竹取 Bamboo cutter
2024年10月12日
取材

最寄駅「東浦和」駅前にある見沼通船堀公園に取材に来ました。
次回作も昔話「竹取物語」を題材にした Hidden Art を描こうと思いまして。

車止めを兼ねた公園入口のオブジェがタケノコで、地元の子供達からは通称「タケノコ公園」と呼ばれてるそうです。

竹藪の中に遊歩道が敷かれてます。

2024年10月20日
制作準備

P10号が内側に入る木枠と、M10号が内側に入る木枠とを一つずつ持ってます。
今回、新作用の絹本を買いに行った谷中の老舗日本画材店の女将さんから、新製品としてメーカーが売り込みに来た絹本を、今後店で販売するかどうかの参考にしたいから、サンプルとして同サイズで進呈するので、従来の絹本との使用感を描き比べて報告して欲しいと頼まれました。

そこで、P10号用の木枠の一辺を内側にスライドさせて、今回は新作 Hidden Art「竹取」を、どちらも同じ絵柄、同じM10号サイズで2枚同時進行で描き進めてみようと思います。
当初の位置から金具のネジを外し、内側にスライドさせた位置でL字金具で止めます。

キリでネジ穴を穿ち、

最初は手動、途中から電動ドライバーにてネジで固定します。

M10号サイズのパネルが内側にピッタリはまる木枠が二つ揃いました。

捨て糊を三度ほど塗って乾かしを繰り返し木目も糊で埋めます。

新製品(左)と、従来の絹本、両方木枠に張りました。
新製品は従来品よりキメが細かく滑らかなので、新製品というより、学生だった30年以上前の高品質な絹本に近づいた予感もします。
昔は今ほど縦横繊維の伸縮に違いが無かった記憶がありますが、それでも近年心掛けてる様に縦方向は緩く張り、横方向に引っ張りながら張ってみました。
ちなみに皺の揃い方が新製品の方が綺麗なのは、僕の手順のせいだと思います。
2つの木枠に同時に糊を塗って、新製品の方から先に張り、綺麗に張れました。
一方従来品を張る時には、少し糊が乾き始めてしまったので、また糊を塗り重ねてから張るなど、張り込みに手間取ってしまったのが原因だと思います。
明日以降、ドーサを引いた後には、たぶんどちらもピーンとフラットになると思いますが、新製品と従来品とで、プロの感覚で伸縮具合に違いが感じられるか、まず楽しみです。

張る時や、制作中もどちらに描いてるか見分けがつくように、新製品のサンプルには画材店にて◯新と端に書いてから包んで貰ってました。
従来の絹本は昔と比べ目が粗くなり、細い線描の時に繊維につられてガタガタになる欠点が見られました。
新製品はキメが細かいので筆の走りは良さそうですが、僕の場合は裏彩色で粗い蓄光顔料を使うので、もしかしたら従来の目の粗い絹本の方が相性が良い可能性もあります。
全く同じ絵柄のHidden Artを同時制作していけば、両者の性質がより実感を伴って分かるはず。

M10号のパネルに下図用の水張りもしました。
今回、本画は同じ絵柄のを2枚描きますが、下図は2つの木枠に交互にはめ込むので1枚だけ描けば、両方に兼用出来るわけです。
2024年10月21日

ドーサを引く前に、木枠との糊付け部分が湿って剥がれない様にマスキングテープで保護します。
左新製品、右従来品
右の従来品の張られ方が綺麗に出来てません。
左の様に皺は横方向に揃ってる方が理想的です。

従来製品からドーサを引きます。
いつもの様に最初は明礬を入れず、ただの薄めた膠液です。
ドーサを引いた直後からみるみる縦糸の方が縮み、むしろ縦方向の皺が出来ます。

新製品にもドーサを引きます。
こちらも同様に縦糸が縮み、横方向の皺が無くなりましたが、縦方向の皺も従来品よりは出現しません。

最初のドーサが乾いたら、それぞれ180°回転させて反対側から2度目のドーサを引きます。
2度目に引く時の感触として、新製品の方が1回目ですでにピーンと張った手応えがありました。

2度目のドーサが乾いたところです。
左が新製品、右が従来品
この角度からの写真だと判りにくいですが、
新製品は隅から隅まで皺がありません。
従来品は隅の方に縦方向の皺があります。

新製品を横向きに立て掛けたところです。
上からの照明が当たっても皺が見えません。

従来品を横向きに立て掛けると、両端に縦皺が出来てるのが分かると思います。
画面サイズとなるパネルは間にサッシ隙間テープを挟んで、木枠よりも一回り小さくなるので、画面内に皺が入る事はありませんし、この後制作を続ける度に横糸も膠を吸って縮み続けるので、たぶん完成後には全画面が皺なくフラットになると思います。

従来製品の端の拡大写真です。
前回の投稿で書いた様に、従来品を張る時に手間取った為に、新製品に比べ、横方向の皺が綺麗に揃うように張れなかった事に原因があると思います。
でも、よくよく振り返ると、従来品を綺麗に張るのはいつも苦労してきました。
一方で、新製品は比較的横方向の皺を揃えるように張るのが楽だった気もします。
木枠への張り込みが楽に出来るとしたら、新製品の方が使い勝手が良いですね。

次に透明度(透け具合)を比較します。
この写真では明るさは、ほとんど変わらず、
左の新製品が、やや赤味を感じ少しだけ柄がシャープ
右の従来品が、やや青みを感じ少しだけ柄がボケてる
程度の違いしか分からないと思いますが、肉眼では明るさも違いました。
新製品の方が絹越しでもブランケットが明るく透けて見え、従来品は絹越しのブランケットが暗く見えました!
てっきりキメの細かな新製品は、目が詰まってるから透明度は低いと予想してましたが逆でした!
透明度が高いという事は、裏彩色の蓄光顔料の発光も強くなる可能性が高く、もしかしたら、Hidden Art 用に使用する絹本としても、新製品の方が優れているかもしれません。
今後も描き進めながら、従来品と新製品との違いを確認していこうと思います。
2024年10月22日
下図の彩色

こちらは取材現場でスケッチしたものです。
大まかな構図構成をイメージしたものですが、短時間の間に藪蚊に刺されまくったので早々に退散し、細部描写は写真に頼る事にしました。

写真をトレースしましたが、まるっきり同じになぞった訳ではありません。
奥の竹は何本か間引きしたり、かぐや姫を内蔵させる手前の竹はより太く大きく修正しながらのトレースです。

隠し絵で浮かび上がるかぐや姫も下図段階から描きます。
節と節の間の一室にしか納まりませんから、手前の竹は太く大きくして節の間隔も写真より拡げたのが分かると思います。

下図をスキャナーで取り込み、Adobe Illustrator の楕円ツールで竹の切り口を描き、この後配置した写真は隠して楕円だけプリントアウトします。
文明のデジタル機器の手も借りてます。
近い将来は、AI技術も採り入れるかもしれませんが、最終的に手彩色で仕上げる作品なら、肉筆画の一点物の価値に変わらないと個人的には思ってます。

和紙のプリント用紙に印刷すれば、少し下図も透けて見えます。
透けて見える下図に楕円の位置を合わせて、マスキングテープで上だけ固定し、

念紙を間に挟み、ボールペンでなぞってトレースします。

竹の切り口の楕円が綺麗に描けました。
仕上げの骨描きは手彩色ですから、アタリをドローソフトの力を借りても良いと思います。
下描き段階から全てフリーハンドにこだわっても、結果が歪んで下手くそになるより、道具を利用して結果を上手に描写した方が、僕は良いと思ってます。

竹の実体と、隙間とが分かりやすくなるよう、竹に薄く彩色します。
緑色は、ガンボージと洋藍とを混色したものです。

竹から発する光の輪も、コンパスで描きます。
もちろんフリーハンドでも一般人よりも綺麗な円が描けると思いますが、無駄に時間が掛かるだけで、作者の自己満足を満たすくらいのメリットしかないと思います。
自分のフリーハンドより、道具の方が速く上手に描けると認めた方が謙虚だと思います。

コンパスで描いた同心円に沿ってガンボージで光輪を彩色します。

ガンボージと、水彩絵具のエメラルドグリーンで上部の葉を描き、更に暗くなった時、かぐや姫の故郷の月も現れる様にしたいと思うので、こちらもコンパスで円を描き、マスキングテープを貼って円をなぞります。

月はマスキングテープを丸く切り取ったものを貼り、葉はマスキング液をナイロン製の面相筆に付けてマスキングします。
ナイロン製の筆でも、マスキング液が固まると筆が使い物にならなくなるので、交互に石鹸水で洗いながら使います。

光輪の外側全体に棒群青を薄く溶いた色を塗ります。

光輪の外側から彩色を濃くしていきます。
光輪の内側も外側より薄く彩色していくつもりですが、相対的に明るくなれば、あたかも竹の一部が光った様に見えるはずです。

本日の最終段階です。
2024年10月27日

光輪と重なるところにも薄く竹の色をつけていきます。

空も塗り重ね、相対的に月を見せます。

かぐや姫をまず鉛筆で描いていきます。

ネットで、七五三の写真館のサンプル画像などを参考に下描きします。
赤ちゃんではなく、身体のサイズこそ小さいけど、7歳くらいの美少女として表現しようと思います。

着物の柄は月にちなんで兎柄にしてみました。
蓄光顔料で発光力が強いのは、緑、青、群青の青系の3色だけなので、この3色の塗り分けも計画します。

本日の最終段階。全体。

部分アップ。
2024年10月28日

地面に落ちた竹の枯葉をマスキング液で描きます。
マスキング液は、ほぼ透明なので、写真では判らないと思います。

暗い茶色で地面を塗った後、マスキング液を剥がします。
上空の竹の葉のマスキング液と、月のマスキングテープも剥がします。

ガンボージと水彩のエメラルドグリーンを混色し、

竹の葉の緑を鮮やかにします。

仕上げは水彩パレットから絵具を溶きます。
下図が完成しました。

左が、左右反転させてプリントアウトした下図です。
蓄光顔料による裏彩色の時に使うものになります。

こちらが直筆の下図のかぐや姫。

こちらが左右反転させたかぐや姫です。
左右反転させて見比べると表情の違いが分かります。

PCソフトのPhotoshopにて透明度50%にしたレイヤーで左右反転画像を重ね、左右の平均顔にします。

顔が整って見える条件の一つに左右対称という事が言われてます。
実際に厳密に左右対称の顔の持ち主はなかなかいません。
画家の僕もなるべく左右対称に描こうと心掛けて居ますが、やはりクセが出て完璧な左右対称顔には描けません。
かぐや姫は人智を超えた存在ですので、この完璧左右対称顔をベースに描こうと思います。

顔だけプリントアウトして切り取り、裏に糊を塗ります。

プリントアウトした左右反転下図の上に貼ります。
かぐや姫は裏彩色でしか描きませんので、こちらの下図だけ完璧顔に修正しておけば良いです。
本画骨描き開始

木枠に張った絹本の裏から下図をはめ込み、棒岱赭と墨とを混ぜた薄焦茶で骨描きします。
最初は従来品の絹本から描き始めました。

従来品の絹本に骨描きを終えたところです。

続いて新製品の絹本にも同様に骨描きをしました。
左が新製品です。
本日までのところ、キメの細かな新製品の方が従来品より描きやすかったというほどの違いは感じられませんでした。
2024年10月29日

絹本の表に透明塩ビシートを貼ります。

裏側から位置を合わせて左右反転下図を貼ります。

円光をマスキングします。

方解末13番を塗ります。
2024年10月31日
裏彩色 胡粉

前回までは、粒子の粗い方解末13番で下地を作っておきました。
今日はその上に微粒子の胡粉を重ね、暗くなった時に竹林がシルエットになるようにしていきます。
奥の竹林は細い平筆を使い、

手前の太い竹や、地面には幅広の連筆をつかいました。
大きな円光の外側を一通り塗ったら、

下図にマスキングテープを貼り、内側の円光の輪郭線をコンパスでなぞり、

カッターマットの上で切ります。
左の小さな円は月の周りをマスキングする為のものです。

外側の大きな円光のマスキングを剥がし、内側の円光にマスキングテープを貼り、その外側の竹を胡粉で塗ります。

さらに地面にも胡粉を重ねます。

内側の円光もマスキングを剥がしました。
ここまでは従来品の絹本で、進めました。
この後数日は、ここまでの手順で、新製品の絹本の方も進めようと思います。
トラブルなどが無ければ、同じ内容の投稿になりますので、特段報告する様な事が無ければ、2枚目の絹本への制作経過の投稿はしません。
2024年11月9日
蓄光顔料による裏彩色

蓄光顔料による裏彩色を開始しました。
ブルー(青)から塗り始めました。
細かい塗りですが、塗って乾かし、また塗ってと、3回塗り重ねました。

スーパーブルー(群青)を重ねます。
こちらも塗って乾かしを3度ほど。
従来品と新製品の絹本、2枚同時に進めてるとはいえ、今日の仕事はたったこれだけしか進んでません。
小さな面積ですが、何しろ細かい仕事ですので。
絵の価格設定が大きさに比例するバブル期からの業界の慣習は、画家自身からしたら納得出来ませんね。
絵の内容に応じて、サイズに関係なく僕は価格設定する様にしてます。
2024年11月10日

グリーン(緑)を一塗りしたところです。

グリーンを三度、スーパーブルー(群青)を二度塗ったところです。
蓄光顔料は、乾かしては塗り重ねを繰り返しながら数日掛けてだんだん滑らかにしていく必要があります。
今晩はここまで。
2024年11月11日

乾き待ちの時間に投稿してます。
今晩はもう一塗りしてから休もうと思います。
あと一晩塗り重ねたら、ムラなく彩色出来るかな?と思います。
地道な仕事の積み重ね段階です。
2024年11月12日

ここまでは、表側に透明シートを被せた状態で、裏から蓄光顔料で彩色してきました。
最初は明礬を混ぜない不完全なドーサ(滲み止め)で塗り始めるため、絹本の目をすり抜けて反対側に絵具が抜けてしまう箇所もあります。
透明シートは、それを受け止める役割です。

透明シートに通り抜けた絵具がこびり付いてます。
これは雑巾で拭き取り綺麗にして、次回の制作で繰り返し使います。

蓄光顔料を何度も重ね塗りしてきましたので、しっかり絹本の目に顔料が食い込んできたと思います。
ここで一旦、明礬入りのドーサを引き、絹本と絡んだ顔料もろとも固めようと思います。
先ずは、表側から。

裏側からも明礬入りのドーサを引きます。

裏からドーサを引いた後、ドーサを入れた絵皿を暗所で確認したところです。
絵皿に取れた蓄光顔料が溜まってます。
これで良いのです。
接着が弱かった顔料は取ってしまった方が、後年剥落の原因を取り除く事になるからです。

表裏からドーサで固めた後、蓄光顔料による裏彩色を重ね、これにて概ね裏彩色は完了です。
着物の兎柄の白さが足りませんので、

表側からブルー(青)の蓄光顔料で彩色します。
ブルーの方がスーパーブルー(群青)より明るく発光します。
明るいと自分でもちゃんと塗れてるか分かりませんので、照明のリモコンで、つけたり消したりを繰り返しながらの描写になります。

兎柄が再び明るく見えるようになりました。

本日の最後にまた明礬入りのドーサを引きます。
また乾き待ちの間にこの投稿をしてます。
表側が乾いたら、また裏からもドーサを引いて今晩の仕事を終わりにしようと思います。
蓄光顔料は膠分をとても吸収しますので、表側からの彩色前に、繰り返し明礬入りのドーサを引き、もうこれ以上膠分を吸い込めない飽和状態にする必要があります。
ドーサの効き具合にムラがあると、染料系の絵具をよく吸い込むところと、あまり吸い込まないところとで絵具の濃さにムラが出来てしまうからです。
2024年11月13日
表彩色開始

ガンボージで葉を描きます。

群青棒で空を塗ります。

ガンボージを薄め、画面を湿らせて乾かないうちに光輪を塗ります。

ブリリアントローズライトを塗ります。
使い物になる輝度を持った蓄光顔料は、緑、青、群青の青系3色しかありませんが、前回制作の「受粉」にてこの色を重ねた部分が赤味を伴って発光しましたので、それに味をしめてこの色を下地として塗ってみました。

定着し難いブリリアントローズをしっかり定着させる為、明礬入りのドーサを引きます。
光らせた状態も見せたいところですが、ドーサが完全に乾くまで待ってられませんので、それは明日以降に投稿します。
今晩はここまで。
2024年11月16日

さて、本日は、ガンボージ(黄)と洋藍とを混色した緑を竹に彩色しました。

ブリリアントローズライトだけを塗った後の発光はそれほど暗くなりませんでしたが、ガンボージを混ぜた緑を被せたら、かぐや姫が暗く、また不鮮明になってしまいました。
竹稈の洗い

かぐや姫を内蔵した手前の太い竹を洗います。

洗って乾いたところです。
ブリリアントローズには明礬入りのドーサを塗って固めてあるので、洗っても落ちませんでした。

今度は黄色いガンボージを混ぜずに、洋藍だけを被せます。
参考にしてる写真も、手前の太い竹は他と比べても緑よりも青味が勝って写ってます。

乾いたところです。
かぐや姫が内蔵された部分は紫色になってますが、超常現象ですので、紫でもありかなと思います。
光った光輪の外側の竹には、この後、不透明な岩絵具を重ねていく予定です。
その工程を経てから、その後のバランスを見て色調整をしていこうと思います。

フォローしてる山種美術館のFBアカウントのスクショです。
天才画家の福田平八郎画伯も緑青色に捕らわれない竹の絵を描いてます。
ましてや超常現象の光った竹が、紫色に見えても良いと思います♪

黄色味を取っ払ったおかげで、かぐや姫が再びクリアに見えるようになりました。
蓄光顔料は紫外線を吸収して蓄え、発光するので、紫外線を通す青系の染料を被せてもほとんど暗くならず、紫外線を通し難い黄色い絵具は透明感があったとしても、暗くしてしまうって事ですね。
2024年11月17日

くるみの煮汁で日影、ガンボージで日向。
木漏れ日を表現します。

以前の制作で膠抜きしてキープしてた岩絵具です。
日本画で使う岩絵具は高価ですが、毎日の制作後に熱湯を注ぎ、かき混ぜ膠液と岩絵具とを分離させ、絵具が皿底に沈むのを待って、上澄みの膠液を捨てて乾燥させます。
再び使う時、また膠液と練り合わせれば、残さず全て使う事が出来てエコです。

天然焼群青11番を塗ります。

天然焼緑青10番を塗ります。

新岩黒群緑13番を塗ります。
粒子のある岩絵具を光輪の外に塗る事で、相対的に染料系絵具だけで塗ったところが明るく見えます。

本日の最終段階(明)
ただし、明日以降、本日塗った部分をドーサで洗い、定着させると思います。
本日の段階では、最後に被せた新岩黒群緑で全ての竹が覆われ、色味の変化に乏しく退屈です。
洗う事によって、これまで重ねた他の色味も現れ、色味のバリエーションが豊富になる効果が期待出来ます。

本日の最終段階(暗)

同時進行で進めてる2枚の作品を比べてみます。
左が新商品の絹本、右が従来品の絹本に描いてます。
やはり新商品の絹本の方が透明感が高かったので、裏彩色のかぐや姫と竹の切口などが明るく発光してます。
通常の絵具の描きやすさは、実は岩絵具で彩色した時、織目に絵具が引っ掛かりやすいためか、従来品の方が色が乗りやすく感じました。
通常の岩絵具による彩色をする日本画家にとっては従来品の絹本が使いやすいかもしれません。
逆に、裏箔、裏彩色、絹本の透明感を活かした制作には新商品の絹本が良いかもしれません。
HiddenArtにとってはもちろん新商品の絹本が最適と思われます。
2024年11月18日

明礬入りのドーサを引きます。
絵皿の中に少しだけ取れた絵具が沈んでます。
ドーサ引きの時に、連筆に多少絵具が持って行かれても、その影響が目立たない様に、竹の伸びる方向に合わせて連筆を動かしました。
粒子の粗い岩絵具を、いかに刷毛目を目立たなく塗るかの技術習得は、日本画入門者の課題の一つですよね。

本日はこれらの絵具で彩色し、竹の色味のバリエーションを増やし、葉、根元の筍の皮などを描き加えました。

本日の最終段階(明)

本日の最終段階(暗)
ブリリアントローズライトを被せたおかげで、緑に光る蓄光顔料で表現した、かぐや姫の肌色に少し赤味が加わりました。
2024年11月20日

完成に近づくと微調整の仕事になるので、あまり劇的な進展はありません。
2024年11月21日
蓄光顔料の微調整

明るい時間帯、目視で、蓄光顔料の厚みを見ながら、塗厚が薄いところを重点的に塗っては乾かしを繰り返しました。

裏から明かりを消して見たところです。

本日の最終段階(暗)
より明るく発光する様になりました。

本日の最終段階(明)
ほぼ完成ですが、最後の仕上げに表裏両面にドーサを引きたいと思います。
2024年11月23日

地味な仕事です。本日はひたすら裏彩色のドーサ引きでした。
蓄光顔料は乾いた後も貪欲に膠分や糊分を吸い込みたがります。
裏打ちした後の糊分を吸い取って一部剥がれたりします。
なので、繰り返しドーサを引いて「もうこれ以上吸い込めません!」っていうくらい膠分を吸収させ、表面をコーティングさせます。
蓄光顔料という新素材を扱った制作を数年実体験した経験です。
今日から事業運営の為の帳簿付けに専念しますので、制作は一旦休止します。
融資を受けるためには見たくない現実も直視しながら売上と経費の現状をまとめる必要があります。
2024年11月28日

最後の微調整をして、絵は完成させました。

最後に表側に、明礬無しのドーサを引いて、乾いたら明日落款を入れて完成となります。
蓄光顔料による裏彩色の方は、明礬を加えたドーサで、しっかりコーティングしました。
一方で明礬の結晶が光るのは、あまり美しいキラキラではありませんので、表側は明礬を加え無いドーサを引いてマットに仕上げます。
画面を横向きにして、万一絵具が取れて動いても目立ちにくい様に、竹の伸びる方向に合わせて連筆で引きましたが、絵皿に取れた絵具が見えない事から、これまで重ねた膠分で、絵具がしっかり定着してる事が確認出来ました。
2024年11月30日
完成

「竹取」暗 完成画像
今回は暗の状態から先に。
ちなみに今日までの制作経過は、従来品の絹本に描いた方で統一してきました。
結果的には新商品絹本の方が、かぐや姫の発光、色味に勝ってました。
微差ですので、描いた作者しかその違いを感じないかもしれませんけど。

「竹取」明 完成画像
この後、落款の署名の金泥を瑪瑙ベラで擦って光らせた工程も紹介しますが、下から仰ぎ見ないと光って見えず目立ちません。
僕が藝大在学中教授だった某大先生は、まるで「これが私の作品だ」と誇るように大きく落款を書き入れてました。
そういうものなんだと思い、僕もデビューしたての頃は落款を目立つように入れてました。
ところが大学院で同じ加山又造先生研究室での同門だった同級生から
「宏三さん、落款が悪目立ちして絵が泣いてる」ってご指摘を受けました。
同級生からそんな事を言われて狼狽え、その場で
「えっ、そうなの? どうすれば良かったの?」と問い掛けたら
「そんな事自分で調べるべきでしょ」と、突き離されました。
確かに、手軽に彼がこれまで調べてきた知識を手に入れようとした僕が甘かったと反省しました。
在学中に別の同級生に、欠席した講義のノートを写させてって頼んで断られた時に反省したはずなのに、またやってしまいました。
ところが数日後に、その同級生から、古くからの文献の落款について書かれたページのコピーが封書で沢山送られてきました。
(その手紙は僕の机の前に神社やお寺から貰えるお札の様に祀ってます)
それらのコピーと、自分でも書店を回って落款について書かれた書籍を何冊か買って勉強しました。
簡単に要約すると、
「落款は、作品の邪魔にならないよう、目立たぬ様に入れるのが良い」という事です。
他にも細かな決まり事はいくつもありますが、プロの方々は、どうぞご自身でお調べください。

落款の印を押すため、久し振りに下図を水張りしたパネルを裏からパイルダーオンさせました。
制作中に膠分を吸い込み縮んだ絹本に引っ張られ、木枠が一回り小さくなって、最初のうちははまってたパネルがはめられなくなるケースもこれまで何度かありましたが、幸い今回ははめられました。

瑪瑙ベラで擦って落款の署名を光らせたところです。

続いて、同時進行で描き進めた
左新商品、右従来品との比較です。
絵具の付き具合は、目の粗い従来品の方が顔料系絵具の引っ掛かりが良い為、濃い目に仕上がりました。
染料系絵具の発色に違いは見られませんでした。

暗くして観ると、ほんの僅かですが、新商品の方が、かぐや姫が明るく(顔、手、着物の柄)、肌色の赤味も勝ってます。
新商品の絹本の方が裏彩色の光を良く通す透明度に優れ、さらに肌色に赤味を持たせるために表側から塗ったブリリアントローズが効果的です。
明るい時には新商品の赤紫が淡く見えてるのに、蓄光顔料の色調整の効果が高い事が確認出来ました。
全体的な描きやすさには大きな違いは見られず、強いて挙げれば、通常の岩絵具による彩色が乗りやすく感じた点は従来品に軍配が上がります。
Hidden Art に限って言えば、表側の彩色は淡く塗って、裏彩色の蓄光顔料の輝度を高めたいですから、あらゆる特徴が(何れも微差ですが)新商品の絹本の方が向いていると感じました。
谷中得応軒さんで、新たに入荷するか検討中の新商品絹本です。
来週、2枚の「竹取」を持参して女将さんに報告し、是非今後新商品の絹本をご入荷して下さいとお願いしようと思います。
2024年12月3日
老舗日本画材店「谷中得応軒」に、新製品と従来品との絹本に描き比べた報告をしに行ってきました。
閉店時間直前の17時50分に来店し、閉店時間を迎えたら店内を真っ暗にしてもらい、隠し絵の発光具合も確認頂きました。
女将さん、娘さん、息子さん、皆さん感心しきりにご覧下さりました。
素人には気付けない様な微妙な両者の違いを見分けたのは、やはり流石の審美眼だと思いました。
藝大の近くにある老舗日本画材店ですので、これまで歴史的にも有名な日本画家も数多く利用してきてるお店です。
先々代のご主人からは、加山又造先生に新製品の膠をモニターして描いて貰ったのが「野生時代」だってエピソードも伺ってました。
そんなお店の女将さんから、新製品のモニター役として僕にご依頼頂けた事は、とても光栄な事でした。
クリエイターとしての材料、技法への研究心と創意工夫、忖度せずに正直に画材の使い心地を報告し、また僕が学生、先々代の頃から、画材についての性質や色々な先輩日本画家がそれぞれ愛用してる画材など、買物の度に色々教えて貰う姿勢などから、僕に試して貰うのが最適と判断して下さったのだと思います。

スライドケースにこの様に丸めて入れて運びます。
掛軸用の作品は持ち運びがコンパクト&軽量で、あらためて日本文化が優れて合理的だと実感します。
蓄光顔料は粒子が粗く、軽石が原料の盛上絵具の様に膠分も沢山吸収します。
結果、結構厚塗りになりますが、乾燥後も柔軟性の高い軟靱膠素のブレンド比率を高める事で、丸める時の柔軟性を持たせてます。

半日丸めて持ち歩きましたので、丸まり癖が付きました。

定規の重しを上下に置いて、次に表具屋さんに持って行くときまで、一旦また伸ばします。