたが、水晶末の被覆力が思いの外強く、それ以外の発光が弱くなってしまいました。
新年からの仕事再開では、あらためて背景や衣装の塗り直しからスタートとなります。
2023年の最終段階です。背景と衣装との蓄光顔料での塗り直しをしたら、たぶん花はすっかり見えなくなると思います。また振り出しに戻ってゼロから描き直しです。
2024年1月15日
新たな描き起こし
本年の制作 仕事初め
昨年から持ち越した状態です。
下図との間に念紙を挟んで、ボールペンでなぞってトレースしたり、
鉛筆で直接描き起こします。
鉛筆の上からは胡粉で彩色し、
明るい時には鉛筆の黒さを隠し、
暗くした時には発光を抑え暗くなるようにします。
メイド服のフリルなどは、青く光る蓄光顔料を彩色します。
青く光る蓄光顔料で、シャツやメイド服のフリルを明るく復活させ始めました。
背景の群青色に光る蓄光顔料も重ねます。
お尻や顔の蓄光顔料も重ね、発光を暗く抑えたいところには胡粉を重ねます。
やはりムラ無く滑らかに塗るのは難しいので、今晩もこれにて終わらせて、続きはまた後日にすることにしました。
本日の最終段階(暗)。
2024年1月16日
今日の日中は来月「上野の森美術館」にて展示する「マリア観音」の展覧会企画会社への搬入と今後の活動についての打ち合わせ。そして画廊巡りをしました。
帰宅して夜の数時間だけの制作でした。
先ずはヤスリ掛けをします。
昨夜の後半にむしろ他より厚塗りになってた部分の膠が弱かったようで、ヤスリ掛けしたら逆にほとんど取れてしまいました。
膠の濃さの加減はいつも目分量で、あとは指先や筆先でかき混ぜる時の粘り気といった触覚が頼りです。たぶんその時の気温や湿度によっても定着の強度に違いが出ると思いますので、何十年日本画を描いてきた中堅プロ画家にとっても相変わらず難しいです。
でも、こうして制作途中で洗ったり、ヤスリ掛けして、定着の弱いところを落とす工程を挟む事は、耐久テストを何度も繰り返しながら完成させる手順を踏んでるようなものですので、ご購入後のトラブルは起こりにくいと思います。
某有名物故日本画家の作品は、生前よく売れてましたが、その画家の死後、価値が上がるどころか、ひび割れ剥落が多発し、お客様からのクレーム殺到で、マーケットで扱いたくない作家の代表格となってると聞いてます。
故人の名誉のため、その作家がどなたか思いついた方も、公開のコメント欄に決してそれを投稿しないようご配慮下さい。(その様なコメントを見つけたら速攻で消去させて頂きます)
決して他作家の悪口ではなく、佐藤宏三は同業他者の失敗例も教訓に、僕の死後も決して価値が下がらない品質を考慮して制作してるという事のアピールです。
粒子の粗い蓄光顔料の彩色に使ってきた筆は、
Hidden Art 開発初期は筆先の腰の強い面相筆を多用し、中期からは、フラットに塗れる平筆の導入をしてきました。
さて、今晩はどちらを使おうか迷い、対極の特徴を持った、面相筆と平筆との中間の筆を使う事を思いつきました。
つまり、使い古してすっかり筆先が利かなくなった「則妙」を使ってみます。
即妙も降ろしたては、面相筆の命毛同様、腰が強く先端が尖った筆先を持った細部描写に適した筆です。
ところが粒子の粗い絵具を塗る時には、腰が強く先端が鋭く尖った筆は、しばしば乾き切ってない絵具の層を削ってしまいます。
なので、平筆の方が、筆先の圧力を分散し、フラットに絵具を重ねるには適してますが、平筆の欠点はピンポイントで絵具が剥がれた箇所だけを狙って補修するには不向きです。
命毛の先端がすり減った即妙筆は、筆圧の分散具合が丁度良さそうです。
ハンディタイプのブラックライトを導入後は、アトリエの照明を真っ暗にした後も、手元を照らす事が出来て、以前のような「真っ暗闇を手探りで」描く作業よりは格段にやりやすくなりました。
剥がれ落ちた部分を中心に補修しました。
現状こうなりました。
この投稿を終えた後、たぶんここまで補修した絵具が乾いてる頃だと思いますので、それを確認して、もう一塗りくらい重ねるかもしれませんが、ほぼこれで今晩の最終段階です。
2024年8月16日
久し振りにこちらの制作の続きをします。
暗室代わりのトイレで確認。
青く光る蓄光顔料で発光の弱い部分を塗ります。
ここから先も、少しずつしか変化しません。
何工程か飛ばした方が進展具合が分かりやすいと思いますが、少しずつ調整しながらだんだん仕上げていくからこそ、微妙で滑らかな陰影がつけられるという事をリアルにお伝えする為に、一工程毎に写真を上げています。
胡粉にて暗くしたいところを塗ります。
再び蓄光顔料を重ねます。
群青色に光る蓄光顔料を背景に塗ります。
水晶末を全体に塗り被せます。
反対側からも水晶末を塗り被せます。
水晶末が乾いたところです。
水晶末がやや多かったようで、暗くした時の発光が弱くなりました。
紙ヤスリで優しく擦ります。
それでも水晶末の刷毛目が気になります。
ドーサを引いて、余分な水晶末を洗い取りつつ、定着させます。
ドーサ引き直後は透明感があり、蓄光顔料の光も充分に感じましたが…
ドーサが乾くと、やはり水晶末の刷毛目が気になります。
光り具合にもムラが出ています。
再びドーサでしつこく洗います。
特に尻(もとい桃)を重点的に洗います。
完全に乾いたところです。
お尻の光り具合はだいぶ滑らかになりましたが、顔を含め、また滑らかに発光させる為の塗り重ねが必要です。
Hidden Art は、理屈は簡単ですが、実践には手間が掛かります。
2024年8月18日
桃を滑らかに光らせる為、蓄光顔料を薄く重ねていきます。
エアキャップを乗せて照明を消して撮影しましたが、透明なエアキャップを透かしてハッキリ光って見えてしまいましたので、エアキャップは却下。
ちっちゃいキャラクターフィギュアを置いて、
これならどうだ!
光りムラのあった顔を特に塗り重ねました。
いったん眉が消えてしまいましたが、これが乾いたらヤスリ掛けし滑らかにした後、胡粉で眉等を描いて整えるつもりです。
2024年10月2日
背景に入れる桃の花をトレースします。
念紙に揉み込んだ木炭の粉を定着させるため、水を引きます。
群青棒と臙脂とをブレンドした紫で陰影をつけていきます。
臙脂
群青棒で空を塗り、薄墨で枝を描きます。
再び臙脂と紫で少しずつ濃くしていきます。
まだ完成ではありませんが、今晩はここまで。
暗くしたところです。
花は慎重に薄く塗り重ねてますので、隠し絵の発光をそれほど邪魔してません。
2024年10月3日
「分福茶釜」の時、柿の発色を良くするため使った
ブリリアントローズライトを被せても、蓄光顔料の発光を完全には塞ぎませんでしたので、桃の花と実にもこれを薄く被せていこうと思います。
まずは適当に塗って、
明礬を加えたドーサ液で洗いながらぼかし、馴染ませます。
塗ってはドーサ液でぼかし、馴染ませるを繰り返します。
暗くして確認すると、なんと緑に光る蓄光顔料に赤味が加わりました!
これは思わぬ副産物です。
少しずつブリリアントローズライトを濃くしては、暗くして確認を繰り返します。
桃としてのリアリティーと、暗くした時のお尻の美しさの両立を目指します。
暗くした時に、お尻より顔が明るいとバランスが悪いのと、顔にも赤みが欲しいと思い、顔と重なる上空にもブリリアントローズライトを被せます。
桃の実と同様にドーサで洗い、ぼかし馴染ませます。
お尻の方は、ほんのり赤味も入り良い感じです。
隠してある部分が特に良い感じになってるので、
お見せしたいのはやまやまですが、完成品を展示する機会までお待ち下さい。
顔の赤味と暗さが欲しいので、
ブリリアントローズと群青棒とを混ぜた色で、上空をさらに塗り重ねます。
顔は赤味こそそれほど感じませんが、お尻に比べて少し暗くなってくれました。
どちらも桃尻こそが主役の画面構成になりますので、暗くした時の見え方のバランスは作者の狙い通りになってきました。
2024年10月9日
店頭で桃を見かけなくなりました。
ネット画像をスクショし、参考にしながらガンボージで黄味を加えます。
ガンボージに洋藍を混ぜた緑や、臙脂の濃淡も加え、花と実の色調を整えます。
暗くして確認。
最後に明礬入りのドーサを引きます。
これが乾いたら画面を180°回転させ、反対側からもドーサを引いて、次の段階に備えます。
2024年10月10日
次の段階に進みたかったのですが、こちらの作品の顔の下地の蓄光顔料のつき方が粗く、空の色を塗った時、まるで毛穴にばかり空の色が溜まってブツブツしてしまってました。
洗ったりヤスリを掛けてから、もう一度蓄光顔料を何度も重ね、フラットにしました。
蓄光顔料を重ねた状態です。
再びヤスリを掛けます。
ヤスリ掛けをした状態。
鉛筆で顔を描き直します。
目鼻口や髪を塗りつぶして発光を抑えようと思います。
蓄光顔料と空色が混ざった今の顔の色に一番近い色を選んだところ、新岩銀鼠が最適だと思いました。
最初は鉛筆の線をなぞるように塗ります。
鉛筆&銀鼠で発光が押さえられ、顔が見えてきました。
さらに塗り重ねていきます。
平面的ですが、だいぶハッキリしてきました。
アトリエの照明をつけたり消したりしながら、少しずつ顔に陰影をつけていきます。
こんな感じです。
本日は昼間打ち合わせなどをして過ごしましたので、制作はこれだけです。
2024年10月12日
さて、帰宅して今晩もちょっとだけ。
今晩の作業前の状態です。
頭部に塗った蓄光顔料と銀鼠とでグレーになってます。
水晶末を薄く被せ、目鼻口を隠すと同時に少し明るくします。
顔に赤味を持たす為、ブリリアントローズライトを塗ります。
暗くして確認。
赤味はそれほど感じませんが、水晶末とブリリアントローズを被せても発光はクリアです。
唇と頬とにさらにブリリアントローズを重ねます。
あまり変わり映えしないように見えますが、仕上げが近づくと、他人様からはほとんど違いが分からない微調整を、作者が納得ゆくまでやります。
定着し難いブリリアントローズライトに明礬入りのドーサを引きます。
拭い取り去られる顔料も多いですが、この時に画面に残った顔料はしっかり定着します。
またブリリアントローズを塗り、
暗くして確認。
そしてまたドーサを引きます。
足して引いてを繰り返し、顔料の定着を良くしつつ、周囲に馴染ませていきます。
また暗くして確認。
周りの空と明度を近づける為、再び水晶末を被せます。
少し顔が暗くなりましたが、元々顔よりもお尻を明るく見せたい構成なので、問題ありません。
またドーサを引きます。
ドーサでしっかり表面をコーティングしないと、次に塗る染料系絵具の群青棒の色が他より濃く染み込んでしまいますから。
群青棒で周りの空色に馴染ませます。
本日の最終段階(明)です。
制作プロセスを見てない初見のお客様なら花の上の顔には気づかないと思います。
この後、更に顔に気づきにくくする要素も描き加える予定ですし。
スマホの写真では、お尻が緑で顔が青と、大きく色味が違って写ってる様に見えると思いますが、肉眼では色味の差よりも明度差の方が大きいです。
顔よりもお尻が主役の画面構成です。
顔はぼんやりしてた方が、鑑賞者の好きなイメージを投影出来ますから。
「受粉」其壱(明)完成
「受粉」其壱(暗)完成
SNSでは削除回避の為にボカシを入れてますが、もちろん本物にはそんな無粋な事はしてません。
自分の公式サイトにはボカさずに掲載予定です。
「受粉」其弐(明)完成
「受粉」其弐(暗)完成
制作当初から予定していたミツバチをトレースします。
どちらも暗くなった時には髪の毛と重なり、暗くて見えない位置に配置します。
明暗、2つの絵柄を重ねた時の位置関係も考慮した画面構成をしてる訳です。
練りゴムを転がして、トレース後の余分な木炭を取り、かろうじて見える程度に薄めます。
水晶末を空摺りして微粒子にしたもので、ミツバチの下地を塗ります。
水晶末を塗り終わったところです。
紙ヤスリで表面を均し、
明礬入りのドーサをミツバチの上にだけ引きます。
細かい描写をする為に、平滑で滲まない下地を作る必要があるからです。
必要な絵具を溶きます。
蓄光顔料を透かして光らせる必要の無い暗い髪の毛の上に描くので、明るい時の発色の強さ重視で、染料ではなく顔料で彩色します。
小さくてもミツバチは重要な脇役になりますので。
新岩樺茶と、黄紅とを塗ります。
乾いたらまたヤスリで均し、
ドーサを引きます。
バーントシェンナトランス
またドーサ
墨汁とバーントシェンナとで仕上げます。
完成
落款は、今回は小さい印のみを入れ、署名は省略します。
署名まで入れてしまうと、落款の面積がミツバチより広くなってしまいます。
絵に描いた要素が主役で、落款はさり気なく入れる配慮が必要です。
完成し、スマホではなく、三脚で固定したデジカメで撮影してみたら、暗くした時の蓄光顔料の発光バランスを整えたいところが見つかりました。
落款を入れた後でしたが、蓄光顔料を薄く重ねたり、ドーサを引いて、空や桃の色を被せるなどの微調整をして、あらためて完成写真を撮り直しました。
最後の微調整も、もちろん、明暗どちらもバランス良く仕上がるように、アトリエの照明をつけたり消したりして確認しながらです。
昼夜逆転の生活リズムは変えられませんね。