「化仏 不動明王~大日如来」 制作工程
8月7日
仮枠
絹本に描く日本画作品は、仕上がったら掛軸として軸装します。
制作中は仮枠に張って描きますが、最終的には剥がしますので、日本画材店で売ってるちゃんとした仮枠ではなく、ホームセンターで売ってる角材を使って自作します。

ホームセンターにて。
なるべく節が少なくて、真っ直ぐな物を選びます。
自宅を出る前にあらかじめ図面を描き、必要な長さはメモしてあるので、カットサービスに持っていき、カットしてもらった角材を購入します。

P10号のパネルがハマる大きさに角材を組みます。
ピッタリサイズでは無く、上下左右に3mmずつ隙間が空く寸法で長さを決め、カットしてもらってます。

L字金具を養生テープで固定し、キリでネジ穴のきっかけを穿ちます。

電動ドライバーでネジを入れます。

側面も金具を当て、ネジで固定します。

中にハメるP10号のパネルとの隙間にサッシ用気密パッキンを貼ろうと思います。

角材の厚みに合わせ、幅を半分に切り分けます。

気密パッキンを貼り終わりました。

パネルの抜き差しの滑りを良くし、貼ったパッキンが剥がれたり傷んだりしない様に養生テープを貼ります。

P10号のパネルを裏からはめ込んだところです。

表から見るとこんな感じです!
木枠一つ出来上がり!

同じP10号サイズの絹本制作をもう1枚描くので、もう1枚用には、以前、F10号サイズの絹本制作をしたときの仮枠に、角材一本を加えて内径を細くします。
裏からみた金具の取り付け方とかはカッコ悪いですが、あくまで制作中の仮枠ですので見た目のカッコ悪さはどうでも良いんです。

同じ様に気密パッキンを貼ってからP10号パネルをはめ込み、表から見たところです。
明日は「髑髏一休」の制作中に使ってた大きな仮枠も含め、3作品用の絹本を張る作業をしようと思います。
丁度明日、頼りになる友人が訪問予定でしたので、一人では難しい大きなサイズの絹本の仮枠貼りを手伝って貰う事を思い立ち、ついでに小さなサイズの絹本仮枠張り作業も一緒に済ませてしまおうと思い、前日の今日、準備したという訳です。
8月8日
絹本張り

手伝いに来てくれる友人の到着前に、糊を溶かし「捨て糊」を塗っておきます。
特に今回新しく作った仮枠には、3度ほど糊を塗って木材の繊維にしっかり糊の成分を染み込ませておきます。

いよいよ張り込みます。
貼る為の糊をあらためて塗ります。

友人に片方の端を持って貰って、糊を塗った仮枠の上に絹本を乗せました。
その後、絹本を左右に引っ張りながら仮枠に貼り付けていきます。

部屋の照明を消し、窓からの明かりで皺を確認します。
絹本は、膠分を吸って縮む時、縦糸がより縮みます。
横糸はそれほど縮みませんので、横方向はなるべくピーンと張り、縦方向はわざと緩く張るのが丁度良いんです。

瓶の腹でしごいて仮枠と絹本とを密着させます。

密着させたところです。
わざと皺が寄るほど緩く張ってます。
明日以降、ドーサを引いたり、その後膠分を含む絵具で彩色すると、乾く度に縦糸が縮み、完成までにピーンと張るはずです。

小さいサイズの仮枠にも張ってます。
俯瞰した写真は自分では撮れないので新鮮です。

大小合わせて3枚の糊付けが終わりました。

念の為、四隅に画鋲を刺して、完全に乾くまで剥がれない様に防御します。
膠ブレンド

掛軸用の膠をブレンドします。
普段の額装用作品には使わない軟靭膠素(なんじんこうそ)をブレンドするのが、柔軟性が必要な掛軸作品専用膠の隠し味です。

軟靭膠素はグミみたいに柔軟です。
これをブレンドする事で、丸めたり開いたりを繰り返す掛軸の彩色に必要な、柔軟性を保った膠になる訳です。

2種類目は「太鼓膠」をブレンドします。
こちらも元は、牛の皮が原料で通常の膠と同じですが、太鼓として長年叩かれ、柔軟性が増した膠になります。

膠の柔軟性と接着力とは概ね反比例します。
柔軟性を重視し過ぎると、接着力が弱くなりますので、接着力の強い軟靭鹿膠も4gだけブレンドします。
3種類の膠をブレンドする事で、お互いの欠点を補い合い、総合的に優れた膠になるそうです。

膠鍋に入れて、

水を注ぎ、蓋をして冷蔵庫にて一晩ふやかします。
明日、水を吸収し溶けやすくなった膠を溶かして、新作の絹本用のドーサや、彩色用の液体膠を作ります。
8月9日
額縁にて(作品を丸めず)展示販売する作品と、軸装して丸めたり拡げたりを繰り返す作品とでは、膠の配合から替えます。
今回はさらに掛軸用の柔軟性に優れたブレンド膠でも、最近採り入れた直火で煮込む溶かし方で実践してみました。

前日浸けておいた膠です。
太鼓膠 8g
軟靭膠素6g
軟靭鹿膠4g 計18g

先ずは湯煎にて溶かします。
太鼓膠が普段使用の三千本膠に比べ、黒っぽいので、全体にも黒ずんでて透明感もあまりありません。
この先、煮込みアクを取ったら透明感が増します。
後半の写真で違いを見比べて下さい。

一見、溶けた様に見えても、鍋底には溶けきれていない鹿膠が残ってます。
このまま煮込むと鍋底に焦げがこびり付きますので、鹿膠が完全に溶け切るまで湯煎で温め続けます。
湯煎で完全に溶けるまで1時間ほど掛かりました。

湯煎で完全に全ての膠が溶け切ったのを確認してから、直接電熱器に膠鍋を乗せ、直火で更に1時間煮込み、容積を三分の一になるまで煮込んだ状態です。

煮込んだ鍋から、別の膠鍋へ移し、浮いたアクを取り除きます。
完全にアクは取り切れてませんが、この先、木綿の布で濾しますから大丈夫です。

煮込んで容積が三分の一になった濃縮膠を、200cc入りの膠鍋に移し、水を足し、再び湯煎にて溶かします。

漏斗に木綿の手拭いを入れて濾します。

煮込み、濾した膠です。
湯煎で溶かした段階よりも透明感が増しました。
煮込み膠は透明感に優れ、腐らず長持ちします。
また、煮込む事でカビ菌も殺菌しますので、この膠で描いた作品が将来カビる心配も無くなります。
メリットばかりです。
デメリットとしては、膠鍋液を溶かす作業だけで、合計2時間半〜3時間も掛かってしまう点です(笑)。
僕は、煮込んでる間に、ご飯を作って食べたり、洗濯物を干したりと家事をしながら、溶ける様子をたまに確認しましたので、待つ時間も有効に使いましたが、
美大の学生や、カルチャースクールの生徒さん達には現実的にお勧め出来ませんね(笑)。
膠が溶けるまで待ち切れなくて、その場を離れたすきにボヤを起こす危険がありますし、日本画の準備に時間と手間が掛かり過ぎだと面倒に思い、ますますアートグルーやアクリル画など、手軽に描ける新素材に移行する作家が増えそうです。
ドーサ引き

さて、いよいよ仮枠に張った絹本にドーサを引く作業の開始です。
仮止めしてた四隅の画鋲を抜きます。

マスキングテープで、仮枠と絹とを糊付けしたところを保護します。
ドーサ引きする時に、この部分が湿って糊が溶け、剥がれる事を防ぐ目的です。

200ccの水に合計18gの膠=9%の濃度の膠液。
絵具を練るときはこの濃度で使います。
和紙に引くドーサとしては、これをさらに3倍に薄めた3%が目安ですが、

絹本の場合は和紙のドーサより薄めにします。
前回、絹本に「髑髏一休」を描くためのドーサを引いた時は、濃すぎて仮枠ごと絹本が縮み、下図をはめ込む為のパネルが入らなくなり、結局洗ってドーサの濃さを薄めた経験がありますので、今回は5倍に薄め、1.8%濃度のドーサにします。
ちなみにいつもの様に僕は後年絹や和紙を劣化させる可能性のある明礬(みょうばん)は加えず、ただの薄めた膠液をドーサとして引きます。

ドーサを引き終わり、部屋の照明を消し、窓からの明かりで画面の皺を確認します。
仮枠からはみ出した耳の絹本が皺だらけなのに、ドーサを引き終わった画面は皺が伸び、フラットになってるのが分かると思います。
ドーサ、一引きしただけで、こんなにも絹本って縮むんです。
今回も裏彩色しますので、この後、裏側からもドーサを引きます。どんどん縮むのを見越して、最初の張り込みをわざと緩く張るわけです。
8月10日
大下図

大日如来坐像の大下図を描き始めました。

参考にしてるのは、円成寺多宝塔蔵の「大日如来坐像」です。
蓮華座や光背の二重円光、衣、装飾品はそのまま参考にして描いてますが、プロポーションが子供(平安時代の仏像の特徴)のようですので、現代風に大人のプロポーションにして描きます。
如来像は基本的に修行中の釈尊を表現してますので、質素な法衣だけをまとったシンプルな衣装の像になりますが、大日如来像だけは古代インドの王侯貴族の姿で表現されてますので、装飾品も豪華です。
佐藤宏三バージョンは、より王侯貴族っぽいでしょ😊

お恥ずかしながらメイキング画像も明かします(笑)。
セルフタイマーにて自身を撮影し、リアルな成人男性のプロポーションの参考にしました。
円成寺の大日如来坐像と同じ「結跏趺坐(吉祥坐)」(けっかふざ=座禅を組む時の、足をクロスさせた座り方)はキツイので、この写真を撮った後、結跏趺坐のポーズだけを別撮りしました。
8月12日

骨描き(こつがき=輪郭線を描く事)段階です。

隈取り(くまどり=墨の濃淡で陰影をつける事)完了。
こちらは電気を消すと浮かび上がる隠し絵画の下図となります。
8月13日
先に描いた大日如来は、裏彩色の隠し絵画です。
これから表向きの絵の大下図制作に移ります。もう1枚の大下図に、隠し絵をトレースします。

裏打ち用の薄いロール石州紙を大下図の上に被せ、鉛筆にて輪郭線をトレースしました。

こちらが拡大写真です。

鉛筆でトレースし終わったロール石州紙を剥がし、トレースし忘れた箇所が無いか確認します。
向かって右胸に垂れた装飾品の中を描き忘れてたので、写し足しました。

パネルから隠し絵の大下図を剥がします。

もう1枚の大下図用の紙を水張りします。
大下図用なので、パルプが混入された安い新鳥の子紙を使います。

朱土を揉み込んだ念紙を挟み、赤ボールペンで鉛筆の線をなぞり、大下図にトレースします。

薄くて見づらいと思いますが、もう1枚の大下図を描く為の紙に、隠し絵の図柄を移しました。
隠し絵の図柄との重なりを考慮しながら、表の絵柄を描いていく必要があるからです。
続きはまた明日。
8月14日
表の下図を描きます。
蓄光顔料の裏彩色による図像の位置や形を考慮した描写が必要になりますので、これから描く表の画像との区別が付き、尚且あまり目立たない様に金色で描きました。
大下図なので純金泥じゃなく、金墨汁で描きました。

朱土でトレースした線も顔を近づけて見ないと判別し難かったので、乗り板を使わず、顔を近づけて描ける様に画面を横向きにして描いていきました。
向かって右半身を描いたら画面を反転させて左半身を描きます。

大下図だけで、同じ絵柄を何度も描いてます。
更にこれを本画の絹本に写していくわけです。
我ながらご苦労さんな事だと思います(笑)。
学生の頃は、大学で習った様に、小下図→大下図→本画と、同じ絵柄を繰り返し描く事に疑問を感じました。
新鮮味と創作意欲が低下し、ただの作業になってる気がしたからです。
そこで、四年生くらいから、小下図や大下図の過程をすっ飛ばし、いきなり本画に向かったやり方にしました。
その方が魂のこもった描写が出来ると思ったからです。
でも、そのやり方だと本画に入ってから試行錯誤するので当然厚塗りになります。
プロになってから屏風や掛軸などの注文を受ける様になり、厚塗りせずに本画を描くためには試行錯誤は下図で行い、完璧な下図を描いてから本画に取り掛かる必然性に納得出来るようになりました。
また、それ以外のメリットも感じる様になりました。
今回も繰り返し同じ絵柄を描いているうちに、細かなディテールの修整箇所に気付けました。
やり直しの効かない本画制作に移る前に、下図段階で修整箇所に気付け、直せた事は良かったです。
また、現在は学生の頃と違い、同じ仕事の繰り返しで飽きてくるとは思わず、繰り返し描く事でより研ぎ澄まされるという手応えと意欲を持ってこの仕事が出来てます。
これは長年の経験を積み重ねて自然と会得出来る心境の変化だと思います。
いくらベテランの先生から理屈で教わっても、やはり若かりし頃の自分なら、何度生まれ変わっても、言う事を聞かないだろうと思います(笑)。
先人から教わっても理解出来ず、自分で経験を積み重ねる事でしか理解出来ない境地というのがあると思います。

本日の最終段階。

上半身のアップです。
8月15日

表の大下図「不動明王」制作途中。
ネットから拾った画像の他、例によって自分でもポーズを取って自撮りした写真も参考にしてます(笑)。
大日如来像より、マッチョに膨らませます。

隠し絵画用の大日如来像と、表の不動明王像の大下図。

今日の最終段階「不動明王像」鉛筆による下描き。
落款(らっかん=サイン)の位置も、下図段階から決めておきます。

部分アップ
上の絵柄とピタリと重なるところと、変化するところの違いが分かると思います。
8月16日
表の大下図の骨描き(こつがき)という大事な工程に入る予定でした。
裏彩色の大日如来を透かして発光させるため、表の不動明王の輪郭線は墨では無く、染料であるクルミの煮汁で描こうと思いつきました。
ところがクルミの煮汁では最初薄過ぎ、次に更に煮詰めて濃くしたら、今度は煮詰まり過ぎて個体状のダマが混ざってしまいました。
制作の為の絵具の調合段階で上手くいかないという事は、今日は下手に描くと失敗してこれまでの過程を無駄にしてしまうという、神仏からのお告げだと受け取りました(笑)。
長年の経験で、気乗りしない日に無理に義務感で描くと、その日の仕事は結果として良くないのです。
気力、体力が整ってる時だけ描く事にして、そうじゃない日は潔く休みにします。
一晩寝て、明日気が変わらなければ、やはり骨描きの線は薄めに擦った墨で描こうと思います。
ドーサ洗い

「髑髏(どくろ)一休」の時同様、ドーサ(滲み止め)を引いた絹本が外枠を引っ張りながら縮み、内側にはめるパネルが入らなくなってました。
そこでまたお湯で表面のドーサを洗い、薄くしました。
明礬を加えたドーサなら一旦乾くと二度と溶けなくなります。
明礬を加えないドーサだからこそ、こうして洗って薄める事も可能です。
じゃあ、明礬は全く使わないか?っていうと、使う時もあります。
それは金箔などを押す(貼る)時です。
金箔が後年剥がれない様にするため、この時ばかりは明礬を混ぜたドーサで完璧な滲み止めにする必要があります。

ドーサを薄めた事により、内側にパネルがはめられました。
でも、この先、膠を含む絵具で彩色する度、どんどん縮むでしょうから、パネルをはめ込んだ段階で描けるのは表の骨描き段階までだと思います。
その後の工程の工夫も策は考えてあります。

画面の端にマスキングテープを貼りました。
これで画面からはみ出る様に彩色を進めても、仕上がった後にマスキングテープを剥がせば画面の端が綺麗な四角に揃います。
実際の制作は、また明日から仕切り直しです!
8月17日
骨描き

本体と岩座とは、薄めに擦った墨で骨描きし、
火焔光は染料系の臙脂で骨描きしました。



骨描きで使った臙脂を薄め、さらに染料系のガンボージを溶かして彩色しました。
顔料では無く、染料を使ってるのは、裏彩色で描く蓄光顔料への紫外線の吸収と発光とを阻害させない為ですが、裏彩色をした後、様子も観察しながら岩絵具での彩色もチャレンジしてみようと思ってます。

8月18日

左がオリジナルの大日如来大下図。
右が写真を撮ってPCで左右反転させ、実物大サイズでA4サイズの紙8枚に分割してプリントアウトし、貼り合わせた反転コピー。

左右対称に描いたつもりでしたが、左右反転させて見比べてみると口が曲がってますね(笑)。

本来なら、これが本来意識すべき正中線でしたが、

つい、鼻の側面への稜線につられ、唇の中心がズレてしまってた訳です。

今日の最終段階です。
絹本の画面を裏返し、下に隠し絵画の大日如来下図を左右反転させた実物大コピーを貼ったところです。

蓄光顔料による裏彩色を始める前に、鉛筆で左右非対称な部分を微調整してみました。
多少の左右非対称は最終的にもあって良いと思いますが、微調整出来る範囲で修整しようと思います。
8月24日
裏彩色

蓄光顔料の一塗り目は、昼間明るいうちから始めます。
絹本の下に貼った大下図の反転コピーを透かし見ながら塗っていくので、最初から真っ暗だと出来ません。

途中まで塗ったところで、暗室代わりのトイレに持ち込み発光具合を確認します。

胴体まで一通り塗りました。

蓄光顔料は粗く、面相筆に含ませてもかなりモタつきます。
細部描写や均一に塗るのが難しいので、何回にも分けて重ね塗りし、段々と均一、または滑らかな濃淡にしていきます。

大下図の反転コピーは、絹本の下に貼って透かして見るものと、隣に置いてよりはっきり見比べられるものと、両方見ながら描いていきます。

トイレに持ち込み、照明をつけて見たところです。

光背の二重円光も塗りました。

ドーサの準備をします。
まず、絵具を練るときの濃度のまま、任意の量を絵皿に出し、

今回は、それを5倍に薄めてドーサとします。

1回目は、画面を横にして左から右へ引きます。
つまり画面上部から下部に向かって引くことになります。
蓄光顔料が連筆に持って行かれて流れる事はありませんでしたが、より、しっかり絹本に食いつかせるために、これが乾いたら画面を180度回転させ、2回目は、画面下部から上部方向にドーサを引こうと思います。

本日の最終段階です。
1回目のドーサを引いて、乾き待ちの間にアトリエの照明を消して撮影しました。
これが乾いたら、画面を180度回転させて、反対側から2回目のドーサを引いて、続きはまた明日以降。
8月26日

本日の最終段階 照明を落としたところです。

照明下で見た裏彩色です。
制作手順は前回と同様なので割愛しました。
8月27日

蓄光顔料による裏彩色を施した作品を表から見たところです。

暗室代わりのトイレに運び、今日は表側からも発光を確認してみました。

顔のアップ。
裏彩色の大日如来がしっかり発光してますが、表の不動明王の骨描きも見えます。
表の絵柄を完全に消す事は不可能です。
彩色していく毎に蓄光顔料の発光は妨げられる事になりますから、この先の表の不動明王の彩色は匙加減が非常に重要になります。
試し描き

そこで、拙作「地獄極楽変相図」制作の時に、試し描きした絹本を使い余白部分で、一旦試し描き作品の制作に移ります。
表の不動明王大下図の等倍コピーを下に挟み、

薄墨にて骨描きします。

蓄光顔料にて裏から彩色しました。

照明を消して試し描き作品を撮影したところです。

トラブル発見!
実験作品制作の為に溶いた蓄光顔料の残りを、本画で剥がれ薄くなったところの微修復に使おうと思い、あらためて本画の裏を確認したら、大きく剥落しそうな箇所を発見しました!
これは、微修復どころか、一旦完全に剥がし落とし、あらためて薄く塗っては乾かしを繰り返し、少しずつ濃く塗っていく必要がありそうです。
仕上がった後では無く、制作中にトラブルを発見出来て幸いでした。
この様に、表現技法も画題も全て新機軸の作品は、試し描きも平行させたり、経過観察しながら、トラブルにも対処しつつ、描き進めていきます。
簡単には出来上がりませんから、当然それなりの価格をつけさせて頂きますが、世界に1枚の歴史的価値のある1枚に仕上がると思います。
8月28日
顔料 剥落対策

昨日、発見した裏彩色のひび割れ箇所は、中途半端に修復せずに、逆に指で擦って積極的に剥落させました。
しつこく擦ってもびくともしないで残った絵具こそ、この先も簡単に剥落する恐れは無いでしょう。
現段階で不安定な着き方の絵具は潔く落としてしまい、新たに膠で練った蓄光顔料で補修しようと思います。
和紙と違って絹本の場合は紙ヤスリで擦ると、擦った部分の絹本へのダメージがある事を過去の実験で経験済みでしたので、指で擦りました。

剥がれ落ちた蓄光顔料を掃除機のブラシヘッドで吸い取ります。
以前、蓄光顔料を紙ヤスリで擦り落とした後、粉塵を吸い込んでジンマシンが出てしまったので、蓄光顔料の粉塵は直ぐに回収します。😅

表側からも裏彩色の剥がれた様子が分かると思います。

暗室代わりのトイレで撮影。
蓄光顔料の剥落部分が一目瞭然です。

参考にした円成寺 多宝堂の大日如来坐像も、長年の歴史を経て金箔が剥落してます。
歴史的文化財は、剥落や退色もまた風格が増して良いものですが、約九百年の歳月での剥落は風格になりますが、描いたそばからの剥落はプロとしての不名誉です。
少なくても作者の僕が生きてる内に剥落するなんて事の無いように、不安定な要素は制作段階で取り去りながら進めていきます。

今回の剥落原因を自己分析し、対処法を図解してみました。
1番の原因は、今回の作品が、蓄光顔料を使った隠し絵画制作を初めてから、一番蓄光顔料を塗る面積が広い作品となった事に起因します。
今まで中くらいの絵皿で膠と練り合わせて描いてきてましたが、今回は大きな絵皿で大量に練って溶いたので、膠と蓄光顔料とが充分絡んで無かったところがあったかもしれません。
今後は、中くらいの絵皿で充分練り合わせようと思います。
次に考えられるのが
図①〜裏彩色で絹本の上に蓄光顔料の層を乗せた状態
図②〜その上からドーサを塗った状態
薄めた膠液が乾いて接着するという現象とは、つまり、水で何十倍にも体積を膨らませた膠が、水分を蒸発させながら元の固体に戻るという事で、その時、一緒に絵具の層も縮ませてしまいます。すると、
図③〜縮んだ蓄光顔料の層がひび割れ、端が浮いて剥がれやすくなってしまいます。
そこで、今回は、剥がれ落ちそうになったところは、あえて落とし切ってしまい、
今度は絹本を表を上にして、
図④〜絹本側からドーサを引く事にしました。
図⑤〜絹本側からドーサを浸透させる事で、絹本と蓄光顔料との接着面こそ接着力が強化されると考えました。

表側からドーサを塗ってるところです。
これも、一回乾かしてから、塗る方向を180度替えて、反対側も塗って今日の仕事を終えました。
8月31日

前回まで、蓄光顔料が剥落するトラブルも報告してました。
今後、失敗を繰り返さない為の小さな工夫も投稿していきます。
今回は、蓄光顔料を軽く空摺り(からずり)してみました。
蓄光顔料を購入してから時間が経つと、顔料同士がくっついて、大きなダマがいくつも出来てしまいます。
元の顔料の粒子より細かくするというよりは、くっついて大きな塊になってしまった顔料の粒を、元の大きさに解すつもりで優しく空摺りしました。
これによって、膠液との絡みもまんべんなくなると思います。

右の絵皿が今回途中まで使用してたものです。
一度に大量の面積を塗る為に大きめな絵皿で蓄光顔料を練り溶かしてきましたが、それが剥落の原因になってたと反省しました。
今回は原点に戻り、真ん中の小さな絵皿で少量ずつ膠と練り溶かして、充分に膠と馴染ませた顔料を少しずつ塗り重ねていくことにします。
タバコとライターは、大きさの比較のためです。
けっして喫煙を推奨するつもりはありません(笑)。

剥落部分にあらためて新しく溶いた蓄光顔料を塗り重ねます。

試し塗りの方にも蓄光顔料をさらに塗り重ねました。

照明下で本画と試し塗り作品を並べたところです。

照明を消すとこんな感じです。

蓄光顔料を使った隠し絵画の制作中は、完全に昼夜逆転してます😅
夜中3時の投稿です。

クルミの煮汁で岩座を塗りました。

暗室代わりのトイレで確認します。
染料ですが、思ったより被覆力が強く、蓮華座の発光がかなり暗くなってしまいました。
この先の対処法は考えてあります。

試し描きの方の髪、眉、装飾品にガンボージを塗ります。
マスキング

試し描きで試しておきたかった画材を使います。
マスキング液です。乾くとゴム状の皮膜になります。
剥がす時、和紙だと繊維を傷めるので使えませんが、絹本ならいけるかな?と思いつきました。
本画での失敗は許されませんので、試し描きで先ずやってみます。

乾くと透明になるので分かりにくいですが、マスキング液を塗ったところです。

新岩絵具の美群青11番を薄く一塗りして、

トイレで確認します。
おっ!結構光ってる!

さらにもう一重ねして、

またトイレで確認します。
粗い岩絵具の隙間から光を吸収し、発光も出来るのが確認出来ました。

マスキング液付属のゴムで擦ると、マスキング液がゴムの方に吸着され、綺麗に剥がれました!
試し描き成功です!

本画にもマスキング液を塗りました。
焼緑青 焼群青

天然緑青11番と、

天然群青10番とを焼いて暗くします。

群青の方は、以前の制作で余ってたものを膠抜きして取っておいたものを焼きました。

どちらも最初は不純物が浮くので、

上澄みの不純物を捨てて、膠で練り直す事を3回くらい繰り返します。

群青も同様に繰り返します。

うわっ!最初から濃く塗り過ぎた!

アトリエの照明を消して確認したら、やはり塗り始めた顔の発光が明らかに暗くなってます。

一通り塗った後、洗って少し薄くしました。

本日の最終段階です。

照明を消すと裏彩色の大日如来が光って見えます。

本画と試し描き画面を並べたところです。
本画の焼き群青よりも、試し描きに塗った新岩美群青の色の方が良いですね(笑)。
明日以降は、本画にも新岩美群青を重ねて描き進めようと思います。

本画と試し塗りを並べて電気を消しました。
本画の絵具は、洗って薄くしましたのでまだ塗り重ねても大丈夫そうです。
9月1日
表彩色 裏彩色

不動明王に群青を塗り重ねて、暗室代わりのトイレで裏彩色の発光具合を確認しては、洗い取ります。
それの繰り返しで丁度良い濃さに調整する仕事をしましたが、雨降りの時は乾き待ちの時間が長く、スローペースになってしまいます。

本日の最終段階。

照明を消すと下半身の衣の彩色が濃く、裏からの発光が弱くなってしまいました。
また洗って、続きはまた明日。
9月2日

裏彩色にまたひび割れが出てきましたので、今度は紙ヤスリで擦り、剥落しそうなところを積極的に剥がしました。
絹本は紙ヤスリのダメージを受けやすいので、蓄光顔料を塗った上だけを擦り、絵具を乗せてない部分は擦らない様、気をつけてヤスリがけしました。

前日まで表の彩色を調整するために、塗ったり洗ったりを繰り返し、絹本が伸びたり縮んだりを繰り返したので、裏彩色にひび割れが出た訳です。

また掃除機で蓄光顔料の粉末を吸い取りました。
この一連の作業中はマスクをして蓄光顔料を吸い込まない様にしました(笑)。
コロナ感染防止にはマスクの効果は懐疑的ですが、目に見える蓄光顔料の粉塵には有効だと思います。

剥がし落としたところを修復しました。

暗室代わりのトイレで発光具合を確認します。

新岩絵具の焼群青11番にて陰影をつけます。

マスキング液を剥がします。

本日の最終段階(明)です。
FBプライベートアカウントの投稿で、この作品のモデルは、(株)グローバルダイニング社長の長谷川耕造氏だと明かしました。
特に顔は長谷川社長に似せてませんが(笑)。
こんな狂った社会状況下にあって、表現者の端くれとして、僕は絵で反発を表現しようと考えました。
好き嫌い、支持、不支持は割れ、決して万人受けはしないと覚悟の上で、表現せずにいられない気持ちで描いてます。

最終段階を照明を消して撮影したところです。
手ブレしてますし、表の絵の不動明王の形の影響がかなり強く、大日如来の姿が充分に見えてない状態です。
この先、何とか工夫します。
9月3日

背景に洋藍(プルシャンブルー)を塗りたいと思います。
塗る前に背景全体を水で湿らせ、洋藍の塗りむらを防ごうと思います。

一塗り目を終え、岩座の下だけ重ね塗りしたところです。
この後、全体的にも二塗り目を重ねました。
水で湿らせてから塗って、塗りむらを防ごうとしましたが、元々引いてあったドーサに濃淡のむらがあった為か、完全にフラットには塗れませんでした。

肩から掛けてる衲衣(のうえ)に天然岩朱土11番と、
光背の火焔光に新岩緋11番を彩色しました。

本日の途中段階です。
今日も雨で乾き待ち時間が長くなります。

裏から水晶末を全体に塗ってる途中です。

画面の一番下部は、乗り板から下りて塗ります。
一塗り目が乾いたら、画面を180度回転させ、反対方向から二塗り目をするつもりです。

もう寝ようと思って晩酌してましたが、描写では無く、水晶末での裏彩色なら、酔ってても進められると思って、また一塗り塗り重ねたところです😅
職業画家ですが、真面目一辺倒ではございません(笑)。
さて、乾いてきたようですので、また一塗りしようと思います。
皆様も良い夜をお過ごし下さい。
9月4日

今朝の裏の状態。
水晶末を合計5回引きました。

表側から見たところです。
発色が明るくなりましたが、配色が軽くて幼稚に見えます(笑)。

クチナシとクルミとをブレンドして

煮汁を抽出します。

背景に重ねて落ち着かせます。

乾いたところです。

クローズアップ写真。
かなり膠染みが出てしまいましたが、作品の味という事で良しとします(笑)。

照明を消してあらためて、裏彩色の大日如来の見え方を確認します。
表の不動明王の影響が出過ぎです。
特に大きく見開いた方の目と、牙が。

不透明な胡粉(ごふん)で、片方のまぶたと牙を塗り、裏からの蓄光顔料の光を塞ごうと思います。

何度も塗り重ね、光具合を抑えていきます。
照明をつけたり消したり繰り返しながらの仕事です。

照明を落とした状態では、紙に描いたりコピーした下図が見えませんので、ノートパソコンで下図の写真を見ながら描きます。
表側からも蓄光顔料を塗り重ね、大日如来の発光の弱いところを補います。

PCの画面です。

表から塗った蓄光顔料です。

電熱器で温めたお湯で、粗く着いた蓄光顔料を洗いながら表面に馴染ませます。

乾いたところです。
やはり蓄光顔料を滑らかに塗るのは難しいです。
今後少しずつ重ねていこうと思います。

照明を消した本日の最終段階です。

顔のアップ。
牙はほとんど気にならなくなりましたが、粗い蓄光顔料で大日如来の表情が納得出来るまでには、まだまだ先が長く掛りそうです。
9月7日
偽の金泥

新岩焦茶9番で岩座を塗ります。
岩座の下に蓄光顔料で描いてある蓮華座を光らすために、粗い粒子の岩絵具で塗り、光を通す隙間を作る訳です。

火焔光や髪、装飾品には金泥に似せたゴールドアフレアを塗ります。
透明な雲母を金色に着色した絵具で、水彩絵具などの金色の原料にしてるメーカーもあります。
こちらは透明感がありますので、下に塗ってある蓄光顔料の発光を完全には塞がないでくれると思います。

ゴールドアフレアを塗ったところです。

天然朽葉色9番で金色部分の影を塗り、立体的に見せます。

こんな感じです。
写真では伝わりませんが、実物は、本物の金箔を押した(貼った)か、純金泥で塗った輝きの様に見えます。
画材を安物で代替するインチキをしてる訳では無く(笑)、あくまでも蓄光顔料の発光を阻害しない代替品として使ってます。
でも、騙せそうだな…(笑)。

照明を落として大日如来の発光具合を確認しました。
9月8日
大日如来
裏彩色の蓄光顔料の発光だけだと弱く、大日如来が、表の不動明王の形に敵いませんでした。
なので、表側からも蓄光顔料を塗って、大日如来を強めます。
現在は大日如来の描写で、逆に不動明王が隠されてしまってますので、今後再び不動明王に寄せていきます。
2枚の絵のバランスを調整しながらの制作になります。

昨日までの大日如来。
眉が太かったり、目もギョロ目で不動明王寄りの印象です。

今日の途中段階。
まだ左右非対称ではありますが、だいぶ大日如来寄りな顔立ちになってきました。

ギョロ目の印象を弱めるため、白目部分に胡粉(ごふん)を塗りました。
表側からは分かりませんが、照明を消して裏彩色の白目の発光を抑え、ギョロ目から涼し気な目の印象にする訳です。

太く見えてた眉を細めるなど、蓄光顔料で明るく見せたい部分を塗り足していきます。

暗室代わりのトイレに持ち込み、確認を繰り返します。
何度もトイレに行くので、まるでお腹の調子が悪い時みたいでした(笑)。

岩座にも、昨日塗った新岩焦茶9番を重ねていきます。
一塗りだけだと薄いですが、乾き、固まってから塗り重ねると、一塗り目のザラザラに絵具が引っ掛かり、塗り重ねる度に絵具の定着が良くなってきます。
でも、蓮華座の発光を阻害しない様に、濃く塗りつぶさない様に加減します。

蓄光顔料での塗り重ねも、乾かしては発光具合を確かめながら、少しずつ塗り重ねます。

夜になったのでアトリエの照明を消して撮影したところです。

本日の途中段階。

本体のアップ。
上から被せた蓄光顔料が完全に乾いてから、再び不動明王の固有色を被せ、蓄光顔料の白さを見え難くしていくつもりです。
本日は乾き待ちの間に投稿しました。
もう少し、蓄光顔料による彩色をして、キリの良いところで本日の仕事を終了する予定です。
9月9日

本日最初の工程より。
先ず、表からも彩色した蓄光顔料に紙ヤスリを掛けて、余分に厚塗りになったところや接着力の弱い部分を落とします。
マスク着用しての作業になります。

掃除機のブラシヘッドで落ちた蓄光顔料の粉塵を吸い取ります。

トイレに持ち込み、発光具合を確認しました。

上からと、下から、ドーサを乾かしながら2回引きました。

ゴールドアフレア、ガンボージ、臙脂、洋藍など、被覆力が弱く透明感のある絵具で彩色し、上から重ねた蓄光顔料の白さを目立たなくさせました。

照明を落とした時の大日如来の見え方です。

本日の最終段階です。
上から被せた蓄光顔料の白さは洋藍で青く染めましたが、まだ、胸の前で結んだ大日如来の「智拳印」の形が不動明王の状態でも見えてしまってます。
これを目立ちにくくする工程に進みたかったのですが、
今夜10時から明日朝5時まで、水道管工事の為に断水されますので、今日は早めに切り上げました。
気持ちが急かされた状態で描くのは、止めておいた方が無難ですから。
9月11日
不動明王

これが前回までの段階です。
蓄光顔料で描いた大日如来の智拳印が見えてしまってますので、今日はこれを目立ちにくくする描写をしました。

水晶末を少しずつ重ね塗りし、暗部を明るくし、明部との差を分かりにくくしていきます。

羂索(けんさく=縄状の武器)も彩色しました。
水晶末により、不動明王の下の大日如来の姿はほぼ隠れたと思います。

さらに洋藍を身体全体に塗ります。

洋藍を塗ったら発光は弱まりましたが、トイレでちゃんと光る事を確認しました。

裏返すと、洋藍が染み込んで、蓄光顔料で絵具の層が厚いところと薄いところが分かりやすくなってました。
ひび割れ、剥落のきっかけになりそうなので、絵具の層が薄いところにも水晶末を塗って、裏の絵具の厚みを一定に近づけようと思います。

水晶末で絵具の層が薄いところを埋める様に塗りました。

夜になったので、アトリエの照明を消して大日如来の見え方を確認します。

片方見開いた不動明王の目が影響してますので、今後、これの微調整をしていこうと思います。
そう簡単には完成させて貰えません(笑)。

本日の最後に裏画面全体にあらためて水晶末を塗りました。

本日の最終段階です。
表の不動明王としては、ほぼ完成に見えてきました。
9月12日
蓄光顔料による彩色

裏をヤスリ掛けしました。

ブラシヘッドにした掃除機にて吸い取り、この後、ドーサを引いて定着させました。
掛軸として丸めたり拡げたりを繰り返す事になるので、制作途中段階で、後年剥落しそうな着きの弱いところは落とし、残りをドーサで定着させる事を繰り返しておく訳です。

照明を落として蓄光顔料にて彩色を重ねます。

蓄光顔料を重ねたところが白っぽくなってます。

完全に乾いたところで表側もヤスリ掛けします。

掃除機で粉塵を吸い取ります。

ヤスリで落としても、残った蓄光顔料が光ってます。

表側からもドーサを引いてこの日の仕事は終わりです。
明日の晩以降もこんな仕事を繰り返します。
9月13日

絹本の仮枠の下に木製パネルを敷き、画面の上に座布団を乗せ、直接画面の上に座って描きます。

蓄光顔料を重ねます。
蓄光顔料は粗いので、均一に乗せるのが難しく、塗って乾いてはヤスリで均し、また塗り重ねる事を何度も繰り返し、段々滑らかにしていく必要があります。
しかも、夜間の方が発光具合の確認がしやすいので、昼夜逆転した制作になってしまいます。

こんな感じで制作してます。
今晩は制作中、何者かの気配を何度か感じました。
夜中、暗い中での制作なので、そんな気がするのも仕方ないですね。

今晩の最終段階です。
明日、またヤスリ掛けをして、絵具を薄く被せ、明るい状態の時の蓄光顔料の白さを隠す微調整をするつもりです。
同じ様な仕事の繰り返しをしながら、完成に向けて丁度良いバランスにして行きます。

照明を落とした状態です。
9月14日
仕上げ

仕上げの工程を紹介します。
蓄光顔料を塗った上に紙ヤスリを掛けます。

ブラシヘッドの掃除機で粉塵を吸い取り、

ドーサを引いて定着させます。
ドーサの水分を吸い取った直後は、蓄光顔料の白さが濡れ色で目立たなくなりますが、乾けばまた白っぽくなります。

洋藍、臙脂、ガンボージ、ゴールドアフレアなど、透明感のある染料系絵具を蓄光顔料で白くなったところに被せ仕上げました。
瞼の見え方の微調整もしましたが、その工程を写真で記録するのを忘れてました(笑)。
本当に神経を使う工程ほど、記録するのを忘れ集中してしまいます。
結果的に一番難しい技法は企業秘密になってますね。
悪しからず(笑)。

落款(らっかん=サイン)を入れます。
こちらはゴールドアフレアでは無く、純金泥を使います(笑)。

金泥でサインを書いた下にダミーの印を置き、印矩の位置を決めます。

印を押し、

印の余分な油分を吸い取る為に、天然珊瑚末13番を振りかけます。

筆で珊瑚末を掃いてケースに戻します。

金泥で書いたサインを瑪瑙ベラで擦り光沢を出します。

落款完了。


画面サイズは、仮枠に張った状態で測り105cmでしたが、「地獄極楽変相図」の時は、表装後天地が1cm縮みました。
この作品も制作中は仮枠に糊付けされて無理やり伸ばされてたかもしれませんので、仮枠から剥がし、表装された後は、104cmに縮んでるかもしれません。


見開いた方の目は白目の上半分にも不透明な白い絵具を被せ、照明を消したら瞼を通して上半分の白目が光るのを防ぎました。

完成写真を撮影した後、いよいよ仮枠から絹本を剥がします。
先ず裏彩色の周りのマスキングテープから剥がしました。
剥がす時、裏彩色の水晶末の粉が飛び散りましたので、また掃除機で吸い取りました。

表側のマスキングテープも全て剥がしました。

仮枠との糊着け部分を湿らせ、この後、仮枠から剥がします。

糊着け部分が乾いたら、縁をカットしてから丸めて明日表具店に持って行きます。
この投稿は、これの乾き待ちの間にしました。
投稿が済んだ頃に、縁をカットして丸める作業に取り掛かると思います。
9月15日
仕上がった翌日の今日、早速、表具店に持ち込んで、裂地を選び、表装を注文してきました。

丸めて持って行くための準備です。


上から、天地、中廻し、一文字の裂地。
10/22〜銀座ギャラリー・シアカでの個展で、表装が仕上がった状態で初披露したいと思います。
