「上幌向神社」Kamihoromui shrine
地元北海道岩見沢市出身の友人からの依頼があった水彩画を、お待たせしました。2年越しで描き始められました。
2年越しの取材
ご依頼主もご満足させる絵に仕上げるためには、先ずは描き手の僕が、現地に行って、その景色に感動する事が必要です。
ご依頼主にとっては上幌向神社は子供の頃の遊び場で思い出が詰まってるそうですが、描き手の僕も、依頼主同様に、この神社の杜に愛着が湧くまでは、描き始められませんでいました。
藝大目指して浪人中に会得した極意です。
「必ず描く対象に良いイメージを持ってから描くべし」という真理です。
万一第一印象で好きになれないモチーフが出題された時は、15分から時には1時間掛けても、そのモチーフに何らかの美点がある事を探し、好きになるよう自己暗示を掛けて、さらに素晴らしく美しい完成予想図がイメージ出来るようにしてから、やっと描き始める様にしました。
二浪中にこの極意を身に着けて、藝大合格を確信し、プロになってからも、この事を確実に実行するようにしてます。
依頼を受けてからの2年間は実家に帰省するたびに、上幌向神社も訪れていましたが、三顧の礼が叶い、やっと僕自身も「これなら絵になりそう!」って光景と出会えました。
つくづく「絵は気持ちが大事」だと思いました。
同じ場所でも、訪れた時期がほんのわずかズレただけで植物の育ち具合は全然違いますし、天気も大切です。
さらに、今回は子ども達が元気に挨拶をしてくれた事も、僕のモチベーションやイメージを一気に高めてくれました。
オーダーメイドに限らず、絵は構想段階や取材が大事なんです。少なくても佐藤宏三に限っては。
描き始めてからの苦労や掛かる労力や経費は他人から見て分かりやすいと思いますが、実は描き始める段階までのプロセスが、完成させる絵が素晴らしいものになるかの9割以上を占めてると僕自身は実感してます。
予備校講師時代も、何とかその真髄を生徒達に伝えてきましたが、僕の脳内のイメージを見せる事が不可能ですので、多くの生徒達は、表面上の作画テクニックばかり見ようとします。
でも、今回の1回目、2回目、3回目の取材写真を見比べて下されば、同じ場所でも、訪れたタイミングで印象がずいぶん違って見える事が理解出来る事と思います。
今回の投稿は、描き始めてからのメイキング以上に、貴重な取材段階からのメイキング公開になります。
2022年5月11日

まだ若葉が生え始めたばかりで、杜が寂しく感じ、これじゃ絵にならないと感じました。
2023年8月2日

今度は葉が繁り過ぎて、杜が暗くなってました。
これも絵になりそうな気持ちが湧きませんでした。
2024年5月26日

(年は違いますが、2022年)5月11日から約2週間後で、こんなにも新緑が育った訳です。
さすが北海道の春は一気に植物が育ちます!
新緑が豊かですが、夏ほどの葉の繁りが無く、杜の中へも充分な光が注ぎ、清々しく明るい印象に感じ、
「これなら理想的な絵が描ける!」って確信しました。
2024年7月10日
制作開始

元の写真を更に色調補正し、さらにこの時神社に遊びに来てた小学生達を合成配置しました。
この子達は、僕が神社に入る時、向こうから
「おはようございます」って挨拶してくれました。
ご依頼主が子供の頃遊んだ思い出の場所というイメージと直ぐに結びつけてくれたこの子達を絵の中に入れる事で、僕同様、ご依頼主も自分の子供の頃の世界を思い出しやすくなると思います。

念紙を使ってトレースします。

練りゴムを転がして余分な木炭の粉を取ります。

水を引き、木炭の粉を紙に定着させます。

鳥居にマスキングテープを貼り、鉛筆で輪郭を描き、

カッターマットで、輪郭をカットして、もう一度紙に貼ります。

空から塗っていきます。

本日はここまで。
2024年8月7日
背景の彩色

展覧会での在廊が続き中断していた制作を再開しました。
草むらは筆先を櫛状に開いて描きます。

バイオレットで陰の葉を描きます。
こちらもわざと筆先を割って、細かくランダムなタッチで彩色していきます。

上が下図代わりの写真で、
下が制作中の絵です。

エメラルドグリーンにて、葉や芝生を彩色します。

ターコイズブルー

ガンボージ

パーマネントバイオレット+パーマネントグリーンディープ

パーマネントバイオレット+バーントシェンナ

神社の細部を彩色してから、鳥居に被せていたマスキングテープを剥がします。
本日はここまで。
2024年8月10日
鳥居の彩色

鳥居全体に薄くガンボージを塗ります。

ガンボージを濃くしたいところに重ね塗りします。

オーロラブルーを溶かし、

こちらも鳥居全体に塗ります。

オーロラブルーにオーロラピンクを混ぜて、

少しずつ鳥居の陰を濃くしていきます。


さらに濃くした色を被せ、バランスを見ながら地面に落ちた影も暗くしました。
本日はここまで。
2024年8月11日
細部の描写

鳥居に彫られた字や、石畳など、細部はパレットに詰めた絵具を溶いて描き込みます。

葉の陰をまとめ整えます。

あらためて、下図とした写真との比較です。
別の写真から子供達を加えたり、逆に無粋な看板は消したりしてます。
完成

落款を入れて完成

使用したのはアルシュのブロックタイプのスケッチブックです。

一番上の水彩画が完成する度に、カッターやヘラを差し込んで糊付けされた端を剥がして切り分けます。
水張りしてある紙に描く様で、制作中に水分を含んで波打っても、乾く度にフラットになり描きやすいですし、完成後の波打ちもほとんど無いのが長所です。
反面、1枚目を完成させて剥がさないと、2枚目の制作に移れませんので、旅先などで1日に複数枚スケッチしたい時などには向きません。

在庫してた額縁入りの水彩画に差し替えます。

共シールを貼って額装も完了です!