分福茶釜 Bunbuku Chagama
Hidden Art は変化する絵です。
変化・変身と言えば、日本昔話からもネタに出来そうだと考え、
新作 Hidden Art として、日本昔話より「分福茶釜」を画題に制作することにしました。
2024年8月10日
茂林寺取材
「分福茶釜」が奉納されてる群馬県館林市の茂林寺まで取材に出かけてきました。
茂林寺境内には沢山の茶釜狸や、狸の像が飾られてます。
茂林寺の駐車場は、観光の拠点として無料で沢山停まれる観光駐車場が用意されてました。
混雑を避けて平日に訪れましたが、これなら休日でも余裕で駐車出来そうでした。
駐車場脇の公衆トイレから、すでに狸の像が立ってます。
茂林寺山門
本堂に向かう参道の両脇に狸像が並んでます。
奥の仏像より存在感のある狸像
仏様の由来は字が薄れて読めませんでした。
狸に存在感を奪われ、泣いてるみたいでした
本堂脇のお堂にも
子狸達が沢山いました。
本堂正面から
茂林寺に伝わる「分福茶釜」を拝見するためには拝観料300円を払って、本堂右側から上がらせて頂きます。
聖観世音菩薩像
天井から駕籠が吊るされてました。
狸の剥製。
写実的な作風の僕にとっては、剥製の展示もありがたかったです。
剥製を擬人化したキャラクターとして作ったものも沢山ありました。
茶釜狸も沢山置いてあり、作画の参考になります。
本物の「分福茶釜」は撮影禁止となってましたので、この写真の上からフレームアウトさせて撮りました。
正直言って、特段特徴のある茶釜ではありませんでした。
本物の再現にとらわれず、寺院内に置かれた他の茶釜の形も参考にして、ある程度自由な解釈で描こうと思います。
画も色々と飾ってありました。
「光輝」(で良いのかな?)と落款の入った日本画も展示されてましたが、オリジナルの「茶釜」を始め、画や置物は全て寄贈された物の様に感じました。
Hidden Art「分福茶釜」が完成した後、
茂林寺さんにご購入頂く作戦は通用しなさそうだと勝手に感じました
職業画家で、ご購入頂けないと収入が得られませんから、常に新作に取り掛かる時も買い手がつきそうな題材を考えます。
職業である以上、不純な動機ではなく、経営者として真っ当な制作動機だと思います。
2024年8月15日
近くの古民家を二箇所取材してきました。
古民家取材
最初は浦和くらしの博物館民家園
資料館には古道具も展示されてますが、残念ながら茶釜はありませんでした。
こちらの古民家で囲炉裏の撮影は出来ました。
お次は旧坂東家住宅見沼くらしっく館
こちらも古い農具や
台所道具などが展示されてましたが、
やはり茶釜はありませんでした。
こちらでは毎日囲炉裏に火が焚べられてますので、それは撮影出来ました。
でも、火に焚べられた場面から狸に変身する場面では無く、囲炉裏端に置かれた茶釜から変身させようと思ってます
この場所は、Hidden Art「春の影」の場面として描きました。
夏は簾が掛けてありました。
2024年8月17日
千葉県立中央博物館取材
狸の剥製展示の取材のために、千葉県立中央博物館に行ってきました。
お目当ての狸の剥製はもちろんありました。
こちらは骨格と剥製とを並べての展示です!
狸の前足の親指の位置が骨格模型で良く判りました。
人間も動物も描くに当たって骨格を知ってる事は大切です。
至れり尽くせりの博物館です!
第六展示室「自然と人間の関わり」コーナーです。
狸の剥製3体目!
千葉県立中央博物館
屋外展示の生態園も楽しみにしてましたが、室内展示が充実してて、それを観てるうちに16時30分を過ぎてしまい、入れませんでした。
生きた狸が見られるかもしれないとの期待もありましたが…
やはり、周辺に狸がいるようです。
生態園以外にも昔ながらの散策路が残ってました。
芸術文化ホール脇の彫刻作品まで、生態を感じさせるものでした!
2024年8月18日
深川江戸資料館取材
本日は茶釜が置かれてるロケ地の取材で、深川江戸資料館 他を回ってきました。
ちょうど「お化けの棲家」という企画展が催されてました。
常設展示の照明を落として、江戸の民家にお化けや妖怪を配置展示してるとの事でした。
1階入口から地下展示室の屋根を見下ろしたところです。
分福茶釜みたいな妖怪がいました。
「なき茶釜」と言うそうです。
分福茶釜の絵本でも、最初お寺の小僧さん達がゴシゴシと茶釜を洗ったら「痛い、痛い」と茶釜が声を上げたという場面があります。
この妖怪の話と分福茶釜本来の由来がミックスされて、分福茶釜の物語が出来たのかもしれませんね。
「ゴトク猫」江戸の民家はほとんど長火鉢でした。
囲炉裏の様な形態は田舎特有なのかもしれませんね。
分福茶釜のロケーションは、さいたまの古民家の囲炉裏端にしようと思いました。
照明が暗いせいで、今回スマホで撮った写真は半分くらい手ブレのピンボケ写真になってしまいました。
もちろん作画資料様には一眼ミラーレスカメラでの撮影もしてます。
「なき茶釜」以外に茶釜所有の民家、商家はありませんでした。
展示室の外に伝統技能を現代に引き継いでる職人さんの作品展示があり、お茶道具の展示もありました。
芭蕉記念館取材
茶釜や茶室の展示が観たくて、
芭蕉記念館というところも訪れました。
芭蕉は旅先で俳句を作る人だった為か、茶室を構える様な人では無かった様です
芭蕉記念館の庭にある小さな芭蕉堂
萬年橋を清澄公園側に渡ったところに柳の下の公衆電話がありました。
電話ボックスの中にのっぺらぼうなど幽霊が現れるHidden Art は、直ぐに思いつくアイディアなんですが、もっとHidden Art 及び日本画家佐藤宏三がメジャーになって、じゃんじゃん売れる様になったら幽霊や妖怪を題材にした作品も売れると思いますが、
有名人気作家になってからじゃないと、怖いHidden Art 作品は売れないだろ〜な〜と思います。
2024年8月22日
江戸東京たてもの園取材
江戸東京たてもの園のパンフレット
東京中から、歴史的建物を移築して、明治、大正、昭和の街並みを再現した屋外型の江戸東京博物館分館だそうです。
長期改築休館中の江戸東京博物館も面白いですが、屋外型のこちらの方がよりリアルに臨場感を体感出来ます。
2・26事件の現場にもなった高橋是清邸から見学スタート。
高橋是清邸の庭
東の下町ゾーンです。正面に銭湯が見えます。
荒物屋の丸二商店。
各建物は中も見学出来ます。
鍋や金物、生活雑貨は色々と置いてましたが、茶釜はありませんでした。
三省堂は現在は本屋のイメージがありますが、元々は文房具屋がメインの様でした。
小寺醤油店
万徳旅館
懐かしい蚊帳が吊ってありました。
正面の銭湯 子宝湯
農家の天明家
囲炉裏がありました。
万世橋交番
三井八郎右衛門邸
三井邸は特に豪邸でした。
玄関先から絵が飾ってあり、
至る所に絵がありました。
応接室
茶室もありましたが、分福茶釜の舞台としては格調が高過ぎです。
現代の富裕層も、こうして家中至る所に絵を飾って下さると、我々画家への需要も増してありがたいのにな〜と希望します。
最後もまた別の農家。
こちらは吉野家さんだったかな?
飯を炊くお釜は沢山ありましたが、
囲炉裏にもヤカンが吊るされてるだけで、今回も茶釜は見つけられませんでした。
背景の場面としては、この囲炉裏端を参考にして、茶釜は最初に取材した茂林寺で観たものを参考に、構図を練ろうと思います。
2024年8月24日
下図制作
先ずはクロッキー帳に茶釜と狸とを合体させたスケッチと、
構図を決めるスケッチをしました。
だいたいの構図がイメージ出来たところで、本画サイズ P15号のパネルに水張りした画用紙に下図を描き始めます。
茶釜や狸が、ほぼ実物大になると思います。
実物大という事もリアリティーを感じさせる為に大事な要素ですので、モチーフ選びと画面サイズの決定とは、僕の場合リンクしてます。
垂直、水平に補助線を引いて楕円を整えながら描いていきます。
絵画全般の表現としては、フリーハンドで多少歪んでも味わいが出るので、それはそれでありです。
でも、僕の場合は狸も写実的に描写するつもりですので、作品全体に写実的な統一感を出すため、人工物も正確に描く訳です。
縄製の座布団の上に茶釜を置いた場面にしました。
縄の楕円も沢山描かなきゃいけないので、形を合わせるのは結構大変です。
正確な描写力が求められる藝大日本画専攻の受験勉強経験者なら、正確な楕円を描くのが案外大変な事が経験済みだと思います。
鉛筆による下描きで、だいぶイメージがハッキリしてきました。
ものすごくシンプルな構図ですが、曖昧にごまかさず、写実に説得力が込もるのには裏付けがあります。
下図制作に取り組む前に、分福茶釜が納められてる「茂林寺」を皮切りに、計5日間掛けてあちこち取材に出掛けました。
昔話のフィクション、ファンタジーであっても、僕の表現スタイルとして、リアリティーを出すための徹底した下準備を重ねてきた訳です。
一作毎に違うアイディア、テーマに取り組むため、描き慣れ熟知したモチーフを量産するのとは訳が違います。
制作に入り始めてからの技術や労力が傍目には分かりやすいと思いますが、実は制作に取り掛かる前の準備段階も手を抜かない事を知って頂きたいと思いました。
安い価格では売れない訳がご理解頂けると思います。
本物の価値を見抜ける、お目の高い方や法人にこそ、お買上げ頂きたいです。
2024年8月26日
縄を描きます。
緊縛画以外で縄を描くのは初めてかもw
岱赭棒を溶きます。
縄目を描きます。
岱赭で一通り縄目を描いたら、
練りゴムを転がして余分な鉛筆の粉を取ります。
洋紅棒や本藍棒も溶かし、茶色を暗くします。
縄目をハッキリさせます。
さらに群青棒も溶かし混ぜて、より暗い茶色にします。
床の木目を描きます。
岱赭棒とガンボージとを溶かし混ぜて、
縄の座布団を塗ります。
群青棒をさらに加えてグレーを作ります。
茶釜を塗ります。
明るい状態では狸の首も茶釜色で塗ります。
墨で彩色すると光を通さず、狸の首が光らない恐れがあるので、墨よりは光を通す染料系絵具を混色したグレーで彩色する必要があると思います。
棒絵具やガンボージを溶いて
紫、青、黄色を溶きます。
蓄光顔料で高輝度なのは
緑、青、次いで群青色になります。
この3色の塗り分けで狸を表現しますので、下図段階から、蓄光顔料の使い分けをイメージした色で彩色していきます。
脚や目の周り等は、周りを光らせて、暗くする事で見せようと思いますので、墨で塗ります。
全体に薄く色を重ねて全体を整えます。
本日の最終段階です。
明るい時は狸の存在が見えません。
蓄光顔料の輝度を生かすためには表の絵をあまり濃く出来ませんが、これじゃ色味が乏しく寂しい印象です。
ちょっとアイディアが閃いたので、明日以降、それを試してみようと思います。
2024年8月27日
昨日の最後に、彩りに乏しいと書きました。
ネットから拾った複数の画像を参考に、柿の実と葉を足します。
受験生時代、美大進学予備校講師、カルチャーセンターで指導してた時は本物を観て何度も描いた事のあるモチーフですので、ネット画像の参考でもそれらしく描けると思います。
アクリルガッシュのホワイトで明るく描き起こし、薄墨で影を入れます。
水彩絵具で、彩色していきます。
様子を見ながら、少しずつ塗り重ね、濃くしていきます。
下図完成です。
画面構成場、彩りを添えるのが目的で配置を思いついた訳で、正直、深い意味はありません。
単純に好物の匂いに本能的に反応して、茶釜がついつい本性を現してしまったという程度の思いつきです。
でも、たぶんこの作品をご覧になったお子さん達は、それ以上の物語を想像してくれるんじゃないかと思ってます。
展覧会場で子供達の感想の中から、上手い解釈があれば「そうそう、よく分かったね!そうなんだよ!」って、作画意図を採用させてもらおうと思いますw
ドーサ引きと裏打ち
本画用に和紙を切り取ります。
最近は絹本での制作が多く、和紙に描くのは久し振りです。
山梨県身延町の山十製紙製の、楮50%+マニラ麻50%の手漉き和紙です。
パネルは軸装するため作品を剥がした「八十八夜」が張ってあった物を流用します。
明礬を加えてないドーサを表側に引きます。
室内干し用のラックの上で乾かすと乾燥が速いです。
表側からのドーサが乾いたら裏からもドーサを引きます。
裏の方が繊維の凹凸があって和紙の風合いが出るので、裏から描くかもしれません。
裏からのドーサもラックの上で乾燥させて、今晩の仕事はここまで。
表に描くか、裏に描くかの判断は、明日水張りする時に決断しようと思います。
2024年8月28日
これが昨晩完成させたと思った下図です。
が、投稿後、晩酌しながら眺めて「暗くなって狸が現れた後ならともかく、昼間明るい場面で、こののっぺりとした味も素っ気もない茶釜じゃ絵にならないな〜」と思いました。
実際に茂林寺に収蔵されてる伝説の分福茶釜は、実物の撮影こそ禁止でしたが、この色褪せた紹介記事に掲載された写真をご覧頂ければ分かる通り、茶釜というより炊飯用のお釜の様にシンプル過ぎて、絵にするには味わいが無いな~と感じました。
オリジナルに敬意を表して下図を描いてみましたが、どっちみちフィクション、ファンタジーな物語の絵ですので、本物に囚われずに「絵」になりそうな茶釜に描き代える事にしようと思います。
当初は、和紙の繊維を生かす裏側に描けば、もう少し表情豊かな風合いが出せるかもと期待してましたが、下図がいったん完成して、酒を飲みつつしばらく眺めて、この、のっぺり退屈な茶釜が主役じゃ、長く目を惹きつける魅力は出せないと思いました。
僕は展覧会で見せるだけじゃなく、お買上げ頂いて毎日眺めても飽きない絵を描く事を心掛けてますので、作者本人が最初の鑑賞者として、毎晩観ても見飽きない絵に成りそうか確認しているという訳です。
前置きが長くなりましたが、結局、和紙の風合いに頼らず、描写を複雑にして味わいを増す事に決断し、本紙の裏打ちも通常通り、本紙の裏側に石州紙を貼ることにしました。
裏打ちの下敷きにするのに、40号のパネルを引っ張り出してきました。
普通のご家庭じゃ長辺が1m超えの40号でも大き過ぎて買ってもらえませんから、何年もの間、こんな大きなパネルに描いてませんが、早く売上が回復して、100号を超えるような大作の依頼が来て欲しいです。
垂直気味に立て掛けて裏打ちの石州紙を貼ります。
東京国立博物館取材
さて、今回は6日目の取材地として
東博=東京国立博物館に、またまたやってきました。
常設展会場だけでも5つの会場が観て回れます。
結局、茶釜は本館の「日本館」でしか観られませんでしたが、他の館の常設展会場も一通り回って、茶釜以外にも興味深いものも見つけました。
日頃から目的物以外のものにも興味を持って記憶に残しておけば、将来のネタのストックになります。
作画の角度に合わせ、斜め方向からも写真を撮っておきます。
東博の良いところは、常設展示は一部を除いてほとんど撮影がOKなところです。
上2枚の茶釜のキャプションです。
お次はこんなのもありました
狸に成りかけの途中みたいで面白いですよね。
上の写真のキャプションです。
茶器を集めた展示コーナーにも1つ飾られてました。
上の写真のキャプションです。
味わいはありましたが、狸が化ける茶釜が錆びついててはいけないと思いましたので、
最後の手段は、ミュージアムショップで専門書を探しました。
ありました!
オール茶釜だけの図録です。
明日から、この図録に載ってるデザイン、模様を参考に下図の茶釜を描き変えていこうと思います。
前にも書きましたが、制作前の構想段階で妥協しない事が(描き損じが許されない日本画においては特に)大事な事です。
気持ちを新たに明日から仕切り直しです!
2024年8月29日
裏打ち剥がしと水張り
大きなパネルに仮張りした本紙と裏打ち紙とが24時間以上経って完全に乾いてます。
一回り大きくはみ出した裏打ち紙の端だけに、連筆に含ませた水を三、四度引き、湿らせて糊を溶かします。
プラスチック製のパレットナイフを差し込み、剥がします。
はみ出した裏打ち紙は、剥がれた部分もあれば、水で湿った事により、破れて剥がれた部分もあります。
使うのは内側ですので、全ての端が綺麗に剥がれなくても構いません。
ただし、仮張りに使用した40号のパネルは次も繰り返し使用出来るように表面を綺麗にしておく事が大切です。
剥がし切れなかった裏打ち紙と、剥がせた部分にも糊が残ってますので、そこにまた四度くらい連筆で水を引き、たっぷり湿らせます。
水分を含んでふやけた糊と残った裏打ち紙とをパレットナイフで剥がし取っていきます。
パレットナイフはパネル表面のベニア板の木目に沿って動かします。
ティッシュペーパーの上に、ふやけた糊と、ふやけた裏打ち紙の端とを乗せて拭い取ります。
その後、雑巾で綺麗に拭き、
仕上げにエタノールの消毒液をスプレーし、わずかにパネル表面に残った糊のデンプン質からカビが発生する事を防ぎます。
こちらのパネルも完全に乾いてから収納します。
裏打ちした本紙を机の上に置き、さらにその上からパネルを伏せます。
水張りに必要な糊代幅を残して余分は断ち切ります。
余分を断ち切り終わったところです。
水張りに取り掛かります。
先ずは「水刷毛」で縦縦、横横と格子状に軽く水を引きます。
紙に余分に水分を含ませ過ぎて、膨張させ過ぎないのが日本画制作に最適な水張りになります。
水刷毛にいったんボウルに貯めた水を含ませ、
その後、ラーメンの湯切りの様にボウルの上で余分な水を切ります。
水刷毛は櫛の様にギザギザになります。
この状態で、縦縦、横横と、本紙の裏面に格子状に最低限な湿り気だけを与える訳です。
写真だと見づらいかもしれませんが、格子状に水が引かれてるのが分かるでしょうか。
日本画の岩絵具は膠を接着剤として描きます。
膠は固体状のものを、何十倍もの水に溶かして液体状にしてから絵具と絡め、塗ります。
水分が蒸発し、元の固体に戻りながら絵具もろとも紙に接着するわけです。
絵具やドーサを重ねるたびに、塗られた膠と共に本紙も縮んでいくことになります。
ですので、日本画つまり膠を接着剤とした絵を描く場合は、水張り段階で余分な水分を本紙に与え、膨張させきったところで水張りすべきではありません。
制作前からゆとりなくピーンと張った和紙に、制作によって膠を重ねていくと、さらに本紙はどんどん縮んでいきます。
丈夫な和紙であれば、木製パネルの方が縮みに引っ張られて反ってきます。
弱い和紙や、水張りの糊付けが不十分だった場合は、画面が裂けたり、水張りが剥がれる可能性があります。
少ない水分とはいえ、表面が濡れてるうちに直ぐに表にひっくり返すのも良くありません。
表面が濡れてるうちに直ぐに表にひっくり返すと、パネル表面または下貼りの紙の表面と、本紙とがくっつき、四辺の糊代を均等になるようにする位置の微調整がし難くなるからです。
水刷毛で本紙裏に格子状に軽く水を引いてから、3分間くらいは待ち、本紙の内側に水分がしっかり吸い込むのを待ってから、表側にひっくり返すのが良い方法です。
3分間待つ間に、水張りテープを四辺分ちぎり用意するのが良い手順だと思います。
本紙を表にひっくり返し、四辺の糊代幅が均等になるよう本紙の位置を微調整します。
表面に浮いてた水分がしっかり本紙内部に浸透し、均等に伸びてますから明らかな凹凸の出来るような皺も出来ません。
側面に折り込む折り目を軽くつけてから、水張りテープで側面に糊付けしていきます。
水張りテープという近代的な物を使うより、本紙側面に生麩糊を塗って糊付けする方が伝統的、本格的と思われる日本画家の方もいらっしゃるかもしれませんが、僕の場合は水張りテープの方が合理的です。
パネルに水張りして描いた作品を、後年掛軸に軸装し直す可能性があります。
お買上げ下さるお客様のリクエストに応じて、額装で発表した作品を軸装するケースもこれまで沢山経験済みですので、水張りテープで水張りした方が断然合理的なんです。
もっとも、今回の「分福茶釜」は蓄光顔料で厚塗りになりそうですので、丸められる軸装には向かない仕上がりになる可能性がありますが。
最後の四辺目に水張りテープを貼ったところです。
先ずは本紙の糊代部分だけに水張りテープをしっかり貼り付け、その後、本紙画面の四隅が浮かない様に上から掌で優しく押さえながら側面に折り込んでパネル側面に密着させます。
水張り完成です。
今回の投稿は、説明がくどく感じられたかもしれませんが、水張り経験者で、もっと綺麗に水張り出来るようにしたい読者を想定し、詳しく説明しました。
2024年8月30日
茶釜の変更
茶釜の修正には、上から薄い和紙を貼って直そうと思います。
山梨県身延町での紙漉き工房、見学&体験モニターツアーの時に自分で漉いた紙が、薄さ、サイズ的にも最適でしたので、これにドーサを引きます。
室内干し用ラックで乾かし、もう片面も同様にドーサを引き、乾かしました。
表裏両面からドーサを引いて乾いた和紙は、少し波打ってます。
また、自分で漉いた紙は一部裂目がありました。
なので本画用には使えず、下描きや試し描きで使えたら良いと思って取っておいてありました。
水刷毛で縦縦、横横に格子状に軽く水を引き、
アイロンで伸ばそうと思います。
アイロンを掛けた後です。
多少の凹凸がありますが、大丈夫です。
泉屋博古館編集の茶釜の図録から、これを選びました。
まさに絵に描いたような、茶釜らしい茶釜ですw
図録をスキャンし、現状の下図の写真と重ねて、ピッタリ重なる大きさに拡大します。
ただし、これをそのままトレースする訳にはいきません。茶釜の向きを変えて、見下ろす角度も変えて、自分の手で描く必要があります。
自分で手描きするにしても、同サイズに拡大し、プリントアウトしたものと見比べながら描くと描き易いと思いました。
自作の手漉き和紙をマスキングテープで下図に仮留めし、差し替える事にした茶釜を描き始めます。
取っ手(鐶付=かんつき)や、正面のレリーフの向きを変えるのと、見下ろした角度も違うので、楕円のふくらみも前後に膨らませる必要があります。
仏様の螺髪(らほつ)の様なドット模様の配列を確認しやすくするため、赤ボールペンで5列おきになぞります。
先ずは模様の配列を茶釜本体の形状に沿って当たりをつけていきます。
取っ手やレリーフは後から描く事にして、先ずはひたすら均等かつ、丸味に合わせ、配列の当たりを何度も描いたり消したりしながら整えていきます。
だいぶ配列の当たりが整いました。
同業者なら分かって貰えると思いますが、整然と揃った配列を立体的な形状に合わせて描くのはかなり大変な事です。
今日一日は、ほとんどこれだけに費やしました。
2024年9月1日
最初は下図の参考にする写真を汚すのを嫌って、見え難い赤ボールペンで補助線を引いてましたが、下図の参考にする写真は新たにもう1枚プリントアウトすれば良いと思いつき、補助線の視認性を高めるため、赤い顔料インクのマーカーで描き、下図の下描きと見比べる事にしました。
概ね良く描けてると確認出来、安心しました。
首のくびれ具合だけ、少し絞りました。
狸の首が生えてくる正面に松が描かれたレリーフの位置を決め、取っ手が斜め向きになる位置に描きます。
蓋、取っ手、松のレリーフと、補助線が交差した部分にドットを墨で描きました。
鉛筆だけで下描きを進めると、いったん描いたところが擦れて不明瞭になってしまいますので、現在確定したドットを墨で描いて定着させる手順でいきます。
次にそれぞれの補助線線の間に二分割した補助線を鉛筆で入れます。
これをさらに二分割すれば、5列おきに入れた補助線の間の全てのドットが入れられる事になります。
今日は、たったこれだけしか進みませんでした。
これまでは大谷選手の打席だけ制作の手を止めて、メジャーリーグ中継を見ながらも制作出来てましたが、ドジャースとダイヤモンドバックスの点の取り合いから目を離せなく、試合終了まで仕事に取り掛かれませんでした
2024年9月2日
列を二分割した補助線の交差部分に墨汁でドットを描きます。
さらに鉛筆で、それを二分割=トータル四分割します。
拡大図です。回り込み部分は補助線が込み入り、ドットを整然と描き切れるか自分でも100%の自信は持てません。
やはり、ドットを墨汁で入れてみて、配列に乱れが生じてる(向かって左肩の乱れが分かりやすいです)事に気づきました。
数日前は、補助線段階で本画へのトレースも考えてみましたが、やはり下図で上手く描けるか確認してから本画制作に移行しようと思い直して正解でした。
補助線だけでは気づけなかった配列の乱れを、墨汁でドットを描き入れる事で気づけて良かったです。
下図段階で修正してから本画に入ろうと思います。
本日は、ここまで。
手、指が痺れてきましたし、明日も墨汁による描写の続きからスタートしますから、あえて切りの良いところまで済ませずに、残り、もう少しで出来そうという段階から描き始める方が、スタートからモチベーションを高められます。
今日は大変な描写の一日でした。
ひたすらドットを描き続ける仕事でしたので、
「草間彌生さんも、かくの如く思いながら描いてるのかな?
いやいや彼女はたぶん、オートマチックにドットを描き続けられる質なんだろうな。
僕の仕事の方が優れた考察と技術を必要とする上等な仕事ぶりだ!」と、自分の仕事ぶりを高く評価し、勇気づけ、モチベーションを保ちました。
別に他の作家を下に見てる訳じゃなく、自分で自分の仕事に「最高の仕事、自分にしかなし得ない、歴史に残すべき使命」だと思ってやってる、正直で健全な内心の開示です。
下図全体の現段階の写真です。
本日、ひたすらドットを描く、写経の様な仕事をしてて気付いた事があります。
なぜ、数ある茶釜の中から、最も描写が面倒そうなドット模様を選んだのか、自分の直感、潜在意識の謎が解けました。
分福茶釜の物語の半分の場面はお寺です。
そしてお寺の鐘はたいていドット模様がついてます。
だから分福茶釜に相応しいのはドット模様の茶釜だと僕の直感に結びついたという訳でした。
2024年9月3日
全てのドットを描き切りました。
全体写真です。
マスキングテープで仮留めしてたのを剥がし、ハサミで切り取ります。
裏側全面に糊を塗ります。
下図の方にも軽く水を引きます。
上から貼る紙も糊の水分を含んで伸びますから、下図にも水分を含ませ、両者の伸縮具合をシンクロさせるためです。
糊付けします。
風格ある茶釜になりそうです。
切り抜いた後の外側の紙を利用して、ドットの乱れがあった場所に貼り付けようと思います。
ドットの配列に乱れがあった場所に紙を貼りました。
明日完全に乾いてから、あらためて描き直そうと思います。
本日の最終段階、画面全体写真です。
2024年9月4日
また鉛筆で補助線を描くところから始めます。
一番配列の乱れが気になった向かって左肩から直します。
及第点の出来になりました。
厳密にはこの修正をして、また修正点も見つかりましたが、それは本画にトレースする時や、トレース後に本画で微調整しようと思います。
下図全体写真です。
これで狸が現れない明るい状態、茶釜単独の時でも、主役として存在感を発揮し、見応えのある茶釜になると思います。
キチ◯イじみた徹底的な描写も他者の追随を許さないオンリーワンの個性になります。
Hidden Art という変化球だけでなく、正攻法のストレートでも見応えあるクオリティで、鑑賞者達の眼を楽しませようと思ってます。
2024年9月5日
出来上がった下図の写真の上に、Adobe Illustratorで楕円を重ねます。
フリーハンドで描いた下図の歪みをPCソフトの力も借りて、本画にトレースする時により正確性を高めようと思います。
必要な楕円の補助線を全て重ねたらPDF形式で保存し、
今度はAdobe Photoshopで開き、A4 サイズに9分割してプリントアウトしました。
今日は昼間、ショックな事実を伝えられ絶望感で一杯な気持ちになり、とても帰宅後、制作に向かえる心境になれませんでしたので、PCソフトにて楕円をトレース用の下図に重ねる仕事のみ行ないました。
だいぶ気持ちが落ち着いてきたので、明日からは制作に向かえると思います。
2024年9月6日
画面に彩りを加える為に下図に加えた柿の実と葉でしたが、葉っぱの方は暗くなって狸が現れると同時に小判に変化させるアイディアが閃きました。
この部分を蓄光顔料で小判の隠し絵を仕込もうと思いついた訳です。
東京国立博物館再取材
またまた、東博の常設展示を取材に訪れました。
平成館では、特別展もやってますが、常設展示の考古展示室も埴輪や土偶の展示が豊富で楽しめます。
前回、茶釜の展示を取材するのが目的で訪れましたが、その時に小判が展示されてる事も確認済でした。
こちらの複製品は、触って重さや手触りを体験出来ます。
正面からだけでなく、色々な角度からデジカメで撮影してきました。
皆さん触ってます。
埴輪の表情やポーズのバリエーションが豊富で、観て楽しいです。
さすが河鍋暁斎だと感心させられました。
「地獄極楽図」 河鍋暁斎作
獄卒や地獄に落ちた亡者達の表現が凄いです。
「竹取物語」前田青邨作
現在、「分福茶釜」という、昔話を題材に制作してますが、Hidden Art のエロ以外の題材として、昔話は題材豊富だと思います。
現代の漫画、アニメ、特撮ものも Hidden Art の題材にしたいのはやまやまなんですが、何れも版権がうるさくてなかなか実行に移せないでいます。
金、土は、東京国立博物館が20時まで開館してます。
凄く良い取り組みですよね。
写真は表慶館がライトアップされたところです。